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西商バスケ部監督物語  作者: のぶし
まとめ
7/99

27-32話まとめ

27

 春大会で地区予選二回戦負けを喫した翌日、私は土師校長に呼ばれた。用件は当然、バスケ部のことについてだった。

「聞きましたよ黒沢先生。春大会、もう負けてしまわれたんですって?」

 土師校長は白ひげを掻きながら、不満そうに足を組んでいた。

「ええ、すみません。私の力が及ばないばかりに。」

「県大会に出場してくれたら、私も見に行こうと思っていたんですが…。そんなに強い相手と当たったんですか?」

「そうですね。確かに手強い相手でしたが、決して勝てない相手ではなかったと思います。」

「ふーむ…。それは、黒沢先生の采配が悪かったという意味ですか?」

「え?いやまあ…そうかもしれません。」

 部員が悪かった、などと言えるはずもない。責任があるとしたら、私だ。

 土師校長は溜息を付きながら(そして白ひげを常にいじりながら)、こう話した。


「黒沢先生、勘違いしているのかもしれませんから言いますが、高校スポーツというものに、才能なんて言葉はいらないんですよ。結局は監督の指導力で選手の能力が決まるものです。私がこの高校の野球部の監督に初めて就任したとき、部員は皆、体は弱く、経験も浅い者達ばかりでした。才能豊かな選手なんていなかったでしょう。しかし、私はそのチームを必死に指導して、甲子園まで連れて行った経験があります。また、こんな話もあります。ある強豪校の監督が、別の弱小高と呼ばれる高校に転勤した時、転勤元の高校の成績はそれから低迷し、転勤先の高校は瞬く間に強豪校となった…。これらの話からして、何より大事なのは指導者なのです。試合に負けたのを部員のせいにしてはいけませんよ。」

「…なるほど。もちろん部員のせいにはしませんが…。」

 監督の指導力が全て、というのも間違っているような…。

「私は今でも覚えていますよ。教え子たちと甲子園に行ったあの日のことを…。共に育ってきた存在だからこそ、あの感動があったのでしょう。仮に選手の能力を過信して大した指導をしてなければ、試合には勝てなかったでしょうし、あの感動も無かったことでしょう。」

「はあ。」

「まあ黒沢監督はここに来てまだ日も浅い。流石にすぐに結果を出せというのも酷な話でしょう。…しかし、次の夏大会には期待しておりますぞ。」

 土師校長の目がキラリと光る。赴任当日に話した時には無かった、威圧感を感じた。

「…分かりました。必ず、結果を残したいと思っております。」


 指導力至上主義者は、どうも古豪の高校には多い気がする。昔はこれで勝てたとか言っている人間がそれだ。

 しかし、バスケットボールという競技においては、それだけでは勝てないと思うことも多々ある。どれだけ指導しても170cmの選手が200cmの選手からリバウンドを取るのは容易ではない。また、同じ中学で同じ監督に指導されていたとしても、部員の間に明らかな能力の差が出てくるものだ。

 ただ、バスケは才能ありきなので指導者は必要ない、と言っているわけでは当然ない。教え方次第で選手の成長するしないは大きく変わる。先ほど校長が話していた、監督が移転先の高校を強豪にした話も嘘ではないだろう。しかし、指導者の力量次第で勝ち負けが決まるということはない、と私は考える。特に高校スポーツのレベルでは、才能の差というものが嫌でも出てくる。私もそれを思い知らされた人間だ。




 …さて、ここで一度、山岡県の高校バスケットボール界の勢力図を確認したいと思う。これは、土曜、日曜の試合の前後に他校の監督と話をして確認したものだ。

 まず、山岡県には“ベスト4の壁”と呼ばれる物がある。常にベスト4以上は同じ高校の名前しかないことからそう呼ばれ始めたのだ。まずはその四校を紹介したい。

 現時点で山岡県最強と評されているのはあの大鷲先生のいる私立大芸高校だ。前回のウィンターカップでは二回戦負けだが、今年の新一年生に有望な選手が多い。特に、U-15の山神は即戦力として非常に期待されている。

 その対抗馬となるのが、私立アチーブ高校。通称“アッチ”だ。196cmの日本人と、197cmの中国人のツインセンターを擁する高校であり、県下トップの高さを誇る。大芸は最長身の選手が191cmなので、インサイドでは“アッチ”に分があるだろう。

 さらに、県立至誠報徳という高校だが、この高校には体育科がある。そのため練習量は県内でも一、さらにスポーツに関する様々な専門家がおり、優れた練習環境が整っている。しかしビッグマンには恵まれないためか(最長身は183cmだそうだ)、ここ数年はベスト4止まりの高校だ。

