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西商バスケ部監督物語  作者: のぶし
まとめ
9/99

41-44話まとめ

 正心高校との試合の翌日、西商ではいつも通りのメニューをこなしていた。

 大会が始まれば一日に二試合あったり、連日試合があったりすることも多いので、試合の翌日だからと言って練習を軽くすることはできない。

 そして、今日も練習が終わった。練習が終われば、生徒達を体育館から帰し、戸締りをしなければならない。教官室でその戸締りの準備をしていると、中に中野が入ってきた。

「先生、ちょっといいですか?」

「ああ、どうした?」


「今年の一年生って、皆上手いですよね。」

「そうか?」

「昨日の試合でも能勢がヤバかったし。皆経験者だし…。よく考えるとウチで高校から始めた奴って俺だけじゃないですか。」

 中野は俯きながら話す。

「まあそうだな。」

「それで、昨日の試合でも俺何にもしてないし、俺ってこの部にいる意味あるのかなって思っちゃって…。南北との試合でもキャッチミスとかバカみたいなことやっちゃいましたし、むしろ足引っ張ってるかも…。」

「意味は十分にあるだろう。お前が出ることでスタメンを休ませることもできるし、それにお前は最近どんどんディフェンスが上手くなってるじゃないか。ちゃんとお前はチームに貢献できているぞ。経験を積めばちゃんと良い選手になれると私は思う。」

「本当ですか?」

 ここで中野は少し笑顔になる。

「でも、俺的にはもうちょっと点が取りたいんですよね。でも、シュートがちっとも上手くならないし、ドリブルも下手くそだからディフェンスを抜くのも難しくって…。」

「得点の仕方ならいくらでもあるんだ。外から決められなくても、ドリブルが下手くそでも点の取り方はある。教えてやろう。今日時間はあるか?」

「え、今からするんですか?」

 中野は体力がある方ではない。練習終わりにまた練習なんて、と少し嫌そうな顔をしたが、しぶしぶ同意した。


「まず教えることはゴールカットだ。これはゴール方向へカットイン(ボールを貰う為に走り込むこと)をするプレーだ。まずすることは、ゴール付近にスペースがあるかを判断すること。そしてそのスペースがあるなら、ディフェンスを外へ引き付けて中へ切れ込む。パスが通ってくれさえすればあとはシュートを決めるだけだ。」

「どうやってディフェンスを外に引き付けるんですか?俺、外からシュートが打てるわけでもないし…。」

「VカットやIカットの動きは前に教えただろ?ディフェンスを押し込んでから開く動きだ。その時にディフェンスからすれば楽にボールを持たせたくないから、付いて来ようとするはずだ。そして自分はボールを貰う時に、手で小さく×マークを作ってボールマンに合図する。そして、一気にゴールカットを決めるんだ。」

「なるほど…。」

「または、ディフェンスが視線を自分から逸らした時など、狙えるタイミングは結構あるから、できるだけ狙ってみるといい。初心者が一番に覚えるべきプレーだ。中野は足が速いから効果的だろう。」

「分かりました!」

 しかし、こういうプレーはもっと早くに教えておくべきだったな…。初心者が一番に覚えるべきプレーと言ったが、つまりこうしたプレーが決まればかなり確実に点を取ることができるのだ。


「次に教えるのが、私が現役の頃よく使っていたミートからのドライブだ。これは簡単。ボールを貰った瞬間にワンフェイク入れてすぐにドライブするだけだ。ディフェンスを抜くのに、複雑なドリブルが必ず必要になるってことはないから。」

「えっ…そんなので抜けるんですか?」

「まあ演技力は大事だな。しかし、クロスオーバーで抜くよりもこちらの方が簡単だと思うぞ。」

そう言って私はコートの右サイドに立った。

「まずは、ディフェンスが距離を空けていた時。その時はシュートフェイクでディフェンスを寄らせてから、一つ左か右のどちらかにフェイクしてその逆方向にドライブだ。体重移動の逆をつければ一瞬で抜ける。これにはまず、こいつはシュートが打てる、とディフェンスに思わせておかないと駄目だから、中野の場合もっとシュートが上手くならないと駄目だが…。」

