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流星の奇跡

作者: 樹瀬 柊

息を吐けば白くなる寒空の下、とある紳士然とした男は空を見上げた。

夜空には流星が流れていた。今は流星群が通過する時期だと今朝のニュースで言っていたのを思い出した。少しの間眺めた後、男は帰路についた。男は街の外れにある古い家に住んでいる。男は農家を営んでいたが、最愛の妻を数年前に亡くしてからというもの仕事が全く手につかなくなり、現在は貯金で生活している。

しばらく歩いていると、閑散とした風景になった。雪が強くなってきたので帰路を急ぐと、異様な光景を目の当たりにした。

真冬の恰好とはとても思えないような薄着をした少女が道の外れに倒れていた。

急いで少女の下に駆け寄り、「もしもし、大丈夫ですか!!」と大声で呼びかけるも全く反応がなく、呼吸もとても弱弱しくなっていた。

男は少女を抱え、急いで家に戻った。

家に戻り少女をソファーに寝かせると、急いで暖房を入れた。

男はしばらく付きっ切りで看病した。そのおかげか先ほどまで弱弱しい呼吸だった少女は、今は安心したかのように優しい呼吸になっている。よかったと安堵した男は疲れからかそのまま寝落ちしてしまった。目が覚めると雪は止んでおり、あたたかなおひさまが高々と出ていた。

「もう朝か。」そう呟くと少女のことを思い出し、ソファーのほうを見ると少女はきょとんとした表情で男のほうを見ていた。

「おぉ目が覚めたか。」男がそう話しかけると「ここは…」少女は小さな声で呟いた。

「ここは私の家だよ。昨日、大雪の中道端に君が倒れているのを見つけて、命の危険があったから急いで連れて来たんだよ。」そう説明するも少女は昨日のことを覚えていないのかきょとんとしていた。数秒間の間の後、「昨日のことは…あまり覚えていないのですが、命の危ないところを助けてもらったみたいでありがとうございます」ぺこりと頭を下げた。

男は大したことをしていないと手を横に振ると、「君はここら辺に死んでいるの?名前は?」

そう聞かれ、少女はしばらく考えるようなポーズを取り、「すみません、自分がどこに住んでいるのかもどこから来たのかもわからないです…。名前は…サナと言います。」

悲しそうな困り顔をしながらそう答える。

「記憶喪失なのかい?」

「たぶん..そうだと思います。名前以外何も思い出せないです。」

悲しそうな表情をしながらそう答えた。

男は少し考えた。考えていると、唐突に大きな音が鳴った。サナという少女のお腹が鳴った音だ。

そういえば朝ごはんもまだだったなと思いながら「まずは朝ごはんにしようか」と顔を赤らめてる少女に言い、キッチンに向かった。

1時間後朝ごはんを食べ終え、薄着で大雪のなか倒れていたことや記憶喪失のこともあり病院に行くことにした。しかし、薄着のまま連れて行くのも問題があったので服を貸し与えることにした。「ちょっと大きいけどこれしかなくてね。ごめんね。」「いえ、ありがたいです。」

少女はかなり小柄なため、家にある服では一番小さいサイズでもぶかぶかだった。

服を着た後、病院に向かった。真冬ということもあり、病気の人が多いのか病院はとても混んでいた。受付から2時間後、ようやく診察の順番が回ってきた。「検査した結果、凍傷などは見られませんでした。記憶喪失のほうはもう少し詳しく検査してみないとわからないですね。もしかすると数日で記憶が戻る場合もあれば、記憶が戻るのに数年を要してしまう場合もあります。」「そうですか.」「もう少し様子見をしてみましょう。」「わかりました。」

診断も終わり男と少女は岐路についた。少女は検査時の簡単な質問以外ずっと無言だった。

「そろそろお昼の時間だね」男がそう言うと、思い出したように少女の腹が盛大になった。

「ははは、家に戻って昼食にしようか。」少女は顔を赤らめうつむきながら小さくうなずいた。

家に戻り、手早く昼食の準備をして昼食となった。

「ここら辺に住んでいるなら街の掲示板とかに創作願いが貼られていると思ったんだけど、」「すみません、なにも思い出せなくて、自分がどこにいたのかもわかりません」パンを加えながら落ち込む。「いやっ別に攻めているわけじゃないよ。」慌ててとりつくろった。

