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召喚獣のお医者さん  作者: 梶木 聖
⑴ 西の森
28/62

28.魔石

(懐かしいな。もう6年前か……)


 6年前。まだBランクだったレオが他の冒険者仲間2人とパーティで受けた長期の依頼。

 そしてこの小屋はその3人で建てた物だ。

 あれ以降、レオがパーティを組んで依頼を受けることはしていない。


 レオはトモカの後に続いて懐かしい小屋に入る。

 小屋の中は真っ暗だった。

 明かりなどはないようだ。


(あれ?そういえばこの部屋、アレがあったから、特にランタンとか置いてなかったよな)


 レオが目の前のトモカの肩を手探りで探し、指先でトントンとつつく。


「ねぇ、この部屋、もしかして今までずっと夜は真っ暗で使ってた?」

「え? ああ、見えませんよね、すみません」


 トモカは慌てて右手の指に雷の魔力を()め、光らせた。

 部屋の中がボゥっと明るくなる。

 作業台、戸棚、全てがあの6年前と同じ状態で目の前にあった。

 レオはあまりの懐かしさに思わず言葉をなくしたが、すぐに目的を思い出す。


「いやいやそうじゃなくってね。……ええと、確かオレここに通信用の魔石置いてなかったかな」


 レオは左手にある戸棚の引き出しを探り、クルミ大ほどの丸く艶やかな灰色の丸い石を2つ取り出した。

 トモカが目を丸くしている。


「あ、それ……」

「あれ?もう使ってた?」

「いえ。使い方が分からなくて、1つはお酒の瓶の(ふた)にしてます」


 レオはガクッと肩を落とした。

(ま、使い方知らないんだからしょうがないか)


「コレ昔市場で買った安物なんだけど、結構便利だから全部あげるよ」

「何に使うんですか?」


 トモカがレオの手の平にある石の玉を覗き込む。


「これの主な目的は通信なんだ。3つがセットになっててね。あらかじめ魔力を送り込んでおいて、1つに向かって話すと、他の2つの玉からその声が聞こえる。あまり遠すぎると届かないけど。数人でパーティを組んで魔獣(モンスター)を仕留める時なんかに便利なんだ」

「なるほどトランシーバーですね」

「トランシーバー?」

「前の世界でもトランシーバーっていう似たような機械があったので」

「へぇ」


 ガイアの地には魔法は無いと聞くが、魔力がなくても便利な生活を送っているというのは本当のようだ。


「ただね、これにはそれ以外にも使い道があるんだよ。これは内側に砕いた魔石を練り込んだ核が使われてる。魔石って知ってる?」

「……分かりません」

「魔石は本来それ自体には何の力もないんだけど、魔力を受けるとそれを()めて少しずつ放出することができる石なんだ。結構便利だから色んな道具に使われてる」


 レオは丸い石の1つを左の手の平に乗せた。


「オレの属性は炎と風なんだけど、例えばこれに炎属性の魔力を少しだけ送り込む」


 そう言ってレオは手の平の石に右の指先で炎の魔力を送り込んだ。

 すると石は明るい赤橙(せきとう)色に輝き、触るとほんのりと熱を持ち始めた。よく見ると石の内部で小さな炎が燃えているのがわかる。

 レオは明るく輝いている石をトモカに見せる。


「こうやって炎を少しだけ送るとちょっとした明かりにもなるし、保温にもなる」

「うわーすごい!きれい」


 レオはもうひとつの灰色の石をトモカに手渡した。


「トモカちゃんが今使ってるの雷属性の魔法だろ?」

「はい」

「ちょっとこの石にその指先に出してる魔力をほんの少しだけ送れる?」


 トモカは左手で石を受け取り、そこに右手で灯していた小さな雷の光をちょんっと送り込む。

 すると。

 丸い石がパッと白く強い光を放った。

 石の内部でパチパチと小さく火花が散っているが、外には光しか出てきていない。


「ごく少量の雷魔法なら光だけが出るから、触っても問題ないと思う。」

「おおお明るい。LEDみたい」


 トモカは感動している。

 レオは「エルイーディー」とはなんだろうと首を(ひね)るが、おそらくさっきの「トランシーバー」と同じようなガイアの地の道具なのだろう。


「これを置いといたらわざわざ指先からずっと魔力出さなくても、夜の明かりとして使えるよ。もっと強めに魔力を送り込んで投げれば簡易的な武器にもなる」

「消す時はどうしたらいいんですか?」

「今送ってもらったのはほんの少しだから、そのうち自然に消えるけど、すぐに消したい時は魔力を吸えばいい」

「魔力を……吸う?」

「今は指先から魔力を押し出したろ?それを逆流させるように、指先から魔力を吸い込むような感覚で触ってごらん」


 レオが説明すると、トモカは真剣な顔で今魔力を送り込んだ石にゆっくりと右手を近づけていく。

 ちょん、とその指が触れると、スゥっと魔石の光がゆっくり小さくなり、消えた。


「おお、消えた……!」


 トモカはまたも感動している。

 1回で上手くいったようだ。初めてにしてはなかなか筋が良い。

 魔法を普通に使用しているレオたち獣人にとっては基本的な作業だが、同じ獣人でも魔法を使うのが苦手な者はいる。そういう者達が1番苦手とするのがこの「魔力を吸う」作業なのだ。どうも「吸う」という感覚が上手く掴めないらしい。

