第七十七話
前の更新から時間が空いてしまってすみません。
ボールがリングに弾かれる。鈍い音が響くと共に、1Q終了を告げるブザーが鳴った。
「くそっ…!」
三谷は悔しそうに拳を握る。
1Qは、完全に島上にペースを握られたまま進んでいった。
このクォーター、島上高校全体のFG%は、アウトサイドシュートをメインに据えたオフェンスであるにも関わらず、実に70%を数えた。
西商のディフェンスは決して悪くはない。しかし、タフショットもことごとく決めた島上のエース、小町大介。彼はこのクォーターだけで、三谷を相手に14得点を上げ、試合を30-16とリードしていた。
「すまない、俺のディフェンスが足を引っ張ってるな…。」
三谷はベンチに帰るなり謝罪する。田部が三谷にタオルを手渡しながら、その言葉を否定する。
「そんなことないです。他の誰かでも、あれは止められませんよ。」
「いや、三谷のディフェンスは決して良くなかった。」
そんな田部の言葉を遮ったのは、他でもない私だ。
「ヘルプには行かないし、自分が抜かれても、ローテーションもしていない。1on1の場面以外にも、お前のディフェンスが原因で失点する場面があった。なるほどマークマンのシュートチェックにだけは行ったのかもしれないが、ブロックも出来ずに何度もシュートを打たせていた。結果、これだ。お前のディフェンスがこの試合展開を呼んだと言って良い。」
「先生、それはあんまりでしょう!三谷先輩を出場させて、替えなかったのは先生じゃないですか!」
「そうだ、三谷先輩が可哀そうでしょう!」
部員達から非難の声が聞こえる。しかし私はうろたえる事無く、言い放った。
「…で?」
「結果を出せなかったのは三谷だ。このまま負けたら、序盤の流れを崩した彼が戦犯だとも言える。そして…、先輩のせいで負けそう、というのは、お前たちにとってどんな意味を持つ?それを聞きたい。」
「どう、って…。」
「俺達に責任はない、負けても構わない、という安心材料になるのか?それとも、先輩にそんな思いはさせられない。俺達で結果を覆す、という奮起の材料になるのか?」
「…?」
部員達は、何を言っているのか良く分からないといった様子だ。
「お前らはまだ一二年生。夏大会は来年も再来年もある。しかし、この試合に負ければ、三谷は引退だ。つまり、この試合が三谷にとって最後の試合となる可能性がある。この試合は数ある試合の内の一試合なんてものではない、ということを意識しろ。そして、今、その先輩のせいで負けそうになっている。そこで、じゃあ負けてもいっか、となるのか、先輩のためにも負けられない、となるのか、どっちなんだ。」
…数秒の間があった。
騒がしい会場の歓声が、どこか遠い世界から聞こえる音のようだった。
「要するに、気楽さを持つなって言いたいんだろ。」
まず話し始めたのが五島だ。
「…その通り。引退試合という感覚を共有して、この一戦を戦って貰いたいんだ。」
「それを言いたいが為に1Qずっと先輩を使ったわけ?馬鹿みたい。」
「ちょ、ちょっと五島君…!馬鹿みたいって…。」
能勢は、三谷と五島を交互に見ながらあたふたする。
「でも…。」
五島が何かを言いかける。それを遮り、大賀が口を開いた。
「でも、これで絶対に負けられなくなった。」
それを聞いて、五島は驚いたように目を見開き、少し笑った。
「…そうっすね。」
「三谷先輩。あとは僕たちに任せて、ベンチに座っていてください。後は、俺達が何とかします。」
そう言って大賀は三谷と目を合わせる。
三谷は笑い、無言で頷いた。
「監督、交代は俺を出して下さい。点取り合戦なら負けねえ。」
そう言って五島は上着を脱ぎ、ユニフォーム姿になった。私の言葉も待たず、コートに入る。
そして2Qの開始を告げるブザーが鳴った。
「…三谷。すまないな。」
私はベンチに座った三谷に話しかける。
「さっきお前が戦犯だと言ったが、あれは嘘だ。負けたら、間違いなく俺の責任だから、存分に責めてくれていい。」
「…別に。下手だったのは俺だし、責めるなんて権利ありません。それにしても、俺をダシにした言ったことは、そんなに重要なことだったんですか?」
「もちろん。今日、三谷の引退試合だと意識して、その感覚を共有することが出来ていれば、きっと、今日の試合では奴らは絶対に勝利を諦めずにプレーするだろう。そして、負けた時は、潔く泣けるはずさ。」
「泣く、かなあ…。俺だって別に泣かないと思いますけど。」
泣くさ。私は声には出さずに言う。
涙とは、自分でも分からないタイミングで流れてくるものだ。そして、そんな風に泣くことは、人間として成長するのにきっと必要なことだ。
雰囲気の変わった西商の選手達。しかし、簡単に試合の流れは変わらなかった。
もし自分が生徒だったら、こんなことする監督は嫌だなあとか思いつつ書きました。




