第八十四話
75-78。フルコートプレスを使った戦略で、西商は残り二分の時点で三点差まで追い上げることに成功した。
島上ボールから試合が再開される。ボールを持つのは小町兄。
右45度の位置で、ドリブルチェンジを繰り返して小町弟を揺さぶる。
「右スクリーン!」
小町弟の後ろから声が聞こえた。小町弟は右側にスクリーンが来ているのを知り、ファイトオーバーの準備をする。兄を一瞬たりとも離してはいけない、そう考えたからだ。
しかし小町兄はその思考を読み、一瞬スクリーンを使うと見せて、ビハインドバックドリブルから、逆サイドへドライブを仕掛ける。
弟は振り切られるが、スクリナーの堀のマークマンだった大賀が躍り出る!小町兄は一瞬でコースを潰され、足が止まる。と、同時に、ゴール前へ浮いたパスを出す。
堀はスクリーンを解くと、すぐさまゴールへ走り出した。そして、浮いたパスをキャッチし、そのまま空中でシュートを放ったが…体勢が厳しく、このシュートは外れた。
落ちたボールを能勢が掴もうとした瞬間、そのボールが上に弾かれる。弾いたのは…本田!
「おっしゃッ!」
本田は再び跳躍し、再び浮いたボールを外に弾きだす。そのボールをキャッチしたのは羽田。フリーだった彼は落ち着いてシュートを放ち、決めた。
点差は再びツーゴール差になる。
(思ったより、運動量が落ちてない…むしろイキイキしてないか?)
柳は少し焦る。PGにとって、残り時間が少ない中で、どうゲームを組み立てるかは非常に重い仕事となる。本田、堀の両名はディフェンスでも激しい動きを見せている。小倉、大賀の二人は苦戦しているようだ。
しかし一点、明らかに足が止まっている選手がいるのを見つけた。
「能勢、そこで面を張れ!」
柳の声を聞き、能勢は烏丸に対してポストアップを仕掛けた。烏丸は肩で呼吸をしているような状況で、能勢は苦も無く面を張る。
そして、フェイダウェイの構えから、ステップインしてシュートを放つ。足が止まってしまっている烏丸にそれを防ぐ術は無かった。再び、ワンゴール差に戻す。
「能勢、お前にボールを集めるぞ。決められるところは全部自分で決める気持ちを持っとけよ。」
「…はい!」
序盤こそ烏丸の運動量に能勢は苦しんでいたが、ろくに交代もなく出場していた一年生の烏丸に、4Qを走り切るスタミナはないようだった。オフェンスは能勢を起点にしていけば問題ないだろう。
問題はディフェンスだ。どうしてもワンゴール止めていかなければ、追いつけない。
柳の心の中に、焦りが生まれていた。
羽田がスローインを行い、小町兄がボールを受け取る。西商は再びフルコートプレスを仕掛ける。
西商のプレスは、ボールマンに対し、ハーフラインのコーナーに誘導してからダブルチームなどでプレッシャーを強める。他の選手はボールマンとマークマンの間に立ち、ハーフラインを超えるパスは全力でカットを狙う。ドリブル突破を試みてきたらダブルチーム。そして、ターンオーバーを狙う、というスタイルだ。
しかし…柳が“奇襲”に出た。
小町兄と小町弟が対峙する。ボールマンの兄は弟の出方を見ながら、クロスオーバー、チェンジオブザペースを繰り返して揺さぶりをかける。弟はひたすら右サイドに誘導しながら、抜かれないように絶妙な距離をとった。
すると、スローインを終えて走ってきた羽田が、弟の隣に立つ。スクリーンのような形で、弟の左サイドを塞いだ。
(…ナイス羽田!)
兄がすぐにスクリーンを使って、突破を試みる。しかし彼が視界の端に捉えた手、それは柳のものだった。
ボールが弾かれる。小町兄の背中側から出現した柳のバックチップだ。
しかし、ボールが飛んだ先にいたのは羽田!
(…しまった!)
柳は舌打ちする。慌ててボールを掴んだ羽田から、小町兄が手渡しでボールを受け取る。目の前はガラ空きだ。
「小町!無理矢理止めろ!」
黒澤が叫ぶ。ファールしてでも止めろ、という意味だ。
審判が笛を鳴らす。
…小町兄は審判のジェスチャーを見て絶句した。
「八秒バイオレーション!西商ボール!」
「っしゃあッ!!」
柳が大きくガッツポーズをする。
ラスト1分、三点差のまま、西商がボールを手にした。
(三点差とはいえ、スリーを狙う場面じゃない。能勢で二点を狙おう。)
柳は能勢にボールを預ける。今度はポストプレーではなく、スリーポイントライン近辺まで開いた位置での1on1だ。
能勢はジャブステップを繰り返す。烏丸の反応が鈍くなっているのははっきりと分かった。
能勢はシュートフェイクから、左にボールを振り、右にドライブを仕掛ける。烏丸は二歩目で置いていかれる。
ヘルプに来たのは堀。フリーになった大賀が見える。
能勢は、柳の言葉を思い出す。
(決められるところで全部自分で決める気持ちを持っとけよ。)
能勢はシュートを選択する。オーバーハンドでボールを持ち、身長差を活かしてレイアップを狙う。
堀が飛ぶ。身長が180にも満たない彼だが、その高さは、リングに届くかというものだ。
「……うっ!」
能勢が叫ぶ。
堀の強引な接触があったためだ。能勢はボールを放つものの、リングにかすりもせずに落下した。
審判が笛を鳴らし、能勢にツースローが与えられる。
能勢はフリースローラインでボールを受け取り、考える。
(残り50秒弱……。一投決めて、二投目外してリバウンドを取って決めれば一気に同点か。)
能勢は一投目を放ち、見事決めてみせる。
(……いや、まだそんな場面じゃない。二投目を決めきることに集中しよう。)
能勢はボールを受け取り、二回ドリブル。そしてボールを手の中に転がし、縫い目に手をかける。そして、シュートを打つ。
……しかし能勢の手から放たれたボールは、リングに弾かれる!
(まずい!)
落ちたボールに、大賀が手を伸ばす。しかし掴むまでには至らず、ボールはエンドラインを超えて落下した。
二点差で、島上ボールとなる。
「すみません!」
「いい!ディフェンスに戻れ!」
西商は再びフルコートプレスを仕掛けようとする。しかし、まだディフェンスの形が出来上がらぬ内に、堀はベースボールパスで前線を走る本田へボールを通す!
本田はそこでボールを保持する。そして、島上メンバーがポジションに着くと、小町兄へとパスを出した。
時間をゆっくり使いながら、島上のオフェンスが始まる。




