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召喚獣のお医者さん  作者: 梶木 聖
⑴ 西の森
17/62

17.国境

 ────────────────────

【モーニングセット】※銅貨4枚 ※午前中のみ

 ・平衡感覚(へいこうかんかく)を整えるシセラ草と筋力を高める闘羊肉(とうようにく)腸詰(ちょうづ)めのスープ

 ・HPの自然消耗を防ぎ防御力を上げるハリウサギ肉のソテー3枚

 ・緊張をほぐし勇気を与えるホウヤン(どり)と、体温を上げて血の巡りを良くするフロユダケの入った大麦リゾット

 ・MPの自然回復力を高めるコリの実の入り塩パン

 ・状態異常予防に効果のある7種の薬草のミックスサラダ

 ・暗い場所での視力を高めるヒカリイチゴのゼリー


 スープ、リゾット、塩パンは無料でお代わり可

 ────────────────────


 半分くらい食べ終わったところで、レオは壁に貼ってあるメニュー表を見つけた。

 どれを食べてもあまりにも美味しいので、何を使ってあるのか気になったのだ。


(ほぉ、すごいなこれ)


 料理全てに森での魔獣(モンスター)との戦いに備えた薬効のある材料を使ってある。

 効能がそれぞれ細かく書いてあるということは、それがこのメニューの売りなのだろう。

 西の森と接しており、たとえただの農夫であっても昔から魔獣(モンスター)と戦うことの多いドムチャ村ならではのものばかりだ。


 なるほど、これは冒険者から人気があるのも分かる。

 朝食としては値段はやや高めだが、美味しくて、ボリュームがあり、お代わりもできて、なおかつこれから森に入ろうという時の身体能力まで高めてくれるなら、(ばい)払っても良いくらいだ。


 王都ローレリアでは薬草はあくまで薬草として、薬を精製するのに使うことがほとんどだが、ここではそのままを食材として用い、より自然な形で身体に取り入れているようだ。


(こういうやり方もあるんだな。野営の時の食事に取り入れてみようか)


 レオのような冒険者にとっては、薬草は依頼されて採取しに行くものであり、薬師(くすし)がそれを使って薬を作るものである。

 薬草採取の依頼は案外多いので、レオもひと通りの薬草の鑑定はできる。

 食材と考えたことはなかったが、薬ほど高い効果は期待できずとも、薬が手元にない時に補助的なものとして使うことはできるだろう。


 レオは残りの料理も平らげ、スープと塩パンを1回ずつお代わりをし、最後にヒカリイチゴのゼリーを味わった。

 どれも文句なく美味しく、朝から豪華な食事だった。大満足だ。


 ドムチャ村は初めてではないが、いつも朝は持ってきた保存食を食べていたため、こんな店があったとは知らなかった。

 そういえば食堂は最近始めたと言ってたな。

 やはり困った時は地元の人に聞いてみるものである。


(ドムチャ村は年に何度か来ることがあるから、お気に入りの店として覚えておこう)


 レオは最後に水を飲んで立ち上がり、マントと帽子を着け、(かばん)の中から手袋と篭手(こて)を取り出して装着する。食べ終わったトレーを持って、カウンターに持っていった。


「朝メシありがとう、すごく良かったよ!」


 トレーをトン、とカウンターに置き、少し大きめの声をかけると、店主の男が貯蔵室から出てきた。


「お、なんだ、トレー持ってきてくれたのか。すまんね。うちのメシは(うま)かったろう」

「うん、見た目から美味(おい)しそうだとは思ったけど、期待してた以上の味でびっくりしたよ。王都でもここまでの料理にはなかなか出会えない。しかもいろんな効能があるみたいだな」

「おうよ。薬みたいな速効性はないけどな、その分身体の根っこに染み込むんだ。しばらくしたらジワジワ効いてくるぜ。このメニュー食ったら1日森の中にいても、そう簡単には疲れないだろうさ」


 熊型の獣人の店主は腕を組んでふんぞり返っている。余程(よほど)自慢のメニューだったようだ。


「いや本当に良いものを食わせてもらったよ、ありがとう。ところで、ここってメインは肉屋だろ?干し肉もある?」

「肉屋が肉売らなくてどうするよ。生肉(なまにく)、干し肉、腸詰(ちょうづ)め、塩漬け肉、燻製肉(くんせいにく)。うちの村とこの周りで捕れる種類の肉なら何でもあるぜ。何がいい?」

