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召喚獣のお医者さん  作者: 梶木 聖
⑶ 王都ローレリア
61/62

61.コロニー

 トモカは茶色い紙袋からガサガサとそれらを取り出した。


「ウーさん、危ないから念のために台から降りておいてくれる?」

(イイヨ、分かっタ!)


 ウーがぴょんと床に飛び降りたのを確認し、トモカは閲覧台の上に紙袋の中身をコトンコトンと置いた。


 それは、灰色のゴム栓のような弾力性のある蓋のついた、透明な2つの広口瓶だった。

 どちらも、淡い黄褐色の濁った液体のようなものが、瓶の5分の1程度まで入っている。

 そして片方の瓶はそれだけだったが、もう片方の瓶には、液体の表面にへばりつくように、ぼんやりと青く光る小さな斑点のようなものが無数に浮かんでいた。まるで小さなプラネタリウムだ。


 レオとピーターは戸惑ったような表情でトモカを見る。


「……ごめんトモカ、これは何?」

「これは培地(ばいち)っていって、ええと、簡単に言うと『菌を育てるための巣箱』みたいな物かな?」

「キン?」


 レオは怪訝な顔で聞き返したが、その一方でレオの隣に立つピーターはふむふむと微かに頷いている。前の世界でのことを覚えているのだろう。


「ええとね、ドムチャ村で牛の治療する時に、菌が乳房炎の原因のひとつだよっていう話をしたの覚えてる?」

「ああ、そういえば言ってたね。目に見えないくらいの小さい生物なんだっけ?」

「そう。そういう菌みたいな小さい生物を育てて増やすための巣箱がこの培地」

「へぇぇ」


 レオは興味深そうに瓶を色々な角度から覗き込んでいる。


「でもこれ、どうしたの? トモカこんなの持ってた?」

「ううん、作ったの。この瓶は厨房の人に分けてもらって。中身は廃棄予定の肉の切れ端とか皮を煮込んで、その汁を()して、冷まして固めただけ」

「ははぁ、部下たちが話していたのはそれですか。トモカさんが厨房で何か作っておられたとは聞きましたが」


 ピーターが思い出したようにぽんと手を打った。どうやらピーターにまで噂が伝わっていたらしい。トモカはいたたまれなくなって少し俯く。


 トモカはあの夜の……厨房の火と鍋を借りて肉を煮ていた時の光景を思い出す。今思えば特に何を作るとも言わなかったのが悪いのだが、周囲に集まった20人ほどの神官たちは、何か新しい料理が出来上がるのかと興味津々でトモカの様子を見守っていた。


(美味しいものじゃなくてごめんなさい)


 そう心の中で謝りながらトモカが煮汁を濾して瓶に注ぎ、ただそれだけで終わった時は、周囲から微妙な落胆の空気を感じたものだ。


「冷まして固めたってどうやって?」

「別に特殊なことじゃないの、ただの煮凝(にこご)りよ。お肉に含まれる成分が煮出されて冷えて固まったもの。瓶が巣箱なら、こっちが寝床兼エサってとこかな」

「ふーん? どう見ても汁に見えるけど、固まってるの、これ」


 レオは瓶を指先でツンとつつく。

 トモカはクスッと笑って、斑点がない方の瓶を持ち上げ大きめに揺らして見せた。中の液体に見える部分は、瓶を揺らすと中身はプルプルと(わず)かに震えたが、液体のようには動かない。


「固まってるよ、ほら」

「おお、ほんとだ」


 レオは楽しそうにトモカが揺らす瓶を見上げている。


「でもこれ、こっちとこっちじゃずいぶん見た目が違うけど」

「こっちの表面に見える斑点は、"コロニー"って言って、菌が増えて集合体になったもの。菌はひとつだと小さすぎて目に見えないんだけど、増殖して沢山集まると、こんな風に目で見ても分かるようになるの」

