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第七十四話

 大鷲と分かれてから、受け取ったパンフレットを見てみる。次の対戦相手である、島上高校のページを探す。

 見つけた。写真は、横断幕をバックにした選手達が写っている。

 横断幕の文字は、その名の通り「島上」、たった二文字だ。

 横断幕には何らかのスローガンが掲げられていることが多い。そうではなく、ただの高校名とは。

 まるで、自分達が島上高校であることそのものを、誇示しているかのような、そんな雰囲気だ。


 再びパンフレットに目を通す。

 監督の名前は、佐々木紗枝…?女性だろうか?珍しいな…。

 選手の方に目を通すと、四番を付けているのは、なんとまだ二年生。

 名前は、小町大介。出身中学は…うちの小町と同じ中学だ。

 やはり兄弟だろうか。こんな珍しい名前が同じ中学に偶然集まることなんてないだろう。

 選手達は今観客席で着替え、片づけをしているはずだ。後で、聞いてみるべきだろう。


 チームの紹介文は、勇ましい言葉が綴られている。

 “超攻撃的なバスケットを目指しています!見ていて楽しいチームだと思うので、皆さん是非応援して下さい!”

 



 山岡総合体育館の周りには、広い公園がある。その隅に固まって、ミーティングを行うことにした。

「よし、皆集まったな?さて、今日はみんな疲れているだろう。長い話をするつもりはないから、集中して聞きなさい。」

 もう夏と言ってもいいぐらいの暑い日だ。手短に済まそう。


「まず、今日は皆お疲れ様。素晴らしい試合だった。一人一人の力があったから、最後の小倉のシュートが決まったのだと思う。もちろん、試合に出られなかった者も含めて、だ。…さて、今日の試合、序盤の圧勝ペースが崩された時、お前らはどう思った?柳、お前は?」

「俺は…正直、味方にイラつきました。何焦ってるんだ、って。」

「能勢は?」

「僕は…どうやって神谷さんを止めればいいのか分からなくて、情けなかったです。」

「ベンチから見ていて、三谷はどうだった?」

「オフェンスも、ディフェンスも、明らかに集中力を欠いていたように見えました。」

「小倉は?」

「俺は、実力的にはこの展開が当然だと思ったし、別に…。」

 私は、ここで一度全員の目を見渡した。

「そうだ。実力的には私たちと和城高校は大きな差はない。だと言うのに、お前らの中の何人かは焦り、イラつき、自責の念でプレーに支障をきたしていた。ここで、一度勘違いを正しておこう。」


「お前たちは、今大会に出ているどのチームよりも格下だ。“俺達の方が上”、そんな風に感じるチームがあったとしても、それは勘違いだ。」


 選手達の空気が変わったのを感じた。それは、私の言葉に対する反発なのか、それとも気落ちをしてしまったのか。

 私は咳払い一つして話を続ける。

「しかし、勝負というものは、常に格上が勝つようにできているわけではない。そうだろう?お前たちは、常に自分達が挑戦者であるという立場を自覚した上で、自分達の持てる力全てを出して勝ちに行くんだ。一つ言っておくが、自分達を格下と自覚しろと言うのは、自信を失えという意味ではないぞ。ハングリー精神を身に付けろと言っているんだ。」

「でも…バスケは特に実力差が出やすいスポーツだと言われていますよね。ハングリー精神とかで、なんとかなるものなんですか?」

 三谷がそう聞く。私は少し笑いながら答えた。

「確かにそうだ。しかし、実力というものは数値化されるものではない。大事なのは、気持ちの問題だ。ハングリー精神を持った人間は、実力以上のモノを出せる。今日のように余裕が無くなった展開が実力が出せないなら、それもまた実力が足りないということだな。…おっと、話しが長くなってしまったな。では、この言葉で締めくくろう。」

 私はもう一つ咳払いをする。


「私たちは、挑戦者だ。挑戦者が負けることを考える必要はない。明日の試合、絶対に勝とう。いいな!?」

 私は少し声を張り上げる。それにワンテンポを遅れて、選手たちも叫んだ。

「はい!!!」




 こうしてミーティングは終了。皆が荷物を持って引き揚げようとする時に、私は小町を引き留めた。

「あ、ちょっと小町、聞きたいことがあるんだが。」

「何すか?」

 小町は振り向いて少し目を見開く。

「次の対戦高である島上のキャプテンは小町という名前らしいが、お前と何か関係があるんじゃないか?」

 小町は、私と目を合わせたまま黙った。

 そのまま10秒が過ぎようとした頃に、私は再び聞く。

「あの、島上の小町…。」

 しかし、私の声を途中で遮るように小町は言った。

「知りません。」 

 そして、鞄を再び背負い、私に背を向けた。

「お、おい小町…!」

 私は小町の肩を掴んで引き留めようとした。しかし、小町は肩に置いた手を払い落してから、私を睨みつけ、変わらぬペースで言う。

「知りませんって。」

 

 …そして、小町は帰って行った。私は、何も言えぬまま公園にぽつんと立ちつくしていた。

(生徒に…いや、あの大人しい小町にこんなに邪見に扱われるなんて…!)

 教員生活もそう長くない私にとっては、少しショックだ。しかし、その小町の行為で、一つ確信した。

(確実に、あの二人は何か因縁がありそうだな…。)

 明日の島上戦。ただでは終わりそうにないな、と私は思った。


どうでもいい話ですが西商内では小町が一番の童顔、というか中性的な顔です。イケメンは小倉。

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