 最後が、山岡大付属高校。この高校はずっと昔から県内トップクラスの進学校であると同時に、バスケ部も県内トップクラスを維持してきた。入学してくる選手は、バスケも頑張りたいが、勉強も頑張りたいという意志を持った人間や、山岡県の伝統を背負っている高校でプレーしたいという人間が多い。それだけ、高い意識を持った選手が多い高校だ。他の三校とは雰囲気がまるで違うと評価されている。


 他、ベスト8以下はかなり混沌としている状態で、毎年顔ぶれが変わる。ここに喰い込むだけなら、西商ならできるはずだと私は考えている。

 ただ、ベスト4はどうだろうか。そう考えて来週の日曜日、練習を早めに切り上げて春大会の三位決定戦と決勝を見に行くことにした。


28

 5月4日、日曜日。春大会の最終日だ。今日は、女子準決勝、男子準決勝、女子三位決定戦&女子決勝、男子三位決定戦&男子決勝という順番で試合が行われる。

「よし、今日はもう練習は終わりにしよう。私はこれから山岡県総合体育館に試合を見に行くが、誰か一緒に見に行きたい奴はいるか?」

「はい!!!行きたいです!」と柳が一番乗りで手を挙げる。

 それに続くように、全員手を上げた。

「ちょっと待ってくれ。私の車は四人乗りだから、三人に絞ってくれ。」

「分かりました!おい皆、じゃんけん大会だ!」


 そのじゃんけん大会を勝ち抜いたのは、柳、小町、能勢だった。

「すまんな。残りは、自転車とか電車を使って行ってくれ。さ、早く着替えて準備をしろ。」

 部員達を部室に行かせて、私は教官室へ行った。中には私一人だ。

 ふとカレンダーを見ると、5月4日の所に、「必勝」と書かれているのを見つけた。私の書いたものではない。

 …ああそうだ、今日の試合には、西商の女バスも出るのだった。忘れていた。おそらくこの文字を書いたのは佐藤先生だろう。西商の女バスとしては初の優勝が懸かっているので頑張ってもらいたいものだ。




 山岡県総合体育館はこの県で最も大きい体育施設だ。サブコートが一つに、メインコートはバスケットボールコートが四面分以上ある。売店や更衣室なども多数設置されている。観客収容数もなかなかのものだ。

 会場に着くと、外からでも分かるほどの歓声が聞こえている。かすかにバッシュの擦れる音と、ドリブルの音が聞こえる。この雰囲気は何とも私の気持ちを高めてくれる。

「私は役員席で見るから、お前たちは二階席で見ておきなさい。」

「はーい。」

 柳らと分かれ、役員席に向かう。役員席と言ってもバスケットボールコートと離れた位置に椅子と机を置いただけの簡単なものだ。知り合いも特にいないので若干の気まずさを覚えながら、適当に空いている席へ座る。

 試合を見ると、女子の三位決定戦と決勝が行われている。そして、何と西商の女バスが決勝戦を戦っているではないか。佐藤先生が、ベンチの前で手をぶんぶん回すなど、大げさなジャスチャーをしながら何か指示を出していた。…しかし、スコアは4Q残り五分で、108-78と、三十点差がついていた。

 対戦相手は、私立和城わしろ高校というところだ。そして、190cmほどある黒人選手がいた。

 黒人の彼女は、どうもボール捌きはイマイチで、バスケは素人のように見えた。しかしインサイドでは大きな力を発揮しており、機敏かつパワフルな動きでジャンプもせずにリバウンドを取っていた。西商の選手は最長身が170cmほどで、為す術もない。西商の選手は高確率でスリーを決めるも、和城は彼女がリバウンドを取ってくれるので、セカンドチャンスをものにして得点を重ねた。

 結局そのまま西商は彼女を攻略できず、120-95で和城高校が勝利した。

 最後まで、佐藤先生が毅然とした顔を崩さなかった。そして、涙目になりながらベンチに戻ってきた西商の選手を、一人ひとり抱きしめていた。


「いやあ、良い試合でしたね。」

 不意に、横から声を掛けられた。

「あ、そうですね。…ええと…。」

「私は正心高校の、庄、と申します。西商の監督さんですよね。」

 正心と言えば、県内で有数の進学校だ。ただ、バスケ部があるのかどうかさえ知らない。

「はい、西商の黒沢と申します。正心ですか…。失礼ですが、あまり聞かない名前ですね。」

「ええ、今年、というか先日やっとバスケ部ができたところなんですよ。それでですね、色々なところに挨拶をしておきたいと思いまして。」

「そうなんですか。じゃあ、またうちと当たることもあるかもしれませんね。」

「そうですね。その時はよろしくお願いします。あと、また練習試合を申し込むかもしれないので、出来たらよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。…ところで、お若いようですが、おいくつですか?」

