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美人騎士とぐうたら

立ち並ぶ無数の家の1つ。

ただの一軒家。小さいが庭も付いている。

しかし、彼女1人が住むには大きな家。

美人騎士で知られるリアナ・アルフォードは、そこに1人暮らししていた。

小さい頃から1人で生き抜いてきた彼女は、努力と実力で騎士の位を勝ち取り、若くして立派な庭付きの一軒家を手に入れた。

二階の丸テーブルの上に置かれている裁縫道具。

リアナの愛用品だ。

リアナは手先が器用で、裁縫も幼い頃から得意だった。

貧乏だった彼女には。

裁縫と剣しかなかったともいえる。

そんなリアナは。

二階の丸テーブルから少し離れた位置で、つるされたローブに。

うきうきで。

くまちゃんパンツを干していた。

その他に、かえるやライオンなどの種類もある。

彼女曰く、『動物シリーズ』。

それを、窓からだいぶ離れた日陰に干していた。

日陰ではなかなか乾かないだろう。だが、彼女は1ミリも知られたくなかった。

みっともないパンツを自作し、自分が履いている事実を。

こんな子供みたいなパンツを、強く気高い美人騎士と謳われる自分が作り、うきうきで履いている。

それを知られたら、自分の人生は終わりだ。

そうとまで思っていた。

それを。

それを。




「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

リアナ・アルフォードは街から帰ると、軽装を外し、ベッドに飛び込み、発狂した。

知られた。あんなわけのわからない男に。

しかも。

しかも。

毛布にくるまり、蹴飛ばし、くるまり、蹴飛ばした。

終わりだ! 私の人生、もうおしまいだ!

私の今まで培ってきたことが、隠してきたことが、振る舞ってきたことが。

全部、全部、おしまいだ!

あの後、あの男は誰にも他言しないと言い、私は納得した。

しようとした。

だが、しつこく食い下がってしまった。

路地裏から出ても。

街中でさえも。

私はしつこくつきまとった。

あの男は、さぞかし鬱陶しいと感じたことだろう。

だが、私にとって、1人にでも秘密をばれたことが途方もなく嫌だった。

その男をつきまとうことで、どうにか自分の心を保とうとした。

その男につきまとっている間は、自分の秘密がばらされる心配をしなくて済むから。

街の人々は、そんな私を、怪訝な目で見つめていた。

過去に私に対して求愛を示した人も。みんな。

怪訝に。

あの気高く近寄りがたい人が、1人の男につきまとっている。

何かを取り繕い、必死に言い訳している。

あの方は、一体、どうしてしまったのかしらと。

今思えば、むしろあっちの方が恥ずかしくて死にたい。

しかも。

しかも。

求愛した内の1人が、私に優しく声をかけてくれた。

何かあったのかと。

心配そうに。

だが私はそれを、無視してしまった。

無視して、その男に話し掛け続けた。

必死で話し掛けた。

あの男のことが頭から離れない。

今まで、そんな経験、一度もなかった。

私はどうしてしまったというのだ。

「ああっ!!!!!」

息するのを忘れていた。

あの男は、私が少し目をそらした隙に、消えてしまった。

目をそらした、隙に。

隙に。

好き!?

跳ね起きる。上体を起こす。

「何を考えている私は! そんなことあるはずがないだろう? 落ち着け、落ち着くんだリアナ・アルフォード」

私の好みはもっと男らしくて、体が大きくて、頼りがいのある男だ。

あんな、あんな。

あの男のことを考えると、胸が無性に苦しくなる。

顔が熱くなる。ほてる。真っ赤になる。

忘れろ、忘れるんだリアナ・アルフォード。

あの男は、私の秘密をばらさないと言ったんだ。

だからもう気にする必要はない。

そう。そうだ。

それに、あの男はどうせこの街の者ではない。

たまたまここを通りかかった、流浪か何かの者だろう。

ならば、そのうち、この街からもいなくなるはずだ。

だからもう考えるな。気を立てるな。気持ちを落ち着けろ。

リアナは深く深呼吸した。

胸の高ぶりが少しずつ収まっていく。

そう。それでいい。

それでこそ、リアナ・アルフォード。

本来の、私の像だ。

私はゆっくりと仰向けに倒れる。

でも。

でも。

もし次、あの男に会ったら。

もしも出会ってしまったなら、私は。

きっと。

「きっと私は、顔を赤らめてしまうに違いない」

そう。

私は。

静かに思った。


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