昼食を終えてサナは疲れていたのかうとうとし始めたので、空いてる部屋のベッドに寝かせた。それから男は自室に戻り、このままサナを置いといていいのか考え込んだ。

しばらく考えていてもいい考えが思いつかなかったので男は考えるのをやめた。

日も沈むかという頃サナは目を覚まし、腹の虫を盛大に鳴かせながら起きてきた。男とサナは夕食にすることにした。夕食も食べ終わるころに男は「記憶が戻るまでしばらく家にいないか」そう提案すると「いえ、とんでもありません。これ以上迷惑をかけるわけには..」「行く当てはあるのかい?」「…」サナは考える仕草をするがすぐに行く当てがないことにたどり着いた。「私は別に迷惑じゃないから、記憶が戻るまでは部屋を好きにつかっていいよ」数秒間の沈黙の後「すみませんが、よろしくお願いします」ペコリと頭を下げていった。「そんなにかしこまらなくてもいいよ」と男が笑いながら言った。

サナが居候し始めて数日後。居候するだけでは申し訳ないということで家事を手伝ってくれることになった。最初は男は気にしなくていいよと断っていたが、サナの猛プッシュに押し負けてしまい、家事を任せることにした。しかし、不器用なのか、料理を負けせると黒焦げのダークマターが出てきたり、掃除を任せれば逆に家がめちゃくちゃになったりと失敗を重ねた。サナは落ち込んだ。それからは付きっ切りで家事を教えていった。

不器用だが飲み込みは早いようで家事を始めてから一か月ほどで、だいたいのことをこなせるようになった。


とある日、サナは家の敷地内に畑を見つけ男に訪ねた。「ああ、あれは昔使っていた畑だよ。」「ということは農家だったんですね。」「そうなるね。妻が亡くなってからは、まったく仕事が身に入らなくなってしまってやめてしまったんだよ」「そうなんですね」藪をつついてしまったと思ったのかサナはそれ以上なにも言わなかった。「気にしなくていいよ。もう昔の話だから」男はそう言うと、サナはしばらく考え込み「あの畑、使わせていただくことはできますか?」唐突な提案に男は戸惑いながらも「何年も手入れしてないから、また使うとなると大変だよ?」「大丈夫です。」「なら好きに使っていいよ」またもや押し負ける形でサナの提案を承諾した。

それから拙いながらも畑を耕しはじめたサナの目はやる気に満ち溢れていた。

しかし、記憶がないからなのか経験がないからなのかはわからないがものすごく手間取っているようだった。それを見かねて男も手伝うことにした。

畑を手入れして物を植えられるようになるには数日を要した。やっと植えられる状態になったときは二人して大喜びした。

「でも、畑を耕して何を植えるんだい?」「…」「もしかして…なにも考えていなかった?」「…はい、何かの形で恩返しができればとだけ考えていました。」「とりあえず、苗屋さんに行ってから考えようか」男がそういうとサナの表情が少しだけ明るくなり「はい」と答え、苗屋さんに苗を買いに行った。

苗を買い、家に帰るころにはすっかり空も暗くなりはじめており、苗を植えるのは翌日にすることになった。

翌日苗を植えた。「出来上がるのが楽しみです。」ニコニコしながらサナはそう答えた。それからは男と一緒に畑仕事の毎日となった。ある日、男は私用ででかけた帰りだった。道の真ん中でしゃがんでる少女を見つけた。よく見ると少女は足をくじいているようだった。

応急処置だけでもと男が声をかけると、少女はびっくりして走り去ろうとした。しかし、足をくじいているため、立ち上がった瞬間バランスを崩し、頭から地面に激突した。

「だっ大丈夫かい?」男が駆け寄ると少女は今にも泣きだしそうな表情で男のほうを見た。

「いっ痛いです。」そう少女が訴えかけてきた。「それもこれもあなたが急に声をかけるからです!」八つ当たりもいいところだった。「ま、まぁそれはごめんね。でもけがをしていたみたいだからほっとけなくて。」と男は言うと、少女は少しバツが悪そうに、「ご、ごめん」と小さな声で言った。それから少女は足をくじいていて歩けそうになかったので男は少女を背負い、家に帰った。家に帰ってからはサナが少女の対応をしてくれた。

その間、男は代わりに晩御飯を作ることにした。

「くじいたところは冷やしてれば治るけど..おでこの擦り傷は時間かかるかもしれません」「ちょっと染みるので我慢してください」そう言いながらおでこの傷口に消毒液をつけたガーゼを当てると「んっ!」痛みに少女は叫びそうになるが、必死に我慢した。それから傷の手当てを終え、夜も遅いということで少女は一晩泊まることになった。

