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召喚獣のお医者さん  作者: 梶木 聖
⑴ 西の森
25/62

25.邂逅

 ガタガタガタン、と扉が鳴り、トモカは目を覚ました。


 小屋の中は真っ暗だ。

 腕を動かすと、腕の中にいるはずのウーがいない。

 身体(からだ)を起こし、指先に雷魔法でそっと小さめの光を()けウーを探すと、ウーはバリケードとして扉の前に置いた作業台の上に乗っていた。

 毛を逆立て、扉の方に向けて体勢を低くして身構えている。


「ウーさん?どうしたの?」

(トモカ、気をつけテ。外に(おおかみ)が来テル)

「えっ」


 寝る前にウーが話していた(おおかみ)のことだろうか。

 その時、またガタガタッと大きく扉が揺れた。

 2度、3度と続けて衝撃音が響く。


(アイツらが体当たりして扉を開けようとしてるンダ)

「えっ、"アイツら"?1頭じゃないの!?」


 トモカは声を(ひそ)めて聞き返す。


(タブン(おおかみ)だけじゃナイ、(きつね)もイル。全部で10頭くらいカナ)

「そんなに!?閉じこもってたらそのうちどっか行ってくれるかな?」

(囲まれてるカラ、このままダト朝になっても外に出られないヨ)

「そ、そんなぁ。どうしよう」


 その時再びドン!という衝撃音が鳴り、扉が揺れると同時にバリケードにしていた作業台が少しズレた。

 トモカは慌てて立ち上がり、作業台を扉の方に押しつける。


(10頭くらいナラ、ボクとトモカで手分けしタラ倒せると思うヨ)

「ほ、ホントに?」

(ただ、ここは逃げ場がないシ、魔法使うと小屋が壊れちゃうカラ、外で戦った方がイイと思うケド)


 トモカは必死で作業台を扉の方に押し付けながら考える。

 扉の外に、こちらを攻撃しようとしている(けもの)が10頭。

 おそらく扉を開けた瞬間、一斉になだれ込んでくることが予想される。

 そうなれば外に出るどころではない。数で押し込まれ、小屋の隅に追いやられて食い尽くされるのがオチだ。


 ほんの数秒でいい、どうにか(けもの)たちを扉から引き離すことはできないだろうか。

 トモカが指から風魔法を強く発動して吹き飛ばすこともできるかもしれないが、扉の内側からではトモカから見える範囲にいる(けもの)しか飛ばせない。

 扉から出た瞬間に壁の横から襲われたら終わりだ。


 トモカは可能性に賭けることにした。


「ウーさん、3、2、1、0で扉開けるから、その瞬間に真っ直ぐ外に向かって大きめの雷撃出せる!?」

(イイヨ!その後どうするノ?)

「あっちが(ひる)んだ隙に風に吹き飛ばしてもらう(・・・)から、その間に外に出よう!」

(分カッタ!)


 ウーは頷いてバリケードにしていた作業台から飛び降りる。

 トモカは全体重をかけて肩で扉を押さえつつ、作業台を足で蹴り少しずつ移動させた。

 トモカの背中にドシン!ドシン!と強い衝撃が襲う。扉の向こうで(けもの)達がまだ体当たりをしているようだ。

 ウーが扉の前に立ち、(つの)に魔力を溜めていく。(つの)に蓄積した魔力がどんどん大きくなる。


「ウーさん、行くよ!」

(ウン!)

「3、2、1、」


 ウーの頭上に出来た魔力の(かたまり)がバスケットボールほどの大きさまで膨らみ、小屋の中を(まぶ)しいほどに明るく照らす。

 トモカは叫んだ。


「ゼロ!!!」

 ドゥッッッッ!!!バチバチバチ!!!!


 掛け声と同時にトモカが扉を開き、ウーの頭上から大きな魔力の(かたまり)が放出された。


「ギャゥゥッッッ!!!」


 正面から雷の(かたまり)をまともに食らった(けもの)は、強烈な光と共に衝撃で後方に吹っ飛び、湖に落ちた。周りの(けもの)たちもそれを見て一瞬たじろぐ。

 トモカはすかさず叫んだ。


「風よ、外の(けもの)たちを吹き飛ばして!」


 その途端に小屋の外で暴風が吹き、ウーの雷撃により隙のできていた(けもの)たちを遠くに吹き飛ばす。

 (けもの)たちの気配が一気に遠くなった。

 上手くいくかどうか賭けのような作戦だったが、狙い通り外側からの風魔法が発動してくれたようだ。


「ウーさん出よう!」

(分カッタ!)