「さっき食べたソテーの肉の干し肉はあるかい?」

「ハリウサギの肉だな。干し肉はひと包みに厚めのスライスが6枚入ってる」

「じゃあそれをひと包みくれ。それと、この水筒に水を(もら)えないかな?」


 レオは鞄の中から金属の水筒を出す。

 店主はそれを受け取るとニヤリと笑った。


「そのくらいお安い御用だ」

「全部でいくら?」

「朝食と干し肉で合わせて銅貨7枚だな」

「水は?」

「サービスに決まってんだろ!また村に来るなら、次もうちを使ってくれたらいい」

「分かった、助かる。じゃあこれ」


 年季(ねんき)の入った巾着袋(きんちゃくぶくろ)から銅貨7枚を取り出して渡す。


「確かに。水を()んで来るからちょっと待ってな」


 店主は銅貨をカウンターの下にしまうと、貯蔵室とは別の扉から水筒を持って出ていった。どうやらそっちに厨房(ちゅうぼう)があるらしい。

 すぐに水筒を持って出てくると、レオに手渡す。


「ほらよ、満たんに入ってる。今から森に行くんだろ?頑張って行ってこいよ!」

「ありがとう、また来るよ!」


 レオは水筒を受け取って(かばん)にしまい、店主に軽く手を上げて店を出る。

 店に入る前はまだ薄暗かったが、どうやらもう完全に日が昇ったようで、空はだいぶ明るくなっている。


(じゃあ森に入りますかね)


 村に入ってきた時とは反対の出入口に向かって歩く。


 そんなに遠くはないので、すぐに着いた。

 出入口横の両側には、それぞれ木造の建物が建っており、窓から若い警備兵が通行人の身分証を確認している。その背後にはベテランの兵士が1人立って、通行人の挙動(きょどう)をじっと(にら)んでいた。

 この出入口がクレムポルテ王国の国境となっているため、不審な人物が王国に入り込まないよう、あるいは犯罪者等が国外に逃亡しないよう確認しているのだ。


 向かって右側が出国者の列だ。

 まだ朝早いため、並んでいる人数はそう多くはない。

 下級冒険者風の比較的新しい軽装備で身を固めた、若い男女2人ずつの4人パーティが1組。

 大きな背負い(かご)に荷物を詰めた商人風の男と、その護衛と思われる武人(ぶじん)が2人の3人組が1組。

 熟練冒険者と思われる、使い込んだ装備の壮年(そうねん)の男性が1人。

 向かって左側の入国者の窓口の方にはまだ誰も並んでいなかった。


 レオは右側の窓口の行列の最後尾に並んだ。


 先頭の4人組はどうやら西の森へ向かうのは初めてらしく、出入口の大きな門や左右の建物をキョロキョロ見回している。

 身分証代わりの冒険者タグを出すだけでモタモタしている。

 窓口からは少し距離を置いて並ばされているため、何を話してるのかは聞こえないが、警備兵の背後に立つベテラン兵士が時々口を出しているようだ。おそらく彼らが森へ入るのが心配なのだろう。レオも心配になっている。

 少々時間はかかったが、しばらくすると彼らは通過し、門をくぐって先の道へ消えていった。


 次は商人達のグループ。

 こちらは慣れた様子で3人が身分証を出している。

 背負い(かご)の中身を軽く検められ、いくつか質問を受けていたようだが、すぐに通過を許される。


 次にレオの前に立つ壮年(そうねん)の冒険者が窓口に向かった。

 冒険者は奥に立つベテラン兵士に一礼して、手前の若い警備兵に冒険者タグを提出する。

 警備兵はタグを確認し、すぐに返し、門を指さした。

 終わりらしい。


 壮年(そうねん)の冒険者が門から出ていくと、次はレオの番だ。

 レオが窓口の前に近づくと、奥に立っていたベテラン兵士が「あっ」と声を上げる。


「お前さん、昨日の!」


 レオは何か昨日やってしまったかと身構える。

 兵士の顔には見覚えがない。……いや、どこかで見たような気も……。

 レオが首を(ひね)っていると、ベテラン兵士ははたと気づいて帽子を脱ぐ。

 帽子の下からは茶色いフサフサとした毛の犬耳が飛び出した。


「これで分かるか?」

「あぁ!昨日ディムの原酒を飲ませてくれた人か!」


 思い出した。村に入ってすぐに出会った男だ。

 門を守る兵士だったのか。どおりで体格が良いはずだ。


「昨日はどうもありがとう」

「いや、こちらこそ初対面なのに絡んですまんかったな。今までは詰め所で給料計算なんかの仕事をしてたんだが、先月からこの仕事に回されてね。もう朝から晩まで忙しいのなんの。で、昨日は久しぶりの非番だったから、つい羽目を外してしまって飲みすぎたんだ」


 照れくさそうに頭をかいている。昨日はもっと豪快な人だと思ったが、素面(しらふ)だともう少し控えめな人物らしい。


「で、お前さんは依頼で森へ行くのか?」

「そうだね。えーと、身分証はこれでいいかな」


 冒険者タグを首から外し、若い兵士に差し出した。


 冒険者タグは魔石を混ぜ込んだ金属の板でできており、やや太めの長い(チェーン)のついたペンダントになっていて、そこには名前、生年月日、種族、冒険者ランクが刻印してある。

