1日目。その2
自転車は軽快に歩道を走っている。
先頭には和隆と後ろに座ったエリ。その次に僕、そして学実が続いていた。
エリは和隆に何かを話しているようだったが、時々僕らのほうを見て微笑んでいる。僕はどういう反応をすればいいのか分からないので目を背けた。
高校の前の交差点は赤信号だったので僕らは止まって青信号になるのを待っていた。
僕は学実と並んで立ち、和隆とエリが何を話しているのか聞いていた。
内容は昔もこうして自転車の後ろに乗せてもらったとか、和隆の今の暮らしや街のことなどたわいも無いことを聞いていた。僕は学実に話しかける。
「和隆もあんなかわいい女の子と知り合いだったなんて知らなかったな。学実は知ってた?」
「知るわけ無ぇべ。」
学実は少し怒っているような感じがした。かわいい女の子の友達が居ることに怒っているのか、それを隠してたことに怒っているのかは分からないが、学実が言葉少なげに怒りをためているときは何も言わないことが正解だった。でも僕は怒る学実の気持ちが分からなかった。和隆はあんなにもてるのにいつも僕ら二人のようなクラスでも目立たない同級生と遊んでいたし、クラスの女子からの手紙も受け取らないのでもしかしてホモなんじゃないかと疑ったこともあった。でも、ああして仲のいい女の子がいるということは和隆はホモじゃなくて僕らを本当に友達だと思っているんだという感じがして僕はうれしかった。
信号は青に変わり、僕らは裏山へと登った。自転車は裏山の神社の境内に置くことにした。
「さぁて、どっから探せばいいべな。」
僕らは神社の周りを探してみたが隕石が落ちたような場所は見当たらない。
1時間ほど神社を中心に探してみたけどおかしなところは無く、ぼうぼうに生い茂った雑草や獣道、キズだらけの大木などいつもの風景だけがそこにあった。エリは少し退屈そうにしていた。和隆はエリそっちのけでそこらじゅうを探しているし、学実は退屈そうなエリを睨んでは怒りを溜めていた。
「やっぱり見当たらないなぁ。こっちじゃなかったのかな?」
退屈で険悪で嫌な空気に耐えられなくなった僕は何か話してないと落ち着かなかった。
「こっちだと思ったんだけどな。僕らの団地があっちだから方角はあってると思うんだよね。もしかして隕石は小さいと思ってたけど実はもっと大きくて場所もずっと向こうに落ちたのかな?それとも隕石じゃなくて何かの見間違いだったのかな?ぜんぜん見つからないよ。」
僕の独り言だけがあたりの空気に流されていく感じがして、また気持ち悪い空気になった。
いつの間にか太陽は真上にきていた。
僕は疲れていた。昨日まではここにこうして二人と来ることを楽しんでいたのになぜか今は早く家に帰りたかった。和隆は一言も話をしないで黙々と探してる。まるで自分の大切なものを探してくらい熱心だ。隕石探してる途中で自分のものを落としたのかもしれない。学実も探しているけど時々エリを睨んでる。なんでそこまでエリを怒る必要があるんだろう?エリはもう探してなかった。神社の階段に座り足元の石を見ているのか下を向いたままだった。はやく和隆に「もう家に帰って昼ごはん食べようで。」と言って欲しかった。なんだかおなかも空いてきた。もう何を探しているのかあいまいな感じがしてきた。僕は疲れていた。とりあえず学実のところへ行ってみよう。何か話してないとこの罰ゲームのような場所にはいられない。
「学実、見つかった?」
「見つかったらこんなところにいねぇよ。」
学実はまだ怒っているようだった。眉をひそめてこっちを見ようともしない。僕は小声で学ぶ実に話続ける。
「なぁ、学実。なんで怒ってるのか分からないけど何だか嫌な態度がでてるよ。どうしたの?」
「怒ってねぇよ。」
「怒ってるって。」
「違う。怒ってない。」
「だってエリが来てから何だか変だよ。ずっとエリを睨んでるし。絶対今日の学実は変だって。」
「違うんだって!俺は・・・」