 トモカとウーはその隙に外に飛び出し、小屋の横へ移動した。

 (けもの)たちは全て飛ばされたようだ。外に出ると何もいない。


「壁の近くにいよう」


 室内で隅に追い込まれるのは絶体絶命(ぜったいぜつめい)だが、広い空間で完全に囲まれ背後を取られるのもまずい。

 トモカは小屋の壁を背にして立つ。ウーもその足元に、トモカを(まも)るように立った。


(来たよ)


 離れた所に飛ばされていた(けもの)たちが帰って来たようだ。

 三日月が照らす薄暗い闇の中、黒っぽい(けもの)の影が遠くから近づいてくる。

 (おおかみ)のような大型の犬の形をした(けもの)が2頭。

 その周囲に(おおかみ)よりふた回り小さくて細い(けもの)が多数。あれが(きつね)のようだ。目を()らして数えると7頭いる。


((おおかみ)はトモカと同じで風魔法が使えるンダ。(きつね)は爪と尻尾に毒針を持ってて、刺した相手の体内に炎魔法を送り込んで焼き殺スヨ)

「どうやったら倒せるかな」

(赤いネズミと一緒!アイツらが魔法を出す前に、こっちから雷の(たま)を撃てばイイ。頭を狙ッテ」

「分かった!」

((おおかみ)の方が大きいケド、(きつね)の方が速くて危ないカラ、そっちを先に倒すヨ)


 ウーは再び両方の(つの)に魔力を溜め、正確に(きつね)の頭を撃ち抜いていく。

 トモカもネズミ狩りで学んだやり方で光の(たま)を飛ばす。

 3頭、4頭と倒していくが、(きつね)たちの足は速くあっという間に近くに来た。

 大きな(おおかみ)はその後ろから少し遅れて走ってきている。


 トモカたちのやり方を見極めたのか、(きつね)は非常にすばしっこく、光の(たま)を撃っても上手く避けられはじめるようになった。

 (ごう)を煮やしたウーがマシンガンのように高速で光の(たま)を連射した。1頭に当たり、倒れる。

 (きつね)は残り2頭。

 トモカも指から光の(たま)を撃ち込むが、届く直前で(かわ)され、外れる。

 すかさず襲いかかってくる(きつね)をウーが撃ち落とした。

 トモカの魔法のスピードではなかなかついていけない。


 その時、反対側から若い男の声がした。

「おい、オレも手伝う!」

 トモカは思わずそちらを振りかえる。

 顔はよく見えないが、燃える剣を持ちマントを羽織った背の高い男がトモカの横に飛び込んできた。

 手伝うと言われた。敵ではなさそうだ。人手が増えるのはありがたい。


 しかしそっちに気を取られている隙に、トモカの横から残っていた(きつね)跳躍(ちょうやく)して高く舞い、頭上からトモカの首筋を狙って飛びかかる。

 鋭い毒爪が刺さってしまう!と恐怖に身を硬くした瞬間、隣の男が炎の剣で(きつね)()ぎ払った。


「きゃあぁぁっ!」

「大丈夫か!?」


 斬られた(きつね)は一瞬で燃え上がり、トモカの足元に力なく落ちた。

 間一髪、助かったようだ。

 毒針を持つ(きつね)は全て倒された。


「ありがとうございます!」

「まだあと2頭いるぞ!気をつけろ!」


 男は更に剣を身構える。


(そうだ、まだ(おおかみ)が)


「はい!」


 トモカも指先に魔力を溜めて身構えたが、ウーがトモカへ近寄ろうとする(おおかみ)に素早く雷撃を撃ち込んだ。(おおかみ)は倒れる。

 そしてもう一頭は、と見ると、既に地面に首から血を流して倒れていた。

 そのすぐ横に、いつの間にか現れた巨大な黒っぽい(ひょう)が立っている。


(強そうな別の(けもの)が!)


 トモカは焦った。

 今戦っていた(けもの)たちよりずっと強そうだ。逃げた方が良いだろうか。

 するとトモカの横に立っていた男が、静かに剣を納め、(ひょう)に向かって呆れたような声をかけた。


「……おい、一番美味しいところ持っていきやがったな」

 (ひょう)も甘えたようにグルルルと低く唸る。


(……あれ?この人の知り合い?)


 隣に立つ若い男が、(ねぎら)うように(ひょう)の頭を撫でている。

 どうやら通りすがりの(ひょう)使いの人に助けてもらったようだ。


(こんな夜中に通りすがり?)