 冒険者が身につける唯一の身分証だ。


 持ち主の魔力に反応し、生きている間は銀色だが、持ち主が死ぬとすぐに黒く変色する。そのため、他の冒険者を殺しタグを奪って成りすます、というようなことはできない。

 万が一、外で別の冒険者の死体を発見してしまった場合は、それを見つけた者がその黒いタグを冒険者ギルドに届けるのが義務となっている。


 冒険者は冒険者ギルドに登録すると、最初に試験が課せられ、それにより最初のランクが決定する。登録時は最高でDランクだ。それをこのタグに刻印し、本人の魔力をタグに注ぐと完成する。

 年に数回昇格試験が行われ、再度試験を受ける。それまでの実績と再試験の結果を合わせて、一定の水準をクリアしていればランクが上がる仕組みだ。ランクが上がる度に古いタグは回収され、新しいタグが発行される。

 昇格試験は受けても受けなくてもいいが、受けなければランクはずっとそのままになってしまう。そのため、ある程度実績が貯まったら昇格試験を受けるのが普通だ。


 冒険者は誰もが"自由区(フリー)"に許可なしで出入りできるが、Aランク以上に上がると"自由区(フリー)"だけでなく他国に入ることも許される。しかし、その基準は厳しく、ずば抜けた能力と実績に加えて、貴族以上の推薦が必要となる。

 他国に無条件で出入りできる権利が与えられるため、スパイの可能性などを排除するため、当然ながら身元が確かでないとならないからだ。


 今回の聖女探しの依頼がAランク以上とされていたのは、どこの馬の骨とも分からない奴に知られては困ることだからだろう。


 差し出されたタグを見た若い兵士は、青い顔をしていた。


「エ、Sランク!お名前から察するに、も、もしや、かの有名な"疾風(しっぷう)大牙(たいが)"様ですか!」

「あー……うん。そう呼ばれてるのは確かだけど、やってる事は普通の冒険者と同じだよ」

「そ、いや、さ、左様(さよう)でゴザイマすか。あの、身分証、おおお返しいたします」


 レオは返された冒険者タグを再び首に通し、タグ部分を服の内側に入れた。

 通行人であるレオよりも、それを確認する兵士の方が明らかに挙動不審だ。

 何故だろう、さっきまで青かった兵士の顔が今は赤い。

 後ろのベテラン兵士も目を丸くしている。


「そうだったのか!お前さん、実はすごい奴だったんだな!」

「勝手に名前ばっか広まっちゃっただけさ。で、通って大丈夫かい?」

「もちろんです!お、お仕事頑張ってください!……あっ、あの、行かれる前に、よろしかったらその、あ、ああ、握手してもらってもいいですか」


 若い兵士は右手を軍服でゴシゴシと()いて、窓越しに差し出してきた。

 レオはしばし考え、右の篭手(こて)と革手袋を外して軽く手をマントで(ぬぐ)い、握手に応じた。

「ゴメンね、手袋してたから汗臭いかもしんないけど」

「とっとんでもございません!それすらもご褒美……い、いや、ええと、一生の思い出になります!実は小生(しょうせい)お噂はかねがねお聞きしておりまして、ずっと憧れておりました!」


 どうやら彼は"疾風(しっぷう)大牙(たいが)"のファンだったらしい。

 世間で認識されている"疾風(しっぷう)大牙(たいが)"とレオではかなり人物像が違いそうだが。何しろ"疾風(しっぷう)大牙(たいが)"は3メートル(ごえ)筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)大男(おおおとこ)らしいとレオは(・・・)聞いた。

 実際は180センチそこそこで筋肉も目立たないナンパな優男(やさおとこ)である。


(これが美少女だったらもっと嬉しかったんだけどな)


 しかし、まぁ野郎相手とはいえ慕われて悪い気はしない。


「そっかぁ。せっかくのイメージ崩しちゃってゴメンな。じゃあ行くわ。そっちの人もありがとう」


 後ろのベテラン兵士にも手を挙げて声をかけ、手袋と篭手(こて)を嵌め直して窓口を後にし、境界線の向こうを意識しながら門をくぐる。

 国外に出る時は身分証が必須だし、割とあるやり取りなので、いちいち気にはしない。

 どうやらレオの後に並んだものはいないようで、今のところ後ろからは誰も来ない。


 さて、いよいよ森だ。

 門からしばらくは平坦な草むらを横切る土の道だが、すぐに巨大な森の目の前に着く。

 ここから先は、商人なども通るため一応道っぽいものもあるが、レオは通過したい訳ではない。目的はここで人探しをすることなので、道にこだわらずあちこちを探すことになるだろう。

 魔獣(モンスター)との戦闘も覚悟しておかねば。


 レオはマントの紐を結び直し、暗い森に足を踏み入れた。

連載開始からずっと20:00に投稿していたのですが、今度から0:00あたりを更新時間にします。

また支障があれば変更するかもしれません。

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