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教会でぐうたら

ある辺鄙な村に、教会がある。

教会の外観はツタがからみコケも多く付着している。

そんな教会から、1人の男が出てくる。老齢の神父だ。

神父はあくびをして出て行く。

「シスター。おはよう」

神父は言う。

「神父様。おはようございます」

そう言い、そこに入れ替わりで入っていく女性が1人。

シスターである。

教会の仕事は、交代勤務。

正直。女性にはきついだろう。

だが、それでもやるしかない。

教会には昼夜問わず、生死も問わず。

魔物との過酷な戦いを終えた、あるいは逃げ帰った。

それらの戦士達が運びこまれてくるのだから。



日が暮れ始めている。もう夜だ。

外は肌寒い。

シスターが教会に入ると、そこにはなぜか放置されたままの棺があった。

シスターは首を傾げる。

「どうして棺が・・・? 神父様が片付け忘れたのかしら?」

シスターは片付けてしまおうかと考えたが、思い直す。

神父様のことだ。

もしかしたら明日何かに使うのかも知れない。

そう思い、シスターはそのまま放置しておくことにする。

しばらくシスターは椅子に座り、度の入っためがねをかけ、小説にふけっていた。

教会の外も中も静寂に包まれていた。今日も長い夜になりそうだった。

だが、夜も更けた頃、外が騒がしくなり始める。

「どけー! どけー! 教会はどっちだ!」

そんな乱暴な声が近づいてくる。何かを引きずるような音も聞こえる。

息も荒い。

シスターは外の者が村人ではないこと、そしてそれが急を要する事態であることを確信する。

シスターは少し怖くなるが、相手が誰だろうと平等に接しなければならない。

シスターは気丈に扉へと向かった。

声は次第に近づき、数人の集団と共に教会の扉が開かれる。

そこには、大型の斧を持つ大柄な男性と、その肩に担がれた戦士。そして弓使いの女性と、その手に引かれる棺があった。

どうやら1人は戦死してしまったらしい。

「どうされましたか!」

シスターは気丈に振る舞う。

大柄な男が言う。

「油断していた! 勇者様が魔女の野郎に呪いをかけられちまった! くそっ! 早く呪いを解いてくれ!」

「もうちょっとだったっつーのに! ピーノのヤツが殺されるわ、魔女には逃げられるわで、もうさんざんだぜ」

弓使いの女が悔しそうに言う。

「それは大変だわ! でも困ったわね・・・。呪いを解くには、神父様がいないと・・・。私にはどうすることも・・・」

シスターが言う。

「神父様は今どこにいるんだ!!!」

斧男が怒鳴る。

「神父様は、ご就寝中です・・・」

シスターは申し訳なさそうに言う。

「そんなの、俺が今すぐたたき起こしに行ってやる! こちとら、勇者様の命がかかってんだ!!!」

斧男ががなり立てる。シスターの顔につばが飛ぶ。

シスターは少し考え込むが、意を決したようにうなずく。

「そうですね。少しお待ちになってくださいますか。今すぐ神父様を呼んでまいります」

シスターは出て行った。

教会の中が静寂で満ちる。

「おい。あそこにも棺がある。たぶん、アタシら以外にも、被害者がいたみたいだな・・・」

弓使いの女が神妙に言う。

「くそ・・・。可愛そうに・・・。どうして魔女が、こんな場所にいやがるんだ・・・。俺たちゃ、ついてねーぜ・・・」

斧男が言う。

「神父とシスターがいねーが。俺たちで、先にピーノとあいつを供養してやろうぜ・・・」

斧男が言う。

「ああ」

弓使いの女は手に持っている手綱を引き、ピーノの入った棺を俺の横に並べた。

弓使いの女が俺の棺のふたを少し開ける。

「くそっ・・・まだ若いじゃねーか・・・」

弓使いの女は苦しそうにふたを閉める。

弓使いの女と斧男は一度沈黙すると。

敬虔な祈りを捧げ始めた。

しばらくすると協会内の天井から光が降りていき、棺を包み込んでいく。

魂が天に戻されるのだ。

ピーノと。

俺の。

棺が。

「だああああああああああああ、かあああああああああああ、らああああああああああああああ!!!!!!!!! やめて!!!!!!!!!」

瞬間。

俺の棺とピーノの棺が木っ端みじんに破壊された。

「ねって、言ったでしょーーーが?!」

俺は怒った。

ピーノの死体が転がる。

弓使いの女と斧男が驚愕に震える。

心臓がバクバク鳴っている。

俺もびびる。

隣に死体が転がっている。

まさか。

まさか。

俺が。

殺しちゃった?!

「あーあー。え? いや、生きてるから! 見て、ほら!」

俺は禁断の蘇りの魔法式を、ちょっとごまかしてる内に編み、ピーノを生き返らせた。

弓使い女と斧男がさらに驚愕に打ち震える。

「あれ・・・。ぼく、寝ちゃってたの・・・」

ピーノがしゃべる。

「ね! ほら! 生きてる」

俺はごまかした。

ふー危なかった。俺のせいで死人が出たら、俺、悪夢見るところ。

「あ。俺。帰らなくちゃ。ばいばい」

俺は消えた。

2人は開いた口がふさがらない。



少しして、シスターが神父様を連れて戻ってきた。

「みなさん。もうご安心ください。神父様を連れて参りましたよ」

シスターが笑う。

「あれ! 僕、確か魔女に殺されて・・・」

ピーノが思い出す。

「・・・」

弓使いの女と斧男が開いた口を塞がないで見合う。

「あの男・・・なんということだ・・・」

神父様が虚空を見つめ、祈り始める。



みんなの心理がぐちゃぐちゃ。

世界は今日も平和です。


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