友達いらない子と恋愛
今日の一句。
なぜだろう 後から見ると 誤字多い
本を読みふける。
誰もいない図書室で、誰もいないこの場所で、分厚い本に目を落とす。
光差し込む窓際で、私は童話の書かれた本に目を落とす。
誰かが入ってくる。
扉をがらがらと開けて。
私の空間は失われる。
「ノリ・・・」
幼なじみのノリス・イールが入ってくる。
私の居場所を探す、ノリス・イールが入ってくる。
「あ・・・」
ノリスが声を出す。
ミレイ・センヴェントは席を立つ。
本を手近な書棚に戻し、もう一つの扉から図書室を出る。
「待って、ミレイちゃん!」
私は反対側から学校を出る。
振り返ることなく、結んだツインテールを揺らし、幼なじみに背を向ける。
学校は嫌いだ。
親が少し偉いからって、こんな牢獄に閉じ込めるなんて、自分勝手だ。
世間体? は。ふざけんな。
誰が入りたいって言った?
自分が偉いからって、何でも思い通りになると思ったら大間違いだ。
私は学校を抜け出す。
まだ授業の残る学校を抜け出す。
どこに行くでもなく、家に帰るわけでもなく。
私は学校を抜け出して、どこかに向かう。
どこかはわからない。
でも学校にいるよりましだ。
歩いている途中、ちょうど良い空き地を見つけた。
誰もいない。
ここならゆっくりできそうだ。
私は皮のスクールバッグからまた別の本を取り出すと、バッグを雑に放り、その上に座る。
膝上のスカートを振り乱し、乱暴に座る。
私はまた、本に目を落とす。
何も考えず、本の中に入り込む。
楽しい。わくわく。そんなものはない。
ただ入り込む。その世界に。
こことは違う、別の世界に。
時間が許す限り。
私は本の中で過ごす。
太陽はまだまだ元気だ。
しばらく私は没入する。
私のいない世界に。
友達のいらない世界に。
日が暮れるまで本を読んで過ごした。
帰りがけ、またノリスに会った。
こいつは、いつも私を探してるな。
私は家に帰った。
次の日も、ノリスは私を探す。
いるはずのない学校を。
今日も探す。
私は今日もゆっくり読書するため、空き地に向かった。
だが、そこにはすでに誰かがいた。
人がいた。
私の嫌いな、人がいた。
だけど、他に行く当てはない。
ここは私の場所だ。
「おい。お前。そこは私の場所だ。どっかいけ」
私は言った。
俺に。
俺は。
言われた。
「あ? なぜだ」
寝転んでいた俺は言う。
「口答えするな。そこは私の場所だ。私が先に見つけた。だからお前は、どっかいけ」
「嫌だ」
動きたくない。
俺は言った。
「ちっ」
女は、ミレイは舌打ちする。
舌打ちして、どっか行くそぶりを見せるが。
どこにも行かず、空き地の端の、壁の陰に腰を下ろす。
ミレイは読書を始める。
本に目を落とし。
平静を装って、読書を始める。
いらだちを隠しながら。
読書を始める。
「うぜぇ」
俺の横から、声が聞こえる。
俺をうっとうしがる声がする。
勝手にしろ。
俺は。
自由だ。
ミレイは本に目を落とすが。
全く集中できない。
話に入り込めない。
この男のせいで。
人がいるせいで。
ミレイは本をたたむ。
ぶっきらぼうに、迷惑そうに、たたむ。
「ねえ」
ミレイが声を出す。
誰かに向かって。
「ねえ」
俺じゃない誰かに向かって。
「ねえ。聞こえないの? そこの男」
俺に言う。
「なんだ」
俺は言う。
「あんた。友達いないの?」
そんなことを、聞いてくる。
俺を煽ってくる。
「うるさい」
俺は言う。
「いないんだ。へーへーへー」
俺を煽る。
「あたしもいない」
煽るのかと思いきや。
共感してくる。
「へー」
適当に相づちを打つ。
「友達なんていらないと思わない?」
ミレイが言う。
「知らん」
どうでもいい。
「友達なんて、1人が寂しい人同士が勝手に集まってればいい」
俺は何も言わない。
「私を巻き込むな。自分と一緒だと思うな」
勝手に語り始める。
「私は1人が好き。学校は嫌い。友達を作らないと惨めだから」
「ふーん」
俺は適当に相づちを打つ。
俺の相づちをどう取ったのか、ミレイは少し俺ににじり寄る。
「ねえ。あんたもそう思わない?」
「どうだろうな」
何の話してたんだっけ、こいつは。
俺はもう忘れている。
聞いていたふりをして、適当に流す。
気付けば、俺の顔近くにそいつがいる。
「ねえ」
ミレイが言う。
ミレイの顔がどんどん近付いてくる。
俺の鼻息が当たるほど、すぐ近くまで。
近付いている。
「あたしの彼氏になってよ」
「は?」
は?
意味がわからない。
「決定ね」
ミレイが頬を上気させて、俺を見つめる。
くっきりとした二重のまぶた。きりりと見つめる黒い瞳。通った鼻筋。薄い唇。肩口まで伸びるツインテール。髪の一本一本がしなやかに揺れる。
俺はいつの間にかこいつの彼氏になった。