 その点トモカはすぐに理解できたようだ。


「うん、上手くいったね。これがあれば通信だけじゃなくてランタン代わりにもなるから、雷魔法が使えるなら持っとくといい。明るさは吸う時の魔力量で調節出来る」

「ありがとうございます!通信機にもなるなら、今は各自で1個ずつ持っておいた方がいいですよね」

「そうだね、じゃあ王都に着くまでは各自で持っておこうか」


 トモカは再度魔石に明かりをつけ、その明かりで部屋を照らす。


「私は作業台のこっちで今まで寝てたので、レオさんはそっちの戸棚の前あたりを使っていただければ」

「りょーかい。台の上に荷物置いていいかな?」

「それは全然構いません。そもそもレオさんの小屋ですから。ただ、あの……こっち入らないでくださいね?」


 先に釘を刺されてしまった。

 女の子を困らせる程度の悪戯(いたずら)をするのは楽しいが、それはあくまでもお互いに遊びの範囲の話であって、女の子が心底嫌がることはしない、というのがレオの信条だ。

 女好きであるが故に、女性を傷つけることは女好きのポリシーに反するのだ。

 柔らかい身体を抱きしめて寝たい気持ちはもちろんあるが、仕方がない。


「分かった、大丈夫、約束するよ。ゆっくりおやすみ」

「良かった。おやすみなさい」


 レオが思った以上にあっさり引き下がったためか、トモカはかなりほっとしたような顔で自分の場所に帰っていく。


 レオは自分用に割り当てられた戸棚の前に立つと、レオは(かばん)を台の上に置く。

 剣を外し、帽子を脱ぎ、マントと防具を外し、床に置いた。

 これだけでもずいぶんと楽になる。


 室内ではあるが、一応薄い野営シートを敷いて靴を脱ぎ、レオは横になった。

 色々あったためまだ少し興奮状態にあるのか、すぐには睡魔がやってこない。

 トモカも寝られないようで、作業台の向こうで時々ゴソゴソと身動きする気配がある。


 赤橙(せきとう)色に輝く魔石の魔力を半分ほど吸い出し、薄暗い明かりにする。

 レオは右手に()めた青い石の指輪を眺めた。


(結局聖女はどこにいるんだろうな)


 まだ生きているだろうか。

 手がかりを求めて南東エリアにやってきたが、ろくな手がかりはなく、やはり魔獣がいた。強いて言うなら明らかな魔獣(モンスター)の他にも、「攻撃性のない魔獣(モンスター)のような動物」がいたということだ。

 また聖女らしい者も死体もない。


 森で唯一出会ったのがトモカで、"最近突然森の中に住みはじめた少女"という状況から聖女ではないかと考えたが、同じ部屋にいてもこの聖魔力探知の指輪が全く反応しないところを見ると、おそらく外れだ。聖女に多いというガイアの地からの転生者らしいので可能性はゼロではないが、聖魔法を持っていないのならレオには判定不可能である。

 いずれにせよピーターに会わせに行く予定なので、コレで聖女であれば儲けものなのだが、期待はしない方が良いだろう。


 他に特に当てはない。

 ここよりもう少し西側を探してみるか。湖にはおそらくいないだろう。

 依頼書には聖女が人魚である可能性もあるとは書かれていたが、ソリュー湖に人魚がいるとは聞いたことがない。人魚の生息地は海がほとんどなのだ。


 当てのない先のことを考えているうちにようやく睡魔がやってきたため、レオはその波を逃さぬよう意識を手放した。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 眠っていたのは一瞬だった気がしたが、目を開けると部屋の中はすっかり明るくなっていた。


 レオはムクリと起き上がる。

 作業台越しにトモカが寝ているはずの方向を見ると、すでにいなくなっていた。マットに使っていると言っていた落ち葉は残っているので、寝ているレオを起こさないように気を遣ったのかもしれない。


「夜遅かったのにもう起きたのか。早起きだな」


 レオは少し伸びをして立ち上がり、靴を履いた。

 部屋を改めて見回すと、6年前まで使っていた小屋の光景がそのままそこにあり、懐かしい。


(この戸棚、他にもいろいろ入れてたような……)


 戸棚の扉を開くと、掃除道具や狩りに使っていた布などが出てきた。


(掃除道具!これティキが持ってきたやつか。アイツ掃除魔だったもんな)


 かつての冒険者仲間の顔を思い出し、微笑む。懐かしい。

 他の棚には液体の入ったガラス瓶があり、その上に丸い魔石が置いてあった。

 3つセットのうちのひとつだ。


(これか。ホントに(ふた)で使ってら)


 レオは魔石をそっと取り、中の匂いを嗅ぐ。

 まだ酒気(しゅき)は残っているようだ。

 他に蓋になりそうな物もないので仕方なく魔石を置きなおす。


 引き出しの中には、トモカが着ているのと同じ形の服がもう2着入っていた。

 これはレオたちが万が一の着替え用に置いていたものだ。結局使うことはなかったが。

 レオは昨日の夜見た焚き火の炎の明かりに照らされたトモカの首筋と、大きな(えり)ぐりから見えそうで見えなかった胸元を思い出す。

 自分の服を好みの女の子が着ているというのは、結構そそるものがある。


(この服は全部あの子にあげよう。そうしよう)


 下心満載で引き出しを閉じる。

 その下にも引き出しがある。


(こっちにもなんか入れてたっけ?)


