第八十三話
4Qラスト三分。70-78で八点ビハインド。西商にとって相当苦しい展開となってきたが、その流れを変えるワンプレーがここで生まれた。
島上の小町兄がボールを保持する。時間をかけながら、パスの出し処を探す。
「ヘイ!」
堀がハイポストで面を張る。小町は彼に向けてパスを出すが、彼の面取りは綺麗なものではなく、大賀は手を伸ばし、そのパスを弾いた。
てんてんと転がるボールを、まず小町兄が拾いに行くが、なんと足をもつれさせて転んでしまう!その隙に、小町弟がボールを拾い、走り出した小倉へパスを出す。
そして小倉がレイアップでゴールを決めるまで、島上の選手達は一人もディフェンスに戻ろうとしなかった。
(島上の選手達は…もう足が動いていない?)
4Qのこの時間だ。どちらのチームも疲労がある。しかし、私は一つの確信があった。
これまでこなしてきた練習量は、間違いなく彼らより上だ。西商の選手達は、まだ走れる。
「オールコートプレス!」
流れを変えるなら、ここしかない。
羽田がスローインを受け取る。柳は、左サイドへ誘導するようにディレクションを行う。
羽田がハーフコートを超えた直後、小倉と柳でダブルチームを仕掛ける。
左に行けばサイドライン、後ろに下がればバックコートヴァイオレイション。そして、柳と小倉により他のエリアが潰される。まさに四面楚歌だ。
当然羽田はパスの出し処を探す。しかし、ボールを掴んだ瞬間を小倉が狙い、ボールを掴む。羽田も必死に粘り、ボールを手放さない。
審判が笛を鳴らす。ヘルドボールだ。ジャンプボールシチュエーションとなり、再び島上ボールとなる。
「羽田……。」
小町兄が羽田を呼び寄せる。
「ボール運びは俺に任せてくれ。羽田はシュートを決めることに専念してほしい。」
「…分かった。」
島上スローイン。ボールを受け取ったのは小町兄。
ここも小町弟から、激しいマークが来る!
小町兄は弟の目の前で、右手から左へと、ふわっとしたフロントチェンジ。それは、ただのハンドリングミスに見えた。
小町弟はそのボールを取ろうと身を少し乗り出した瞬間、左手で、左に弾くようにドリブル、そして右へクロスオーバー!
完全に揺さぶられた小町弟は兄の動きに全く対応できず、そのドライブを止めることはできなかった。小町兄はそのままドライブで能勢を引き付けながら、烏丸へパス。烏丸はゴール下でシュートを放つ。
…しかしなんと、烏丸はこのシュートを外す!
「げっ。」
烏丸はリングに弾かれたボールを再びキャッチし、シュートを試みるも、これは能勢にスティールされる!
そして能勢から柳、柳から小倉へとパスが一気に前線に出る。状況は三対二だ。
ディフェンスの二人はマークを絞り切れず、距離を縮められない。それを見て小倉はストップジャンプシュートを放つ。
これはリングに嫌われるも、大賀がリバウンド。そして、アウトレットパスを出す。
パスを受け取ったのは、小町弟。
彼にも疲労はある。
しかしそれにも関わらず、彼は普段と寸分違わぬフォームでシュートを放った。
(毎日、何百、何千とシュートを放ってきたんだ。疲れてフォームが変わるようほどやわじゃない!)
このシュートも、リングにかすりもせずにゴールを射抜いた。
75-78。点差はワンゴール差となった。
「タイムアウトをお願いします!」
小町兄が叫んだ。それを聞いて、島上の監督、佐々木は慌てるように審判にタイムアウトを申請する。
「一旦流れが切られたが…オールコートプレスは継続だ。このまま続ければ間違いなく彼らは足が動かなくなる。今、有利なのはむしろこっちだ。」
選手達を激励する。
実際、彼らがオールコートプレスに対して有効な対抗手段を持っているとは思えない。唯一考えられるとすれば、先ほど見せられたような小町の兄の個人技ぐらいだろう。しかし、彼にも明らかに疲れが見える。プレッシャーをかけ続ければ必ずミスが出るはずだ。
「小町さん、さっきのパス、すいません。シュート外しちゃって…!」
烏丸が泣きそうな顔で頭を下げる。小町兄は烏丸にタオルを投げつけて、言う。
「しょうがないさ。でも、もう皆分かったと思う。西商は、手を抜いて勝てるような相手じゃない。最後まで走り抜くことができなければ、負ける。」
「……走っりこは好きじゃねえけど…。」
本田が呟くと、堀が本田の肩を掴む。
「俺達は負けたら、ここで引退だ。」
「分かってるよ。こんなとこで負けるのはもっと好きじゃねえ。恰好悪いし。」
そう言って、三年生の堀と本田は立ち上がる。
「小町、俺達にもボール回せよ。俺達は3Q休んでたんだ。まだまだいけるぜ。」
「もちろん、そのつもりですよ。」
小町兄はニヤッと笑った。
佐々木監督は、知っている。
彼らは、島上高校の生徒は、総じてそれなりに上流階級の家庭の子供達だ。全員が全員そうではないが、ある程度、甘やかされ、苦労を感じずに育ってきた面はある。
だからこそ、負けること、劣等感に激しく反発する。
負ける可能性を感じた時の彼らは強い。以前、大芸とやって88点を取った時も同じだった。
強者に挑む時ほど集中を高めるのが島上高校だ。
(…だから、余計な指示はいらないよね♪)
そして、佐々木監督が試合中にろくな指示を出さない理由も同様だ。選手達を信頼しているからこそ、余計な手出しは不要と考えている。
ラスト2分。アリーナ内の熱は、最高潮に達しようとしていた。




