回顧でぐうたら
俺は1人で思いふける。
くさはらに座りながら。
思い考える。
この世界に来る前のことを。
これは運命なのかと。
選ばれた運命だったのだろうか。
この世界と前の世界。
俺はどちらが幸せだったのだろうか。幸せなのだろうか。
風が吹きすさぶ。
俺の周りを、この街を吹き抜けていく。
大空を仰ぎ見る。
迷い、泣いていた前の世界。
人間として不完全だった前の世界。
今の俺には考えられない。
今の俺は、風になることさえ。
空を飛ぶことさえ出来る。
何だって出来る。
だが、俺はそれで幸せなのだろうか。
幸せを感じているのだろうか。
今となってはもう、何もわからない。
この世界は美しい。
それはわかる。
人が人の生活をしている。
魔物だっている。
魔物だって。
魔物の生活をしている。
動物もいる。
猫も、ひよこも。
俺は近くに歩いてきた白きじぶちの野良猫をなでる。
人なつこい野良猫だった。
野良猫だって、野良猫の生活をしている。
この光景だけを切り抜けば。
前の世界と何も変わらない。
変わったのは。
俺だけ。
唯一、俺だけが変わってしまった。
この世界に来たときのわくわくも。
高揚感も。
やる気も。
今となっては。
何もなくなってしまった。
俺はそれで幸せなのだろうか。
こんな生活を続けて。
俺は幸せを感じられるのだろうか。
感じられる日が、いつか来るのだろうか。
今のところは、何もわからない。
知識ステータスが∞でも、何もわからない。
俺はなんなんだ。
何者なんだ。
なんでこんなに空っぽなんだ。
俺は眺め続ける。
空を。
しばらく眺め続けていた。
何も考えず。
何もせず。
ただぼーっと。
眺め続けた。
気がつけば、俺は気付く。
俺に向けられている視線があることに。
俺が視線をその方向に向けると。
12,3の年頃の少女が俺を見つめていた。
少女は俺に見返され、ばつが悪そうにうつむく。
おれは理解する。
少女がどうして俺を見ていたのか。
即座に理解する。
∞ステータスだろうが、関係ない。
スキルを使うまでもない。
使ったところで、意味がない。
この少女は。
「どうした」
俺は少女に聞く。
少女はうつむいたまま。
「お前も、悩みがあるんだろう」
え、と少女は顔を上げる。
この猫に。
「一緒にぐうたらしようぜ」
この猫が。
のんきに居座っている。
だから。
少女も。
「この猫と。たわむれながらさ」




