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運に寵愛された転換転生者【完結済】  作者: 大沢慎
第1章 人間国編
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第1話 理不尽女神と異世界転生


「くっそ……くっそ……なんでこうなるんだよ……」


 スーツ姿の楡井原蒼真ゆいはら そうまは、飛び降りたばかりの橋から不自然に伸びた鉄筋に引っ掛かり、宙づりになっていた。

 自殺未遂、計25回目。

 毎度奇跡的とも言える悪運によって助かっていたものの、本人の本意ではないようだ。


「この悪運の高さが良運だったらどんだけ凄い人生を送れたんだろうなぁ……」


 社会に対する当てつけのように、仕事を放り出して帰宅ラッシュの時間に飛び降りようとした橋の下で、多くの満員電車が行きかうのを眺めながら蒼真は一人愚痴る。

 視線を上げれば都内の夜景の奥には夜の(とばり)が降りて薄っすらと陽の残照(ざんしょう)を浮かべた西の空に、紫雲(しうん)がたなびいていた。


「……空見て綺麗だなんて思ったの何年ぶりだろう」


 涼しい風が頬を撫でる。

 風が気持ち良くて、景色が美しくて、蒼真はやり切れない想いと悔しさで涙が溢れていた。

 いつから生きるのがこんなにもツラくなってしまったんだろうか。

 自分は果たしてこんな人生を生きたかったんだろうか。

 自分の人生とは、なんなんだろうか。

 そう思うと、涙が止まらなかった。


 そうしてしばらく宙づりのまま夜景と空を悲哀(ひあい)に満ちた表情で眺めていた蒼真の前に、突然白銀の粒子が渦を巻いて、小さな妖精? のような天使? のような、モノが現れた。


『ふっふーん、キミやっぱり面白いねぇ。即死級自殺を無傷で二桁切り抜けたのって人類初じゃないかな? スカウト決定! ってことで、この世に未練はないかな?』


 突然現れた謎の天使に、蒼真は訳も分からず呆気に取られている。


『まあここまで本格的な自殺しようとしてるくらいだから未練もないっか! じゃあ早速、逝ってみよー!』


――ビリッ


「……っっぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!」


 天使がそう言うと鉄筋に引っかかっていた衣服があっさりと引き裂け、蒼真は当初の予定通り、満員電車が走る線路へと吸い込まれていった――。



 目を覚ますと、そこは真っ白な部屋の真っ白なベッドの上だった。

 一瞬、病院かと思ったが、どうやら違うようだ。それくらい、この場所は白さが異質だった。


――お、目が覚めたみたいだね、部屋出たら右に真っ直ぐ歩いて突き当り左だから。待ってるねー!


 聞き覚えのある声を聞き、飛び降りして失敗したと思ったら変なテンションの妖精みたいなものに落とされたことを思い出す蒼真。


 毎回自殺を試みては助かった直後に思うのは、やっぱり死にたくない、である。

 いくら本気で死のうと思っていても助かりたいと思ってしまった後に殺されるのは、神だろうが天使だろうが他殺と変わらない。

 そう思うと蒼真はなんだか腹が立ってきた。


(なんなんだ、軽いノリで人の命を弄んで。……まあでも結果的にようやく死ねたっていうのもあるか)


 件の天使は理不尽極まりないものの、身なりからして悪というより善っぽい雰囲気であるし、どうせあのまま生きていてもロクでもない人生だったわけで、流れに任せてみるのも良いかと蒼真は開き直り、声の通りに部屋を出た。


