第110話 お祝い
「じゃあ、海龍神ダンジョン攻略を記念して、乾杯!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
ソーマ達は船上で鹿肉と鶏肉、ウサギ肉のバーベキューをしながらダンジョン攻略の祝賀会をしていた。
本来であれば乾杯の音頭を取るのは王なのだが、今回はパーティリーダーのソーマが音頭を取っていた。
酒はメンバーの好みに合わせて葡萄酒に蒸留酒、麦酒と豊富に揃えてある。
冷やして飲みたい場合はソーマか丸眼鏡、フィオナに言えば冷やしてくれる。
「それにしてもソーマ、此度は本当にありがとう。獣人国の代表として、そして私個人として心から礼を言う」
「いやいや、俺たちの目的と同じだったし、それを言うならダンジョンに入る許可をしてくれた獣人国に俺たちも礼を言いたいくらいだよ」
王はあれから何度もソーマに改めて礼を言っていた。
よほど嬉しかったのだろう。世界樹復活から刻々と変わりゆく世界情勢を前に、獣人族の聖地を復活させたことに大きな意味を持つことは間違いない。
「ソーマ様、私も新たなSランク、それにSSランクスキルを得られ、それが聖地復活に関わるもので感激してます。世界樹をソーマ様達が復活させたと聞いた時は本当に驚きましたが、私もその旅に携われているんだなって思うと嬉しいです!」
「そうだね、フィオナは聖地ダンジョンは今回が初だもんね。ちょうど水属性と親和性が高いしスキルも役に立つだろうから、良かったよね」
海龍神ダンジョンのスキルに関しては、SSランクのパセドの末裔に関しては相変わらず効果は『???』だが、海龍神の加護に関しては他の聖地と同じく強力なものだった。
その効果は『水属性の魔法・スキルを取得しやすくなる。水属性の魔法・スキルの効果が上がり、習熟度が上昇しやすくなる。水属性の魔法・スキルの消費MPを抑える。水属性攻撃耐性。(全効果大)』である。
恩恵が大きいのはソーマ、丸眼鏡、フィオナで、全員が高位魔法の大津波を取得し、丸眼鏡に至っては超位魔法の永久凍土という魔法も取得した。
さらに丸眼鏡は聖地復活の恩恵で全ステータスが10%上がっており、ソーマは件の丸眼鏡の必殺技も考えると、今後マキナと二大賢王になっていくのではないかと思っていた。
「にしても丸眼鏡ッちの必殺技には度肝抜かれたぜ! ありゃ雷魔法ってわけじゃねぇんだよな?」
「そうだな、私もココネがついに神の領域に達したのかとさえ思ったぞ」
「うむ、まあ発動までかなり時間を要する故にソーマ殿を危険な目に合わせてしまったがの。原理と方法に関してはソーマ殿から教えてもらっておるから、ソーマ殿の方が詳しいのう」
「ああ、あれは雷の原理を魔法で作り出してるから、あの雷自体は魔法じゃないんだよね。だから魔法耐性が高い湖の中に潜ってる海龍にも効くかなと思って」
それを聞いた他の四人は、よく雷の原理なんか知ってるなと驚いていたが、ソーマは昔なんかで読んだなどと適当に誤魔化しておいた。
その後も五人は久々の日差しと風を存分に味わいながら、船員も交えて肉と酒に舌鼓を打った。
翌日、船上で夜を明かしたソーマ達一行は朝から港町ラスタに入り、軽く朝食を取った後に走ってライル王都へと戻った。
王がいるので船員達と共に馬車で戻るのが一般的だが、王も早く臣下に知らせたいと走るのに同意した。
王都では既に多くの者達がステータス上昇に気付いており、王とソーマ達の帰りを今か今かと待ちわびていた。
「おお、皆待ってくれていたか。ふむ、その顔は皆もう気付いておるのだな?」
王の帰還に出迎えに出ていた重臣達が満面の笑みで応えている。
その中には王が信頼しているという参謀のミラージュと騎士団長のラングドックの姿もあった。
「おかえりなさいませ、お疲れかと思いますが皆が待っておりますゆえ、パセドの誓いの皆様も一緒に大会議室へお願い致します」
重臣の一人が王とソーマ達を促し、五人は大会議室へと向かった。