「今年大学院を卒業したばかりの、25歳です。黒沢先生は?」

「私も25ですよ!同い年だったんですか。」

 珍しいことだ。新任でバスケ部の監督を任される人が私以外にもいたのか。

「それは偶然ですね!じゃあ、どちらが先に優勝できるか、勝負ですね。」

 そう言って庄先生は笑う。

「望むところです。」

 私も笑った。…こんな監督同士の交流も、楽しいものだ。


 次試合の組み合わせを見ると、何と優勝候補の二番手だったアチーブ高校が三位決定戦に出ている。その代わりに、山岡大付属高校が決勝に進出しているようだ。準決勝は見ていなかったが、早くも波乱が起きていたようだった。

 決勝戦は、大芸対山岡大付属。三位決定戦は、至誠報徳対アチーブだ。

「アッチは負けたんですか!庄先生、準決勝は見ておられましたか?」

「はい。付属の四番の伊藤が40得点14アシストの大活躍をしていましたよ。アッチの中国人選手の張も30得点を上げていましたが。」

「へえ…。」

 付属の四番を見てみると、何とも整った顔立ちをしていた。身長は180程か。モデルをしていてもおかしくない容姿だった。

「イケメンでしょう。羨ましい限りですよ…。しかも彼、勉強でも校内トップクラスとか。」

「山岡大付属でトップクラスなんですか!めちゃくちゃ頭良いんですね…。」

「はい。ただ…、これは噂ですが、彼が付き合っている彼女はあんまり評判良くないんです。主に顔のことですが。」

「はあ。」

「でも、彼はその彼女の性格の良さを見抜いて、ずっと付き合っているらしいですよ。いる所にはこんな人もいるんですねえ…。」

 何で教員が他校の一生徒の下世話な噂話を知っているんだ?しかし、話を聞く限りでは…、

「何か、完璧超人って感じですね。…ところでその話、どこで聞いたんですか?」

「ああ、私は付属の出身なもので、教育実習で付属に行っていた時に聞いたんですよ。」

「なるほど。…えっもしかして付属のバスケ部だったんですか?」

 付属とは私が現役の頃も大会でよく当たっていた。しかし、庄先生の顔は見覚えがなかった。

「いや、バスケ部ではないです。というか私、恥ずかしながらバスケに関してはズブの素人なもので。」

 そう言って庄先生は頭を掻いた。素人なのに監督をやらされるというのは、正心高校はあまり部活動に力を入れてないのかもしれない。…色々と聞きたい事があったが、コートでは、遂に決勝戦が始まろうとしている。それは後にして、試合を見ることにした。


29

大芸高校

矢代170

浅井174

谷川183

山神191

実充190


山岡大付属

伊藤180

赤迫175

奥平185

藤間185

野山193


「藤間?誰だ?」

 大芸の監督、大鷲が隣に座っているサブコーチに聞いた。

「二年生みたいですね。珍しいですね、付属が夏大会に二年生を起用するのも。」

 パンフレットを見ながらサブコーチは答える。大鷲は険しい顔をする。

(どういう意味だ?うちの山神にぶつけてくるってことは、かなりのディフェンダーか?)


 付属の思惑は分からぬまま、試合は始まった。ジャンプボールは山神と野山が跳んだが、ここは山神が圧倒的な高さを見せつけて大芸ボールとなる。

 両観客席から、ベンチに入れなかった両高校の選手たちが大声で応援している。一瞬で会場の雰囲気が変わったようだ。この会場の多くの人間が、この試合に注目している。

「四番!」と大鷲が叫ぶ。四番はPF、つまり山神で得点しようとするセットプレイだ。

 このセットプレイに、いとも簡単にディフェンスが崩れた。最終的に山神がフリーでジャンプショットを決める。

(動きが遅いな…ディフェンダーではないかもしれない。)

 大鷲は椅子にも座らず、試合を眺める。山神はこの後も、得点を決め続けた。マッチアップ相手の藤間は、簡単に山神にやられていた。

 しかし、この試合の最初の主導権を握ったのは付属だった。


 付属のキャプテン、伊藤がボールを持つ。マッチアップする大芸の矢代は、身長差がある為べったりついてディフェンスをしている。しかし、伊藤はそれを嘲笑うかのように、ワンドリブルから少しステップバックして、スリーを放つ。これがノータッチで決まる。

