1章 鹿と馬 4
「とりあえず、俺はどうしたらいいんでしょうか?」
「知らねぇよ。好きに依頼受けて迷宮潜ってでいいんじゃねぇか?」
「・・・一階でいいんですかね?」
「ああ。」
おっさんと話していても埒があかなそうだったので、俺は一階の受付嬢に話を聞こうと思い、部屋を出ようとする。
「・・・ちょっと待て。」
「はい?」
「お前、戦闘経験はあるのか?」
「いや、もちろん無いですけど。」
「そうか、じゃあ俺がとりあえず簡単に指導でもしてやるか。ランクⅣなら簡単に死にゃしねぇだろうがな。」
「・・・大丈夫です。」
「ぁあ!?」
「・・・お願いします。」
「一応、新人教育係だから安心しろ。地下に行くぞ。」
俺は一応という言葉が気になったが、黙っておっさんに着いていくことにした。
階段とは逆方向にエレベーターがあり、エレベーターに乗って地下へ降りる。
「名前は?」
「辰野 鹿です。」
「変わった名前だな。俺は山野 厳五郎だ。たいていの奴らから厳さんって呼ばれている。」
「山野さんですね。」
「・・・厳でいい。」
「厳さんですね。わかりました。」
「・・・。」
地下は闘技場のような造りになっていた。
そこら中に血痕のようなものが着いており、危険な香りがした。
「・・・俺、ヤられるんですか?」
「あ?何言ってんだお前。」
「・・・。」
「とりあえず、解放してみろ。」
「解放?」
「・・・何にも知らねぇんだな。リングに開放と念じてみろ。動武が解放される。」
俺は言われるがままやってみた。
するとリングが形態を変え、巨大な槍となって、手に収まる。
「ほう、ランクⅣはさすがだな。強力な気配がプンプンするぜ。」
「あなたも強力な気配がするぞ。」
馬柳が急にしゃべりだす。
「すげぇじゃねぇか。なんも知らないとは思えないな。ランクのおかげなのかわからねぇが、覚醒の一歩手前といったところか。」
「覚醒など、私が意識すれば、自由自在だ。低ランクの動武と一緒にするな。」
「・・・まじかよ。楽しくなってきたな。簡単な説明だけにしようと思ったが、やりたくなっちまったぜ。」
厳さんはそう言うと、両手のリストバンドを外す。そこにはリングがあった。厳さんも適正者だったようだ。
「俺は歳だからよ。あんまり派手に動いたりっていうのはめんどくせぇんだ。だから新人の育成をメインにやろうと思ってな。迷宮にもちょいちょい潜ってはいたが、今更目立つのもな。」
厳さんのリングが形態を変える。巨大な斧になった。
「こんな役割をしているが、けっこう楽しんでるよ。たまにお前のような奴が現れるからな。」
やばい、厳さん、めちゃくちゃ強い。適正者ってこんな奴ばっかなのか・・・?
「さて、楽しもうじゃねぇか!行くぜ!」
厳さんが飛び掛かってくる。体系に似合わず、かなりの速度だ。
「鹿、横に飛べ!」
馬柳が、言う。その通りにする。
すごい衝撃が奔る。俺が元居たところには、厳さんの斧が地面にめり込んでいた。
あんなの当たったら死んじまうだろうが・・・。
「奴は、攻撃だけなら、私たちより上だ。速度は負けてない。攻撃をかわしながら、風魔法を撃て。」
馬柳が言う通りにするしかなさそうだ。
風魔法は・・・風刃と風撃か。俺は、風撃を厳さんに放つことにする。
「・・・どうやって魔法って使うの?」
「相手に向かって風撃と唱えろ!魔法はイメージだ!」
イメージって言われてもな。風撃って風の攻撃って感じしかイメージ出来ないけどな。
俺は、巨大な風の塊が相手をぶっとばすようなイメージをする。
「風撃!」
唱えると、イメージより弱いが、風の塊が相手に向かって飛んで行ったのを感じた。
「んな攻撃効くか!スラッシュアックス!」
厳さんが斧を振りかぶると、魔法と相殺されてしまった。
「バーニングアックス!」
厳さんが唱えると、斧の周りに火炎が纏われる。
「スピードじゃ敵わないみたいだしな。俺の最大の攻撃でやってやるよ。」
纏っていた火炎は、斧から離れて浮かび上がり、火球となる。
「受けてみろやぁ!」
「仕方ない。」
馬柳はそういうと槍の状態から巨大な馬へと変化した。
「見事な技だ。一線級の力を持っているだろう。」
「まじで自分の意志で覚醒できんのか。すげぇ動武だな。」
「当然だ。私は馬柳だぞ。真空弾。」
馬柳の周りから風が吹きすさぶ。
と、風が固まったかのように球体になり、火球へと飛んでいく。
真空弾と言っていたものは、火球を消し去り、厳さんへ飛んでいく。
「馬柳!」
俺がやめろという意思を持って名を呼ぶと、厳さんの前で真空弾が停止する。
「当てないから安心しろ。」
「やべぇ動武だな。馬柳っていったか。すげぇな。」
「そうだ。あなたも見事だったぞ。」
こうして俺達の初陣?は終わったのだった。