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運に寵愛された転換転生者【完結済】  作者: 大沢慎
第1章 人間国編
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第12話 一人立ちと謎ダンジョン


 ワイルドディアをソロ討伐した日からおよそ2か月の時が過ぎた。

 その間、隣町への護衛依頼が出ていないかを毎朝確認しに行っていたソーマだが、強いモンスターが少ない地域柄に加えて辺境の田舎町であることから、護衛依頼は未だ出てこずといった状況だ。


 それでもソーマは特に不満に思うことはなかった。

 変わったことと言えば、昼間のパーティでの依頼を減らし、一人で鍛錬する時間を増やしたこと。

 有限な時間を薬草採取や狩っても微量な経験値にしかならない跳竜を狩るのが、どうにも今のソーマには時間の無駄に思えてしまった。


 その旨をやんわりとダンに伝えると、俺たちも若い頃は強くなりたい一心で鍛錬してたもんだと言って好きにさせてくれた。


 夕方の剣と魔法の鍛錬は相変わらず日課として付き合ってもらっているものの、パーティでギルドの依頼を受ける回数は日に日に減っていった。


 そして今、ソーマは単身でワイルドディアを倒した森のさらに奥の渓谷を駆け抜けている。

 自ら起こした追い風によって、一般的な冒険者が全速力で走る速度を優に超える速さで駆け抜けるソーマは、小さな丘陵の上から跳躍したかと思うとおおよそ15メートルほど宙を滑空して(なめ)らかに着地し、そのままさらに走り続ける。


(だいぶ風の操作が上手くなってきたな。さて、そろそろ例の場所につくはずだけど)


 この森は山脈の裾野の渓谷にある森で、深く入り込んでいくと左右の山が交わる行き止まりの崖に行き着く。

 その森の最深部に“例の場所”を見つけたのは、つい一週間前のことだった。


(どう見てもこれ、天然の洞窟だよな)


 それとなく街の人や冒険者、ダンとエルにも探りを入れたが、誰もこの渓谷の森の最深部を知る人はいなかった。


 また、ダンとエルに聞いた話だが、世界にはごく少数“ダンジョン”と呼ばれる天然の魔窟があり、深さや難易度はまちまちだがダンジョン内では希少なアイテムや武器防具が手に入るほか、最深部にはボスがいる場合が多く、ボスを倒すことが出来ればランダムで神から報酬を授かることが出来るらしい。

 ダンジョン内のアイテムやボス等は一定の周期で復活するらしく、別名『神の試練』とも呼ばれており、ダンジョンが新たに発見されれば周囲に人が集まり、街が出来、ダンジョンの質によっては大都市へと発展を遂げると言われている。


 その為、昔から領内の未開の土地に探索隊を派遣する領主は絶えないが、なんでもここ100年は新たなダンジョンが発見されたという報告はなく、ダンジョン発見は一獲千金の夢物語、というのが通説であった。


(まあダンジョンなのかただの洞窟なのか入ってみなきゃ分からないからな。一応準備に一週間かけて万全を期したつもりだけど、ヤバそうだったらすぐ引き返そう)


 ソーマは一度、探知魔法で周囲を確認してから岩の割れ目のような洞窟に足を踏み入れた。

 入り口がさほど大きくないこともあってか、洞窟に入って数メートルで視界は闇に閉ざされる。


灯篭(とうろう)


 ソーマが詠唱すると、(ほの)かに淡い暖色の光が目の前に現れた。


(これを頭上に配置して……もう少し明るくしてあと50cmくらい上かな……よし)


 周囲10メートルほどはしっかり明るく照らされるよう調節し、ソーマはステータスプレートを確認する。

 MPは1減っているが、しばらくすると満タンになり、また少しすると1減っている。


(よしよし、これくらいの明かりならMPの自動回復で間に合うな)


 辺りを見回すと少し大きめのホールのようになっており、さらに奥へと続く道がある。

 道は高さ3メートル幅5メートルほどだったので、進みながら都度明るくなり過ぎないよう、頭上の光量を調節しながら進んだ。


 十数秒進むと、石壁の行き止まりになった。

 石壁には何やら紋様が刻まれているが、それが何を意味しているかは分からない。一応木をモチーフにしているように見えなくもないのだが。


「ここまで来てこんな紋様のある壁で、ただの行き止まりってわけじゃないだろ……」


 ソーマはそう呟くと、石壁を調べるように手を触れた。

 途端、石壁は淡い翠色に発光したかと思うと浮遊感に見舞われ、ソーマは姿を消した。




――――――――――


(……っ!?)


 浮遊感に襲われたと思った瞬間、周囲が真っ暗闇に変わる。


(なんだ!? 転移か?! ヤバいぞ……ッ)


『風探知!』


 穏やかな空気の流れを作り周囲の状況を確認する。

 もし別の場所に転移させられていたとして、転移先が強力な魔物が潜む部屋などであれば『灯篭』は悪手(あくしゅ)である。

 視界が得られない恐怖を押し殺してソーマはまず周囲の安全の確認をした。


(よし、最悪の状況ってわけではなさそうだ。背は石壁でさっきの通路みたいな場所だな、もしかするとあの石壁の先かもしれない)


 風探知を通路の奥へと進ませ状況の確認を進める。


(うーん……迷路っぽい感じか? かなり分岐がある上に無駄に曲がり角が多いな……もう少し先まで探ってみるけどあまり長いようなら一本ずつ道を絞って探知した方が効率が良いかもな)


 ソーマは暗闇の中、目を瞑りながら集中して風探知を続けた。


(やっぱり全部の道が結構長いな。一本ずつ探知して地図を作っていくか)


『灯篭』


 今度は手元灯のような小さな明かりを作り、周囲を確認する。


「おっ? やっぱり背後の石壁にはさっきの紋様があるぞ。触れればさっきのところ戻れるのかな」


 ソーマは戻ってくれよ、と念を込めて石壁に手を当てると、翠色に発光したのち浮遊感が襲い、目の前が暗闇に包まれた。

 先ほどより落ち着いていたソーマは即座に風探知を使い周囲を把握すると、やはり元の場所に戻っていた。


「よしよし、これでいつでも戻れるぞ。じゃ、探索と行きますか」


 再度石壁に手を触れたソーマは先ほどの場所へと戻り、その場に胡坐をかいて一本ずつしらみつぶしに道の探知を進めた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 真っ暗なところが住処ならば魔物はそのように適応している。明かりをつけたほうが目くらましにもなり有効。
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