第六十七話
もう一度トーナメント表貼っときます。
6月21日、土曜日。山岡県総合体育館には、多くのバスケットプレイヤー達が集まった。
晴天の下、県総体開幕である。
この体育館には春大会の県大会の時にも一度来たことがある。しかし、あの時は試合を見に来ただけで、ここで試合を行ったわけではない。
実際に試合を行うと意識をすると、その大きさ、観客の勢い、試合の空気に呑まれそうになる。
「この体育館って、こんなに大きかったっけ…。」
「あんまり意識するな。」
かく言う私も、心臓の鼓動が少し早くなっているのを感じた。
一度負けたらそれきりのトーナメント。何としてでもこの子達を勝たせてあげたい。
それに、昨日校長に言われた言葉も気になる。
成績が振るわなかったら、監督を解任?女子バスケ部の佐藤先生と交代?
たった数カ月の指導で、そこまでのものを求められるとは、まるで私立の外部コーチのようだ。
しかし、今回の試合では監督の指示が重要になる試合であるということは分かっている。
前回のOB戦で、高さのある相手には足を使った平面の勝負に持ち込むという戦略を部員達は取った。そして、それは正しい戦略だ。結果的に私たちは何度もターンオーバーをしてしまった。
ただし、問題となるのはそれを開始する時間だ。
オールコートプレスは強力な戦術だ。上手く行けば相手はゴールに近づくこともできず、逆に私たちはゴールに近い位置でボールを奪うことができる。しかし、オールコートで走り続けることは、多大なスタミナを要する。
私たちはまだ一試合を通してオールコートを走り続けるほどのスタミナはない。それ故、いつプレスを始めるか、その指示のタイミングが問題となる。
「西商は第三試合からだな。」
柳はパンフレットを見ながら言う。パンフレットには大会の日程、地区予選の結果、チーム紹介のことが書かれている。
「まだ時間はあるな…、おい中野、一緒に体育館の周り走っとかねえ?」
小倉は何気なくそう言う。しかし、この一言は緊張から来るものだろう。
「アップの時間は指示するから、今はリラックスして試合を見ておけ。変に疲れられても困るからな。」
現在は第一試合が始まったところだ。会場の雰囲気に慣れさせるために早く会場に集まらせたのだが、逆効果になっただろうか…。
とりあえず選手達は観客席に荷物を置かせにいき、私は役員席の方に向かう。
緊張しているのは皆同じだ。私は一つ深呼吸をしてから、役員席の扉を開けた。
「おっす、小倉。」
西商メンバーが会場に着くと、一人の大柄な男が出迎えた。
「…神谷か。相変わらずでかいな。」
「誰?」
「和城の、俺と同中の奴だよ。」
「ああ…言ってたね。」
柳は神谷を見上げる。190のツインタワーの一角とは、この男か。
「どうも、こんにちは。神谷って言います。」
神谷は何故か柳に向かってお辞儀をした。上級生か何かと勘違いしたのだろうか。
「中学以来だな。小倉がいるとこなら、絶対県大会には来ると思ったよ。」
「ギリギリだったけどな。和城は楽勝だろ、県選抜選手だもんな、お前は。」
「えっ、県選抜なの!?」
柳が食い付く。
「えっ、は、はい。…まあ、小倉に譲ってもらったみたいなもんですけどね。」
神谷の、その何気ない一言。それが、少し場の空気を変えた。
それって、どういうこと?と、柳が聞くより先に、小倉は神谷の胸倉を掴んだ。そして顔を無理やり引っ張る。
「要らんことを言うな。」
そしてぱっと小倉は手を放す。動転した様子の神谷を睨んでから、小倉は一人で歩いて行った。
「…すまんね、神谷君。何かあいつ、最近イライラしてるから…。」
「いえ、大丈夫です。」
小倉…心配だな。まだあのことを気にしてるのか?
神谷は歩いていく小倉の背中を見て、少し胸が痛んだ。
短めです。次から試合!