 さらに次のオフェンスも、同じプレーでスリーを決めた。矢代のディフェンスは決して悪くない。むしろしっかりチェックができており、シュートを狂わせる効果は十分あるように思われた。

 しかし、伊藤は止まらない。今度はステップバックから、一気にドライブを仕掛ける。矢代は一瞬で置いて行かれ、ヘルプに来た山神をダブルクラッチでかわし、得点した。

 

 いーぞ!いーぞいーぞ!伊藤!いーぞ!いーぞいーぞ!伊藤!


 観客席の応援も熱が入ってきた。大芸は山神、谷川を中心に得点し、付属は伊藤が縦横無尽に、18得点4アシストの活躍。1Qを、大芸25対付属31で終えた。

 2Q、伊藤のパスから赤迫が連続でスリーを決めるなどしてさらに付属はリードを広げる。大芸は一旦タイムアウトを取り、選手交代を行う。


「あ!あいつ早見じゃねーか!」

 観客席の、五島が言った。早見は大芸の一年生で、この前の練習試合で五島がマッチアップした相手だ。その早見が、大芸の浅井と交代してコートに入った。

「一年なのにもう試合に出れるのか…。山神は別格としても…。」

 藤原が羨ましそうに言う。ちなみに、既に西商メンバーは自転車組が到着し、全員が試合を観戦していた。

「よく見たら、この前の練習試合の時のスタメンだった奴らは、全員ベンチ入りしてるんだな。」

 小倉がそう言った。上原、安部、国富もベンチに座っているのが見える。

「そりゃすげーや。強豪大芸だってのに…俺達がやられてもおかしくはないかあ。」

 中野がそう言ったが、誰も返事はしなかった。正直、誰もがあの試合のことは思い出したくはなかった。中野は高校から始めた初心者で、「~年バスケをやってきた。」という自信がなかったので、一年チームにあれだけやられたこともそこまでこたえては無かったのかもしれない。


 大芸は、伊藤のマッチアップを早見に任せ、赤迫を矢代にマークさせた。身長差を少しでも無くすためだ。

 しかし伊藤は早見のディフェンスをものともしない。シンプルなドライブで早見を抜くと、190cmの実光の目の前でストップしフェイダウェイを放ち、決める。しかし早見もトップの位置から、クロスオーバーを繰り返して横に伊藤を揺さぶり、フェイダウェイを決めた。

「負けませんから。」と、早見が伊藤に向けて言う。

「頑張れよ。俺に勝つには、今の君じゃ難しいと思うけどね。」伊藤は笑いながら答える。

 伊藤は次のオフェンスで、トップの位置から、先ほどの早見と同じようにクロスオーバーを繰り返した。しかし、早見は素早い飛び出しでスティールを決める。

「おっと!」

 一気に走りだす早見を、伊藤が追いかける。伊藤の方が若干足が速く、早見がレイアップをしようとしているのに対して、ブロックに跳んだ。

 しかし早見はレイアップのモーションから、パスを出した。パスの出た先は、山神だ。

 パスを受け取った山神は、力強くコートを蹴って跳ぶ。そして、豪快なツーハンドダンクを決めた。

「うおおおおおお!」

「やまがみー!」

「やべえ!あれで高一かよ!」

 観客席から様々な声が湧き上がる。このダンクから、大芸に流れが傾き始めた。山神のドライブをメインに得点を伸ばし、2Q終了時には50-51と、一点ビハインドまで追いついていた。

 ハーフタイム。10分の休憩が与えられる。

(何故、山神にあそこまで好きにやらせているんだ?藤間という選手はオフェンスでもぱっとしないのに、何故変えないのか…。)

 大鷲は考える。ここまでで山神は28得点だ。普通、大芸はここまで山神にボールを預けるチームではないが、決勝戦という状況の中で、山神の決定力に頼ってしまっているようだった。