「次にディフェンスがガチガチに当たっていた時。右サイドでボールを貰った時は、左、右でミートする。この時に右足はもうディフェンスの横に出して即ドライブをするんだ。ディフェンスの横に体が入れば、相手が無理に押してきたらファウルになるし、スピードさえあれば一気に抜ける。トラベリングが吹かれやすいのは難点だが…。」


 他にもいくつか、ディフェンスの状態を見てミートの形を変えることを教えた。単純なストライドストップ(一歩ずつ足を止めること。)だと、どうしてもドライブの方向が読まれがちになる。状況に応じて右、左や、左右、または両足ストップを使う事で、ディフェンスに対応されにくくなる。

「なるほど…。要はドリブルじゃなくてミートの時のフェイクでずらして、後はシンプルなドライブをしろってことですね?」

「そうだな、初心者がドリブルでディフェンスを抜くのは難しいから、こうした動きから始めることが大事だ。まあこのへんは五島が上手いから、あいつに教えてもらうといいだろ。明日から三対三の練習とかで使ってみるといい。」

「分かりました、ありがとうございます!」

「よし。じゃあ早く帰りなさい。もうこんな時間だ。」

「え…。あっもうこんな時間!?そういえば今日宿題めっちゃある日じゃん!」

 そう言って中野は急いで帰って行った。


 私も今度こそ帰ろうと思って戸締りをしながら、考えた。高校からバスケを始めるという人は多くはないだろう。しかも、それを三年間続けるという人はもっと少ないはずだ。それだけ、バスケは体力的にも厳しいスポーツだし、経験の差が多く出るので、高校から始める人は非常に不利になる。

「初心者はいらない。」と言って新入生の入部を拒否した先生だっていることを私は知っている。

 しかし、バスケットボールは一生の趣味になり得るものだ。例え高校から始めたとしても、大学にもサークルや部活があり、社会人チームのようなものもある。バスケができない年齢になっても観戦などをして楽しむことができる。

私は決して「高校から始めたのは間違いだった。」などと思って欲しくはない。だから、途中で辞めてほしくもないし、初心者でもどんどんバスケを始めてほしい。また、教師が入部拒否などをする権限もないと考える。

「先生ー!」

 遠くから声を掛けられた。暗くてよく分からないが、声を聞くに中野だろう。

「今日は遅くまでありがとうございました!また明日もよろしくお願いします!」


「気をつけて帰れよ!」

私としては、うちの中野がこれからもずっとバスケを楽しく続けられるのなら、指導者としてとても嬉しいことではないか。そう考えながら、私も帰ることにした。


42

「おい、お前が能勢か?」

「え?」

 昼休みで弁当を食べていた能勢に、一人の男が問いかけてきた。かなり身長が高く、頭は五厘の坊主頭。眉毛も同じぐらい薄く、眉間に皺を寄せている。

「そうだけど…。」

「…ふーん、聞いたとおり結構でかいな。何センチ?」

「186。」

「勝った。俺、189.8。四捨五入して190。」

「えっと…何の用?」

「ちょっと自転車置き場まで来いよ。」

 男はきつい口調でそう告げる。安穏とした昼休みに、急に暗雲が漂い出したと能勢は感じた。目の前の大男に、僕は何かしただろうか?

「弁当食べてからでいい?」

「…いいけど、早くしろよ。」

 …案外悪い人じゃないかもしれない。




自転車置き場は、校舎から少し離れたところにある。コンクリート作りの二階建てになっていて、外からは中が良く見えない。その内部は夏でもコンクリート特有の涼しさを感じさせる。

「お前さあ、最近調子乗ってるらしいじゃん。」

「え?」

 まさか、テンプレのようなヤンキーの絡み方をしてくるとは。人気が少ない場所とあって、能勢は少し委縮する。

「この前の練習試合で60点取ったとか。バスケじゃかなりヤバいんだろ?」

「そ、そうだけど。」

「でさあ、ちょっと頼みごとがあるんだけど。」

 ヤンキーの頼みごと?悪い予感しか浮かばない。

「…お金とか?」

「は?何言ってんの。」


「バスケ教えてくれってことだよ!」


「…は、はあ。」

「お前、女バスの桜ちゃんって知ってる?」

 桜ちゃんと言えば、女バスの中でも、いや、学年の中でも群を抜いて可愛いと言われている女の子だ。能勢は別に意識をしたことはないが、廊下を歩いているだけでも彼女の姿には目を惹かれる。