急に学実は起き上がり大きな声を張り上げた。しかし、何かを言おうとしたけど止め、またしゃがみこんだ。学実の顔は泣きそうな顔になっていた。
「ごめん学実。大丈夫?」
「大丈夫。それよりエリを見てけれ。こっち見てるんでねが?」
僕はそっと振り返った。エリがこっちを見ていた。しかし、あの笑顔は無く、ただじっと見ている。怖い。そんなイメージを持つような顔だ。漫画風に言えば顔は普通でも禍々しいオーラが出てるようなそんな気配。じっとエリを見ていても変に思われるから顔を背けたかったけどなぜか出来ない。顔を背ければ後ろから食べられそうに感じる。僕はエリから目を離せなかった。
「正悟!」
大きな声にびっくりして声の方を向いた。学実だった。助かった。正直そんな気持ちだった。
「正悟。俺は・・・」
「どうしたの?」
驚いた。学実が話し始めたときエリが後ろにいた。エリの顔は出会ったときの笑顔になっていた。さっきの顔は何だったんだろう。
「正悟くん。カズくんが呼んでたわよ。」
「本当?でも・・・」
正直僕はここから離れたかった。最初に持ったエリのイメージは消え、今はなんだか悪の女王のような気がしている。学実と二人きりにしたらマズイって気がした。しかし、エリは笑顔に戻ったけれどエリの言葉に逆らうと後で何かされそうで怖い。学実の次は僕だ。そんな気がした。でも学実と二人には出来ないしどうしたらいいんだろう。僕は何が何だかわからなくなってきた。
「早く。カズくん待ってるわよ。」
「でも・・・」
エリの声が怖かった。学実はずっとエリを睨んでいる。僕はどうしたらいいんだろう。
「おーい!のど渇いたー!家さ帰ろうでー!」
和隆だ。和隆の声がした。助かった。
エリは和隆の方に近づいて甘えたような声を出す。
「カズくん。見つかった?」
「駄目だ。ここじゃないかもしれね。すんげのど渇いたから家さ帰ろで。」
「そうね。仕方ないわね。」
エリはすごく残念そうだった。そんなに隕石が欲しかったのかな。ヒーローと気が合うかもしれない。
帰り道。エリはまた和隆の後ろに乗っている。僕と学実は並んで自転車をこいでいた。
学実がぼそりと言った。
「正悟。ありがとな。」
突然の言葉になにがありがとうなのか考えたけどわけが分からなかった。もしかしてさっきのことなのかな。学実が僕の勝手な葛藤に気がついてくれた気がしてうれしくなった。
「なんだか分からないけど気にすんなよ。」
僕はちょっと恥ずかしくてそう言ってみた。
「うん。そうする。」
学実も少し恥ずかしそうだった。
僕らはなんだかまた深く仲良くなれた気がした。
「午後からまた行ってみよで。今度こそ見つかる気がする。」
団地に着くと和隆が話してきた。僕は行きたくなかった。でも断る理由も無いし、エリは和隆には暗黒面を出さないから大丈夫だと思うけど、僕らには和隆のいないところで何かしてくる気がして嫌だった。断る理由をさがしていたら学実が話しだした。
「俺らは午後からヒーローの所さ遊びに行く。」
そうだ、ヒーローだ。まさかこんなところでヒーローが役にたつとは思わなかった。ヒーローが本当のヒーローのように思えた。
「んだが。正悟はどうする?」
和隆のうしろでエリが僕をじっと見ている。
「僕も・・・ヒーローの所に行く・・・。」
答えるのが精一杯だった。エリが怖い。僕は和隆を見捨ててしまった気がした。
「んだが。明日は隕石見せるから楽しみにしてれな。たぶんヒーローもびっくりするで。」
和隆はいつものように笑って家に向かっていった。エリは僕らをじっと見ていたが和隆の後を追って行った。
和隆とエリが見えなくなるまで僕と学実はただ何も言わずに立ち尽くしていた。
「正悟。昼ごはんは正悟の家で食っていいが?んで、一緒にヒーローの所さ行くべ。」
突然の学実の言葉に学実も僕と同じでエリが怖いのかと思ったら学実の表情は僕とは違った思いがあるように見えた。泣きそうな僕とは違い、学実は真剣な目をしていた。