第114話 最南端の港街マインリーゼ
船は四日間、神の島に停泊した。
その間、船の乗組員や商人、冒険者達は船に積めるだけ神の島の資源を採掘し、不要な物や安価な物は置いていくといった措置を取っていた。
ソーマ達はローガンへの土産にアダマンタイトと果物を採った後は稽古に励んだ。
リゾートのような砂浜とあって一部の商人が水着の販売も始め、フィオナがソーマを誘っていたが、ソーマはマキナも丸眼鏡も着ないというので自身も断っていた。
三日間の採掘や採取を終え、最後の一日は神の島に遭遇した者同士として皆で祝宴を開き、四日目に船は神の島を出航した。
四日間の滞在が終わり、再度船は出航する。
船に乗る者は皆笑顔であった。
神の島からエルフ国南端の岬にある港町マインリーゼまでは一日半の行程だ。
ソーマとフィオナは海龍神から教わったスキルの取得に励み、マキナと丸眼鏡は賢王スキル取得に向けて習熟度上げを行う。
(やっぱり大範囲高威力の剣技ってのは間違いなかったな。それに物理攻撃の物理って意味の捉え方に関しても当たらずとも遠からずって感じだ。エルがいつだか魔法について“精霊の力であるMPを用いてイメージや意志を具現化させるもの”って言ってたけど、要はそういうことなんだろうな)
ソーマは剣豪時に取得した斬空剣、斬鉄剣、不斬剣のおさらいをしつつ、概念の確認をしながらさらに物理攻撃と斬撃、ステータスのこうげきりょくの概念を広げ、深く理解するよう何度も剣を振るった。
一方フィオナは格闘家の上位スキル格闘師範を取得するために必要な、スキル『気功』の取得に励んでいた。
MPを精霊の力と定義するならば、気功とは自身のエネルギーである。
ステータスで言えばHPに該当し、自身の体内エネルギーであるHPを消費して力に変える武術を気功と呼ぶ。効果的には身体強化に近いものがあるが、あれは身体そのものをMPを使って強化するスキルであり、根本的に概念が異なる。
ソーマ達や高位魔術師ともなればMPを使う感覚には慣れ親しんでいるが、HPを使う感覚というのは普通に稽古をしていたら全く理解の出来ない領域なので、フィオナはまず自身を短刀で傷付けては回復するという行為を繰り返し、その中でHPが増減する感覚を養うことにしていた。
マキナと丸眼鏡は時に激しく、時に地味に魔法を放ちながら、ひたすら習熟度上げに勤しんでいた。
稽古に夢中になっていた四人はあっという間に航海の旅を終え、エルフ国の港町マインリーゼに着く。
「あーーやっぱ地面は良いな。船乗ると最初は気持ち良いんだけど地面が恋しくなるね」
ソーマは伸びをしながら緑豊かな空気を存分に味わっていた。
エルフ国というので勝手に木造家屋の質素な街並みをイメージしていたのだが、実際は港町だからか分からないが、木造家屋と木が多めとは言え他国の街並みとさほど変わらない印象である。
人は美男美女揃いかと思いきや、そうでもなかった。たしかに割合として容姿が端麗なものは多い気がするか、全員がというほどではない。比較的高身長ではあり、耳が長いのはソーマのイメージ通りではあった。
「さて、早速飯でも食いに行こうか。ここはフィオナおすすめの料理食べてみたいかな」
「分かりました! ではエルフ国名物で私の好きな料理をご紹介しますね」
ソーマ達四人は航海を終えた後の恒例となっている屋台通りに足を運んだ。
マキナと丸眼鏡は二人で喋りながら屋台を覗いては何やら楽しそうに話している。
「そう言えばエルフって高身長で綺麗な人が多いと勝手に思ってたけどそうでもないんだね」
「王宮に行けば割とそのイメージは合ってると思いますよ。王族や貴族は容姿端麗揃いですから」
「あ、やっぱそうなんだ。でもフィオナってそんなに背高くないし、美人ってより可愛い系だよね」
「えっ!? えっえっ、ソーマ様が今私のことを可愛いって……!?」
フィオナが長い耳の先まで真っ赤に染めて俯きニンマリしている後ろで、いつものように盗聴していた丸眼鏡は後ろでクソ面白くないと言った表情をしていたのだった。
ふにゃふにゃくねくねと喜びを表現する気持ち悪いフィオナが選んだ屋台は、日本で言う粽のような料理の店だった。
笹のような葉で米を包み蒸し上げた料理は海産物や肉、山菜、野菜など様々な種類に富んでおり、ソーマはせっかく港町ならと海産物、それに山菜を選んだ。
フィオナはにやけた顔でソーマと同じものを頼み、マキナと丸眼鏡は肉と海産物、それに別の屋台で買った焼き鳥のようなものを一緒に食べている。
(うおおお!! 久々に米食った気がする!! めちゃくちゃ美味いぞ!!)
