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 簡素な棺が、とある一室に置かれていた。蓋のされていない棺の中には、少女の死体が一つ。

 その棺を中心にして描かれた魔法陣は、一人の男の手によって、ようやく完成されるところだった。

 最後の一筆を描き終えると男は、ほぅ、と、今まで止めていた呼吸を深く吐き出す。


 ――長かった。


 その一言に尽きる。

 少女が死んでから、何年が経っただろうか。死者を蘇らせる魔法を求め、素材を探し、動物で実験を繰り返し、長い時が過ぎた。そして、試行錯誤の末、この魔法陣を完成させたのだ。

 成功するだろうか、という不安はない。

 男にあるのは、ただ、少女が再び目を覚ますだろうという期待と興奮だけだった。


「ベーレーブングの民よ、我が神よ」


 男が呪文を唱え始めると、魔法陣が、描き始めの部分から淡く光っていく。


(こく)の者が(こいねが)う、希う」


 男の詠唱に合わせて、ゆっくりと、まるで男が描いた魔法陣をなぞるように、淡い光が走った。

 淡い光はやがて、魔法陣の終着点へ。魔法陣すべてに淡い光がともると、その光はどんどんと強くなっていった。


「我が愛しの亡き者に、再び命を、永遠なる命を。どうか、どうか」


 搾り出すような男の声は、それでもしっかりと、呪文を紡ぐ。


「幾億の奇跡を、今ここに――《死者蘇生デリスト・イヴァルヴァリ》」


 男が詠唱を終えると、強い光はまた一段と濃く輝いた。

 そして、一瞬にして光は消える。光に合わせて、床に描かれていた魔法陣も消えていた。


 ごくり、と男は固唾を飲みこむ。それから、ゆっくりと棺の中を覗き込んだ。


 少女の死体は、血色こそ悪いが腐敗していた部分はすべて生前と同じに戻っていた。そして、彼女の瞳がゆっくりと目を開き――。

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