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異世界転生ものと乙女ゲームものに憧れて書いてみました。


賞に応募してますが、それまでに10万字以上書けるかは不明です…(´;ω;`)

 ざばんっ。


 どこかで、何かの音がする。気がつくと、周りは真っ暗になっていた。


 暗い。苦しくて、何かが邪魔をして息ができない。


(…誰か、助けて…)


 そう願っても何も起こらなくて、苦しいまま沈んでいく――…



♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢



「――っ」


 声にならない悲鳴を上げ、ウォルト公爵家の次女、リエラ・ウォルトは身を起こした。その勢いで長い白銀の髪が揺れ、細い背中にさらりと流れる。リエラがいるのはふかふかの大きなベッド。身に纏うのは真っ白なネグリジェ。これまた大きな窓から差し込む弱い太陽の光が影を作っている。


(あぁ、夢か…)


 はぁ、とため息をつき、彼女はギシリと音を立てながらベッドから降りる。…その途端、リエラ専属の侍女がふたり、どこからともなく現れた。そして、完璧に揃った動きで一礼する。


「「おはようございます、お嬢様」」

「おはよう」


 リエラは完璧な微笑みで応え、すたすたとクローゼットに向かって歩いていった。

 それで先の行動を予測したらしい年配の侍女――クリスがその進路をふさいだ。彼女が目配せすると、まだ年端のいかない新人侍女――フィルがクローゼットを開け、手早く豪奢なドレスを一着取り出す。もちろんそれに合わせたコルセットや靴下、その他諸々も共に。それを見て、リエラはがっくりと肩を落とした。


(私は、もうちょっと動きやすい服が着たいんだけどなぁ…。それに…)




(元はしがない高校生の私が、こんな豪華なの慣れないし不釣り合いだよ…)




 そう。リエラは前世の記憶を持つ、所謂転生者だった。ただし覚えている記憶は断片的で、そこまで役に立つものではない。はっきりと分かっているのは前世の名前が鈴川(りんかわ)紗絵(さえ)で、日本に住む女子高校生だったこと。それと、妹と弟がひとりずついる普通の家庭で育ったこと。それだけだ。


 クリスとフィルになされるがままに着替えさせられながら、リエラはぼんやりと考え事をしており、そのために油断して小さくひとりごとが漏れる。


「…別に毎回、着替えさせてくれなくてもいいのに…」

「そういうわけにもいきません」


 それに答えるように、笑顔を貼り付けたクリスが即答する。ぎくっとしつつも、なんとか表情をそのままキープすることに成功する。

 笑ってはいるものの、このクリスは『怒りモード』だ。よくよく見れば、目が笑っていない。手際よく着付けながら、クリスはリエラにもうすっかりお約束となっていることを言い聞かせた。そうしないと、リエラは何をしでかすか分からない。


「お嬢様、貴女はこの国でも有力な公爵家の方なのです。勝手に行動されると、皆様が困るのですよ。…オーリィお嬢様ほどではないかもしれませんが」

「でも、服ぐらいいいじゃない」

「服ぐらい、ではありません。お嬢様は、どこで誰に見られているかわからないのですよ」

「はぁい…」


 仕方なく納得し、リエラは肩を竦めて体を弛緩させる。その反応に侍女ふたりは顔を見合わせてにっこり笑い、コルセットの紐をぎゅっと強く結んだ。そのときにリエラが「ぐえっ」という令嬢らしからぬ声を出したのには、髪の三つ編みをいつもより強く編むことで戒める。

 朝から異様な疲労感を感じながら、リエラは公爵家の使用人に見送られてグレゲイド学院へと登校した。





「おはよ、リエラ」

「アナ!おはよう」


 学院に着くと、一番に親友でリカインド伯爵家の長女、アナシィー・リカインドが挨拶をしてくれた。彼女は同じ14歳だが、リエラより少し大人びた雰囲気を纏っている。それは夜空のような深い闇色の髪に琥珀の瞳という神秘的な容姿、そしてすでに婚約者がいることも要因かもしれないが、リエラはアナシィーのその雰囲気はそれだけじゃないのだと分かっている。

