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如何にして女子高校に編入したか⑤

その出会いは...



アリアが奏でるヴァイオリンの旋律は雪華にとってもいや四木々谷女学園の生徒にとって馴染みのある校歌だった。寮で生活をしていればどんな容貌の生徒がいるか雪華はある程度把握しているし高等部2年と《四姫》の中の《冬姫》というお飾り職ではあるが学園を代表するメンバーである。全校生徒の代表として部活動や生徒会とは無縁ではない。どうやら件の編入生が彼女であると確信はあるが...背が低い。むしろ初等部の編入生ならば納得する幼さしか見出せない容姿だ。


(いくら可愛らしくても幼すぎる容姿ね...食指も動かないわ)


はぁと溜息が漏れる。しかしだ。浮かぶ疑問は止まることは無い。何故彼女は校歌の曲を弾いているのだろうか。編入生であるならば普通知らない筈だろう。学園のホームページでも校歌の歌詞は載っているが歌っている動画などは載っていない。何処かの動画投稿サイトを見てまでこんな曲を弾くとは思えない。雪華はこの学園が嫌いだ。自身の意見を聞いてもくれず半ば強制的に中等部から四木々谷の生徒となった身だ。都会に比べ不便で娯楽も乏しい。学園を好きになる要素などない自身が何の縁か先代の《冬姫》は雪華にとって恩人で勧められるままに引き継いだ《冬姫》という職で先程の少女以外にも告白を受け夜を共に過ごした事もある。それらは全て藤堂の家への当てつけではあるが...。


つまるところ雪華は益々苛々しているのだ。建て前上愛校精神を見せる立場にあるが知らない者にまでそれを演じる性分は生憎持ち合わせていなかった。


「そこのあなた。耳触りの悪い演奏を辞めなさい」


どんな状況であっても他人に怒鳴った事もない雪華は今迄の鬱憤を晴らすかのようにしかし努めて声のトーンは変えずアリアに告げた。


銀髪の少女はチラリと雪華を見ても演奏を止めようとはしなかった。


むしろ逆にどうして止めるのだと問い質したげだ。


カチンと雪華はきた。ズカズカと間合いを詰め弓を持つ右手を掴み引き剥がした。その拍子にヴァイオリンは耐え難い雑音をあげて弓の張り詰めた馬の毛がプツリと切れアリアの頬を掠めた。白い肌に赤い筋が走る。

アリアは改めて演奏を止めた不埒者を見上げた。黒い腰まであるストレートの髪に切れ長の目。顔立ちは端正で少々キツい印象を受けるのは先程の出来事のせいか...。アリアの頬の傷を見て一瞬はしまったというような表情を浮かべるもアリアの目から視線を外さなかった。


ー何なのよ、この娘!私をこんな目で!こんな目で見ているなんて!


アリアの目は冷ややかで非難する眼だ。しかし雪華に対して口を開くことも無く冷静である。


「...それで演奏を止めれて満足ですか。先輩?」


雪華は全身がカッと熱くなった。掴んだ手に力がこもる。アリアはわずかに眉を寄せるも相変わらずの温度を感じさせる事のない目で見据える。


「あなた...生意気ね」


「...先輩には負けると思いますけど」


溜息を漏らしつつアリアは力を緩めた。もう興味はないと態度を見せるアリアにまたさざ波のように心が荒れるのを堪え雪華は生意気な少女を睨む。


「あなたの事好きになれそうにないわ...」


「同意します」


肩を竦めてアリアはあぁ、やな気分とぼやく。しっかりと耳に届いたが雪華は溜息を吐く。相容れない。そんな人間が目の前に現れても平然としていられるというのはわずかにあったが無理のようだ。全く...今日という日は厄日だ。女の子に逃げられ気に入らない編入生と出会ったり...。


訴え掛ける視線が雪華を捉え横にずれる。視線を追うと未だアリアの手を掴んでいる事に気づく。


「あら、ごめんなさい」


「漸く離してくれて助かります」


そう言って弓を眺める。切れたのは一本だが後で手入れをしよう。


「ヴァイオリンに傷が付かなかったので良かった。祖母の形見なので」


「そうなの」


興味ないようで雪華の返答は冷めている。


まぁ気にすまい。


「九条弦次の作のヴァイオリンです。後で調べる事をお勧めします」


そう言ってヴァイオリンをケースに仕舞う。九条弦次は曽祖父で祖母九条=華=ブロイアーにとっては父親に当たりヴァイオリン職人として店を出していた。職人としても凄腕で華も愛用していたので評価も高い。名器と名高いストラディバリウスやガルネリウス、アマティと比べる程ではないが結構な値段がする。別れた後何気なく調べた雪華が背筋を凍らせる事になる。


