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幕間.彼女達の日常



遠野 由紀




「ねぇ、由紀。頼みたい事があるんだけど」


九条=華=ブロイアーは病院のベッドに横になったまま由紀を見つめて第一声を発した。華が倒れたという報が届き慌てて駆けつけてみれば自分以外の心配事に対して由紀になら何とか出来るという事を見越してなのだろうが...。お見舞いに来てくれてありがとうとかお互いに年何だから無理しないのとかそんなやりとりをかっ飛ばして由紀に対してお願いいして来たのだ。


「突然ね、まだ華なら何とか出来るでしょう? 生きているんだから」


「私が出来る事はあの子ーアリアには教えてあげたわ。でもスランプは自分で乗り越えさせたいの。私がかつて四木々谷女学園に来て乗り越えたように」


華は思い出しながら目を細め病室の窓から外を覗く。


アリアのスランプはまだ楽器を手に取り演奏出来てはいるが華のスランプは酷かった。神童と謳われた華は演奏出来なくなり周りと衝突する事が度々あった。嘲笑を受けるならまだしも同情を受ける方が華には辛かった。父、弦次はそんな華に対して日本の学園を進めその提案を受けドイツを逃げるように飛び出した。


日本の九条家を頼りに四木々谷にやって来た華は学園に入学した。由紀に出会い学園の庭師をしていた九条貞晴、二人に出会わなければまた再びヴァイオリンを手に取る事も無かっただろう。其れ程までに華を変えたのが四木々谷という場所だった。もう一つの故郷というべきところだ。


「もし、あの子が音楽高校を中退するような事があれば学園にアリアを入れて欲しいの」


進路の話しはアリア自身から聞いていた。ヴァイオリニストになるというのがアリアの夢だ。


「私の出来る事にはなるけど...まだ先の事でしょう。今年中学入って育ち盛り何だから」



「そうね。でも、その時が来たらお願いね」


弱々しい声だった。そこまで孫を心配する事に僅かにモヤモヤした気持ちになるが華には笑っていて欲しい。


「分かったわ。泥舟に乗ったつもりで任せなさいな」


「アリアを沈めないでよ」


真剣な顔をして怒られた。




学園の執務室で九条アリアに関する資料を眺めながら華とのやりとりを思い出す。性別の欄は女。相変わらず無茶をしたものだ。心臓に悪すぎる。アリアが卒業したら無理難題ふっかけなければ釣り合いが取れない。


「貴方が望んだように、あの子は来たわよ。華」


静かな声が執務室に響いた。


やれやれと何処か楽しげにしながら編入合格の書類に判を押すのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ー織田 千尋




携帯電話の着信音が聞こえた。G線上のアリアーつまりあいつだ。何時もは短いメールのやりとりのみだが今日は通話のようだ。


アリアには弱味を握られているー私は逆らう事など出来ない。通話ボタンを押すが反応はしない。何時も向こうが話しかけるまでこっちも無言だ。


「あのさ、ヒロ。そっちの学園行く事になった」


「何がどうなってそうなるのよ‼︎ 変態‼︎ 女子高入ってクンカクンカスーハースーハー盛る気でしょ! もう一度言うわ‼︎ ド変態」


「学校を止めてー」


「その話しは聞いたわ!」


突然のアリア編入話に私は叫んだ。強い非難を込めて罵った。駄目だ。平静でいられない。学校を中退する経緯は前に聞いた。それを三城八重に話してどうなったと思う。八重が自分の事のように悲しんだのだ! それをずっと宥める私の心情は平静ではいられない。また、奴か!八重の心には奴しかいないと何度も教えられる私の身になって欲しい!


「ヒロが八重を好きな事は知ってるよ。お邪魔虫な私がそっちに行くのそんなに嫌?」


「嫌よ‼︎」


「即答だね」


「当たり前でしょう!八重の心にはまだ貴方がいるもの!腹立たしいったら無いわ」


「そうなの?」


アリアの問いにそうよ!と返答しそうになるが敗北宣言を認める事はできなかった。


返答がない事にやれやれと苦笑が聞こえる

「相変わらずだね。ヒロ。八重は近くにいるの?」


「今は入浴中よ。近くにはいないわ」


それからアリアから事の経緯を説明して貰う。アリアが八重と私に交互に電話をし始めたのは割とありがたいが複雑な心境だ。最初八重に電話を掛けてばかりの時期があった。電話で話す二人に不機嫌になる私にアリアとの不仲説が浮上。だいたいあってるのだが肯定すると仲を取り持とうと八重が動く。そして私の機嫌が更に悪くなる負の螺旋だ。仲のいいアピールとして数分話し変わるというのが三人の暗黙のルールになったが八重は知らない。ずっと知らないままでピュアな八重でいて欲しい。


アリアは根回しの為に私に電話して来たようだ。根回しがなければ再会早々大声で変態と罵っただろう。用意周到なやつだ。そして実に惜しい。社会的に抹殺して八重に近づく事が無くなる様にしたかった。八重が悲しむだろうけど。


「ヒロは何故八重に告白しないの」


「突然何よアリア」


「そっちの学園行く事になるし、ヒロと仲良くしたいし」


「貴方と仲良く何て嫌よ...それに嫌われたくない」


最後の方だけ小声になる。近くにあったペンギンの人形を攻撃し抱き締める。


「...そっか」

「そうよ。...むっ」


「どうかした?」


「八重が帰って来たみたい」


アリアに告げるのと部屋のドアを開いて八重が入って来るのは同時だった。トレードマークのポニーテールと黄色リボンはしていない。よく乾かしていつものようにサラサラ綺麗な髪だを靡かせ八重を見る。

「ただいまーちぃちゃん。あれ電話中?相手はアリア?」


「...うん」


「学校止めたって電話があったけど何の話?」


「八重とは話したくないって」


ーおぃ、ヒロ。嘘を八重に吹きこむな!宥めるの大変なの知ってるだろう!

「私があれだけ心配してたのに‼︎ もうあーちゃん何て知らない!馬鹿!」


プンプンと怒り二段ベッドの上段に入って布団に入りこむ。私の携帯電話の通話が途切れ八重の携帯の着信音がしばらく鳴り続け止んだ。ぐすっと鼻を啜る音が聞こえた。今度は短い着信音がなる。机の上にあった携帯をとりベッドの梯子を登る。


「八重?アリアからメール。交渉よろしくね」


「私に心配させて! いっぱい請求してやるんだから!」


夏に会う約束をしていたが早く会う事になりそうだ。会えばアリアの財布から諭吉が旅立つ事になるだろう。女の子は図太くズル賢いのだ。


もう少しすればアリアを入れてまた三人で過ごす事になるだろう。懐かしいく思い頬を緩ませた千尋に八重は首を傾げる。

「何でもないわ、八重」


誤魔化すように言ってひっきりなしに届くアリアからのメールにアクセサリーやスイーツをふっかけて二人笑いあうのだった。

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