第六十三話
私、黒沢を含めた大芸OB対西商の試合。試合の序盤の内容を簡潔に言うと、あまりに一方的な展開だった。
こちらのチームがとったディフェンスは3-2のゾーンディフェンス。190台二人、180台二人とこちらは高さでは圧倒的なアドバンテージがある。その高さをどう攻略するか、というのが課題だった。
結果としては、1Qで20-0。西商チームは見事に一点も取れなかった。
「まあ、こんなもんだろう。」
大城が即席のベンチにどかっと腰を下ろす。198cmの彼は沖縄出身で、アメリカ人とのハーフだ。その肉体と運動能力を活かして、実業団でPFかSFのポジションでプレーしている。
その彼が、この1Qで遊ぶように6ブロックを記録し、インサイドで圧倒的な存在感を示していた。元々は大芸でCもやっていた選手で、インサイドでの守り方は心得ている。
「ところで、彼らには何も指示をしていないのか?流石にこのままやり続けていても実のない内容になりそうだ。ちょっと可哀そうだしな…。」
浦川がそう言う。彼の動きもまだまだ衰えてはいない。
「それはそうだが、私としてはできれば彼ら自身に攻略法も見つけ出してもらいたいんだ。」
「彼ら自身に?」
「そう。大人がああしろこうしろと言ってやり方を教えるのは簡単だが、それは本人達の力にはなりにくいだろう。自分達で考えるからこそ、より深く戦略が理解できるし、考える力が育てられる。」
ほう、と大城が呟く。
「黒沢も立派に監督しとるんだな。少し安心したぞ。」
大城はそう言って笑う。しかし、浦川は難色を示した。
「なるほどな。黒沢の指導は分かるが、本人達のレベルに合わせないといけないぞ。できる選手とできない選手がいるんだから。このまま彼らが何も見つけ出せず100対0で終わりました、なんてことになったら俺達だって報われない。」
「もちろんそうだが。」
私は西商の選手達の方を見る。
「…うちの選手達のレベルは決して低くないよ。」
「足を使おう。」
西商選手達の円陣の中で、まず第一に柳が声を上げた。
「ゾーン組まれたらとても敵わない。外からシュートを打って崩したいところだけど、チェックも速くて小町も小倉も決めきれないだろ。だから、メンバーチェンジをして速攻で攻める。小町と五島を交代、それと大賀と中野だ。」
「お、俺?」
中野が不安そうに自分を指差す。
「どうせリバウンドじゃ勝負にならないんだから、大賀より走れるお前だ。とにかく速攻。1オフェンスに10秒もかけない気持ちで、パス回しも早くしてどんどんシュートを狙おう。受け身になったら負ける。」
「体力だけなら、向こうより上な自信はあるしな。」
小倉も汗を拭いながらそう言う。
「よし、行こうぜ!おっさん集団に負けてたまるか!!」
柳は大声で叫ぶ。その言葉にこちらのチーム全員が反応したのは言うまでもない。
2Qのスローインは西商から。サイドラインでボールを受けた柳は、すぐに五島に向けてパスを出す。五島はキャッチ&ゴーでドライブイン。私が侵入を食い止めるも、身長差を活かしてすぐにジャンプシュートを打ってきた。しかし無理な体勢だった為かシュートはリングに弾かれる。
「ドンマイ!切り替え早く!」
瞬く間にディフェンスに戻る西商の選手達。
私がボールを運ぶと、大城がローポストで面を張る。しかし、マークマンの能勢に加えて小倉が下りてきて、大城を挟むようにしてパスを防ぐ。
しかし小倉のマークマンがフリーになる。私はそこにパス。
パスと同時に小倉は距離を詰めるが、パスを受けた彼はタッチパスで大城へ浮かせたボールを送る。
「んのッ!!!」
そこで小倉が驚きの反射神経でジャンプし、パスをキャッチ!
「五島!」
このスティールにいち早く反応し、誰よりも速く飛び出したのが五島。彼のマークは浦川だが、見事に振り切られている。
五島は小倉からのパスを受け、レイアップを決めた。
「よし、初得点!」
「いいぞ、ディフェンスだ!」
ベンチも盛り上がっている。西商の選手達が1Qとは打って変わって気迫の籠ったプレーをしているではないか。
「頑張るなあ。こりゃ、手を抜いたままじゃ失礼だな。」
浦川はスローインを受ける。
今までOBチームはオフェンスは非常に適当にしており、ほぼ大城にボールを集めて、寄ってきたら外に捌いてジャンプシュート、という単純なものばかりをしていた。しかし、西商の選手達の気迫に浦川が影響され始めたようだ。
浦川は自らボールを運ぶ。そして、自分は左サイドに寄りながら、右手のジェスチャーで私たちを右サイドに集めた。
浦川の、アイソレーションだ。
浦川のポジションはPG。身長は180cmと、日本人PGとしては大きい方だろう。
しかし彼の武器は決してその身長ではない。飛び抜けたクイックネスだ。
浦川は左手からレッグスルーをしながら少し身体を右に傾けた。
そして、右手からのストレートドライブ!五島はあっさりと抜かれて、浦川はレイアップを決めた。
「えっ…?」
五島が呆けた表情をしている。
浦川の得意のドライブは、一瞬止まって見える。そして、気付くと既に抜かれているのだ。彼が言うには、そのゼロスピードからトップスピードへの移行の速さこそがドライブの強さらしい。ハンドリングで崩そうとするタイプではないのだ。
懐かしいな、と思っていると、私の頭上をパスが飛んで行った。
「速攻ッ!!」
パスを受けた柳、前方には中野と小倉、そしてディフェンスは一人しか帰っていない。
柳は中野へのバックビハインドパスフェイク、そして小倉へパスを通す。小倉はレイアップを決めた。
「よし!」
小倉はガッツポーズでディフェンスへ帰ろうとする。しかし、それを柳が止めた。
「下がるな!オールコートだ!」




