読者への挑戦
■読者への挑戦
賢明なる読者諸氏の方々に置かれては、退屈な文章をつらつらと書き並べて、いつになったら終わるんだ、と思われたことだろう。心配していただかなくても結構である。この物語ももう間も無く終わる。なぜなら、謎を解くための手がかりはあからさまな形で皆様の前に提示されており、探偵役である八千穂霞が華麗な論理の階段を一歩一歩着実に登って、乙女氏の死という謎を天高くから俯瞰するからである。謎の終わりは、すなわち、推理小説の終わりでもある。
ただ、それでは、読者諸賢はまるでサーカスの観客である。自分の手の届かぬところで起こる喜劇悲劇を無感情に眺めているだけの、ただの脇役にすぎない。
だからこそ作者である私は、あなたがたにこの物語の主役になっていただきたい。未だ開かれぬ本の頁には、何が書いてあるかは解らない。本の頁が繰られてはじめて、物語はこの世界に産声をあげる。
ならば、あなたがたがここで暫時立ち止まり、見事に謎を解き明かしたならば、あなたこそがこの世界の名探偵である。あなたが、乙女氏の不可解な死にかかる謎のベールをはじめて、剥ぎ取ったことになるのだから。
私は本格推理の作法に則って、あなたに挑戦する。
なぜ乙女氏は殺されたと判るのか、乙女氏を殺したのは誰か、そして、なぜ乙女氏を殺したのがその人だと決定できるのか。問いたいことはただこれだけである。あなたはこれらの問いに、論理を武器に答えねばならない。
みなさんの幸運を祈ろう。
(補足)
ただし、犯人当ての作法として、叙述トリックと言われるトリックはないものとし、犯人は一人だけという前提に立って推理をしていただいて構わない。また、乙女氏が自殺によって死亡したわけではないことをここに示しておく。