表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/99

第八十五話

 残り一分を切って、二点リードしている場面。

 三点はいらない。確実に二点を加点したい。

(しかし……!)

 小町大介は考える。


 センターの烏丸は疲労で得点力は半減している。身長差も考えると、そう簡単にインサイドで得点は取れないだろう。それならば、どうしてもアウトサイドから得点を狙う必要が出てくる。

 羽田のキャッチ&シュート、本田の1on1能力、堀の大賀とのスピードのミスマッチなど、活かせるポイントは幾つかある。


 小町は手を払いのけるようなジェスチャーを取る。

 それを見た島上メンバーは、全員スリーポイントラインの外に出た。


 ……アイソレーション。小町大介が選択したのは、弟との一騎打ちだ。




(……ダブルチームは…難しいか。)

 黒澤は頭を働かせて考えるが、ダブルチームは得策でないと判断する。島上のメンバーは全員が平均以上のシュート力を持っている。簡単にフリーの選手を作ってしまうべきでない。

 それに、小町大介は終盤にかけて得点が止まっている。疲労、プレッシャー、そしてマッチアップ相手は兄のプレーをよく知る弟だ。勝機は十分にある。

(頼む…!)

 黒澤はベンチから立ちあがったまま、試合の成り行きを見つめる。


 24秒計が10秒を切ると、小町兄が動き始めた。

 右に行く、と見せてすぐに切り返してステップバック。そして今度は左に行くと見せて、すぐレッグスルーで元の位置に戻る。

 ……これはただの時間稼ぎではない。彼は、弟の動きを見ながら、狙っていた。

 弟の右足が、前に出るのを。


 その瞬間、小町兄は一気に仕掛けた。

 弟の右足が前に出ると、そのすぐ横を左ドリブルで突破する。

 そして、弟が横にスライドしようとすればファールになる位置で彼はストップする。小町兄は左ドリブルからのストップジャンパーは最も得意とするプレーだった。

(勝った…!)

 絶対の自信を持つプレーだけに、外れる可能性など微塵も考えなかった。

 ボールが彼の手から離れる。


「よしッ!」

 小町は、ガッツポーズをしながら笑った。

 観客席から歓声が聞こえる。


 点差は、四点差となった。

 

「能勢、ボール転がして。」

「あ……はい。」

 能勢はスローインのボールを、直接柳にパスせずに転がす。4Qの残り二分からは、スローイン時には時計が止まり、誰かがスローインを受け取るまでは時計が動かなくなるのだ。よって、柳がボールに触れるまでは時計は動かない。

(残り三十秒、四点差…時間は使っていられない。)

 さて、誰で行くか。

 最高はスリーで一点差まで詰め寄ること。しかし、残り三十秒ならまず確実に二点返すことも狙うべきだ。

 

 柳は頭の中でプレーを組み立てる。

 そして、ハーフコートを超えたところでボールを掴み、叫ぶ。

「能勢!」

 ジェスチャーによる能勢への指示。能勢はハイポスト寄りの位置でポストアップする。

 ディフェンスが能勢を中心に収縮する。羽田も柳のマークを離し気味に能勢に寄った。しかし、小町弟は兄にぴったりマークされている。


 柳は、能勢へバウンズパスでボールを渡す。…かに見えたが、そのボールは能勢の手から離れた位置でバウンドする。


(……!?)

 柳のマークマンだった羽田は動揺した。

(ドリブル続行だと!?)

 バウンズパスではなく、ドリブル。柳は、小さくなったディフェンスを外側から突破した。


 決められるとこは全部自分で決める気持ちを持て、と柳は能勢に言った。

(それは、別に能勢にのみ向けて言った言葉じゃない!)


 柳がボールを持ってからわずか六秒。西商は柳のレイアップにより二点を返すことに成功した。


「当たれっ!」

 西商はオールコートプレスを開始する。

 しかし今回の形は少し違う。

 小町兄に二人のマークマンをつけ、烏丸を除く三人に一人ずつマークをつける。

フリーになっている烏丸にボールが渡れば、そこでファールを仕掛ける。他の四人にフリースローを与えてしまうと、高確率で決められてしまうことを考えての形だ。


 残り18秒になった段階で、烏丸にツースローが与えられる。


(まじかよ…ただでさえフリースローは苦手なのに。)

 疲労で体は重い。数多くの視線からは、ポジティブなものやネガティブなものまで、様々な感情を感じる。それら全てが、プレッシャーとなって烏丸の肩にのしかかった。

 そんな彼に、小町兄が声を掛ける。

「烏丸!」

「な、なんスか?」

 小町兄は烏丸の足元を指差す。

「ライン踏んでるぞ。」

「……あ。」

 烏丸は慌てて足を引く。


「余計なことを考えなくていいから、普段通りのフォームで打てばいい。任せた。」

「……!」

 烏丸は小町兄から視線を切り、ゴールを見る。

 ……そうだ、別に難しいことなんかじゃない。

 誰も邪魔するやつなんていないんだ。俺は普段通り、ボールを放るだけ。


 審判からボールが渡される。

 

 ボールに回転をかけて下に放り、戻ってきたボールを掴む。そして、ぐっと膝を落とした。

 シュートを放つ。


 ……しかし、このボールはリングに弾かれる。

 リバウンドに備える本田も、烏丸に声を掛ける。

「…落ちつけよ、烏丸。シュート打ったら、ディフェンスに戻ることだけ考えとけ。」

 烏丸は頷き、再びボールを受け取る。

 そして同じフォームで、二投目を放った。


 …このボールは、ボードに当たった後、ネットをくぐった。


『走れッ!』

 黒澤と柳の声が、シンクロしながらコートに響いた。





結末間近となっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