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第七十二話

フェイスガード…ボールを持たせないようにするディフェンス

 59-62。4Qは残り四分を切り、西商は遂に、神谷のスリーにより和城にリードを許した。

(高田を入れたことによりオフェンスは実質四対五、得点が減るのは仕方がないが…。)

 それでも、チームで最も得点力のある小倉の得点パターンの筆頭は1on1。決して影響は大きくないと思っていたが、その小倉の不調により思っていたほど得点が伸びない。

 

 西商は次のオフェンスで、能勢がローポストでボールを受ける。マークマンは神谷。

 背中で神谷を押し込もうとするも、能勢の力ではビクともしない。

 仕方なく、ターンアラウンドシュート。

 …しかし、神谷の手がボールに当たる。

「触ったぞ!落ちる!」

 嘉藤が高田をスクリーンアウトで押し出す。リングに当たりもせずに落ちたボールは、素早く反応した師走が掴む。

「くそっ…!」

 大賀は悔しそうにディフェンスへ帰る。

 大賀とマッチアップしている師走は170cm。リバウンドでのアドバンテージはこちらにあるはずだが、ボールの跳ね方が相手に味方しているようで、リバウンドが取れていない。

 しかし次の西商のオフェンスではそのミスマッチを突き、大賀は師走に対してポストアップする。

 大賀と師走では、身長は元より、体重差が大きい。大賀は簡単に押し込むと、ゴール下でシュート。しかし、嘉藤がすぐにブロックに来る!

 これを見た大賀は、苦しい体勢から高田にパスを通す。高田はゴール下でフリーだった。

「えっ…。」

 高田は一瞬動きを止めた周りを見る。

「迷うな!ぶち込め!」

 柳の声を聞いて、高田は大きく膝を曲げる。そして、跳びあがる。


 ドガッッ!!!


「うわっ…!」

 ヘルプに跳んできた神谷が、ボールもろとも高田を吹き飛ばした!当然、ファールの笛が鳴る。

「すまん、大丈夫か?」 

 神谷は転んだ高田に手を差し出すが、高田は少し神谷を睨んだ後、一人で立ち上がる。

「痛ってえ…。」

「高田、怪我はないか?」

 私も心配して声を掛ける。

「いや、大丈夫っす。」

 高田は屈伸を一度してから、フリースローラインに向かう。


 フリースロー?


 しまった、高田はまだフリースローなんて決められない!

 そして、それこそが神谷が躊躇せずにファールに行った理由か…。

 

 審判が高田にボールを渡す。案の定、一本目は外れた。

(さっきの衝撃で、ちょっと目が覚めたかな…。)

 二投目。高田はボールを持ってドリブルを二回して、軽く息を吐く。

(俺は、高田。天才だよ…!)

 スパッ。

 高田は、二投目のシュートはなんとノータッチで決める!これで、点差は二点差。


 しかし、次のオフェンスで神谷はまたも高田からファールを誘い、フリースローを二本とも決める。

 残り二分半を切り、西商は攻め手が無くボールが停滞する。時間が無い、というところで、柳がドライブを仕掛ける!

 マークマンの坪井を突破し、二人のビッグマンのもとへ向かう。パスフェイクを混ぜながらのユーロステップ。大賀を見て、能勢を見て、そして…大賀を見ながら、レイアップ!

「ノールック…シュート!?」

 反応出来なかった神谷の頭上を越え、ふわっと浮いたレイアップは、リングにかすりもせずにネットをくぐった。

 おおっ、という声が観客席から聞こえる。


「上手い!」

 田部も思わず声を上げる。

「柳先輩って、実際オフェンス力は低くないよな、自分から点取りに行かないだけで。」 

「まあ、あのインサイドから何度も得点できるわけじゃないだろうけど…。」

 ベンチの一年組が言うとおり、柳のFG%はチームでもかなり高い方だ。しかし、そもそもジャンプシュートを狙わないスタイルで、身長が高くない為インサイドでの得点を狙う機会が多いわけでもない。良い言い方をすれば自分の能力に合ったクレバーなバスケをしていると言えるが、自分の得点できるポジションからでしかシュートが打てないとも言える。

(それでは、流れを変える一本とは言えない。)

 柳のシュートが決まって、点差はまだ二点差。ディフェンスで踏ん張りたいところだが…。




 俺が今コートに立っている意味は何だ?

 4Qの始めに偉そうな口を聞いたのは誰だ?

 俺の役割とは?

 エースの役割とは?