「へぇ、じゃあこの光ってる青いのが菌ってやつなんだ?」

「うーん、多分。私もこんな青く光る菌なんて今まで見たことがなかったから、どんな性質の菌かは全然分からないんだけどね」


 トモカは困ったように微笑んだ。

 先ほど着替えのために部屋に戻った時、コロニーが生えているのに気づき慌てて持ってきただけなのだ。まだ詳細は分からない。


「実はこの培地ね、両方の表面に"神様の水"が数滴ずつ垂らしてあるの。こっちのコロニーが見える方は"神様の水"だけ、こっちは"神様の水"と強いお酒も少し」

「"神様の水"……ああ、オレが渡したあの水か!」


 ピーターがそのやり取りを聞き、難しい顔で眉を寄せた。


「失礼……口を挟んで申し訳ないのですが、"神様の水"とは?」

「ああ、ピーターさんにはまだ言ってなかったね」


 レオはそう言って、西の森で見つけた湧き水のこと、持ち帰った水を鑑定してもらったところ強い魔力が含まれていたこと、そしてウーがその水の詳細を知っており、ウーが"神様の水"と呼んでいるその湧き水がどうやら魔獣(モンスター)の発生源となっているらしいことなどをピーターに説明した。


「なるほど。ではその水を調べれば魔獣(モンスター)の発生する仕組みが分かるかもしれない、ということですな」

「はい、その可能性は高いと思っています。なので、上手くいくかは分からなかったんですが、水をレオから預かって、少し調べてみたんです」


 トモカは強く頷き、更に紙袋からレオから預かった緑色の小瓶を取り出した。


「その結果、"神様の水"だけのこっちにはコロニーが生えて、酒を足した方には生えなかった。つまり、この小瓶の中の水にはアルコール……つまりお酒で死ぬタイプの菌が少なくとも一種類以上含まれているということです」

「酒で死ぬ……?」


 レオが首を捻っている。酒で死ぬというのはあまりイメージができないのかもしれない。


「お酒に含まれるアルコールっていう成分は、ある種の菌を殺すことができるの。もちろんこんな簡単な培地じゃ増殖できない種類もあるから、この水に含まれるのがこの菌だけとは限らないけど」


 足元でウロウロしていたウーが退屈になったのか、トモカの服を勢い良くよじ登り、右肩に乗った。柔らかくフワフワした毛が頬に当たり、くすぐったい。

 トモカは肩に乗ったウーの鼻先を左手の指先で撫でながら、レオに説明する。


「ウィルキードさんのお店で……この"神様の水"はただの水だって鑑定されたでしょ? でもただの水にも拘わらず、高い魔力が含まれていて、そしてその魔力が生き物のようにどんどん増えてるとも言ってた。それを聞いてね、もしかしたら水自体が生き物なんじゃなくて、水の中に魔力を発生する微生物でもいるんじゃないかって思ったの」

「ははぁ、なるほどね」


 大きく頷くレオの後ろで、ピーターも軽く頷きながら2人の会話を黙って聞いていた。


「ただ、この菌が本当に水に魔力を与えてる原因なのか、っていうのは調べないと分からないのよね。ただの雑菌かもしれないし。こっちのコロニーがある方の魔力が、ない方よりも極端に多ければほぼ確定だと思うんだけど……。ねぇウーさん、この瓶の中の魔力の量って分からない?」


 魔力を食べる召喚獣なら魔力の量が分かるかもしれないと思いつき、聞いてみる。

 トモカの肩に乗ったウーは、首を伸ばしてそれぞれ瓶をクンクンと臭っていたが、やがて首を振った。


(ウーン……ボクたちは魔力をニオイで感じるカラ、フタがあったら分からナイヨー。それに今はトモカの魔力と繋がってるカラ、トモカのニオイが強くてよく分かんナイ)

「臭い……そっかぁ。でも怖いからあんまり蓋は開けたくないなぁ」


 トモカは考え込んだ。それならば蓋を開けずに魔力を測るには……。


「じゃあ今からウィルキードさんに聞いてみるか。もしかしたらこうやって目に見えるなら菌も鑑定できるかもしれない」

「いいの!?」


 レオの提案にトモカはパッと顔を上げた。トモカも可能性としてはそれしかないと思っていたのだ。

 レオは勢いよく食いついたトモカを見てクスッと軽く笑った。


「多分大丈夫だと思うよ。あの爺さん、基本的に持っていったら何でも視てくれるから。まだ夜まで時間あるし、一緒に行ってみようか」

「うん、ありがとう!じゃあ急いで着替えてくるね」


 トモカは急いで瓶を袋にしまい、パタパタと部屋に戻った。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ほぉ、こりゃすごい」


