新生魔王とぐうたら
アタシの名はメルラ。
新生魔王として我が生に名を賜った。
こんにちから魔界の王として権勢を振るうことになる。
勇者とかいう魔界で狼藉を働く奴らを潰すためにだ。
人間の動向を伺い、屍にする。
城に侵入するやつは誰だろうがぶっ潰す!
そのためだけに生まれたのだから。
新生魔王メルラは最上階に位置する魔王部屋の豪奢な扉を開く。
「人間は憎き存在だ。アタシが魔王になったからには、絶対にこの世界を征服してやる」
燃える野心を胸の内に秘め。
中に足を踏み入れる。
今日からはアタシの時代だ。
まずは魔界に進入している勇者共をぶっ潰してやる!
扉の先には大広間が広がり。
奥の階段の上には魔王の椅子がある。
その椅子には
こちらを向いて。
笑みを浮かべる。
俺が。
ぐうたらしていた。
「なっーーーーーーー!?」
魔王メルラは驚愕する。
俺は頬杖をついている。
「ん? だれだ?」
「それはこっちのセリフ・・・お前、人間・・・! 人間ごときがアタシの、魔王の椅子に座するとは何事か・・・! この無礼者が!」
魔王メルラは怒りに任せて呪文を詠唱する。
突如。
真っ黒なデカイ玉がいくつもメルラの上空に出現した。
「死ね」
メルラが言う。
言葉と共に黒い玉が俺に向かって前進する。
触るとまずい。
そう思った俺は、だがぐうたらをやめられない。
俺は魔王の椅子に座ったまま。
椅子ごと転移した。
メルラの真横に。
「ひっ・・・! 爆ぜろ!」
ゴキブリでも飛んできたかのように手を払い、爆発を起こす。
メルラは爆風をいなし部屋の端まで飛び退く。
俺は転移している。
メルラの真横に。
「なんだこいつっ・・・! 近寄るんじゃねぇーーーーーーーー!!!!!!!!」
メルラは飛び退くと同時に大魔法を連続で繰り出した。
爆炎。
魔王の部屋がめちゃくちゃになる。
メルラは部屋の外に転移した。
横目で両脇を確認する。
いない。
メルラは息をはき、部屋の中を凝視した。
先ほどは油断した。戦闘態勢が整っていなかった。
だが、これで終わらせる。アタシの、最大魔法で・・・!!!!!!!
警戒し、足を一歩後ろに回し、臨戦態勢を取る。
コツンと、何かに触れる。
椅子の足だ。
俺が真後ろにいる。
「う、うあああああああああああああーーーーーーーーー!!!!」
不覚だった。
姿は成熟しているが、新生魔王はまだ精神が未熟なようだ。
腰を抜かし。
尻餅をついた。
死にそうな目をしている。
「ふざ、けるな・・・! アタシは、魔王だ・・・!! こんな屈辱を、辱めを、なぜ受けなければいけないのだ!!? こんな、こんな人間風情に・・・!!!!!!!!」
「俺は何もしていない」
俺は言う。
本当に何もしていない。
勝手に腰を抜かして、恥ずかしがっている。
「うそだ、うそだ・・・!! こんなことがあっていいのか? いやよくない。アタシがどうかしているのか? アタシが弱いのかいやそんなはずはないアタシは歴代の魔王よりむしろ魔力保有量を格段に凌駕して生まれてきたはずだどうして勝てない。そもそもなぜこいつはここにいる???? こんな、こんな魔界の最奥の魔王城の、最上階の、アタシの部屋の、アタシの、魔王の椅子に座っているのだ!!!!?」
わからない。わからない。
そんなことをぶつぶつつぶやいている。
目が泳いでいる。
目が死んでいる。
このままでは、俺が魔王を精神的に殺してしまう。
勇者が魔王を倒すのはいいが、俺がぐうたらしていただけで死んでしまうのは、嫌だな。
そう思い、仕方なく俺は椅子から立ち上がった。
「おい。メルラ」
俺は魔王の名を呼ぶ。
「ぇ・・・、なぜ、その名を・・・」
俺はスキルで称号を入れ替えた。
“魔王”に。
「俺は魔王だ。前回のな。お前が勝てないのは、まだ精神が未熟だからだ」
「魔王・・・!? まさか・・・、生きておられたのですか!!!?」
メルラが目の色を変える。即座に居直る。正座する。
「そうだ。だからもう落ち込むな」
俺は言う。
「こんな非礼・・・アタシは、馬鹿だ・・・っ!!」
メルラは悔やみ、床を何度もなぐる。
「気にするな。俺は引退する。じゃあ、後は任せたぞ」
俺は言う。
「ぇ・・・、そんな、・・・アタシはまだ、何の償いも・・・」
「いいから。頑張れよ。じゃあな」
俺は消えた。
魔王メルラはしばらく俺の消えた跡を惚けて見つめていた。
魔王メルラは魔王の椅子に座する。
ついさっきまでとはまるで顔つきが違う。
魔王の風格が漂い始めている。
あのお方は言った。
自分にはまだ精神力が足りないのだと。
それを教えてくれた。こんな、ふがいない魔王のために。
魔王メルラは頬を上気させる。
きっとそれを教えるためにあの方は、来てくれたのだろう。
アタシはもっと鍛えなければいけない。精神力を。
そして、果たすのだ。
あのお方のためにも。
歴代の魔王が幾度も夢半ばで倒れ。成し遂げられなかったことを。
悲願の。
世界征服を。