 廊下も見事なまでに真っ白で、あまりの白さに若干発光しているのではと思うほどだった。

 声のまま進んだ先は小さめの体育館くらいの大きさの王の間といった雰囲気で、どこを見ても相変わらず白かった。


『お、よく来たね地球人クン。まあこっちにおいでよ』


 橋の上で出会った天使は人ほどの大きさになっていて、中央の玉座に腰かけていた。

 その天使は純白のドレスを(まと)い、肌も透き通るように白かったが、髪だけは桃色のウェーブがかった長髪だった。


「あ……お疲れ様です……」

『ぷっ……あははは! それってニホンジンっぽいね~! はいはいオツカレサマ、いやー長年女神やってるし直接転生者と会う機会も多くないけど、さすがにオツカレサマって挨拶は初めて聞いたよ! やっぱりキミ面白い!』


 蒼真は自身のあまりにもどっぷり浸かったブラック企業体質が恥ずかしくなった。お疲れ様ですはないだろう。


『あはは、まあいいよとりあえずそこに立って』


 女神とやらに言われるがままに玉座の前に立つ。


『ふーん……今のところ見た目はまあ、良いとこ非力で冴えない村人って感じだねぇ』


 ジロジロと上から下まで舐めるように見る女神。


『一応説明しとくけど、今からキミには、キミ達の世界で言う異世界に転生してもらうからね。で、キミは私が管轄するヒト族の大陸に転生するわけ。基本的には異世界から異世界に転生させるってことはほとんどしないんだけど……ってまあそこまでは別にいいか。どうせ覚えてないだろうし』

「は、はぁ……」


 転生という言葉にやはり死んだのか、という非現実的で実感のない事実を耳にし、蒼真は困惑した。


『まあほとんどしないんだけどさ、神々協定でたまーにスカウト出来るわけよ。で、本来地球人みたいな非戦闘種族はあんまり転生させないからノーマークだったんだけど、最近それだと全然ダメでねー』

「な、なるほど……」


 何を言っているのかはよく分からないが、とりあえず相槌を打ってしまうのは社会人としての礼儀だろうか。


『キミ、悪運のステータスがSSSでしょ? それでさ、貴重な転生枠を今回はちょっとギャンブルに使ってみよっかなーって思ったわけ。こんなのどこの神もやったことないと思うから私もちょっち楽しみなんだよねー』

「はぁ……でも悪運が強いところで何の役にも立たないとは思いますが……」

『だいじょーぶだいじょーぶ、私達は転生させる時に一つだけステータスの正負を転換出来るのよ! つまりキミの超絶高い悪運がキミをハイパーラッキーボーイに転換させるってわけ! 凄いでしょ!?』

「そ、それは凄いですね」

『そうそう、なんたって神だからね、そこそこ凄いのよ! じゃあ早速スキル付与からやってみよー!』


 そういうと女神は手を突き出し、なにやら呟き始めた。


『こんなのも本来はシステムが勝手にやるんだけど、目にかけた転生者はちょっとだけ介入して良いことになっててね。さーて運ステータス極振りの地球人クン、リセマラ無しの一発勝負は何が出るかな? なーんて…………っってウソでしょ?!?! こんなスキル構成初めて見た……』


 女神は驚いたように玉座から立ち上がって身を乗り出している。


「そ、それは良いって意味ですか悪いって意味ですか……?」

『良いどころの騒ぎじゃないわよ……Sランクスキルが三つも揃うなんてことまずないのに……しかもスキル相性良すぎだし……』

「は……はぁ……」


 どうやらスキル付与とやらは良い結果に恵まれたようだ。


『次は属性付与、ちょっとここまでスキルが良いと緊張するわね』


 そう言うと女神はまた手をかざした。今度は心なしか力が入っているように見える。


 蒼真の周りには微細な光が現れたかと思うと、赤、青、緑、茶色と鮮やかに彩を変えていき、その都度暖かくなったり涼しくなったりした。

 そして最後に白銀と漆黒の光が混ざり合い、蒼真の胸のあたりに吸収されて消える。


『あは、全属性持ち……ここまでくるとチートだね。っていうか四属性と相克の二属性って全部発現することあるんだ……』

「ち、ちなみに普通はどれくらい持っているものなんですか?」


 蒼真は若干焦燥の様子を見せる女神に不安になりつつ聞いた。


『いやぁ……そもそも属性が発現するって自体が全体の3割くらいだからね? 大半の人は無属性、つまり魔法は使えないわけ。さらに属性二つ持てば中位魔術師以上は確定、三つ持ちは高位魔術師以上、四属性持ちだと賢者クラスね。さらに光と闇は発現確率が特定の種族に偏るからどっちも持つなんてまずありえないし……っていうか六属性持ちなんて今まで見たことないよ』

