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レベル1冒険者とぐうたら

『皮の鎧』を装備し『銅の剣』を携え、冒険の準備を整える。

『アイテムバッグ』にはきのみやパン、それにねむり薬とまひ薬とどく消し草が入っている。

これらは昔冒険家だった父さんのお下がりだ。

街ギルドに行けば新しいアイテムバッグや初期装備がもらえるらしい。

周りの人は『ひのきのぼう』と『布の服』が初期装備なのだから、自分はかなり恵まれてる方だ。

街ギルドに着くまでに魔物に襲われ死んでしまった村の人も少なくない。

この装備なら街までは簡単にいけるだろう。

でも薬が腐ってるかもしれない。

それだけが心配の種だ。

やる気ならある。やってやる。絶対に。

僕が立派な冒険者となって、父さんを楽させてやるんだ。

「気をつけていけよ」

父さんが玄関前で言った。寝起きだ。ムニャムニャ言ってる。

『皮の靴』を履き終え、父さんに別れの挨拶をする。

「行ってきます、父さん!」

「うむ」

父さんはうなずく。

よし! 準備は万全だ! さあ始めよう!

僕の、ソルの初めての冒険者としての冒険を!



日が高い。

早朝に村を出発してからだいぶ歩いた。

村はすでに見えない。

道の周りは草原に囲まれている。

魔物はまだ出てきていない。

村を出てから人にも一度も会っていない。

街には一日歩けば着くと父さんが言っていた。

この調子でいけば魔物に一度も襲われることなく街にたどり着けるかもしれない。

そう思っていたが。

草原に囲まれた道をさらにだいぶ歩いた頃。

とうとう魔物に遭遇した。

スライム LV1

ソルは腰から『銅の剣』を抜いた。

ソルに気づいた緑色のスライムが飛びかかってきた。

「死ね! スライム! うおっと」

ソルが銅の剣を振るうとスライムが切られ液体が飛び散った。

ソルの顔にも液体がかかる。口にも入った。

「おえー。やっちゃった」

初めての魔物切断。魔物とはいえ、相手は生きていた。

少し心が痛い。

だがそれも最初の内だけ。

少しすると、少しずつスライムに襲われる回数が増え、それどころではなくなっていった。

ソルのレベルは早くも2に上がろうとしていた。

そんな頃だった。

「よし、13匹目! うわっと! セーフ」

スライムの液体があまり飛び散らない切り方も見つけた。

飛び散る液体もうまく躱せるようになってきた。

そんな頃。

「おや? あそこに人が倒れているぞ」

ソルは道路から外れた遠くの草原に人が倒れているのを見つけた。

しかもスライムの群れに囲まれている。

「やばい。助けなくちゃ!」

ソルは急いで駆けつけた。

「やめろスライムども! その人から離れろ!」

ソルが近づくと、近くにいた一匹のスライムが飛びかかってきた。

即座にスライムを切り伏せる。

剣の振り方も手慣れてきた。

だが。

その人の周りにはスライムが10匹以上もいる。

10匹以上がいっぺんに向かって来たら、剣の腕が少し上がったとはいえ、さすがに無事では済まないかもしれない。

「くそぅ!」

ソルは悔しがる。自分の力では、剣の腕が少し上がったとはいえ、この人を助けることはできないのか。

その人はただの服を着ている。それ以外何も持っていない。何者かに盗られたのだろうか。体に損傷は見られない。だらりとしているが、命に別状はないだろう。

今ならまだ間に合う!

ソルは魔物の群れに飛び込んでいた。

「はぁっ!」

ソルはスライムを屠る。

振り抜きざまにもう一匹!

「てぃやっ!」

横から攻撃が来る!

スライムの液体が目にかかった!

でもそんなこと気にしてる暇はない!

ソルは冷静に一匹、一匹を確実に仕留めていく。

もう少しだ! もう少しでこの人を助け出せる!

そう思った。

「僕はこんなところで負けるものかー!!!!!!!!!!!!」

一匹、一匹を確実に、着実に冷静に、落ち着いて、屠っていく。

後ろから一匹来る!