こっちの世界に来てからというもの、主食はパンや小さく丸いパスタのようなものが主流だったソーマにとって、久々の米は格別の美味さに思えた。
「なあ、米ってエルフ国でしか食べられてないのか?」
「そう言えば他国ではあまり見ませんね」
「エルフ国料理って店があれば大体置いてると思うぜ」
元海賊のマキナが口いっぱいに粽を頬張りながら答える。
「マジか……俺、米のためならエルフ国に住んでも良い気がしてきた」
「そんなにお気に召されたんですか? 自国の名物をソーマ様に気に入って頂けて嬉しいです!」
「お兄さんお目が高いね! それに美人連れで羨ましい限りだ! 小さいの一個サービスしてやるよ!」
米に感動していたソーマに、屋台の店主が小さな粽をくれる。
「いや、むしろ今作れるだけ作って欲しいです。全部買います。丸眼鏡、俺の金って今いくらあったっけ?」
「そ、そんなに気に入ったのかの。ううむ、大金貨100枚くらいかのぅ」
「お、おいおい、この屋台通りの全部の粽を集めたってそんな金にならないぜ。それに生ものだから三日も持たねぇ。時間くれるなら50個は作れると思うけどよ」
作れるだけ作ってくれと頼んだソーマは小金貨二枚と言われたところを三枚払って、店を出た。
さらに他の屋台でもすぐに買える分を持ち帰りとして買いあさり、丸眼鏡のムフフの袋に入れてもらう。
「おまえが飯でそこまで気に入るってのも珍しいな」
「あまりの美味さと懐かしさに衝撃を受けたね。もしかしたら俺の両親はエルフなのかもしれない」
「いや、そりゃねぇだろさすがに。耳も普通だし髪が黒いエルフなんていねぇからよ」
「うむ、まあでもどこぞの米が主食の少数種族なのかもしれぬな。お? ソーマ殿、向こうに米屋があるようじゃぞ?」
なんだと?! と反応したソーマは、金貨を入れた袋を握りしめて米屋へと走っていった。
「あんな必死なあいつ初めて見たぜ……」
「うむ……ダンジョンでも冷静なソーマ殿が冷静さを欠いておるな」
「私ソーマ様の為に水田でも買おうかしら……」
唖然としている三人の元に、米屋の中からソーマが凄い剣幕で丸眼鏡を呼ぶ声が響くのであった。
米を買いあさり、粽も百個以上手に入れたソーマは安心感に包まれた表情で粽を食べながらギルドの扉を開けた。
マキナと丸眼鏡はソーマの凄まじい米への執着に驚きを通り越して呆れていた。
「さて……とりあえずギルドで幻彩鳥の情報収集でもしますか」
ソーマはギルド内の冒険者達に話しかけた後、ギルド職員にも情報提供をお願いした。
結果的に、知らないか名前は聞いたことがある程度で、有益な情報は得られなかった。
「まあ当初からこいつが一番の難関だと思ってたからな……。フィオナも全然分からないんだよね?」
「ええ、十数年に一度、狩猟された際に王国への献上品として送られることがあるみたいですけど、民間の冒険者さんがたまたま狩ったなら希少素材を専門に扱う市場に流通してしまうらしいですし、私は見たことがありません」
なるほどね、とソーマは納得する。
(まあ火竜王も大海竜もかなりレア度の高い魔物だったからな。幻彩鳥も探せばいるんだろうけど、身体の色彩を自在に変えて景色と同化するらしいから見つけづらさもあって狩られてないんだろう)
「そっちはなんか良い依頼あった?」
「いや、護衛とか魔物の狩猟とか素材の採取とか、そんなんばっかだぜ」
「そうか。それじゃあとりあえず北の王都までに二つほど街があるらしいから、護衛依頼しつつ北上して世界樹目指そうか。一応ライル王も出来ればパーティ名に恥じないランクにして欲しいって言ってたし」
三人は特に異論がないので、ソーマに従って適当な護衛依頼を受け、馬車と商人が集まる街の北側の待機場へと向かった。
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