第八十二話
57-62、西商五点ビハインド。4Qを戦うために選手達がベンチから駆けだして行く。
ここでもう一度、西商の校長が言った言葉を思い出した。
…男子バスケ部の成績が振るわないようなら、女バスの佐藤先生に男バスの監督も兼任してもらったほうがいいのではないか、という話が出ていましてね…。
校長は、「ベスト8が目標。」と何度か言っていた。成績が振るわないイコールベスト8未満ということなのだろうか。そうだとするなら、この試合で私の去就が決まるかもしれない。
ふと西商の応援席を見ると、生徒らに交じってその校長がいるではないか。彼の試合を見る目は普段の柔らかなものではなく、ギンと目を見開いている。
私は少したじろぎそうになるが、フッと笑ってベンチに腰を下ろした。
(ま、後は選手達を信じるだけだ。)
今さら、特別何かできるわけでもない。負けたらどうなるか、なんて考えずドンと座っておくべきだ。
西商ボールから試合が始まる。島上のメンバーはスターターに戻っていた。
柳がボールを持つと、西商はセットプレーを始める。それまでも何度か見せていた、小町がスクリーンを使って逆サイドまで行き、フリーでボールを貰うプレーだ。
相手も馬鹿ではない。スクリーンをひらりとかわし、小町の動きを追う。
…しかしスクリナーだった小倉が、急に小町と逆サイドに開いた!
「…あっ!」
遅れて本田が叫ぶ。小倉は完全フリーでボールを受け取り、ミドルシュートを沈めた。
(くそーっ格好悪いな…。いや、待てよ?)
ここでスリー決め返せば格好良いんじゃね?
…本田はそんなことを考えながら、ボールを受け取った。少しスリーポイントラインから離れた位置。
「どけ!」
本田が手を払うように動かすと、島上のメンバー達は渋々スペースを開ける。アイソレーションの合図だ。
本田はドリブルを始め、意味も無くレッグスルーを何度か繰り返す。そして、マークマンの小倉と一気に距離を詰めると、すぐさまスリーを放った。
遠目からでも激しい回転がかかっていると分かるそのボールは、小気味の良い音を立てながらネットをくぐった。
「いよし!」
本田はガッツポーズをした後、ちらっと観客席を見る。観客席から黄色い声援が飛んで来ていた。
得意げになる本田。その彼の頭上を、ボールが飛んでいく。
ボールの向かう先は、小倉!速攻の先頭を走っている。
パスが通れば二点確実、という場面だったが…、走り込んできた小町兄がこのボールをカットし、コートの外に弾きだす。西商ボールだが、速攻は止められた。
小町は荒い息をしながら再びディフェンスに戻る。
「彼、なかなか苦しそうですね。」三谷が呟く。
「ああ……。」
西商は再びセットプレーで、小町を走らせる。今度はディフェンスが上手く対応しきれず、僅かにスペースが空いた。
「小町、打て!」
柳が叫びながらパス。小町はボールを受け取り、シュートを構えた。インサイドプレイヤー達がリバウンドの準備をする。
島上のPF、堀が大賀をスクリーンアウトで押し出そうとする。…その動きを、小町は見逃さなかった。小町はシュートモーションから、大賀へパス。
「うおッ!」
「えっ?」
堀は、ボールが大賀に渡ったことに気付かず、尚も大賀を押し出そうとしていた。大賀が叫びながらシュートを放つと、審判がシューティングファールをコールする。
大賀のシュートは決まり、さらにワンスローを獲得した。
「ナイスパス、小町!」
大賀が小町の背中を叩く。小町は嬉しそうに笑った。
「良い感じに小町が周りの注意を引き付けてますね。」
「ああ、あいつも十分に役割を果たしてくれている。」
良い形でオフェンスを実行できている西商。
しかし、島上のオフェンスはそれを上回る。今度はPFの堀が綺麗なフォームでミドルシュートを決め、大賀がスローインをしようとするとそのパスを本田がスティールし、何故かダブルクラッチをしてゴールを決める。島上の三年生コンビの連続得点だ。
その後西商は能勢や大賀を中心にインサイドで得点を重ねる。しかし、島上の羽田、本田の二人がスリーポイントで点差を離す。
3Qの得点の中心だった小町兄弟のシュートは一本も見られないまま、じわじわと西商は点差を離されていった。
しかし、残り三分で八点差をつけられた次のディフェンス。ここで、流れを変えるワンプレーが生まれた。