「え、じゃあ逆に目立っちゃったりしないでしょうか……」

『目立つとかいうレベルじゃないよねこれ。伝説だよ。レジェンド確定だよ。まあでも、うーん。一人でここまで才能あるってのは例がないけど、最近他の管轄でもかなり引きの良い人材を何人か出してるし、戦力的にはそこまで酷くバランスブレイカーってほどでもない……かな? ない……と思う』


 やけに自信のない女神にとてつもない不安を蒼真は感じた。


『じゃあ最後に職業決定ね。まあこれだけの属性とスキル持ってたらどんな職業でも強いとは思うけど、一応ステータス補正とかスキル補正とかあるからねー』


 そう言うと女神は先ほどよりやや落ち着いた雰囲気で手をかざす。もはや職業など大した問題ではないといった具合だ。

 それにしても、職業は付与ではなく決定なのだな、とどうでもよいことを冷静に考える蒼真であった。


『え、あ、ふーん……魔法剣士か。結構普通っていうか意外っていうか……まあでもこれだけ属性とスキル持ってれば魔法も剣士も超一流……ってわけには……うーん……いくのかなぁ』

「あの、ビミョーな感じなんですかね……」


 今までで一番、ある意味普通の反応をした女神。


『普通は魔法剣士って魔法も剣も中途半端な器用貧乏って感じが多いのよねん。ステータス補正もパッとしないし。ただ稀に魔法と剣をどっちも極めるヒトもいなくはないけど……でもやっぱりあれよね、そういうのより剣聖とか賢者みたいにどちらかに特化してたほうが強いわよねん』

「そ、そうなんですね、まああんまり恵まれすぎてても逆に怖いのでちょうどいいかもしれないです」

『それもそうね、まあキミがいれば私の評価はSランク間違いなしだし、とりあえず強くなるまで死なないでよね!』


 どうやら神には神の世界があるらしく、この女神も評価される側なのかと思ったソーマは、この明るい振る舞いの裏にも苦労が沢山あるんだろうなと想像し、少し心が暗くなったのであった。


『そういうことだから頼んだよ! まあ転生後は一切の記憶がなくなってるから、ここで話してもあんまり意味ないんだけどねっ。じゃあ、幸運を祈るよ地球人クン!』


 私が祈ったところで十分“幸運”には恵まれてると思うけど――という言葉を残して、蒼真の身体は光の粒となって霧散(むさん)した。


小説初投稿です。

数々の大好きな作品の更新が止まってしまったりするのが悲しすぎて、自分で完結させれば良いと思い立ち、書き始めました。必ず完結させますので、楽しんで頂ければ嬉しいです!

かなり書き溜めてるので当分の間は毎日投稿致します!


※2020年9月10日より「運が良いだけで異世界にスカウトされてスキルガチャで最強に!」は「運に寵愛された転換転生者」にタイトルを変更しました。詳細は活動報告をご覧下さい。

タイトル変更に関して第一話を一部修正しております。ストーリー展開には全く影響はありませんのでご安心下さい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 多くの満員電車が行きかうのを長めながら蒼真は一人愚痴る。 ☓長め ○眺め [一言] 読み始めたばかりですが面白そうなので楽しみです。
[一言] 「運のステータスがSSSでしょ」 よく分からないのが、これだけ運にSSSとあっても何度も自殺未遂をしているのでしょう。運が良いのなら、違う会社に転職するなり、自殺未遂から運が開けるのじゃない…
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