表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/99

第六十六話

 市街から少し離れた小高い丘の上。山の斜面を無理やり平らにしたような所に、巨大な体育館がある。

 私立アチーブ学園の体育館だ。


 体育館はバスケットボールコート三面分の広さがあり、施設内の設備も充実。医務室やトレーニングルーム、更衣室にはシャワールームがあり、食堂も五十人程を収容できる。山岡県で最も設備の整った体育館だと言われている。

 しかしアチーブの校舎とは少し離れており、また授業用の体育館が別にあるので、普通のアチーブの生徒がこの体育館に入ることは滅多にない。

 今日も、その体育館からはドリブルの音が響いていた。


 アチーブの監督、西谷は指導の為、体育館へと向かっていた。

 体育館の扉を開けると、元気のいい声が聞こえてくる。

「西谷先生、こんちゃっす!」

 近くの部員が西谷に気付き、挨拶をする。それを聞いて、他の部員も走って西谷の元へ集まろうとしてきた。

 西谷は集まろうとする部員達を手で制する。

「いや、いい、いい。練習を続けていなさい。あと、張。ちょっと来て。」

「はい!」

 張と呼ばれた選手一人残して、他の部員達は離れてゆく。それを確認してから、西谷は張に尋ねる。

「オーリーはどうした?話はしたか?」

 張は首を振る。

「いえ、多分トレーニングルームで一人でウェイトをしているかと…。」

「そうか…。」

 西谷は溜息をつき、踵を返す。

「とりあえず、サブコーチの指示に従って練習しておきなさい。私はトレーニングルームへ行く。」




「何度言ったら分かるんだ。俺は故郷へ帰る。」

「オーリー、分かってくれ。お前の力がチームには必要なんだから。」

 オーリー、と呼ばれた選手は西谷の方を見向きをせずにベンチプレスをしている。黒々として、引き締まった上半身が見えている。

「チームに必要と言うなら、俺を使えよ!。前回の大会では平均でたった12分しかプレータイムが無かった。俺はベンチウォーマーになりにここに来たんじゃない。」

「日本の規定で、外国籍の選手は二人同時にコートには立てないんだ。張がスタメンでいるんだから、今は仕方ないだろう。」

 オーリーはベンチを置く。そして西谷の目を正面から見ながら言った。

「張?俺から見たら皆ただのアジア人だよ。張が誰なのか分からないけど、俺の方が強いに決まってる。」

「ゲームプラン的に、仕方がないことだ。張の身長はうちの最大の強みだ。今の山岡の大会では、彼を使うことで大きなアドバンテージが得られる。」

 オーリーは壁をバンと叩いた。

「それが、俺を使わない理由になるか!?張なんていなくたって、俺を出せば勝てていたはずだ!身長差に頼るバスケで、全国で勝ちあがれるか!?俺がこの国に来た目的は、前にも言ったはずだろう!」

 オーリーの身長は西谷より小さい。しかし、上から見下ろすような迫力で西谷を見ていた。

「帰らせてもらう。あんたのような監督なら、このチームの未来はない。」

 オーリーはタオルで体の汗を拭きながら、トレーニングルームの扉に手を掛けた。


 …その時だった。


ドン!と鈍い音が響く。


…西谷の手が、オーリーの口元を塞ぎながら、その額を扉に押し付けた。

そして右手を捻り上げて、背中に押し付ける。オーリーはあまりの力に、全く身動きが取れなかった。

「調子に乗るな。カス野郎が。」

 異様に、ドスの効いた声で、西谷が言う。

 オーリーも何か言いたげに口を動かすが、西谷の手により塞がれている為声にならない。

「俺を出せば勝てていた?張より自分の方が強い?思いあがるのもいい加減にしろ。お前の能力は張より下だし、付属の伊藤よりも当然下だ。俺の好き嫌いで試合に出すメンバーを決めているとでも思っているのか?お前を出すより張を出していた方が勝てる確率が高い。そう思ったからこそ張を出したんだ。」

 オーリーは束縛から逃れようと必死に抵抗するが、動こうとすればするほど腕が閉められ、悲痛に叫び出しそうになる。

「お前のその態度は何だ。監督さえも見下し、部員達を“アジア人”と一括りにして交わろうともしない。ガードとして、いや、バスケットボールプレイヤーとして最低だ。そんな選手が、満足に試合に出られると思うか?」

 西谷の顔は赤みが差し、剃りの深い顔は憤怒の色に染まっている。んんん、とオーリーが呻く。

「俺は負けることは許されない。私には私の目的がある。帰るなど、決して許さない。それでも帰ると言うなら…。」




 オーリーは日本語はまだ話せない。その為西谷も英語で会話を行っていた。しかし、その一言は日本語。そして、オーリーはその言葉の意味を感覚で理解し、震えた。


「コロス。」




 タッタッ…。

 扉の外から、足音が聞こえた。

 西谷は、はっとしたようにオーリーの体を解放する。オーリーは、その場に崩れ落ちた。

「自分に張以上の価値があると言うなら、それを見せてみなさい。そうですね…。ベスト8クラスのチームまでの試合なら、多めのプレイタイムを与えてあげましょう。あと、練習にはちゃんと参加するように。ね。」

 そう言って西谷は笑顔で、トレーニングルームの扉を開けた。






どこかで書きたいと思っていた話です。

結局夏大会前ギリギリに滑り込ませる形になりました。

他高校の普段の練習など、西商抜きの話などでも書きたいことはあるのですが、今の時点でそれをやっていると話が進まないので、とりあえずアチーブのことを欠きました。オーリーはアフリカ系アメリカ人。身長は175cmでポジションはSG/PGです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