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第七十一話

 4Q開始時点で、50-47と西商三点リード。しかし、神谷の猛追により流れは和城に掴まれていた。

 そこで私は、神谷に対して能勢と高田でダブルチームを掛ける作戦を取った。


 ダブルチームと言っても、二人が常に神谷にべったりと付くわけではない。通常のマークは能勢に付かせて、高田は神谷のいるサイドのゴール下に立つ。

 そして、能勢が神谷のドライブをウィークサイドに誘導する。ウィークサイドはディフェンスの弱点の一つで、通常のディフェンスをしている時にそこを突かれるとカバーに行きづらい。よって、オフェンス側からすればウィークサイドを狙おうとしてくることが多い。

 しかしそこで高田をすぐにヘルプに行ける位置に立たせて、逆に潰してしまおうという作戦だ。高田は最高到達点の高さならチーム一、さらにバレーの経験はブロックなどバスケのディフェンスにも応用できる…はず。


 …頼む。上手く行ってくれ。




「バスケでの、初公式戦か…。」

 高田はコートに入りながら、周囲を見渡す。

 選手達の荷物置きになっている部分を除けば、ほぼ空席はない。見渡す限りの人々が、各校を応援している。

 隣のコートからは、流行りの曲をもじったような掛け声が聞こえると共に、選手達の歓声、怒声、そしてボールの跳ねる音、バッシュが擦れる音。

 …へん。中学の全国大会の時と比べたら、何て事ねえや。

 強がりながら、高田はもう三歩進んだところで、考えた。


 …あれ、俺、何をしてこいって言われたんだっけ…。




 4Qは和城ボールから始まった。最初のオフェンスは、予想した通り神谷のアイソレーションだ。

 右サイドでボールを貰った神谷に対して、能勢は若干コートの中央よりの位置で構える。神谷は数回のフェイクの後、右ドライブを仕掛ける。

(抜かれたら駄目だ、少なくても横についてコースを限定すれば…!)

 能勢は必死に食らいつく。しかし、高田が予想していた位置にいないことに気付いた。

「高田君!?」

何故か逆サイドのゴール下にいた高田は、能勢の声を聞いて、ようやく動き始めた。しかし神谷は能勢と身体をぶつけながら、強引にシュートスペースを作り出し、レイアップ。

「うおおっ!」

 神谷が跳ぶと同時に、姿を現した高田。

 彼の跳躍は、早く、速く、そして高かった。


 バシィッッ!!!


 神谷の手から離れたボールが、隣のコートのベンチまで飛んでいく。高田のブロックはその音が如実に表わす様に、凄まじい破壊力を示した。

 ピッと笛が吹かれる。しかし、その笛はアウトオブバウンズを示すものでは無く、高田のファウルを宣告するためのものだった。

「えっ!?ボールだけでしょ!」

 高田の抗議も空しく、神谷にツースローが与えられる。

 しかし、高田を除いた、他の選手達全員、またこの試合を見ている人々のほとんどが茫然と高田を見ていた。

(何だ今のジャンプ…、異常なスピードと高さだった。跳び方から察するにバレー経験者か?)

 ブロックされた神谷も動揺を隠せない。普段はディフェンスとしてさほど意識もしない位置にいた選手が、自分のボールに触ってくるとは…。

「ドンマイ、ナイスブロック!」

 ワンテンポ遅れて、柳が高田に声を掛ける。高田は、ファウルの笛には納得がいかなかったようだが、渋々とフリースローレーンに立った。


 神谷は二投しっかり決める。これで一点差だ。

 西商は小倉にボールを預ける。小倉は、ショルダーフェイクでディフェンスを揺さぶりながら、少しずつ距離を詰める。

 ディフェンスがその動きに反応して後ろに下がった瞬間、小倉はジャンプシュートを放つが、このボールはリングに弾かれる。しかし、落ちたボールを高田が弾き、能勢が掴む!能勢はそのままシュートをねじ込んだ。


 ここから、得点の動きが少なくなる。和城は得点源の神谷がダブルチームにより攻め悩み、西商は小倉の不調をカバーしきれない。

 時計が五分を切ったところで、得点は57-55。僅かながら和城が詰め寄っていた。

 この流れを変えたのは、このたった一つのプレーだった。


 和城のオフェンスで、神谷が再びドライブを仕掛けた時。シュートまで行ける位置まで進んだが、神谷は高田を警戒し、ポンプフェイクを一つ掛けた。

 このフェイクに、高田は驚くほど簡単に掛かってしまう。あまりに見事に飛ばされたので、神谷の動きが一瞬止まってしまったほどだ。

 シュートのタイミングを逸した神谷は再びポンプフェイク。何と、これにも全力のジャンプで高田は応戦。つられて能勢も跳んでしまった為、神谷は、ワンテンポずらして、落ち着いてシュートを決めた。

(まさかこいつ…バスケ未経験者か?オフェンスには全く関わってこないし…。)


 もしそうなら、俺が狙うことは一つだ。


 西商は、柳のアシストで能勢がミドルシュートを決め、何とかリードを保った。次のオフェンスで神谷は、再びドライブを仕掛ける。

(高田君が間違えて跳んじゃったら、僕がカバーしなきゃ…!)

 能勢は神谷を高田の元へと誘い込む。しかし、神谷は直前でステップバックして、二人と距離を取りながらシュートを構える。

「その程度で、俺をかわせるわけないだろ!」

 高田は距離を詰め、ブロックに跳ぶ!しかし、神谷はシュートを構えるだけで跳んではいなかった。

 神谷はステップイン、高田と接触しながらシュートを放つ。

 そのシュートは能勢がブロックしたものの、再び高田のファールが吹かれた。


(初心者は面白いくらいフェイクにかかってくれるからな、ぽんぽんブロックに跳んでくれる選手からファールを誘うことは難しくない。これなら楽に得点できるぞ。)

 

「まずいな…。」

 やはりバスケの経験の薄さが弱点として露呈してきた。


 バスケは、オフェンスもそうだが、ディフェンスの能力というものは経験により培われていく部分が大きい。単純なフットワークはもとより、オフェンスの行動を先読みし、それを止める技術は一朝一夕で築かれるものではないのだ。

 それが圧倒的に足りない高田では、やはり荷が重すぎたか。

 

 神谷はフリースローを、これも二投きっちり決めた。

 西商は、再び小倉がボールを要求する。小倉はボールを貰った瞬間、ドライブを仕掛ける。マークマンを抜き、ヘルプに来た嘉藤の手をかわしながらシュート。

 これも、リングからこぼれ落ち、神谷がリバウンドを取る。

(-小倉、勘弁してくれよ…。不調なら無理なシュートは打たないでくれ。)

 柳は、ゲームコントロールも何もない小倉のオフェンスに少しうんざりとしていた。

(次は、小倉に渡さずに組み立てたほうが良いかな…。)




 神谷は、中学の頃、俺のようになりたいと言ってくれた。

 俺が怪我をした後も、口癖のようにそう言ってくれていた。今思えば、そこで俺は勘違いをしていた。

 神谷が県選抜なんて馬鹿げてる。俺の方が良い選手だ…そんな風に思っていた。




 和城ベンチから歓声が飛ぶ。

 59-59のスコアが、59-62へと変わった。


 神谷の、ガッツポーズが見える。




 あいつの方が俺よりずっと良い選手だ。……間違いない。

 



 ……でも。俺は……!


この試合は三話ぐらいで終わらせる予定だったんですが、思いの外長くなりそうで…こっちが一区切りついてから、NBAの方も進めようと思ってます。

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