 そして、平均6アシストはする山神がここまで0アシストなのも、不安要素の一つだった。


「山神か。確かに高い能力を持った選手だな。…しかしそろそろ、分かってきただろう?藤間、潰しに行け。」

「…はい。」


 付属は、何かを仕掛けようとしているようだった。


30

 アチーブ対至誠報徳の試合は、ハーフタイムの時点で40-33とアチーブの七点リードだった。

「アッチは188cmの金堂、197cmの張、196cmの田上にうまくボールを回して得点しているみたいですね。」

 私は大芸と付属戦ばかり見ていたが、庄先生は隣で行われているアッチ対至誠報徳の試合も見ていたようだ。

 至誠報徳のセンターは183cm。フロントコート陣の身長差は圧倒的だ。むしろ、よく40得点に抑えられたものだと感心する。


 3Q、大芸対付属戦では、大芸ボールから試合が再開する。PGは早見から矢代に戻っていた。

最初のオフェンス、矢代がドライブから谷川にパスアウトし、谷川がスリーを放つも外れて付属ボールとなった。

 付属は伊藤がスクリーンを使ってスリーを放つも、外れる。両チーム、点の入らない展開がしばし続いた。

 そして3Q開始から二分後、大芸は山神でアイソレーションを仕掛ける。マッチアップは藤間だ。

(俺が点を取らなきゃ…!)

 山神はシュートフェイクを一つ入れ、右にステップ、そして左にドライブ。しかし藤間が完璧なタイミングで前に入り山神を止めた。

「何!?」

(今まで全く反応して来なかったのに!)

 山神は焦ってボールをファンブル。ボールはサイドラインを越えて、付属ボールとなった。


「単純なフェイクだ。中学のレベルなら、ずっとそれだけで点が取れてきたんだろう。だが、高校レベルでも通用すると思うなよ?」

 付属の監督、大河原は不敵に笑う。彼の手元には、山神のプレイが細かく書かれた紙があった。

 山神が右ドライブを仕掛ける。藤間はこれも力強いディフェンスで進行を阻む。


 ・右ドライブをして止められたら、スピンかポストアップ。


 まさに山神はスピンを仕掛ける。それを読んでいた伊藤が、山神のボールをはじいて、マイボールとした。


 ・ゴールではなくエンドラインに向かってドライブした時は、ステップバックからジャンプショット。


 藤間が厳しくチェックする。ボールまで手は届かないものの、山神のシュートは外れた。


「分かりやすいな。技が完成されている分、対応は楽だ。」大河原が言う。

「くそっ…!」

 山神は連続のミスに、悔しそうに顔を歪める。反対に藤間は、楽しくて仕方がないと言った表情だ。

「安心したぜ、U-15って聞いたからもっとやる選手かと思ったけど、たいしたことなかったな。」

 藤間が山神に声を掛ける。

「…まぐれのディフェンスで、良い気になってんすか。」

「まぐれ?いやいや、前半は手ぇ抜いてただけだから。俺は、本当は山岡一のディフェンダーだぜ?」

 山神は、眉間に皺を寄せながら藤間を見る。

(…どうせただの挑発だ。ここはムキにならずに、先輩にパスを回していこう。)

 しかし付属のディフェンスは、ディレクションにより山神の方にボールを入れやすいようにする。結局山神にボールが入る。


「山神が怖いのは、あれだけの能力を持ちながらパスで回りを活かすのも上手いことだ。しかし、ボールを預けられる状況で得点することに縛られるか、またパスをすることに縛られれば…、うちの藤間なら、止めるのは難しくない。」

 大河原が呟く。


 山神はドライブを仕掛ける。今度は、あっさり藤間を抜いた。

「攻め気が無いの、バレッッバレなんだよ!」

 抜かれた藤間は山神の背中側から手を回してスティール。先ほどの山神のドライブは明らかにスピードが緩かった。パスを回そうと考えていたためだ。

 付属は速攻を決める。50-57。大芸の得点が止まったまま、点差が開いて行く。


 また大芸がオフェンスに失敗した時、大鷲監督はタイムアウトを取った。

「お前ら、山神がボールを持った時に足を止めてるんじゃない!山神に合わせろ!山神はいつも通りのプレーをすればいいんだ。無理に点を取ろうとするな。」

 大鷲が指示を出す。

「安部、山神と一旦交代だ。得点は浅井と谷川を中心に取っていくぞ!」

 一年生のSF、安部を投入する。安部は、高いディフェンス力を持った選手だ。

「矢代も、伊藤が相手だからって弱気になるなよ。谷川はもうちょっと我が儘に攻めてもいいぞ。お前なら点が取れる。浅井、赤迫は対してディフェンスの良い選手じゃない。ただ、一人抜いた後にスペースがあるのかを確認してドライブをしろ。」

 矢継ぎ早に指示を出していく。選手たちは黙って聞いている。

「さあ、追い上げるぞ!」

「オッス!」


 試合はここから互角の展開となった。大芸の谷川がここから当たりだし、スリーやドライブで得点を重ねる。付属は谷川に藤間をマークさせてきたが、今度は浅井のドライブが付属のディフェンスを切り裂く。