 その理由は簡単。アナシィーは、リエラと同じ転生者だからだ。しかも、断片的にではなく全ての記憶を持った。前世の名前は有栖川(ありすがわ)莉花(りか)らしいが、リエラはその名前を聞いたことがないため前世で会ったことのない人物なのだろうと予想している。勿論、無い記憶の中で出会っているのかもしれないが。


 アナシィーに朝のことについて愚痴をこぼしていると、背後からタタッと足音がした。ふたりは両方とも、条件反射で素早く振り返る。公爵令嬢と伯爵令嬢という立場にあるため、何かがあったとき少しでも抵抗できるようにと体術の訓練を受けているためだ。幸いにも刺客などというわけでもなく、そこにいたのはリエラとアナシィーのクラスメイトで、いつも底抜けに明るい少年だった。


「おはよう!リエラ、アナ」

「おはよう」

「おはよう、バルド」


 彼はこう見えてもこの国――エリアル王国の第二王子だ。名前はハーバルド・エリアル。呼びにくいため、リエラはバルドと呼んでいた。アナシィーは「さすがに王子にそれは…」と正式名で呼んでいるが。

 普通なら敬語を使わなければいけない立場なのだが、ハーバルド自身が「それでいい」と言っているため問題にはなっていない。


「…で、どうしたの?いつもこんなに走ってこないでしょう?私達が体術訓練を受けているのを知っているのだから」

「あー…」


 ハーバルドは言いにくそうに目を泳がせ、しばらくしたのちに仕方ない、といった様子で口を開いた。


「逃げてきた」

「何からですの?」

「アナ、もうわかるでしょう?…きっと、お姉様達からよ」

「大正解」


 リエラがそう言うとアナシィーは「あー、なるほどね…」と空を仰ぎ見、ハーバルドは疲れたようにため息をつく。それだけで、リエラは簡単に姉――オーリィ・ウォルトとその婚約者でエリアル王国の王太子、ラージカル・エリアルの様子が想像できた。

 ふたりは「身分が相応しいから」ということで婚約した政略結婚なのだが、どちらとも初めて対面したときに一目惚れ。そこからは少しずつ距離を縮め、今では周りが呆れるほどラブラブである。これには、さすがの両親と国王夫妻も顔を引きつらせていた。その気持ちはわかる。


(政略結婚だもんねぇ…相思相愛になるなんて思えないか。――私もいつかは、お姉様とかアナみたいに婚約するのかなぁ。その相手は誰なのかなぁ…)


 この世界での結婚適正年齢は、16~18歳だ。リエラもそろそろ婚約者のひとりいてもいい歳頃なのだが、そういう話は全くと言っていいほど来ていない。一番仲がよく、身分としても近いのはハーバルドだが、ふたりの間に婚約話が持ち上がったことはない。その理由は謎である。



 ――と、ここで、リエラの男友達が駆け寄ってきた。緊張しているのか、顔全体がほんのりと赤い。彼はしばらく深呼吸を繰り返していたが、ふいに顔を上げて真っ直ぐにリエラを見つめた。


「リエラさん、あの」

「?なにかしら?」


「好きです!よければ僕と、お付き合いしてください!!」


 しばらく、リエラは彼が言ったことが理解できなかった。言葉がグルグルと頭を回り、それでやっと意味を理解する。

 つまりこれは告白である、と。パニックになりつつも、リエラは必死に笑顔を保ちながら言葉を返す。


「ごめんなさい。貴方のことは嫌いではないのだけれど、お付き合いはできない」

「そうですか…」


 彼は肩を落とし、最後に小さく微笑みかけて去って行った。未だ混乱が収まらないリエラは、ふらふらして倒れそうだった。それでもなんとか、自分のクラスであるSSクラスへと歩いていった。アナシィーがはっと我に返り、慌てたように駆け寄っていく。


 だからふたりは気付かなかったのかもしれない。ハーバルドが、いつもの明るい表情を消して静かに怒っていることに――…

次の更新、来週ぐらいになるかもです。

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