 再び訪れた3月通りの店で、細長い尻尾を揺らしてウィルキードが唸った。


 それを台の向かい側から普段着姿のレオと、茶色のローブに着替えたトモカが見つめる。ピーターも鑑定が気になったようではあったが、仕事のため渋々ながら教会に残った。後で結果を報告することになっている。ウーも部屋で留守番だ。


「ウィルキードさん、どう?」

「……」


 鑑定作業の終わったことを察したレオが、ウィルキードに声をかけた。

 しかしすぐには返事がこない。

 鑑定は終わった様子にも関わらず、ウィルキード翁は渡された2つの瓶をまだ眺め回していた。そして最後に瓶を持ち上げ、底から覗き込むように観察した後、ゆっくりと台に戻す。


「ふむ……。結果を言おう。瓶の中に含まれる魔力は、こっちの斑点がある方が格段に高いのは確かだ。魔力の属性は無属性。量はこっちが378、こっちが2。だがこっちの高い方は安定せんな。前の水と同じだ。鑑定する度にじわじわと値が上がる」

「やっぱり!」


 トモカは、小さく声を上げた。

 含まれる魔力の量にここまで大きな差があるということは、この青く光る菌が"神様の水"の魔力の発生源と考えて良さそうだ。

 しかし、ウィルキードは申し訳なさそうに話を続ける。


「だがすまんな、この斑点が何かについてはさっぱり分からん。分かんのはこの下の煮凝(にこご)りがスミレドリの肉と皮の煮汁だってことくらいだな」

「そう、ですか……」


 菌の増殖によって魔力も増えることが分かっただけでも、当初の目的は十分に果たされている。しかし、あわよくば菌の同定までできるかと期待していたため、トモカはややがっかりしたような声を出してしまった。


 レオと共に店を訪れたトモカは、鑑定術士ウィルキードに菌や培地について大まかに説明し、瓶に含まれる魔力量を測って欲しいと依頼した。突然の依頼にもかかわらずウィルキードは快く引き受けてくれた。

 しかし、鑑定はなかなか困難だったらしく、ウィルキードはかなり長い間鑑定作業を行っていた。トモカからの依頼内容には含んでいなかったが、この青く光る斑点が何なのか、ウィルキードなりに鑑定を試みてくれたようだ。


「なんせこんなもん鑑定するのは初めてだからな。どんだけレベルが高くても鑑定術士自身の頭の中にないもんについちゃ使えんのよ、鑑定術ってのは」

「そうなんですか」


 トモカが相槌を打つと、ウィルキードは眼鏡を外しやや雑な仕草で台の上に置いた。

 やはり相当疲れたらしく、軽く目を閉じたまま話を続ける。


「だから鑑定術士にとっちゃ情報収集が一番大事なんだ。本や図鑑はもちろん、実際に見たり色んなヤツの話を聞くのも、わしらの(かて)になる。今回嬢ちゃんの話が聞けてよかった。またなんかあったら良ければ見せてくれ。情報が貯まれば嬢ちゃんの手助けになるやもしれんしの」

「はいっ!」


 ウィルキードはトモカの返事を聞くとゆっくりと目を開き、トモカをじっと眺めて目を細めた。

 そしてギィと木が(きし)む椅子から立ち上がり、台の上の眼鏡を掴むと身を翻して店の奥へと歩き始めた。


「今回の代金はいい。面白いもんを見せてくれた礼だ」

「ありがとうございます! 」

「またいつでも遊びに()んさいや。レオのカノジョだしな、嬢ちゃんなら鑑定も多少まけてやろう」

「いいんですか!? ありがとうございます、また伺います!」


 深くお辞儀をして答えたトモカに、肩越しにヒラヒラと手を振り、ウィルキードは壁と一体化したような隠し扉の向こうに姿を消した。



 店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。

 トモカとレオは手を繋いだまま、様々な明かりの灯る王城広場を歩く。

 片腕には瓶の入った紙袋を抱えている。落として割れでもすると大変なので、紙袋の中の瓶は白い布でぐるぐる巻きにしてあった。


「ウィルキードさんにだいぶ興味持たれてたね、トモカ」

「え、そうなの?」

「あの様子だと多分トモカが転生者だって気づいたんじゃないかな。そのうち鑑定させろって言ってくるかもね」


 王城専属鑑定術士のサーロスに鑑定された時と同じことを、あの店のあの古ぼけた台の上でするのだろうか、とトモカは微妙な顔になる。


「大丈夫、ウィルキードさんの鑑定は早いよ。サーロスは几帳面だし国の仕事だから魔導具も使って一個一個データ取るんだけどさ、ウィルキードさんの鑑定は座ったまま目を見て額に魔石を当てられるくらいで終わる」