 付属は、センターの野山が左利きを活かした独特なポストムーブで得点を重ねる。山神が抜けたことでインサイドのプレッシャーが少し緩くなってしまい、193cmの野山に楽なプレーを許していた。

 4Qが始まってからも、展開は変わらず、点差は大きく動かなかった。


「すごい試合ですね…。」

 庄先生も、こちらの試合に見入っている。

「両チーム、レベルが高いですね。」

 それに、ベンチワークも優秀だ。まるで試合が付属の監督が描いたストーリー通りに進んでいるように感じる。しかし、大鷲監督も簡単に試合の流れを持っていかれないような采配をしている。


(大河原の野郎、やりやがるな。)

「山神、行くぞ。さっき言ったことを忘れるなよ。上原、お前もだ。わしがここでお前を出す意味、理解してるだろうな?」

 大鷲は再び山神、そして一年生ガードの上原を投入する。4Q、残り七分。75-80で大芸五点ビハインドだ。


31

「ここで山神と上原投入か。」

「山神は分かるけど、なんで上原をここで出すんだ?あいつよりは矢代って選手の方が上手そうだけど…。」

 練習試合で実際にマッチアップした柳が疑問を口に出す。

「ゲームメイクって点では、矢代の方が上手いかもしれないけど。」

 五島が試合を見ながら答える。

「得点力では、圧倒的に上原の方が上だと思いますよ。」


 交代が行われてから、直後のオフェンスで、上原はボールを持った。そして、一、二と前に出るステップでドライブを仕掛けるフェイクをしてマークマンを後ろにずらすと、即スリーを放った。

 次のオフェンスでも、上原はスクリーンを使ってスリーを放つ。次のオフェンスでも上原は一本目と同じようにドライブに行くフェイクから三本目のスリーを放った。伊藤が厳しくチェックに来ているが、この三本のスリーを全て決める。84-82で、遂に大芸が逆転した。

「誰だあいつ!?」

「今年の大芸の一年、すげえ!」

 大芸応援席を中心にギャラリーがさらに盛り上がり始める。上原は、涼しい顔をしながらディフェンスに戻っている。

「上原か…確か山岡県中学県大会準優勝チームのキャプテン。アベレージ15得点程度の選手だって聞いたが…。」

「監督、俺あいつとチームメイトだったんですけど。」

 不意にベンチに座っていた選手が言う。

「うん?」

「あいつ、確かに普段はそこまでスコアラーってわけじゃなかったんですが、決勝戦では50得点、FG70%を記録したんですよ。」

「何だって?」

 とてつもない成績だ。

 しかし、それは彼は得点力の浮き沈みが激しいという選手ということなのか。

 それとも…ただ、普段は点を取りに行かないだけなのか。

「問題ない。伊藤なら止めてくれるはずだ。」

 エースを、信じるしかない。


 付属のオフェンスでは、赤迫がスリーを狙うも入らず、大芸ボールとなる。再び上原がボールを持つ。

 ボール運びの時点で、すぐに伊藤が激しくプレッシャーをかける。上原はたまらずボールを浅井に渡した。

「ごめんね、もうシュートは打たせないからね。」

 伊藤は上原がボールを持ってない状態でも、べったり付いている。

「さっきのはただのまぐれっすよ。」

「そのまぐれで負けましたって言う訳にはいかないから。」

 伊藤は、あくまでも手を抜かないつもりだ。上原は、少し溜息をつき、足を止めた。

 そして、一気に走りだす!ゴール下のスペースが空いていた。浅井が素早くパスを出す。

 パアン!と伊藤がパスを弾いた。そのまますぐに拾い、速攻を仕掛ける。伊藤は、前を走っていた赤迫にパスを出す。しかし、これは浅井がスティールを決めた。

 

 お互いにディフェンスに力の入った時間が続く。得点は大きく動かず、残り一分足らずで91-90。

「いける。奴ら、かなりバテてきてるぞ。」

 大鷲が呟く。

 そもそも付属は進学校で、バスケの練習に大きな時間を割けない。その分、スタミナに難点があるチームなのだった。

 それは付属のエースの伊藤も例外ではなかった。上原はシュートは打たないまでも、ゴール下へのカットなどで走り続けて、かなり伊藤を消耗させることに成功していた。上原を厳しくマークすることを続けた結果、伊藤のそれまでのスピーディーなプレイは失われていた。

「十分、役割を果たしてくれたな。」

 大鷲は満足そうに頷いた。


(足が重い…。)

 上原は再びゴール下へカットした。

「またか!」

 伊藤は追いかけるが、振り切られそうになる。必死に付いて行こうとした時、上原が急に方向転換し、コーナーへと走り出す。さらに、実充がスクリーンをかけて、伊藤の動きを封じた。そこに浅井からパスが入る。

(決められたら、四点差。落ちてくれ!)

