可愛そうな子とぐうたら
可愛そうな子が可愛そうなのでもう1話書きました。
華やかな街。活気ある市場。
その喧噪から外れた、木々に囲まれた川と土手。
どう見ても森とは言えないその場所に、俺はいた。
そう。
俺が。
ぐうたらしていた。
土手でね。
市場で買った魔物焼きの袋を脇に置き、魔物焼き(日本でいうタイ焼き)をぐうたら味わっていた。
空は晴れている。風は温かく穏やかだ。
春心地だった。
ひと気は少ない。
だが俺の近くには1人の少女がいた。
土手の上から俺を見下ろしている。
物欲しげに、愛おしそうに、無欲に、見つめるだけだ。
盗み取る仕草は感じない。
だから俺は言う。
「欲しいのか? 欲しけりゃこいよ。一緒にぐうたらしようぜ」
少女が立ち尽くしている。
「え・・・」
思考が止まっている。
気づかれていたことにも気づいていなかったようだ。虚を突かれた顔をする。
「いいの・・・」
少女は言う。
「いいとも」
俺は言う。
思いとは裏腹に、一歩後ずさる。
ぼろ布を着た、ボロボロの少女。片目は前髪で隠れ、肩まで伸びた薄い金髪はぼさぼさ、おまけにハエがたかっている。そんなヤツにえさをあげるな、と近くの人が言う。
「いいから来いよ。ぐうたらしようぜ」
俺は言う。
「・・・」
こくり。
うなずいた。
少女がね。
俺の近くで立ち止まる。
食いかけの魔物焼きを口にくわえ、袋から出した魔物焼きを少女に渡した。
受け取る。
「ありがとう」
「ん」
俺は指を指す。右隣を。ここに座れと。
「いいの・・・」
無表情の顔が、申し訳なさそうに沈む。
「だいかんげい」
手をのばせば届く距離。立ち尽くす少女の手を俺は掴み、無遠慮に引き寄せた。
右隣で正座をした少女は(土手でね)、魔物焼きをほおばる。
ぺろる。
渡す。ぺろる。
渡す。平らげる。
渡す。むしゃぶる。
渡す。
俺は餌付けする。
「おいしい」
少女は言った。
「それはなにより」
俺は言う。渡す。
袋にはまだ30個入っている。小さい紙袋なのにね。
「そんなに入ってるの」
少女は言う。
「すごいだろ」
「うん」
少女には親がいない。片目もない。ゴミを漁って生きている。可愛そうな子だ。
俺は異世界最強のスキル∞男。生い立ち、心理、全部お見通し。
本当なら言葉すら交わすことなく心を開かせることだって可能だ。
だがぐうたらをやめられない。
それだけのために。
俺は会話をしている。
「ぐうたらするのは楽しいよな?」
「うん・・・ぐうたら、するの、たのしい」
少女はねそべっている。
俺はぐうたらしている。
ぐうたら好きに悪いやつはいない。俺はぐうたら好きのために重すぎる腰を上げる。
重すぎて死にそうだけど。
上げるのだ。
腰を。
そして、放つ。
軽くて、重い、そんな言葉を。
「俺が少しの間だけ父親になってやる。嫌とは言わせない。うれしいか? うれしいよな。そりゃうれしいだろう。うれしいはずだ。いや、きっとうれしい。うれしそうだ。うれしいかもしれない」
うれしかったかもしれないかもしれなかkkakaakakakakkakkak。
少女が目を見開いて俺を見つめる。
「いいの・・・」
少女が潤いと戸惑いと驚天動地が混ざったような目で見つめる。
そこに期待が混ざり始める。
俺は少女のぼさぼさの頭をつかみ、ぐしゃぐしゃになで回す。
その日、父親となった俺は銭湯に行き女湯に入り少女の髪と体をすみというすみのすみのずみまで洗い、服を与え、ファッションセンス◎を与え、かわのいい眼帯シリーズをそろえ、女性らしさを与え、子供らしさを与え、ささいな幸せを与え、夢と希望を与え、世界に色を与え、ときには愛と勇気を与え。
何のために生まれ何のために生きるのかを説き、忘れ形見を与え、熱い思いを与え、最後に100億万円を与えた。これほんと。
「お父さん!」
少女は起きる。笑っている。寝ぼけている。
外は晴れている。
温かい空だ。
窓から差し込む日の光がまぶしい。
毛布が暖かい。布団も。着ているパジャマも。
薄い金髪はぼさぼさだ。前髪もまばら。眼帯は今日もかわいい。
お父さんは今日もいない。
少しの間って言ってたから、もういなくなってしまったのかもしれない。
寂しい。
目が潤む。
寂しい。
「寂しいよ」
胸が痛む。
「いたっ・・」
片目に痛みが走る。
留め具が外れる。
眼帯がめくれる。
「え・・・」
少女は息を飲んだ。
なんで。
どうして。
どうして。
どうして。
少女の両目から涙がこぼれた。