「でも……鑑定されたら私の素性バレちゃうよね? バレても大丈夫なもの?」


(聖女ってこと隠さなくていいのかな)


 トモカは心配になったが、レオはトモカの目を見下ろし、安心させるようにニッコリと微笑む。


「ウィルキードさんはああいう仕事してるから、ああ見えて口は硬い。他に漏れる事はまずないから心配しなくて大丈夫だよ。ただ、あの爺さんは誰かさん(・・・・)と一緒で好奇心が人一倍強いだけなんだ。まぁ、だからこそ鑑定術士として成功してるとも言えるけど」

「そ、そっか。……っていうか誰かさん(・・・・)って私!?」

「他に誰がいるのかな」


 レオはクックッと肩を震わせて笑いをこらえている。

 トモカは自覚もあるためあまり反論ができない。


 レオに文句を言うことは諦め、トモカはレオの手を少し引っ張った。


「ねぇレオ」

「ん?」

「あのね、ウーさんやレオから聞いた話と、今回の菌のこと、色々合わせて考えると、魔獣(モンスター)の発生の仕組みについて何となく……分かったことがあるの。証拠はなくて、ただの私の予想なんだけど……。聞いてくれる?」


 レオはスっと目を細めると、簡単な話ではないと察したのか、すぐに表情を引き締めた。


「んー、あんまり外で話せる内容じゃなさそうだね。ピーターさんにも報告しないといけないし、一旦教会に戻ろうか」

「うん。ピーターさんにも聞いておいて欲しいかも」


 教会に戻ると、ピーターはすでに仕事を終わったのか、裏口から帰ってきたトモカたちを出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、いかがでしたか」


 レオはトモカの手を離すと、その手をポンとトモカの頭の上に置いた。


「うん、予想通りだった。それで、トモカから話したいことがあるらしい」

「それでしたら、応接室でお聞きしましょう。もうすぐ夕食時ですから、ついでに後で応接室に食事を運ばせましょうか。レオナルド様も食べて行かれるでしょう?」

「いいの? 助かる」


 レオは少し嬉しそうに笑った。

 ピーターが身を翻して廊下を先導して歩きはじめ、トモカとレオはその後ろをついて行く。

 トモカはふとした疑問を口にする。


「そういえば、レオって私と一緒にいない時はどこで食べてるの?」

「オレ? ほとんどが9月通りの酒場だな。マスターが昔からの知り合いでさ、オレのこともだいたい知ってるし、頼めば色々出してくれるんだ」

「へぇ」


 トモカは少し感心した。


(レオって一応王子様のはずなのに、本当にあちこちに友達いるなぁ)


 前の世界でも比較的人見知りで幅広い人付き合いが苦手だったトモカは、レオのその人懐っこさと飾らなさが少し羨ましくなる。


「今度一緒に行こうか。レストランみたいな豪華な料理はないけど、結構旨いよ」

「うん。レオのオススメなら行ってみたいな」


 ピーターについて応接室に入ると、3人はソファに腰掛けた。

 台の上には培地の入った紙袋がある。


「それで、お話とは何かありましたか」


 ピーターが切り出す。

 トモカはひとつ大きく頷いて、話し始めた。


「はい。魔獣(モンスター)の件です。今日鑑定してもらったことで、神様の水に含まれる魔力の発生源がこの菌であることがほぼ確定になりました。ウーさんから今まで聞いていた"神様の水"についての話や、ピーターさんやレオから聞いた魔獣(モンスター)の話などを併せて考えると、ひとつの仮説が立てられます」