 上原はスリーを放つ。会場は静まり返って、誰もがボールの行き先を見つめていた。

 伊藤の願いは届かず、ボールはリングに吸い込まれていった。残り三十秒ほど。大芸ベンチは勝利を確信した喜びの声を上げる。

「ここまでやってくれるとは、期待してなかったな。」

 大鷲は驚きと喜びの半々が混じった顔を見せる。


 大芸の選手たち、誰もが気を緩めたと言っていい。誰もすぐには気付かなかった。

 伊藤が走っていたことに。


 すぐにロングパスが入った。いち早く反応したのは浅井。すぐに追いかける。

(まだ走れる足があったのか…。しかし、そのスピードなら追いつける!)

 浅井の足は、今の伊藤よりかなり速かった。反応は遅れたが、スリーのライン近くで伊藤のすぐ後ろまで追いついた。


 ここで、伊藤は急ストップ。シュートモーションに入る。

「えっ!?」

 浅井は伊藤にぶつかる直前身をよじってかわそうとするも、急には止まれずぶつかってしまう。伊藤の背中が、浅井に乗っかる形になった。

「うおおっ!」

 伊藤が叫びながら倒れる。しかしその時既に、伊藤はシュートを放っていた。


 弾道が低い。私、黒沢はこのシュートは外れると思った。しかしスリーショットが与えられるなら、まだ試合の行方は分からないな、と考えていた。

 しかし私はその数秒後、今まで聞いたことのないような、まさに、会場が割れんばかりの大歓声を聞いた。

 伊藤はシュートの行き先を確認した後、倒れたままガッツポーズを決める。すぐに付属の選手たちがのしかかるような勢いでやってきた。

「よっしゃあああ!!!」

「ナイシュー伊藤!」

「最高だぜ!」

 付属の選手たちが歓喜の声を上げる。

 低い弾道のボールはボードにぶつかり、リングに吸い込まれた。スリーポイント成功、カウントワンスロー。四点プレーと呼ばれるめったに見られないプレーが、この決勝戦残り数十秒、四点差の場面で決まった。これで盛り上がらない訳がない。


 伊藤は付属の選手たちに抱えられながら立ちあがった。浅井は俯いたまま、座り込んでいる。

「こらあッ!!!」

 不意に大芸ベンチから大声が上がる。大鷲監督だ。

「まだ負けてねえぞッ!下を向いてんじゃねえ!」

 必死の鼓舞だ。実際、今94-93で、フリースローが決まっても同点だ。付属のスタミナを考えれば、勝つ確率の方がずっと高いだろう。

 選手たちがフリースローラインに集まる。伊藤は、何度かその場で屈伸を繰り返した後、ボールを貰った。

 そして貰った瞬間、リングに向かってシュート。いや、ボールをぶん投げた。

 ガアン!と鈍い音が響き、ボールは伊藤の真上に跳ね返り、それを伊藤が跳んでキャッチした。そしてシュートモーション。

(ありがたいね!)

 大芸の選手たちは、まさに全員が伊藤のシュートを止めようと寄ってきていた。それを見た伊藤は、ゴール下の野山にパスを出す。野山は軽く、シュートを決めた。


「ヘイ!」

 山神がボールを呼んだ。すぐにエンドラインから実充がパスを出す。そしてボールを受けると、山神は恐るべき勢いで走りだす。

「止めろ!」

 付属の監督の大河原が叫ぶ。しかし、付属の選手は既に足が動いておらず、山神はそのまま一人でボールをスリーのラインまで運んだ。

 そこで山神の目の前に立ちはだかったのは、藤間。

「行かせねえ!」と藤間。

「行け!」と大鷲監督が言う。


(どうする…!?…あ!)