「桜ちゃんとは同じクラスなんだ。あの子さあ、この前男バスの試合を見たって話してたんだけど、そこでお前の名前が出てきて…。しかも、格好良かったとか言ってたんだぜ!」

「そうなんだ?」

「そうなんだじゃないぜ、もっと喜べって。…そんで俺も、こりゃバレーなんかやってる場合じゃねえなって。俺もバスケやって、その活躍を桜ちゃんに見てもらって…ああ、妄想が止まらないぜ!」

 あれ?もしかすると。

「バスケ部に入りたいってこと?」

「もちろん。俺がバレー部ってことは知ってる?」

「何となく。」

 そういえば、体育館の逆側のコートでバレーをやっている姿を何度か見た気がする。

「バレー部なんて、うちは坊主強制だし、練習は地味できついし…。バスケ部の方が格好良くて楽だろ?」

「そんな保証はできないけど…。バレー部、辞めていいの?」

「まあね、顧問からは絶対止められると思うけど、桜ちゃんを想うこの気持ちは誰にも止められないってことよ…。ってことで、よろしく頼む。バスケは素人だけど、俺、スポーツのセンス抜群だからすぐに上手くなると思うぜ。ちなみに、最高到達点は330cm。」

 自分でセンス抜群とか言うか?しかし、西商のバレー部は全国常連の強豪だ。そこでプレーしていたと言えば、相当の能力があるのだろう。330まで跳べればダンクもできそうだ。

「とりあえずバスケ部の先生の名前教えてくれよ!あ、俺の名前言ってなかったな。俺は高田賢治。一年二組だ。気軽にタカとでも呼んでくれ。」

(よくしゃべる人だなあ。)

「分かったよ、タカ君。よろしく。」



 新戦力が入ってきてくれるのは嬉しいことだが、ポジションはおそらく僕と被ることになりそうだ。将来、ポジション争いをすることになるんだろうか。

 ただ…言うべきか言わざるべきか悩むことだが、桜ちゃんと言えば大賀先輩と付き合っていたような…。いや、言ったら大変なことになりそうだ。このことは胸の奥に留めておこう、そう能勢は考えた。


43

「バレー部を辞めて、バスケ部に入るだと?…そんなこと、わしは絶対に許さんぞ!」

 後日、高田がバレー部の顧問である伊野家に会いに行くと、伊野家はそう高田に言い放った。皺だらけの顔を一層歪ませている。

「どうしてですか?俺はバスケがやりたいんです!」

「許せるわけがないだろう。お前は、これからこの学校のバレー部を引っ張っていける選手なんだ。その才能を無駄にはできない。」

「バスケ部を引っ張ることだってできますよ。」

 ちなみに今話している場所は体育館に付属している教官室だ。部屋には私と高田と伊野家先生の三人しかいない。

「そういう問題じゃない。お前は、バレーならプロだって目指せる程の能力がある。しかし、ここでバスケ部に入ってしまえばプロになるなんて不可能だ。経験、というものがスポーツにおいてどれだけ大事かお前は知っているだろう?」

「高校からバスケを始めて、NBAに入ったっていう選手だっていますよ。」

「…そうなんですか?黒沢先生。」

 急に話を振られ、少し焦る。最近では、ウクライナ出身のビッグマンがそうであったような…。

「確か、いたような気がしますね。並外れた才能の持ち主だったんでしょう。」

「俺にも、そのぐらいの才能はありますよ。強豪バレー部の一選手としてプレーするより、弱小バスケ部のエースとして活躍する方が花もありますし。」

 弱小バスケ部?初心者の癖にそこでエースになる?聞き捨てならないことを言っているが、彼は相当の自信家のようだ。しかし、190程の長身はバスケ部としては確かに魅力的だ。来てくれるのなら、歓迎したい気持ちはある。

「花があるとか、そういう問題じゃない。高校生だからモテたいってのは分かるが、バレー部で全国制覇を果たす方がよっぽど格好いいぞ?」

「それは肩書だけじゃないですか。バレーの試合を見るより、バスケの試合を見る方が興奮しますよ!最近、NBAの試合とかよく見るんですが、向こうのチームに面白いガードの選手がいて…。」