その後の流れは予想通りでことが進んだ。
王の聖地復活の報告に大会議室の場が湧き立ち、今後の獣人国の方針の大枠を外交や軍事面、内政など様々な面からある程度決めた後、それらの詳細を打ち合わせる日程を決め、その後は臣下が話し合っていたとされる聖地復活に関するイベントになどについて話すことになった。
ソーマ達は国の政治に関して興味がなかったので早々に退室したかったが、祝賀会や舞踏会、パーティーや祭り事に参加を勧められており、どれに参加してどれを辞退するかなどを王とパーティメンバーと話しあったりとなかなか席は外せなかった。
やはり聖地を復活させ、異種族ながら王国公認のパーティ、パセドの誓いとなればまさに主役であり、用が終わったのでと言って立ち去ることなど出来るはずはなかった。ただ一人を除いて。
「いい加減退屈だからよ、ちょっと街でも見てくるぜ。イベント関係はあたしは全部パスって方針で」
そういうとマキナはそそくさと会議室を去ってしまった。
ソーマはその後ろ姿を恨めしく眺めていたが、元王国勤めの丸眼鏡、一応エルフ国からの使者であるフィオナの立場も考えると、パーティリーダーとして席を外すわけにはいかなかった。
数時間にも及ぶ会議に疲れ果てたソーマは王の会食も断り、丸眼鏡とフィオナと共に街の宿へと戻った。
その間にピアスを通してマキナには宿の詳細なども伝えている。
「しっかし疲れたな……もうああいうのは勘弁してほしいね」
「うむ、まあ参加するイベントも明日の王宮での祝賀会のみとなったわけじゃし、その後はようやく獣人国を離れられるかのぅ」
「ちなみに次はどちらを目指されるんですか?」
ソーマはベッドに寝そべったまま呆けた顔で天井を見つめ、そうだなぁと考える。
「んー、一応ローガンから頼まれてる素材は残すところ幻彩鳥アクロールだけだから、エルフ国に渡ってそいつを捕まえがてら世界樹に行って丸眼鏡とフィオナにSSとSランクのスキル付与出来ないか神に聞いてみるかな」
「エルフ国に向かうんですね……ミュランローゼの街並みを見て欲しいという気持ちはあるんですが、出来ればエルフ国の首都には行きたくないんですよね」
「え、そうなの? てっきり帰るの楽しみにしてると思ってたよ」
フィオナは暗い表情で理由を話し始めた。
何でも、エルフ国内でも巫女と名乗れる役職に就く者はフィオナを含めても三人しかおらず、その中でも三属性持ち、さらに回復やバフなど戦闘において有用な者はフィオナが一番とのことであった。
それ故に幼少期から国から過度の期待を背負い、稽古に勉学に教養に政治にと様々な分野を学ばされてきたとのことだ。
フィオナはそれを自身の運命と受け入れてきたのだが、此度の獣人国への遣いとしてやってきた際にゴールドメイスに誘拐されたのをきっかけに人生について考え直し、後悔の無いよう自分の生きる道は自分で決めると決心した所にソーマが現れたという経緯であった。
「あー、じゃあ帰って国に見つかったら絶対巫女として戻れって言われるやつだね」
「そうだと思います……あんな窮屈な生活はもうウンザリです!」
フィオナの話を聞き、ソーマも自身が人間国で受けた仕打ちなどを話した。
丸眼鏡もなんとなくは聞いていたが、改めて詳細を聞くとその人権など全く考えない仕打ちにフィオナと共に同情の意を示していた。
ドワーフ国の政治は分からないが、ソーマの話とフィオナの話を総合して考えると、やはり獣人国は王の人柄のせいかとても大らかで且つ自由に思えたのだった。
「まあ目的は幻彩鳥と世界樹だからね、なるべく首都には近づかないようにして、フィオナも変装なりなんなりをして目的を果たしたらさっさとドワーフ国に戻ろう」
「はい、ありがとうございます!」
「うむ、方針は決まったの」
今後の方針を確認したところで、疲れ切ったソーマはそのままベッドで眠りに就いた。
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