 山神が選んだのは、逆サイドで走っていた谷川へのパス。完全フリーだった。


「だと思ったぜ!」

 藤間が、飛び出してそのパスをスティール。

「赤ぁ!」

 大鷲監督が叫ぶ。赤?おそらくファールゲームの隠語だろうか。すぐに谷川が、藤間に対してファールした。


 しかし、藤間はきっちりとフリースローを決めた。その後も大芸は谷川のスリーなどで得点を狙うも、付属に追いつくことができず、結局大芸は付属に追いつくことが出来ず、96-99で、付属が優勝を決めた。




「面白かったよ。」

 伊藤が山神に握手を求める。山神は一瞬戸惑いながら、握手をした。

「まだ春大会だろ?リベンジ、待ってるぜ。」

 そう言ってさわやかに去っていった。

「自分が最強だとか、調子乗ってんじゃねえぞってことだよ。」

 藤間も山神に声を掛けながら去っていく。

(俺のせいで…。)

 山神は茫然と立ち尽くす。会場では、コートやベンチの片づけが始まっていた。

 すると、山神の尻を誰かがひっぱたいた。

「いてっ!」

「じょぼくれてんじゃねえぞ。」

 大鷲だ。

「こんなところで負けるのは初めてですってか?でもな、負けることは悲しいことじゃないし、恥ずかしいことでもないんだ。大事な大事な、経験だ。次に繋がるものだぜ。まあ、自分次第ではあるが。」

「…。」

「最後、パスしたことについては何も言わねえ。でもな、今日の試合で、自分の課題は分かっただろ?藤間に、感謝しとけよ。」

「…はい。」

「さあて、帰るぞ。夏の優勝目指して、吐くまで練習させてやるからな。」

 大鷲はそう言って、歩き出す。大神は少し笑って、

「勘弁して下さいよ~。」

 大鷲と一緒に、歩き出した。


32

「お前ら何帰ろうとしてるんだ!片づけを手伝いなさい!」

「げっ!マジッすか…。」

 のんびりと出口の方に歩き出していた西商の部員達を引きとめる。

 試合会場の片づけは、別に私たちがやらなければならないということはないが、これ礼儀のようなものだ。良い試合をしていた選手たちにあまり負担を掛けさせたくない。

 会場では片づけの為選手や役員の人間が目まぐるしく動いている。私も突っ立っている訳にはいかないので、役員席の片づけを始めた。


 今日の試合を見ていて私は思った。今の西商と彼らは、レベルが違いすぎる。

 それは単に能力の差だけではなく、勝利への執念であるとか、チームとしての完成度、戦術のレベルだ。限界を超えて走り続ける姿勢や、セカンドメンバーでも戦力が落ちない層の厚さ。

 また、ベンチワークにおいても、私の力の無さを痛感させられた。敵チームの選手への対策や、自チームの選手の使い方、交代のタイミングなど、深いレベルで理解しているのだろう。

特に付属の大河原監督は敵チームの選手への対策がしっかりと出来ており、大鷲監督は自チームの選手の使い方を心得ていると感じた。思えば南北高校との対戦の時も、熊代監督はこちらのチームのことを研究していたことを匂わせる発言をしていた気がする。

 しかし私は、相手チームの研究なんてしてはいなかったし、自チームの選手についても能力をしっかり把握できていなかったのではないか?その辺が、南北との試合に敗北した原因ではないのか。

 校長先生に言われた「指導力」の話。私は「正直、才能があるかないかが大事だろう。」と考えていたが、何とも滑稽ではないか。私は西商の選手たちの才能を全く活かせてないのだから。

 そもそも私に監督としての才能がないのでは?


「黒沢先生?」

「えっ?」

 後ろから急に声を掛けられた。振り向くと、佐藤先生が立っている。

「急に立ち止まって、どうしたんです?」

「すみません、少し考え事をしてまして。」

 どうやら私はスチール椅子を手に持ったまま固まっていたようだ。なるほど変な人間に見えても不思議ではない。

「悩み事ですか。」

「はい。…私、監督としての才能がないんじゃないか、って思ってて…。」

「才能?」

 佐藤先生はプッと吹き出す。

「じゃあ黒沢先生は、才能がないから辞めるって言うんですか?」

「いや、そういう訳では…。」

「監督なんて、経験がモノを言うものですよ。才能なんて気にしない気にしない!名将って言われるような監督も大体は年寄りですし。」

 …確かに。

「何か心配事があるなら、確かもうすぐ『山岡県コーチクリニック』があるので、そこに行ってみたらどうですか?というか私も行くので、一緒に行きましょうよ。」

「それは行きたいです!」

 そう言って佐藤先生の顔を見てみると、笑顔の中に、うっすらと、涙の痕があるのを見つけた。

 試合後の毅然とした彼女の表情を思い出す。もう少しサバサバとした人間だと思っていただけに、そのギャップに、少し心が動かされるのを感じた。


ちょっと本編と内容が違ったり、誤字が修正できてないかもしれません。

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