 そう思って下の段を開けると、紺色の薄手の長い服が出てきた。

 レオには全く見覚えがない。

 不思議に思い、ズルズルっと引き出すと、その長い服の上に置いてあった白っぽい小さい布がポロッと落ちた。


(なんだこれ?)


 2枚重ねの白い三角形に近い形をしたそれは、伸縮性があり、レオが今まで触ったことがないすべすべとした質感の布でできていた。

 びよんびよんと伸ばしたり縮めたりを繰り返してその布を観察していると、背後で扉の開く音がした。

 トモカが戻ってきたらしい。レオは明るく挨拶する。


「あ、おはようトモカちゃ────」

「ぎゃあああああああっ!」


 レオが挨拶を言い終わらないうちにトモカが叫び声を上げてすっ飛んで来て、レオの手の中の布を奪い取ろうとする。

 レオはその勢いに反射的に手を隠すように背後に回した。

 トモカは真っ赤な顔をしてレオの手を掴もうと、抱きつくような体勢で暴れている。


「かっ返してください! それ私のです!」

「えっトモカちゃんのなの? 何コレ?」

「パ……ふ、服です、服!」

「え、ちっちゃくない? トモカちゃんが着るの、これ」

「そうです、いいから返して! ぎゃー! わざわざ見なくていいですってば!」


 トモカは真っ赤になりレオの腕にしがみつく。

 好きな女の子にしがみつかれてややテンションの上がったレオだったが、トモカのその必死な様子を見て、レオはやっと気づく。


「ごめん、もしかしてコレ下着?」

「そうです!」

「そ、そりゃ悪かった、ほんとにごめん、返すよ」


 レオは素直にトモカに布きれを差し出す。

 レオは当然(・・)女性の下着くらい知ってはいるが、この世界の物と形が大きく違うために気づかなかったのだ。


 しかし、トモカが慌てて受け取ろうとしたその時、開けっ放しだった扉から白っぽい毛玉が猛スピードで飛び込んで来た。


 ガブッ!!

「いってぇぇぇっっ」


 白っぽい毛玉はウーだった。

 トモカの叫び声を聞きつけたウーが、レオの左腕に力いっぱい噛み付いたのだ。

 レオはトモカに謝るのに一生懸命ですっかり油断していたため、避ける隙もなかった。


「ウーさん違うの!レオさんが悪いんじゃないの!ちょっと事故で」


 トモカは一生懸命ウーを説得している。

 ウーは不満もあったようだが、しぶしぶレオの腕から口を離す。


 トモカは大慌てでレオの左腕を取り、服の(そで)(まく)りあげた。

 二の腕の部分にウーの牙が刺さった跡が4ヶ所深い穴になっており、そこからじわりと出血が始まっている。

 トモカの顔が真っ青になる。


「あーこんくらい大丈夫大丈夫。動物に噛まれるくらい慣れてるし」


 痛いのは痛いが、噛まれるのに慣れているというのは割と事実だ。

 レオはトモカを安心させるために呑気に笑う。

 しかしトモカは怒ったような真剣な顔をしてレオの左腕の手首を掴んで立ち上がった。


「レオさんちょっとこっち来てください」


 有無を言わせぬその雰囲気に気圧され、レオは無言で立ち上がってトモカについていく。

 着いたのは湖のそば。

 トモカはそこにしゃがみ込み、レオの左腕を引っ張ってレオも座らせる。


「ちょっと洗いますよ」


 トモカは静かな声で告げ、手で水を掬っては傷口にかけ、洗いはじめた。

 その目は真剣だ。

 レオは無言のままその様子を見つめる。

 傷口に水がかかると少し()みるが、それ以上に掴まれた手首が心地よい。

 レオは素直にされるがままになっている。


 明るい湖の(ほとり)で、2人の間に静かな空気が流れ、腕にぴちゃぴちゃとかかる水の音だけが小さく響いた。


 洗い終わると、トモカはレオの水に濡れたままの傷口に右手の指をそっと当てた。


(何をしてるんだ?)


 包帯でも巻いてくれるのかと思えば、トモカ自身の指を当てている。

 しかし、その指先を見て、レオは目を見開いた。

 トモカの指からぬるりとした粘液のような緑色の光が(あふ)れ、レオの傷口に侵入しようとしていた。

 そしてそれぞれの傷口から侵入すると、傷口がみるみるうちに閉じた。

 痛みもあっという間に消えていく。


「あっ」


 そして。


 傷口が完全に閉じるのとほぼ同時に、レオの右手に()めた指輪がその存在を主張するかのように激しく振動を始めたのだった。

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