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第四話

「センラお姉様」


どこかの部屋。そこに青紫色の髪の少女のような女性、センラ・スカーレットと紫色の髪の、虚ろな瞳の女性がいた。


「おお。帰ってきたか。で?」

「残念だけど、討魔士の死体は見つからなかったわ」

「そうか。まぁ三大討魔士の一人を殺せるとは思ってはなかったしな。問題はない」

「それと…」

「ん?」


センラは首をかしげた。


「エルの姿がどこにも見当たらなかったわ」

「死体もか?」

「ええ。恐らく、討魔士に回収されたと…」


紫色の髪の女性は、少し申し訳なさそうに答えた。


「そうか…あいつが協会にな…」

「どうする?このままにするのも…」

「ふむ…」


と、おもむろにセンラは立ち上がった。


「とりあえず私は本部へと戻る。しばらくは戻るつもりはないとブランドンの奴に伝えなきゃならないからな。面倒だがな…。お前は…そうだな…奴の昔の住まいがあっただろう?そこで少し一暴れしろ。もしやつが来たら…半殺し程度に済ませといてやれ」

「分かったわ」

「まぁ、奴も少しは絶望するだろうな。大好きな親友・・が半殺しに来るのだからな」

「でしょうね。私のこの身体(・・)も、彼女と戦うのを拒んでいるからよく分かるわ」


二人は不適に笑みを浮かべた。






ーーーーーーーーー



とある街。エフは、右腕をやたらに押さえながら歩いていた。


「………………」


エフは、数時間前の事を思い出していた。




『はぁっ…はぁ…はぁ……!』


翼が放った炎翼の舞の爆煙が晴れると、ボロボロになったエフの右腕には翼の放った霊力の矢が深々と刺さっていた。


『咄嗟に光化して回避したようだけど、完全には回避出来なかったようね』


翼は倒れているエフに近寄り、止めを刺しに次の攻撃の準備をした。


『くっ…!まだ…私は死ねない…!あいつを…殺す…までは……ぐっ‼』


エフはゆっくりと立ち上がり、左手に光剣を出した。ボロボロになっても、まだ立ち向かおうというのだ。

その姿を見て、翼は構えるのを止めた。


『やぁ……っ‼』


エフは翼に向かって剣を振る。だが弱々しいその振りは、翼に容易く避けられてしまう。何度も何度も振るが、翼に当たることはなかった。


『ぐっ…!』


パシッ!


翼は尚も振り続けるエフの腕を掴んだ。


『……………』

『放せ……!』


エフの腕を掴んだまま、翼は何も言わずエフを見つめた。


『……その執念……いいわ。あなたにもう一度だけチャンスを与えるわ。このまま戦っても、死ぬだけだしね』


そう言って翼は腕を放した。エフは力尽きて倒れた。


『一日だけ時間を与えるわ。それで少しは考えてきなさい。自分がどうあるべきか、これから自分は何をすべきかを』

『…何故…そんなことを…』

『協会に入れたら教えてあげるわ。まずは傷の手当てね』






その後、エフは回復して、協会のあった場所から自分のかつての住まいへと向かっていた。とはいえ、廃病院を少し改装したものだが。恐らく潰れている可能性もあるが、一応エフは向かっていたのだ。


(私の…すべきこと…)


エフは翼に言われた事を思い出していた。あの時、翼は確実に自分を殺すことが出来た。だがしなかった。私が協会に入るには、必要な何かが、自分には足りない。翼は、それを見つけるチャンスをくれたのだ。


