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第六十二話

 大会が来週に迫ってはいるものの、学生の本分は勉強。今日の放課後の一時間は勉強の時間にすることにした。それが終わってから練習だ。

 そんな悠長なことでいいのか、と言われるかもしれないが、今日に限っては仕方のないことなのだ。

 今日は私の元チームメイトを呼びよせて、大会に向けての調整試合を行う予定を組んだのだった。しかし、平日、しかも前日に呼ばれて集まれるという人達がそういるわけでもなかったので、先輩や後輩も含めた多くの人にかなり無理を言って、遅い時間でいいならという条件で四人を集めることができた。

 彼らを待つという理由もあって、まず勉強会という予定にすることにしたのだ。


「テスト週間中に大会があるなんて、ついてないよなー。」

「別に西商のテストなんて簡単だろ。普通科の高校と比べてみろよ。奴ら、先週の大会の時、会場で問題集解いてただろ。奴らの方が必死だぜ。」

「普通科ならテスト期間中は部活自体なくなるじゃん…。」

「全部の高校がそうってわけじゃないだろ。特に今回みたいな時は。」

 柳の愚痴を小倉が聞いている。流石に良くないと思ったので、注意する。

「おい柳、集中して勉強しろ。お前は本当によくしゃべるよな。」

「ああ、よく言われます。お前は口から生まれたんじゃないかって。」

「なるほどな。いいから、黙って勉強だ。」

「ちなみに付属の選手達は、練習前に一時間勉強して、二時間練習してから、また家に帰ってから少なくても三時間は勉強するらしいぞ。別にテスト前だけというわけでもないらしい。」

 大賀が少し口を挟む。それを聞いて、全員驚愕する。ちなみに私もだ。

 今では偉そうに教員などしているが、高校生の頃は勉強にそれほど時間をかけてはいなかった。改めて、付属の選手達のすごさを思い知る。まさに文武両道…。




 五時ごろには勉強会を終えて、体育館に集まる。元チームメイト達には七時には来てほしいと伝えていたので、二時間ほど空いた時間がある。

 さて何をしようかと考えていたら、体育館の外に人影が見えた。

 浦川だ。私の世代の、キャプテンだった人だ。

「黒沢、久しぶり!」

「久しぶり!今日は来てくれてありがとう。そっちの方はいいのか?」

 浦川は、あの大芸で教員をやりながら、大鷲の下でコーチングを勉強している、と聞いていた。しかし、こうして直接会うのは久しぶりだ。

「もちろん大芸では練習があったんだけど、事情を大鷲先生に話したら許してくれたよ。あの人、西商が県大会に出てきたことはすごく喜んでたんだぞ。」

「そ、そうだったのか。まあ、当たることはなさそうだけど。」

「そうだな…、正直、当たらなくて幸運だと思うぜ。今の大芸なら、そこらのチームとやったら200点ゲームで勝てる。」

 200点ゲーム…!?

「大芸は、そんなに仕上がってるのか?」

「相当な練習をしてるよ。体育館を閉め切って、蒸し風呂みたいな温度の中で何時間も練習するんだ。今時、こんな練習をしてるのはうちくらいだろうな。」

 体育館を閉め切る…?とても現代の部活でやる練習とは思えない。聞いただけで、汗が出てくるような練習だ。体罰と言われても仕方がないくらいだ。

「あの人はなかなか古い指導をするからな。大きな声じゃ言えないが、普通に殴る蹴るぐらいの体罰はある。俺達の時よりも多くなってるかもしれない。U-15の山神も、一度俺の所に退部届を持ってきたぐらいだ。なんとか思いとどまらせたけどな。しかし、大鷲監督は死に物狂いで勝ちに来てるんだ。うちはバスケ部にかけてる金も違うからな。全国大会で名前を残すどころか地区大会でまた負けるようじゃ、いくら大鷲監督と言えどクビになるかもしれない。」

「それはそうかもしれないが…。私立の監督は厳しいな。」

「まあな。」

 そして浦川は一つ咳払いをして、少し言いにくそうに言った。

「それに、大鷲監督はもう長くないと思う。それを監督は自分で分かってるから、最後に勝とうとしてるんだろうな。」

「…長くない?」

 不穏な響きを持つ言葉だ。…まさか。




「大鷲監督は、癌だよ。多分、もって後半年ぐらいかな…。」




 六時半頃には、呼んだ四人が全員集まった。今日は、この四人に私が加わり、試合を行う。

「今日、彼らに教えたいのは、敵のディフェンスが固い時、特にインサイドにビッグマンがいるチームと戦う時の戦術だ。だから、オフェンスは適当でもいいが、ディフェンスは本気でやってくれ。」

 私は即席の大芸OBチームに指示をする。

「俺が奴らのシュートを全部叩き落とせばいいんだろう!?分かった分かった、やったるわ!」

 身長198cmの大城が野太い声で笑う。彼は今、実業団チームでプレーしている。

「西商のレベルはよく知らないが、今日のメンツなら完封できるかもな。」浦川が笑う。

「待ってくれよ。俺はもうずっとバスケから離れているんだ。まともに動けないかもしれない。」

 そう言う彼も190cm。OBチームの平均身長は、私を除くと約186cmだ。…私を除くと。

 とにかく、かなり有意義な試合になりそうだ。


 流石に来てもらってすぐ試合というわけにもいかないので、少しだけアップの時間を取る。皆、ストレッチやフットワークで体を温めている。

 私もドリブルやスリーポイントの練習をしてみるが、どうも調子が悪い。

「大鷲先生…。」

 癌。もってあと半年。

四月に会った時の元気な姿は、はりぼての元気だったのだろうか。

 現実的でありながらも、どこか遠い存在だった癌という病気。大鷲監督の死ぬ姿なんて想像もできなかったが、癌というワードを聞いただけで何故こうもリアルになるのか。

 西商の県大会出場を喜んでくれた大鷲監督。

(次、どんな顔して会えばいいんだ。)


 タイマーのブザーが鳴る。聞きなれたその音が何故か不気味なものに聞こえた。


癌についてのエピソードは若干実体験が入ってるとか何とか。怖いもんです。

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