 と疑問も()ぎったが、助かったのは確かなのでトモカは男と(ひょう)に向かって勢いよく頭を下げ礼を言う。


「あの、ありがとうございました、助かりました!」

「いや……こっちもその魔獣(モンスター)を退治するのに追いかけて来てたんだよ。助かったのはお互い様だ」


 そう言いながら男は倒れた(けもの)を集め、死んでいることを確認し、数を数えた。

 最初に扉の所でウーの雷撃を受けて吹っ飛んだ(おおかみ)の死体もある。


「ストームウルフが3頭、サソリギツネが7頭か……やっぱ見落としがあったな」


 男はブツブツと呟いている。


「ジーニー、コイツら埋めてくれ」


 男が(ひょう)に声をかけると、(ひょう)の目の前の地面にアーモンドのような形をした大きな裂け目が音もなくぱっくりと開いた。

 ジーニーと呼ばれた(ひょう)がグルルルと鳴き、その裂け目に全ての死体を蹴り落とすと、裂け目は再び音もなく閉じた。


(何、今の)


 トモカが呆気に取られていると、薄暗い闇の中、男と目が合った。


「で?キミはいつからここにいるの?」

「えっ、"いつから"?」


 トモカは予想外の質問に混乱した。

 てっきり名前や素性などを聞かれるものだと思っていたのだが。


「ここ、オレが立てた小屋なんだよ。もう5~6年くらいは放置してたけど」

「ええっ!?ここの持ち主さんですか?」


 トモカは焦る。状況は完全に不法侵入者だ。

 しかし無断で住んでいるのは事実なので、言い訳のしようがない。

 素直に事情を話して謝ろう。

 追い出されたら次の拠点を考えればいい。


「すいませんでした!住むところがなくて勝手に入らせてもらってました。それであの……部屋の中に置いてあった物も勝手に使ってしまいました。お金はないですけど、弁償できる方法があれば時間かけてでも弁償します」


 しかし、男は軽く手を振る。


「いやいや弁償とかいいって。オレもここが残ってるなんて思ってなかったし。管理してくれてこっちこそありがとうだよ。部屋の中の物も使いたきゃ自由に使ってていいよ。要らない物だし。で、いつからここにいるの?」


 勝手に使うのは構わないが、どうしてもいつから住んでるのか聞きたいらしい。トモカは疑問に思ったが、素直に答える。


「ここに住み始めたのは数日前からです。5日くらい?」


 男の目がキラリと光った。


「あのね、怖がらないで欲しいんだけど、オレちょっと仕事で人を捜してるのね?その関連で詳しくキミの事情も聞きたいんだけど、いいかな?」

「は、はい」


 男は危ない所を助けてくれた恩人であり、本当かどうかは分からないがこの小屋の持ち主でもあるようだ。

 話をするくらい断る訳にもいかない。

 それに言葉は通じるようだし、この世界のことを色々と聞けるかもしれない。

 顔は見えにくいが、男は笑ったようだった。


「ありがとね。俺の名前はレオ。こっちのデカいのがジーニー。キミは?」

「ト、トモカです。あとこの子がウーさん」

「ウーサン?」

「名前はウーってつけたんだけど、色々教わってるからウーさんって呼んでます」


 ウーは自慢げにモフモフの胸を突き出し、トモカの前に座っている。

 レオと名乗った男が驚いたように聞き返した。


「名付けた?この"森の妖精"はキミの召喚獣なのか!」

「"森の妖精"?」

「コレ、デンキウサギだろ?滅多に会えないから"森の妖精"って呼ばれてるんだ」

("コレ"ってなんだヨ!失礼なヤツだナ!)


 ウーは怒っているが、どうやらレオには聞こえていないらしい。

 レオはしゃがみ込んでウーをのぞき込んだ。


「へぇ、"森の妖精"ってこんな顔してんのかぁ。初めて間近で見たわ」


 ウーはぷいっとよそを向く。どうやら"コレ"呼ばわりでご機嫌斜めになってしまったようだ。

 レオは苦笑して立ち上がる。


「あらら、オレ嫌われたかな。まあいいや、まだ夜中だけどちょっとオレとの話に付き合ってくれる?眠かったら寝ていいからさ」

「分かりました。大丈夫です。(けもの)に襲われて目が冴えました」

「ちょうど良かった、オレも途中で起こされて目が冴えちゃったクチなんだ」


 レオは柔らかく笑い、辺りに落ちている木を集めはじめた。

 どうやら焚き火をしたいらしい。

 確かに薄暗く肌寒い中で話をするのも辛い。


(持ち主さん、気さくそうな人で良かった)


 勝手に小屋を使っていた罪悪感からドキドキしていたが、どうやら怒られることはなさそうだ。

 トモカは少し安堵して、レオと共に焚き木を集めることにした。

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