 伊野家先生が突然ドンッと机を叩いた。高田ははっとして話を止める。

「黙れッ!お前はバレーを馬鹿にしているのか!」

 伊野家先生は顔を赤くしながら怒鳴る。顔の皺が一層歪む。そもそも伊野家先生は多くの生徒から「怖い先生」との評価を受けている先生だ。学校でいきがっている生徒も、彼の前では大人しくなるというから、伊野家先生から怒鳴られて委縮しない生徒はそういない。高田も、流石に委縮しているようだった。

「スポーツってのは、人に見られる為にするものなのか?それじゃあ、お前は一体何故今までバレーをしていたんだ?バレーが楽しかったから。自分が上手くなっていくのが楽しかったから。勝つのが楽しかったから。そうじゃないのか?」

 そして伊野家先生は続ける。

「何を思って急にバスケ部に入りたいと思い始めたのかは知らんが、その理由は今までバレーへ重ねてきた努力を無駄にしてもいいものなのか?俺は、お前の輝かしい未来を期待して、こうして引き留めているんだぞ。」

「……。」

 高田は少し黙った後、こう言った。

「じゃあ…どっちもやりますよ。」

「何?」

「バスケもバレーも、どっちもやります。」

 その言葉を聞いて、伊野家先生はふっと笑う。

「お前は知らなかったかもしれないが、運動部と運動部の兼部はできないんだぞ。」

「じゃあ、バレーは中学の頃たまに行っていたクラブチームで続けます。あそこは夜練習をやっているから、バスケ部の時間とも被らないと思います。」

伊野家先生がまた真顔になる。

「バスケ部で練習してから、クラブチームでバレーの練習?そんなことして自分の体が持つと思っているのか。」

「持ちますよ。だって、俺ですし。」

「黒沢先生、あなたのところはそんなに楽な練習なんですか?」

「えっと、多分走るだけならバレー部よりやらせます。バスケ部の練習を楽なものだと思っているなら、止めたほうがいい。」

「でも、俺なら行けますって。中学の頃だって部活とクラブ一緒に行ってたし。怪我だって一回もしたことありませんよ。」

「お前の体が頑丈なのは知っているが…、しかし、俺としてはバレー選手として大成して欲しいし、バスケを練習する時間をバレーに充てて欲しいが…。」

「まあ最近はマルチアスリートを育てようという論もありますし、バスケ部としては歓迎しますよ。かの有名な、NBAで得点王に輝いたアイバーソンも高校の頃はバスケ一筋だったわけではないし。」

 私が高田に助け舟を出すと、高田はぱっと笑顔になった。

「そうですか!じゃあお願いします。」

「いや、しかし…。」

 伊野家先生は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「…分かった、とりあえず認めてもいい。」

「やった!」

 高田は椅子から跳びあがって喜ぶ。そして、鞄の中から退部届と入部届を同時に取りだした。準備の良い奴だ。

「じゃあ先生、これ受け取ってください。」

 高田は伊野家先生に退部届、私に入部届を渡す。

「バスケの用意はもう出来てるんで、今日から練習に参加してもいいですよね?」

「ああ。」

「じゃ、失礼します!」

 そう言って高田は嬉々として出て行った。教官室で伊野家先生と二人きりになる。


何か、気まずいな…。


「黒沢先生。」

「はいっ?」 

「二つ、約束をしてくれませんか。」

「…はい、何でしょう。」

「あいつに、怪我はさせないでやって下さい。特に足は。あいつの才能は誰よりも私が知っていますから。…もう一つ、あいつにもしバスケの才能がなくて、試合にも出せないようなレベルなら、先生があいつを退部させて、うちに返して下さい。…我が儘なことを言ってすみませんが、約束してもらえますか?」

 伊野家先生の語調に先ほどの厳しさはない。むしろ、我が子を労わる親のような慈愛に満ちた声だった。私としても初めて聞く声だ。

「私は彼の将来に夢を見ていた一人でね。彼は将来、バレーなら日本代表も狙える程の逸材だと思っていますよ。鍛えれば鍛えるだけ伸びていく。あいつに教えていて、私も楽しかったな…。」

