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第五十四話

 54

 第3Q、残り八分。翠のキーマンである寺原にダブルチームを仕掛ける作戦が成功し、47-45と西商二点リードとなった。

 翠のオフェンスで寺原がボールをハーフコートまで運ぶと、再び柳と小倉がダブルチームを仕掛ける。

(ダブルチームくらいで、この俺を完全に止められると思ってるのか?)

 寺原はステップバックで一旦距離を取る。そして、柳と小倉の体の間に潜り込むような低空ドリブル!

(抜いてやったぜ!…あっ!)

 寺原が姿勢を直そうとした瞬間、目の前に立っていた選手とぶつかる。小町だ。

 小町は大げさに倒れ、審判が笛を吹く。寺原のチャージングだ。

「はあ!?」

 寺原は気に入らないという声を出すが、タイミングは完璧にオフェンスファール。審判は取り合わない。

「ナイスディフェンス!」ベンチ陣も盛り上がる。

 翠の監督、糸井は苦い顔をする。

「三人目だと…!?」

 寺原にダブルチームが仕掛けられることは、翠にとって想定内ではあった。しかし、西商の、ダブルチームが破られた後の三人目の対応は驚きであった。

「…これも作戦の内か?」

 糸井は黒沢の方を見る。


「今のは、小町の独断だな。」私は三谷に話しかける。

「あいつは意表をつくプレーをしますよね。いつの間にか視線の外にいる。」

「ああ。そしてあいつの動きが一番活きるのが、ハーフコートオフェンスだ。」


(この小町って選手は、スクリーンを使うのが上手そうだな。)

 先ほどの2Qの終わり頃、小町は連続でスリーを決めている。どちらのスリーも、小町はスクリーンを利用してフリーになってから、シュートを放っていた。

 そのことを見ていた武田は、小町の動きとスクリーンに目を光らせる。

「…スクリーン!」翠の誰かが、スクリーンが仕掛けられたと声を出す。

 武田は一瞬、自分にスクリーンが掛けられたかと、後ろを見る。しかし、スクリーンはPGの寺原の方へ掛けられたものだった。

 そして、小町の方に視線を戻す。…しかし、誰もいない。

「あっ!」

 武田が気付いた時にはもう遅かった。小町はゴール下に飛び込み、柳からパスを受けていた。

 インサイドの要、向は、マークマンの能勢がスクリーンを掛けに外に出て行った為、外に釣りだされていた。小町はノープレッシャーでシュートを決める。

「す、すみません!」

 武田はチームメイトに謝る。いち早く反応したのが寺原だ。

「ディフェンス気ぃ抜いてんじゃねえ!」

 他の三人は、仕方ないといった感じだ。


(…お前だってミスしてるじゃん。偉そうに。)

 武田は心の中で毒づく。


 その後も翠は攻めあぐねる展開が続く。西商はダブルチームに行く二人を除いた三人は、ゾーンディフェンスのような形で守っていた。インサイドは能勢と大賀で守りながら、ジャンプシュートの得意な武田は積極的にカバーする。翠の小島や一色はシュートが得意でないが、結局ディフェンスの薄い二人にボールが集まり、彼らが仕方なく打つというオフェンスになっていた。当然、得点が伸び悩む。

 その中、西商のオフェンスでは一人の男が躍動していた。


 小倉のスリーが外れる。そのリバウンドを、能勢が腕を伸ばして取った。そのままシュートを決める。

(創造以上に手が長い…!スクリーンアウトの外からでもリバウンドを取られてしまう。)

 向は機動力がない分、パワーを活かしたポジション取りによりリバウンドを取っていく選手だ。しかし、能勢はそれをものともしない。

  背中側からでも、腕を伸ばしてリバウンドを奪う。

 再び、小町のスリーが放たれる。向はとにかく外に能勢を押し出そうとする。

 しかし、向が能勢を押す瞬間、能勢はスピンして向の前に回り込む。そのまま、逆に能勢が向をスクリーンアウトした。

 小町のスリーは、リングに当たって遠くに跳ねた。そのボールは調度、向の方へ落ちていく。

(危ない、また取られるところだった。)

 向は安堵する。

 しかし能勢は、上半身を逸らしながら、指先でボールを巻き込むようにしてリバウンドを奪取した。

 そして再び、ゴール下シュートを決める。

「何本やられるんだよ!」寺原がまた噛み付く。

 向は茫然として能勢の後ろ姿を眺める。

(手が長いだけじゃない。指も長い…いや、指先でボールを掴む力が強いのか。)

 向は自分の手を見る。短くて太い、不器用そうな指だ。

「才能か…。」

 向は目の前を走る一年生を見ながら、呟いた。


 翠は次のオフェンスも失敗した。外れたボールを、能勢が取る。

「ヘイ!」

 柳がボールを呼ぶ。しかし、能勢はそのままドリブルを付いて、猛然と駆け上がった。

「能勢!?」

 驚く柳を数歩で追い越し、能勢は速攻のトップを走った。今までの西商とは違うリズムに、翠のメンバーも反応が遅れ、付いていけない。

 …ただ一人を除いては。



 能勢は、スリーポイントのライン辺りでドリブルを止め、右足、左足で踏みきる。

「調子に乗んなッ!」

 その能勢の後ろから、寺原が跳んだ!

「高い…!」

 172cmの寺原が、リングに手が届く程の跳躍を見せた。

 まさか、PGが能勢をブロックするのか?私は、ベンチから立ち上がった。




 ドガッッ!!!

