第七十三話
夏大会の一回戦を69-68で勝利した西商。息のつけない試合展開に疲れた黒澤は、役員席で少し休んでいた。
「よう、黒澤。」
そんな黒澤の前に現れたのは、大芸の監督、大鷲だ。
「あっ、お久しぶりです。大鷲先生。」
「先生だと?いつまで生徒のつもりでいやがる。大鷲さん、で良い。」
そう言って大鷲は快活に笑う。
「相変わらず元気ですね。」
口の悪さも相変わらずだ。そう言いながら、私は以前浦川と話した時のことを思い出す。
…大鷲監督は、癌だよ。多分、もって後半年ぐらいかな…。
信じられない。余命半年の人間が、こんなに楽しそうに笑っていられるのだろうか。
顔色も、別に悪くない…。いや、若干、黄色くなっている?それに、身体が何となく小さく感じるような…。
「おい、聞いてるのか、黒澤。」
大鷲の言葉で我に帰る。
「は、はい。」
「一回戦突破、おめでとう。まあ、頑張ったじゃねえか。」
「ありがとうございます。」
「試合の終盤だけちょっと見たんだが、危なっかしい勝ち方してるな。小倉がいなけりゃまあ勝てなかっただろう。」
「小倉を知っているんですか?」
「もちろん。中学では有名人だったからな。まあ、怪我でバスケ部を辞めたと聞いてたから忘れていたんだけどな。」
そうだったのか。確かに西商の中ではセンスが抜けている方だと感じていたが…。それなら何故、高校でバスケをまた始めたのだろう。
「小倉は和城にいた神谷と同じ中学だったはずだ。神谷の方は、大芸を拒んで和城に行くような変わり者だが、あの二人の間に何かあったのかもな。」
「同じ中学?そうだったんですか。」
「知らなかったのか。パンフレットにでも目を通しておけ。出身中学は書いてあるだろ。」
そう言って大鷲は私にパンフレットを手渡した。
「しかし今日の試合、終盤はセットプレーを多用していたようだが、止めとけ。何個も何個もセットプレーを教えるなんて時間の無駄だ。固まったプレーの中では柔軟な思考力を養えなくなる。何より大事なのは選手達が成長することなんだ。そうだろ?」
「そ、そうですか…。しかし、勝つためにはある程度は仕方ないでしょう。」
「馬鹿野郎。選手達が成長すれば勝ちは後からでも付いてくる。勝ちを必死に拾いに行くのなんてプロになってからすれば良いんだ。学生の頃は勝てなくたって良い。勝っても負けても、それは掛け替えのない思い出の一つになるんだから。」
大鷲の語調が少し激しくなった。しかし、彼の目は私を捉えてはいない。まるで、独り言を呟いているようだ。
「負けても最後は笑顔で握手ができる。それが高校生じゃないか。その大切な心を失ってまで勝ちに執着して何になる。大人たちはいつだって…。」
そこで、ハッとしたように大鷲は私の顔を見る。
「ああ、すまんすまん。別にお前に言っているわけじゃない。聞き流しておいてくれ。」
大鷲は乾いた笑い声を出す。
「…邪魔したな。じゃあまたな!」
そう言って大鷲は私の肩をポンと叩き、歩いていく。
私はその背中を見ながら、言った。
「大鷲先生!いつか、西商を大芸に匹敵するぐらいのチームにしてみせます!そして大会で対戦する、その時までどうかお元気で!」
大鷲を向こうを向いたまま歩を止め、しゃがれた声で呟く。
「先生じゃねえって…。」
そして、振り返って言った。
「早めにしてくれよ。」
大鷲は、何処か寂しげに笑った。
大鷲の苦悩。
昔と比べたら書き方は上手くなってきたかな?
『NBA』の方を書くよりも、こっちを書く方が二倍早く書けることに気付きました。