 

 ……。




 和城のオフェンスでは、神谷を何とか止めたものの、嘉藤にリバウンドを奪われる。そして、嘉藤は城にパスをして、城はジャンプシュートを決める。

 点差は再び四点差。西商タイムアウト。


 タイムアウト明け、西商はセットプレーにより、大賀が師走と一対一の状況を作り出す。そして、パワーと高さを活かしながらシュート決めて、二点差。

 しかし和城は、またも神谷が高田から巧くファールを貰い、フリースローを二本とも決める。


ここで、試合時間は一分を切った。

 セットプレーは、先ほどのタイムアウトで三パターンを指示していた。その二パターン目。

 能勢と大賀でハイロー。大賀をゴール下でフィニッシャーとして起用しようとするプレーだ。ハイポストに入った能勢はすぐにゴール下の大賀にパスを出そうとする。しかし、嘉藤、師走の二人が大賀を挟んできて、パスが出せない。

 それが駄目でも、そのプレーの発展形。能勢を起点にしたプレーを始める。

 柳が、ハイポストの能勢と肩をぶつけるような距離で通り過ぎると同時にボールを受ける。能勢の体が邪魔になり、柳のマークマンの坪井は振り切られる。

 しかし、柳には神谷が反応してくるが、柳はレイアップのモーションから、肩越しのパスを能勢に通す。能勢はこのミドルシュートを、丁寧に沈めた。

 能勢は肩で大きく息を吐く。気付けば、私も同じ動作をしていた。この時間の緊張感は、試合をしていなくても同じだ。手に汗を握りながら試合の行方を見つめる。


 66-68、二点差。ツーゴール差になるのは何としても避けたい。次の一本は、何としても止めなくては…。

 

 能勢は、体力を振り絞って神谷にフェイスガード。柳も、ボールマンの坪井に楽にパスを出させないよう、プレッシャーを掛ける。

 嘉藤も無視できない。大賀が、嘉藤に楽に中に入られないよう、身体を張って止める。

 師走や城がゴール下に走り込んだりして、ディフェンスをかき乱そうとしてくる。ベンチからも様々な声が飛び、ディフェンスは連携してカバーし合う。


 24秒計が、十秒を切る。

 そのタイミングで、スクリーンの振りをしてローポストで立っていた神谷が、急に能勢に対して面を張る!そこに、坪井からぴったりのタイミングでパスが入る。前半から何度も見せていた、ガードとセンターの見事な連携だ。

 ゴール下には、能勢と高田。簡単にかわすことはできない二人だ。

 神谷は、トップに立っている坪井をチラリと見た。そして、坪井へパスフェイク。これに、少し高田が身体を動かした。

「高田、パスは無視だ、ダブルチームに行け!」

 その声を聞いて高田が神谷の元へ向かうと同時に、神谷はエンドライン際を通るスピンムーブ!高田、能勢が二人とも置き去りにされる。

「あっ…!」


 遅れながらもヘルプに行こうとする大賀、しかし間に合わない。

 逆サイドのゴール裏から、神谷が回転をかけたシュートを放つ。

(これで勝ちだ!)

 



「どけろ大賀!」

 そう言ってブロックに跳んだのは、小倉!


 ガァン!!

 小倉は、神谷が放ったボールを、ボードに叩きつける!

 跳ねたボールは、大賀の元へ。

「ファールは…!?」

 神谷は審判を見る。


 審判は首を横に振った。


 大賀はすぐさま柳にボールを預ける。ゴール下に能勢、高田、大賀、小倉全員が集まったいた為、速攻は出せない。タイマーは20秒を切った。


 指示していた、三つめのセットプレーを始める。それは、地区予選で翠校相手に見せたプレー。


 エースの役割。それは、ラストショットを任されること。…そして、それを決めること。


 スクリーンを使って外に開いた小倉に、柳からパスが通る。時間は残り三秒。小倉はマークマンの師走を完全に振り切れていない。師走は必死にブロックに跳ぶが、小倉は構わずシュートを打った。


 神谷、俺は、今日お前を超えるよ。


 コートにブザーが鳴り響くと同時に、両ベンチ陣、そして観客が立ち上がる。

 三本の指を立てながら、片手を上げていた審判。

 



 その審判が、ゆっくりと両手を上げた。

 …スリーポイントインのジェスチャーだ。


「よっしゃあッ!」

 柄にもなく、ガッツポーズをする小倉。

「やった、逆転勝利だ!」

「小倉さん!」

 西商ベンチが歓喜の声に包まれる。いつの間にか立ちあがっていた私は、大きく息を吐いた。

 毎度毎度、こんな勝ち方ばかり…息が詰まる。




「69-68、西商業高校の勝利です。」

「ありがとうございました!」

 選手達が礼をする。それが終わると、神谷が小倉に近寄って、握手を求めてきた。

「やっぱり、格好良いな、お前は。」

「まあな。」

 ふっと神谷は笑う。そして、手にぐっと力を込めた。

「任せたぞ。勝てよ。」

「ああ。」


 こうして、夏大会の一回戦が終了した。


もうちょっと城や師走にも活躍の場を与えたかったとか思いながら、やっと一回戦終了です。

実際、翠の試合と同じような展開になってしまいました。本当は、あっさりと西商を勝たせるつもりだったのですが。このペースで書いてたら、一体いつこの物語は終わることやら。


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