「それでは失礼します、先輩」


「待ちなさい」


話は終わった筈だが呼び止められた。


「名前を聞いておくわ、今後の為に...」


「校舎裏に呼び出されて囲まれて虐める気ですね」


「私を無碍にした不届きな後輩の名を把握しておきたいだけよ」


「どっちにしても物騒ですね...はぁ」


呆れるアリアは溜息をこぼし雪華を見つめた。


「九条アリア」


「そう九条さんね...私の名前は藤堂雪華よ。仲良くなれることはないでしょうけどよろしくね」


「こちらこそ...では失礼します」


ぺこりと頭を下げてアリアが立ち去ろうとして思い出す。くるりと転身し雪華を見つめ笑顔をみせて。

「藤堂先輩、寮はどっちです?」


と尋ねるのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




編入早々残念な出会いであった。


その後雪華と別れた後も一悶着あった。かなりタイミング悪く演奏してしまったようだ。彼女は大人しそうで大胆な行動もするように見えなかったが...「折角憧れの先輩に告白されたのに先輩が演奏を聴いて逃げてしまったじゃないですか! 」と...


女子校は矢張り百合の園のようだ。

何だかんだとその少女と話しこんで時間は夕陽差し込む時間となってしまった。ままならないものだ。


「雪華先輩はきつそうな印象だったけど、そんなに悪い人ではないだろうけど...タイミングが悪かったのかな」


ぼやきながら寮へと向かう。湖畔の側の8階建ての建物と西洋風の洋館を思わせる3階建ての建物が四木々谷女学園の寮らしい。その洋館の屋根裏部屋が私の部屋らしいと教えてくれた。割と律儀な先輩である。どちらも二人一部屋だが部屋の広さは洋館の方が広いようだ。8階建ての寮はさながらホテルのようで自然に溶け込んでいる。綺麗に改装されて空調にネット環境も快適ではあるらしい。しかし少々壁が薄いのが難点だと雪華は語っていたが...そんなに騒ぐ事などあるのだろうか...甚だ疑問である。


湖畔の散歩道を歩いて寮へとたどり着く。漸く付いた。時間がかかって同じ敷地内なのにこんな時間になってしまった。おかげでお腹もペコペコである。


「何か食べたいけど...夕食大丈夫かな」


ドサリと何かが落ちる音にアリアは力無く見た。白いナイロン袋を落とした彼女がワナワナと身体を震わせていた。彼女は顔を青くして口をパクパクさせている。


「やぁ、八重。元気そうだね〜」


声を掛けた少女三城八重は小学生の時の同級生だ。昔と変わらずトレードマークのポニーテールと黄色のリボンが揺れる。いつも彼女の側に居る筈のもう一人がいない。


「あれ、ヒロは? いつも一緒だったのに」


私の問いに正気になったのかズカズカと歩みより肩を掴まれた。相変わらずの馬鹿力だ。非常に痛い。


「何で...何であんたが此処にいるのよ‼︎モガッフガッフモッ」


「どうどう、落ち着きなさい。八重」


危ない発言部分を後ろから姿を見せた織田千尋が塞ぐ。眼鏡を掛けクールビューティーな印象は昔と変わらない。


「ヒロ、久しぶり...ていうか八重に伝えなかったの」


「え、何どういう事? ちぃちゃん知ってたの? アリアが来るって事」


「えぇ、この前の電話で」


「あの時の⁉︎ 酷いよ!ちぃちゃん。何で教えてくれなかったの!」


憤慨している八重が千尋に食って掛かる。


「だって八重喜ぶじゃない、アリアに会えるの」


千尋の嫉妬混じりの一言に今度は八重が泡を食ったように慌てた。


「喜ば...ごにょごにょ」


相変わらずな二人の関係の様子にアリアは身体を震わせ笑った。


「何笑っているのよ!アリアの馬鹿」


照れたように顔を赤くする八重にアリアは手を振った。


「二人共変わらないね」


「アリアこそ…身長何て小学生の頃のままじゃない」


「...身長の事は言うな」


何気に気にしているのだ。


「全く...二人にはきちんと説明してもらわなきゃならないわね」


やれやれと八重が呆れつつもしょうがないなと笑顔を見せてむんずとアリアの首根っこを掴む。


「八重、お腹が空いてそれどころじゃないんだけど」


「却下!被告の要求は聞き入れられない。優先すべき事は説明責任である。ほらちぃちゃんもよ! 二人して私を除け者にして‼︎ 私が納得するまで許さないんだからね」


フシャーと猫のように威嚇し千尋も諦めたようにズンズン進む八重について行く。


結局、解放されたのは深夜だった。乙女の部屋に何時までいる気よ!と八重の理不尽極まりないハリセンを食らった。


「今日はとことん厄日ね...」


ハリセンを食らい悲嘆にくれながらアリアは呻いた。


これでへ編入編終了...ちょっと幕間を挟む予定(予定は未定)


読んで下さり感謝を。

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