振り向きざまに一閃を浴びせた!

スライムが液体と化す。

「ラストだ! はーあぁっ!!!!!!!!!!!!」

決まった!

最後のスライムが飛び散った。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。やったぞ。僕はやってやったぞ」

なんとも言い得ない達成感が胸の内で沸き立つ。手の平には汗がじんわりとにじんでいた。皮がめくれている。痛みはあるが、このくらいへっちゃらだ。

気づけば、ソルのレベルは早くも2になっていた。

ソルはすぐさま倒れている人の元へ駆け寄った。

「大丈夫ですか! お怪我はありませんか!」

ソルはその人の体に触れようとして、やめる。けが人なら安易に動かしてはいけない。

「ん?」

俺は目を覚ます。どうやらぐうたらしすぎて寝てたみたいだ。

「よかったー」

ソルが安堵の表情を浮かべる。

「どうした?」

俺は見ず知らずの少年に聞く。

「危ないところでした! 貴方、スライムに囲まれてたんですよ! しかも10匹以上!」

ソルは興奮した様子で話す。

「ああ、そういうことか」

俺は言う。

あのスライム達は俺と一緒にぐうたらしていただけだ。この少年が倒してしまったらしい。

「そういうことかって・・・あ、そうだ! お腹空いてませんか? 僕がパンを分けてあげますよ!」

ソルはいそいそとアイテムバッグから包みにくるまれたパンを取り出し、俺に分け与えた。

「おう、サンキュー」

俺は言う。お腹が減り始めてたところだ。感覚的には、腹7分目。スキルで取り出せるアイテムボックスの中には食料がたんまり入っているが、ここはもらっておこう。

「ところで、どうしてこんな所で倒れていたのですか? 見たところ、持ち物もなくその服も防御力1未満のようですが・・・。この辺りには盗賊でもいるんでしょうか?」

ソルは聞く。

「まあ、そりゃあいるだろうな」

俺は言う。

「それは大変だ! じゃあきっと、貴方の持ち物もそいつらに・・・。こうしちゃいられない! 今すぐ取り返しに行きましょう! その持ち物!」

ソルが燃える。

「まじか」

「まじです」

「でも、お前レベル2だし」

「そうなんですよねー・・・」

ソルは落ち込む。

「そうだ! なら、僕と組みませんか? 街ギルドに行けば、パーティというものが組めるそうです。今からでも2人で剣の腕を上げて、出来ればもっと強い仲間も勧誘出来れば、きっと勝てます!」

「確かに」

だが俺はここでもう少しぐうたらしていたい。

だから俺は言う。

「でも俺はここから動けない。すまないが、他を当たってくれないか」

俺が断ると、ソルはすっとんきょうな声を上げる。

「いやいやいやいや。待ってください? 待ってください。僕は貴方の持ち物を取り返すためにこの提案をしてるんです。第一に僕ひとりで取り返す自信はないですし、貴方に断られると僕が命を賭けて盗賊と戦う意味が薄れてしまうんですが・・・」

「でも俺はここから動けない。いや、動きたくないんだ」

「じゃあどうしろと・・・」

ソルが困る。

「ソル、お前が1人で盗賊と戦うか。もしくは他の仲間を集めて盗賊と戦うか、だ。だが、どうしてもお前が俺とじゃないと嫌だというなら・・・」

「言うなら?」

ソルがつばを飲み込む。

「というか、どうして僕の名前を!?」

ソルが気づく。

「ソル」

俺はそれには応えず、一呼吸置いて言う。

「お前が俺を、乗せて引いていくしかないな」

乗り気はしないが。

俺は指をぱちんと鳴らして指す。その方向をソルが見やると。

そこには先ほどまでなかったものが。人1人が寝そべれるそりが。布団が。毛布が。

そこにはあった。

「え、あ、お。ええーーーーーーっ!? うそーーーーーん!?」







1話完結の予定でしたが、話が長くなってしまいました。

あと1、2話続くかもしれません。

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