友達いらない子と恋愛
私は泣いている。
ミレイ・センヴェントは泣いている。
自室のベッドにすがって、泣いている。
幼い頃の記憶。
泣きはらした顔を隠して、泣いている。
今日は誕生日。
私は友達をたくさん呼んで誕生日パーティーをした。
楽しかった。
最初は。
みんなが祝ってくれた。みんなが私を一番に見てくれた。
プレゼントは手作りばかりだったけど、十分だった。
嬉しかった。
私の隣には幼なじみのノリス・イールがいる。
ノリス・イールも嬉しそうに祝ってくれた。
なのに。
なのに。
「死ね! みんなみんな、死んじまえ!!」
私は悪夢から目覚める。
ミレイ・センヴェントは目からこぼれる涙を拭き、身体を起こした。
あいつは今日も来ているだろうか。
学校に。
あの人は今日、来てくれるだろうか。
あの場所に。
約束した場所に。
昨日と同じ、あの空き地に。
私は学校へ行く準備を整え、家族と朝食を食べる。
「ミレイ。学校の方はどうだ」
お父様が聞く。
「別に」
私は言う。
ぶっきらぼうに。
「そうか」
お父様は気付いていない。
私が学校に行っていないことに。
私はスクールバッグを持って、学校に向かわない。
学校に向かわず、昨日と同じ空き地に行く。
空き地には、その人はいない。
朝のすがすがしい空気が、朝の空間を満たす。
清涼とした空気が、呼吸と共に入り込む。
まだみんな寝ているか、起き始めた頃だ。
無理もない。
あの人もどうせ、昨日みたいにぐうたら眠っているのだろう。
私は今日もこの空き地で過ごす。
だれもいない、誰も通らない、この空き地で。
私はすみに行く。
空き地の隅に、壁の陰に腰を下ろす。
放ったバッグの上にどかっと座って、本を読み始める。
少し寒い。
でも、いい。
真ん中のあの場所は、あの人の場所だ。
あの人が来るまで取っておこう。
そしてあの人が来たら。
思い切り嫌みを言ってやろう。
怒ってやろう。
私をいつまで待たせるんだ。
こんな隅っこで、いつまで待たせるんだ。
寒くて死にそうだ。
そう怒って、抱きついてやろう。
私を暖めろって言ってやろう。
友達はいらないが、彼氏は別だ。
彼氏は私だけのもの。私だけの味方。
裏切るはずがない。
私は笑わないまま、本に目を落とす。
本の世界に入っているが、頭の中ではあの人のことを考えている。
変な感覚。
変な自分。
これが、恋ってやつなのか。
私にはわからない。
したことがないから。
恋愛ってやつを、したことがないから。
私は本を読む。
あの人を待ちながら。
私は本を読み続ける。
ずっと、ずっと。
本を読み続けた。
日が暮れ始める。
あの人はこない。
まだ来ない。
ずっと来ない。
何をしてるんだ、あの馬鹿は。
いつまで寝てるんだ、あのぐうたら人間は。
私は辺りを見回す。
何もない空き地を。
あの人の影を。
私は探す。
でも。
いない。
私は1人。
苦笑い。
馬鹿だ、私は。
何を1人で浮かれていたのだろう。
わかっていただろう、私は。
あの人が来ないことくらい。本当はわかっていたんだろう。
泣きそうになる。
私は立ち上がる。
本をしまい、バッグを持って立ち上がる。
あんなの、自分勝手だ。
私のわがままだ。
勝手に彼氏にして、勝手に約束を取り付けて、勝手に待ってる。
私は帰る。
空き地から出て、家に帰る。
うつむきながら。
苦笑いしながら。
今日も帰る。
次の日も、私は空き地にいる。
空き地で本を読んでいる。
空き地の真ん中に座り、読書にふけっている。
日が登り、日が暮れるまで本を読み続ける。
夕日が沈み始めた頃。
私が帰ろうとしていた頃。
だれも通らない、空き地の道路に人が現れる。
こっちを向いて、立っている。
本を読んでいた私は、その人に気付く。
その人に、期待を抱く。
でもそれは、ノリス・イール。
私の幼なじみだった。
私は本をしまい、空き地から出る。
「ミレイちゃん!」
私を呼ぶ。
私は幼なじみに背を向けて、家に帰る。
振り返らない。振り返ったら、泣き顔が見られてしまうから。
次の日も私は空き地にいる。
ノリスにこの場所がばれてしまった。
ここでの暇つぶしも今日で終わりだ。
ここにはもういられない。
どうせばれるなら、学校もここも同じだ。
明日からまた学校に行き、読みかけだった童話の続きを読もう。
私のいない世界で。
私だけの空間で。
空想の世界で。
日が暮れる。