 顔を上げると、ピーターもレオも真剣にトモカの次の言葉を待っている。

 トモカはその様子に少し(ひる)んだが、勇気を出してハッキリと言葉を紡いだ。


「その仮説というのは、魔獣(モンスター)というものがこの菌の感染症による存在なのではないか、ということです」


 トモカの言葉にピーターが意外そうな顔をしている。


「感染症……ですか。かつての欧州を襲ったペストのような?」

「そうですね。ただそこまで強いものかは分かりません。感染症にも様々なタイプがあるので。菌というのは小さい生物ですが、多くの種類がいます。自然界で単独で生活できるものもいれば、何か別の生物の身体に寄生して、そこから栄養分を吸収したり、増殖の手段にしたりすることもあります。この寄生状態が"感染"です」

「……なるほど」


 レオが小さく呟いた。いつになく真面目なレオの表情にトモカは少しどきりとする。

 菌や微生物という概念のなかったこの世界で、この感染という現象を理解するのはおそらく大変なことだろう。しかし、レオは必死にトモカの言葉を理解しようとしていた。


「私は森の中にいる時に、一度魔獣(モンスター)と思われる動物に襲われました。その直前にウーさんが"神様の水"を飲んで寝ている動物を見かけています」

「……うん、その寝込んでるところはオレも見てる」


 トモカはそれを聞いて大きく頷いた。


「ウーさんの話によれば、この"神様の水"を飲んだ後、数日寝込んでしまう種類の動物がいるそうなんです。そして、そういう動物たちは数日寝込んだ後、起きて暴れ始めるのだと聞きました」


 ピーターがふむふむと小さく首を振って聴いている。

 前の世界での知識がある分、レオよりもピーターの方がより正確に理解しているかもしれない。


「最初は単純に、魔力を高い水を摂取するから、その影響でおかしくなるのかと思ってたんです。でも、数日寝込んでから暴れると聞いた時に、ちょっと変だなって。例えば"神様の水"に含まれる魔力というのが、お酒や麻薬みたいに一時的に意識を混乱させるような性質の物なのであれば、まずは最初に暴れてから、その後で寝込むと思うんです」

「ああ。確かに酒に酔って暴れるやつは最初に暴れるよな。んで、暴れるだけ暴れ尽くしてさっさと寝るんだよ」


 レオが何かを思い出すかのように遠い目で呟いた。おそらく酒場などでそういった光景を目にするのだろう。


「万が一『寝込んでから暴れる』という例があるとしても、肝臓での解毒などを考えると、数日間も寝たままでそのあと回復して暴れるというのは非常に考えにくいです。肝臓での解毒が追いつかず数日間も意識がなくなるような強力な薬物であれば、通常は各臓器が動かなくなり、死に至っています」


 ピーターが渋い表情になる。

 死ということばに、何か陰鬱な光景を想像してしまったのかもしれない。


「そこから分かるのは、"神様の水"というのは、お酒や薬のような機序で作用するものではない、ということ。そうすると、『寝込んでいる期間』というのはもしかして感染症の症状が発症している期間なんじゃないかなって思ったんです。そして、その後暴れるのはその後遺症なんじゃないかと……」

「……つまり、魔獣(モンスター)というものは元々魔獣(モンスター)であった訳ではなく、何かの病気に感染してしまったせいで魔獣(モンスター)となった。そしてこの病気にならなければ魔獣(モンスター)にもならない、ということでしょうか」


 ピーターが確認をするように、ゆっくりとトモカに問いかける。

 レオはトモカの説明を聴きつつも何かを考え込んでいるようで、手の甲を口許に当てたまま身じろぎもしない。

 トモカは真剣に聞いてくれる2人に恥じぬよう、真っ直ぐにピーターを見つめ返し、はっきりと頷いた。


「はい。私が言いたいのはそういうことです。でもこれはあくまでも私の立てた仮説です。まだ証拠もこの菌の存在くらいしかないですし、この菌についても分からないことだらけですし……」


 トモカは少し視線を目の前の応接台に落として言い淀む。トモカもこの説に絶対の自信があるわけではないのだ。元の世界と同じ理屈がこちらの世界で通用するのかは、調べてみなければ分からない。

 しかし、トモカは意を決したように顔を上げた。


「ただ、私は前世で獣医をやっていましたので、菌や感染症については多少の知識があります。もし許可をいただけるのなら、この菌と魔獣(モンスター)の発生の関連についてもう少しちゃんと研究してみたいんですが、ダメでしょうか?」

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