 能勢が、寺原を吹き飛ばしながら、リングにワンハンドダンクを叩きこむ!


「ダンクだ!」

「ダンクが出たー!」

 会場が熱気で包まれる。皆、信じられないといった表情で能勢を見つめる。

 能勢は黙って、倒れた寺原を見下ろしていた。

(勝った。寺原君に!)


 寺原はうつ伏せで倒れたまま、震えながら地面を見る。

「能勢が…この俺を?」

 能勢は、ダンクを打つ手とは逆の手で、寺原の手をなぎ払った。その際に寺原はバランスを崩し、派手に転倒してしまったのだ。

「この…くそ!」

 寺原は怒りのままに立ち上がろうとする。その時に利き手を地面につけると、手首に鋭い痛みが走った。

「いてえっ!」

 寺原はそう叫び、手首を抑える。不審に思った審判が駆け寄った。

「大丈夫かい?」

「いや…。」

 寺原は手首を抑えて、顔を歪める。その姿を見て糸井がタイムアウトを取った。


「寺原は怪我みたいだな。」

 西商ベンチで、柳が言う。

「寺原は試合を続行するのか一旦ベンチに下がるのか知らないけど、利き手を怪我したんじゃ、もう満足にプレーはできないだろ。向は不調で、寺原は怪我。こりゃ、勝ったも同然だな。」

 実際、既に55-45と、十点差をつけていた。流れは完全に西商にある。

(良かった、こんなところで負けていては、また校長にどやされる。)

 得点板を眺めながら、私はそんなことを考えていた。


「どうした?」

 翠ベンチで、糸井が聞く。

「手首が痛い…倒れた時に、無理な受け身をしたのかもしれねえ。」

「分かった、無理をするな。一旦ベンチに下がって氷で冷やしておけ。」

「でも…!俺がいねえと…!」

 寺原は糸井を見る。

「大丈夫だ。お前がいなくても勝てるはずだ。」

「はずだ、って何だよ!勝たなきゃいけねえだろ!」

「勝つ。なんたってうちには…。」

 そう言って糸井は向を見る。

「向がいるんだ。負けるはずがない。」

 そう言って向の肩に手を置いた。


 誰より驚いたのは向だ。今日のパフォーマンスでは、チームのお荷物と言われても仕方がないはずなのに。

「向って…何の気休めにもならねえよ。こいつに任せて勝てるわけねえだろ!」

「勝てるさ。このチームで一番努力してきたのは誰だと思ってる?」

 努力?その言葉を聞いて、向は先ほど能勢の才能をひしひしと感じたのを思い出す。努力をしてきたからといって、あの才能に敵うのだろうか?

「向。今日のお前は調子が悪いかもしれない。統計学の観点から言っても、今日はお前を使わない方がいいことは誰にでも分かる。向こうのセンターの能勢は、一年生とは思えない程のプレーヤーのようだ。しかし、お前が今までしてきた努力を、俺を知っている。お前の三年間を、俺は信じてもいいか?」

 俺の三年間…。向は思い出す。

 一年生の頃、俺は体がでかいだけの何もないプレーヤーだった。チームで一番下手で、走ることもできない。バスケのような走りっぱなしのスポーツに、俺みたいなデブは向いてない。毎日、辞めようと思っていた。

 しかし、バスケが嫌いには、どうしてもなれなかった。毎日、吐きそうになりながらも練習を続けた。

 二年生のいつだったか。俺は山岡市内トップクラスの技巧派センターと言われ、翠校の中心選手として扱われるようになった。

 決して悪い気分ではなかった。技巧派という言葉にはどこか知的な響きがあったし、俺のような図体のでかい選手が技巧派なんて、それだけでおかしいではないか。俺が三年になる来年には、翠校は強豪校になっているだろうというのがもっぱらの評判だった。

 しかし、いざ三年になってみると、チームは変わってしまった。一年生の寺原の加入により、俺はチームのエースではなくなってしまったし、彼とするバスケは息苦しかった。

 結局春大会でも、本来の力を出し切れずに島上高校に負け、地区予選敗退となった。

(俺は…どうしてまだバスケを続けているんだ?)


 答えは決まってる。バスケが大好きだからだ。

「俺は、いや、俺達は勝つ。信じてくれ、寺原。」

 誰がエースかなんて、どうでもいい。俺はバスケが好きだから、ゲームに勝ちたいからプレーしているんだ。寺原を変に意識する必要がどこにあるんだ。

 才能がある方が勝つと決まっているわけではない。勝利への執念。何より大切なものを、俺は忘れていたようだ。


 寺原は、向の堂々とした眼差しに声を失った。糸井はそれを見て頷く。

「よし、それでは寺原を一旦交代。PFには金を入れて、他のポジションは一つずつずれろ。ディフェンスはマンツー。オフェンスは向にボールを集めろ。この時間が正念場だ。気を引き締めろよ。」

「よし行こう!」

「オス!」

 向が先導し、翠メンバーはコートに入る。

(さあ、ここからがバスケの楽しい時間だ。)

 向は楽しそうに肩を回した。


この話は、最初に書いたものが何故か消えてしまった為、書くのが二回目なのです。しかし、何故か文字数は一回目に書いた時より千文字程増えています(笑)


西商書き始めの頃はただバスケを書こうとしか思っていなかったのですが、最近はバスケの中でドラマを描こうと努力しています。面白いかどうかは分かりませんが(^^;;

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