夕食を終え男は尋ねた。「君名前はなんていうんだい?」「名前は…わからないです」「…君も記憶喪失なのかい?」「君も?」「実は、私も記憶喪失なんです…」「なるほど、でもわからないのが名前だけで他はわかります。」「名前だけ記憶喪失…」

「だから記憶喪失じゃないです」

「そうか。」男はうなずいた。「名前だけ記憶喪失も珍しいですね。」「だから記憶喪失じゃないです!」よほど記憶喪失扱いされるのが嫌なのか少女は強く反論した。

「ま、まぁそれはさておきそしたら、どこから来たんだい?」男がそう聞くと、少女は遥か先にある町から来たと答えた。男は驚きながらも「またどうしてそんな遠いところからこんな街に何しに来たんだい?」驚きつつも聞くと少女は「それは、気づいたらこの街にいたって言っても信じませんよね」少女は少し考え込むようにそう言うと男はそれ以上聞くことをしなかった。

少女の話をまとめると気づいたらこの街にいて、ある人を探しているらしいという。ある人というのもよくわからないらしく、街のあちらこちらを探し回っていたところで足をくじいてしまい、道の真ん中でしゃがみ込んでいたんだそうだ。

宿を借りるお金も持ち合わせていなかったらしく、男はこの少女も居候させることにした。目的の人が見つかるまで居候していってもいいと提案すると少女は急に元気になり居候することになった。


やはり、少女もただで居候させてもらうのも申し訳ないと持ったのか、人探しは土日にして平日は畑仕事を手伝ってくれることになった。それからひと時が過ぎ、冬も過ぎ去りあたたかい日差しと共に春が訪れた。


野菜の収穫も終わり、次の野菜を植えるまでしばらくお休みとなった。

とある日の朝、何気なく朝のニュースを見ていた3人はあるニュースにくぎ付けになった。

それは冬に到来した流星群とはまた別の流星群が接近してきているということだった。

ちょうど畑休みということもあり、3人は小高い丘に流星群を見に行くことになった。

小高い丘まで歩く3人、「冬の流星群はあまりよくみれなかったから楽しみです。」「私も流星群は初めてだな」「君の住んで街からは流星群は見れなかったのかい?」「うん、いやあったのかもしれない」そう意味深なことをいったが深い事情そうだったので男はあまり突っ込まないことにした。

そうこうしているうちに小高い丘についた。すでに日は沈んでおり、ちらほらと流星群が見え始めていた。サナはてきぱきとシートを引くとその上に、お弁当を広げた。「流星群の下でお弁当もなかなかいいね」「そうでしょー」そんな風に会話しながら3人は夕飯を食べながら、流星群を眺めていた。

夕飯を食べ終わるころには流星群が空いっぱいを覆っており、3人はその光景を無言で見つめていた。

しばらくすると、少女は「探し人見つけたかも」と小声でつぶやいた。

「見つけた?どこだい?」と男が聞くと、「サナ。やっと見つけたよ」男の問いを無視してサナのほうを向くと少女は急に光だし、そして消えてしまった。あまりの光景に男はただただ見ているだけだった。

数分だったかもしれない、数秒間だったかもしれない、しばらくの間沈黙と流星群は流れ続けた。

するとサナは「やっと思い出した」そういった、ように聞こえる。

「やっとすべて思い出しました。」今度ははっきりと男に言った。

「どうしてあそこに倒れてたのか、自分は何者なのかも全部。」そうサナが言うが、男は驚きのあまり聞いていることしかできなかった。

しばらくすると、男のほうも落ち着いたのか、「それはよかった」いろいろ聞きたいことはあっったが、何も聞こうとはしなかった。

流星群の一件のあった翌日、サナは「今までのことはお礼してもしきれないのですが、私にはいくべきところがありまして…」「本当にすべて思い出せたんだね。お礼はしなくていいよ、サナは自分の行くべきところにいくといい」「すみません、でも本当にありがとうございました。」最初に居候するときにしたみたいに深くお辞儀をするとサナは行くべき場所に確実な足取りで歩み始めた。

そんなサナの背中を見つめながら男はつぶやいた。

「いってらっしゃい..」


喪失の町と呼ばれるこの街は何か大切なものを失ったものが迷い込む町。また一人失った物を取り戻した人が旅立った。


~完~


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