「先生…。分かりました。約束しますよ。怪我に対しては細心の注意を払います。また、才能がないと見限ったらすぐに退部させますから。」

 私はそう先生に告げる。そして、時計を見るともう練習が始まる時間だったことに気付いた。

「すみません伊野家先生、これから練習なので、失礼します。」

「はい。」

 伊野家先生は目を閉じて椅子にもたれかかっている。私はそれを尻目に、ドアを開けてコートへ向かう。




「そうか、バスケか…。」

 ぼそっと伊野家先生が呟いた。



44

「フットワークが終わったらスライドシャトル五セット始めろ!」

「うげ…しんどいな…。」柳が弱音を吐く。


 大会まで一週間という時期に、高田という新しいメンバーが西商バスケ部に加わった。彼は元バレー部で、今年のバレー部の一年生の中でも抜きんでた能力を持っている選手だったらしい。

 スライドシャトルという練習は、エンドラインからコートの四分の一までダッシュ。そしてスライドで再びエンドラインに戻り、今度はハーフラインまでダッシュ、そしてスライドでまたエンドライン…といったように、だんだん距離を伸ばしながらラン&スライドを繰り返す練習だ。今西商がやっている走らせる練習の中では、1、2番を争う程、キツイ練習だ。

 高田がどのくらいの体力があるかを見る為にも、練習の始めに早速この練習を始めることにした。高田にスライドのやり方などを教えてから、練習を始めた。コートの幅にも限りがあるので、1セット3人ずつの練習となる。

「スライドはできるだけ鋭角で下がれ!後ろに下がろうとしてても練習にならんぞ!」




 そうして、練習が全て終わった。練習後のストレッチの時間に、高田は能勢に話しかけた。その額にはかなりの汗が浮いている。

「バスケ部って、普段からこんなに走るの?」

「うん、そうだね…。普段はこの2倍は走るかな。」

 能勢は笑いながら大げさなことを言う。高田は渋い顔をしながら頷いた。

「そうなのか…。思ってたより全然キツイな。これからバレーの練習もあるんだよ、俺。」

「えっ!?バレー部は辞めたんじゃないの?」

「クラブチームで続けることにしてさ。監督にバレーは辞めるなって言われたんだよね。」

「へえ…。」

 すごいな、と能勢は素直に感心した。この練習の後にまた練習をするなんて、考えたくもない。  

「お前ら、ストレッチ終わった?話があるらしいから、先生呼ぶぞー。」

「あ、終わりましたよ。」

 返事を聞いて、三谷が教官室に黒沢先生を呼びに行った。


「さて、遂に1週間後に大会が迫ってきたな。最初の地区予選の予定が送られてきたから、説明するぞ。まず、春季大会ベスト8のチーム及び、うちの地区からは7チームが県大会への出場権を手にすることが出来る。地区予選では1ブロック4チーム程が振り分けられ、そのブロックで優勝すれば県大会へ出ることが出来る。私たちは当然地区予選からのスタートだから、このブロックの試合を勝ち抜かなければならない。」

「で、うちのブロックの対戦相手はどこなんですか?」柳が急かす。

「1回戦は、白家しろや高校だ。この前に一度練習試合をしたところだな。あの時は勝ったが、油断はしてはならない。」

 五月中に複数の高校と練習試合を組んだのだが、白家高校はその一つだった。実力的にはさほどでもないものの、決して弱小ではない。

「2回戦は、あの正心高校と、みどり高校の勝者だ。ま、おそらく翠高校が上がってくることが予想されるが、ここはどんな選手がいるか知っている人はいるか?」

「翠…。」

 ボソッとつぶやいたのは能勢だ。

「能勢、何か知っているか?」

「えっと、中学の時の同級生がそこに行ってたと思います。」

「そいつは、上手いのか?」

「上手いですよ。すごく…。うちのキャプテンでした。県選抜の候補にも選ばれてました。」

「ほう…。」

 能勢の中学はなかなかの強豪だったという話を以前能勢がしていた気がする。そこのキャプテン、県選抜候補…。かなりの選手だと予想できる。

「で、ポジションはどこなんだ?」

「ガード…。ポイントガードです。」

 ん?能勢が、何か嫌そうな顔をしているのに気付いた。まるで、その彼の話をしたくないとでも言うような、微妙な表情だった。




「もう夏大会が始まるのか…。」

 僅かな照明に照らされたバスケットボールコート。ろくに整備もされてないゴールが、一人の男が放ったシュートを弾いた。

「悔いは残したくないな。」

 夜だというのに気温は低くない。ムシムシとした暑さが、夏の到来を告げるようだった。


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