「私の…足りないもの…」


と、歩いていると



ズドォォォン‼


「何⁉」


突然何かが崩れる音が聞こえた。


「この方角は…!」


エフは急いで現場に向かった。



「やっぱり…!」


そこはエフは予感していた通り、自分の住まいだった廃病院があった場所だった。


「一体誰が…ん⁉」


と、崩れた瓦礫の上に身の丈ほどの長さの太刀を持ち、見たのことのないスーツを着た誰かが立っていた。


「あらエフ、遅かったじゃない。待ってたわよ」

「その声……そんな…まさか…私が…殺してしまったはず…」


エフはその人物の名を言う。


「…エル…!」


エル。エフがセンラに囚われていた時に出会い、共に脱走を試みようとした親友。そして、エフが殺してしまった今は亡き女性。それが目の前にいた。

紫色の髪を靡かせ、虚ろな瞳で、怪しげな笑みを浮かべながらエフを見つめていた。


「ああ…エフ、会いたかったわ。この身体・・が会いたくて会いたくて堪らなかったわ」

「エル…どうして…生きて…」

「ふふ…残念だけど、少し違うわね。私は確かに死んだわ。正確には、エルの身体は死んだわ」

「どういう意味?」

「あの後、私はあなたに殺されて、その死した肉体はセンラお姉様に回収されたのよ。センラお姉様は新たに魔術を開発していてね…『死した後の魂』が憎悪によって誕生する怪人、『リビドン』とは真逆の存在…『死した肉体』を生前の能力を持って操る魔術によって、私は『ネクロム』となって甦ったのよ」

「ネクロム…」

「能力だけじゃなくて記憶も受け継いでいるわ。ただし、ネクロムはあくまで死体。ネクロムの中には、ベースとなった者の魂は存在しないわ。元の身体の情報を元にしてなぞっている感じかしら?私としては分からないけど。だから今の私は死んでいて生きている…いや、生きていて死んでる、と言った方がいいかしら?まぁそんなことはどうでもいいわ」


と、長々しく言って、エルはエフに近づいて行った。


「くっ…!」


エルとの再会を喜べないエル。ネクロムというエルの姿形をした異形の存在に、エフは思わず後ずさる。生者が発する雰囲気が感じられない。


と、エルはエフに向けて手をかざす。


「っ⁉」


それを見たエフはエルと距離を咄嗟に取った。


「分かってるじゃない」

「アーミースキル『重力』…距離さえとれば、あなたの引力に捕まることはない」


エルはエフより先に卒業したヘブンズエデンの卒業生であり、アーミースキル『重力』の使い手だった。引力と斥力を操り、それを応用した攻撃が可能という、便利な能力だ。


「確かにそうね。生前、ならね」


と、エルはかざした手を思い切り引っ張った。


「っ⁉そんな⁉」


引っ張ったと同時にエフの身体はエルの方へと引っ張られて行った。


「はっ!」

「くっ…!」


エルは引っ張られて向かってくるエフを斬ろうとした。エフは光剣を作り斬撃を防いだ。


「やぁっ‼」

「うっ…ぐあっ‼」


が、予想以上の力だったのか、エフは吹っ飛ばされてしまった。


「ぐっ…はっ!」

「グラビティスラッシュ‼」


エルは重力の能力を込めた斬撃、グラビティスラッシュを放った。エフはその斬撃をなんとか飛んで避けた。


「はぁぁっ‼」

「くっ…うわっ!」


だが飛んだ先でエルが待ち構えており、エフに向かって太刀を降り下ろした。エフはそれを受け止めるが、あまりの力にエフは地面に叩きつけられてしまった。


「うっ……パワーが違いすぎる…」

「ネクロムになったお陰で、生前よりも能力もパワーも上がっているのよ。さて…」


エルはエフに近づいて首を絞めた。


「ぐっ…あっ…‼」

「嗚呼、いいわ。いいわよエフ。あなたの苦しむその顔、その姿、とっても愛おしいわ」


エフは掴んでいる手を退かそうとするが、まるで鉄のようにびくともしなかった。エルはエフは悶え苦しむ姿に喜びに満ちた顔をになる。


「くっ…かはっ…!はぁっ…はぁっ…」


と、突然エルはエフの首を絞めるのを止めた。


「…ふふ…気絶なんて駄目よ。それに、まだ殺したりはしないわ。死んだり気絶なんてされちゃあ、あなたの苦しむ姿も声も聞こえなくなっちゃうじゃない」


そう言ってエルは再びエフの首を絞めた。


「くっ…あっ……どう…して…」

「あら?まだまだイケそうね」

「があっ…‼…ぐっ…!」


エフは更に絞める力を強めてエフの首を絞めた。そしてまた、絞めるのを止めた。


「ごほっ…ごほっ…!…どう…して…こんなこと…エルは…」

「確かにそうね。いくら魂がないとはいえ、私はこんなことをしないわ。でもねエフ。これはセンラお姉様の命令なのよ。術者からの命令は絶対なのよ。それに…」


今度は首ではなく、襟を掴んでエフの身体を持ち上げた。


「お姉様がそう調整したのか分からないけど、あなたが憎くて憎くて堪らないのよ。そしてあなたが苦しむ姿を見ると、とっても気持ちが良いのよ。だからいたぶっていたぶってなぶり殺しにしてあげるわ」

「ぐあっ‼」


エフは瓦礫の方へと投げ飛ばされた。


「そん…な…エル…戻って…」

「まだまだこれからよ。もっともっとたっぷりと…っ⁉」


心身ともに限界のエフ。そんなエフに近づいて再びいたぶろうとするエルの背後に誰かが迫っていた。


「やぁっ!」


緑色のポニーテールの女性がエルに向かってハルバートを降り下ろした。エルはそれをギリギリかわした。


「大丈夫ですか?」

「なんとか…あなたは?」

「リノア・グリーンクロー。グリーンクロー家次期当主であり翼のご友人ですわ」

「翼の…?」

「全くもう…いいところだったのに。でも増援が来たところで、実質あなた一人で何が出来るって言うのかしら?」

「一人ではありませんよ」

「ん?」


と、エルが振り向くとそこには翼がいつでも射てるようにスピリアローを構えていた。


「翼!」

「異変を感じたから来てみれば…随分とやってくれるじゃない」

「これは…ちょっとキツいかしら」


翼とリノア。二人の実力者に挟まれ、エルも状況が悪いことに気付いた。


「ちょっとエル。何ピンチになってるのよ」


と、いつの間にか瓦礫の上に銀髪の虚ろな瞳の黒スーツの女性が立っていた。


(いつの間に…⁉)

(私達二人が全く気づけないなんて…⁉)


二人は決して弱い討魔士ではない。強い方だ。そんな二人が全く気づけなかったのだ。


「アリサ…何の用かしら?」

「何の用かしらじゃないわよ。センラお姉様に言われたから来てみれば何よ。熟練の討魔士二人に挟まれてピンチじゃないの」

「こんなの、ピンチの内に入らないわ。二人ぐらい、返り討ちにしてあげるわ」

「そうかしら?もしかしたら更に増援を呼んでるかも知れないわよ?」

「……何が言いたいのかしら?」

「撤収よ。もう十分遊んだでしょ」


ふん、と鼻を鳴らしてエルはアリサと呼ばれた女性の元へと飛んだ。


「エフ。また会えるのを楽しみにしてるわ。あなたの苦しみに悶える姿、とっても素敵だったわ」

「いいわよねあなたは。私にはもういたぶる妹もいないんだし」


そう言い残して、エルとアリサは姿を消した。


敵の気配が消え、翼はエフの元へと近づいた。


「かなり可愛がられたようね」

「……翼…」

「何かしら?」

「1日待つ約束だったけど、もう答えが出た」


ほう、と翼はエフを見る。エフも翼の翼を見つめる。


「私はセンラが憎い。それは変わらない。でも…でもそれ以上に…奴のやった行いが許せない。エルの身体を弄ぶなんて…絶対に許せない。エル以外にも同じようにされている人がいるなら…これ以上奴の好きにはさせない。だから奴を討ちたい。私自身としてだけでなく、一人の人間として」


エフの表情は凛としていた。憎しみに染まった顔ではなく、覚悟を決めた顔だった。


「……初めて会った時よりもいい顔しているわ。いいわ、あなたの協会入りを認めるわ。」

「それでは協会へ戻りましょうか。エフさんの身体を癒すのと、会長に色々と報告しなくちゃいけませんしね」


エフの協会入りが決まったところで三人は協会へと戻っていった。

エル…イメージCV:田中理恵


センラ・スカーレット…イメージCV:本多真梨子


アリサ…イメージCV:今井麻美


リノア・グリーンクロー…イメージCV:佐藤利奈

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