第五十二話
トランジションゲーム…攻防の切り替えをが早い(展開の早い)ゲーム。
翠がトランジションゲームを始めてから、点の取り合いの時間が始まった。翠はその後寺原がスリーを沈め、武田がミドルシュートとゴール下へのカットインで得点を決めると、西商は小倉のドライブと能勢のポストプレーで得点する。寺原がフリースローを貰うと、柳がユーロステップでディフェンスを翻弄しながら大賀の得点を演出した。
しかし、2Q残り三分頃には、30-35と5点差を開けられていた。
(しまったな…タイムアウトを取るのが遅かった。)
結局西商はここでタイムアウトを取る。
「いいかお前ら、このまま点の取り合いを続けてもこの流れは変わらない。流れを変えるのは何だ?言ってみろ柳。」
「え?えーと…派手なプレイ?」
何だと…。私は目を閉じて溜息を吐く。聞く相手を間違ったか。
「小倉!」
「ディフェンスです。」
私は頷く。
「そう。ディフェンスだ。ディフェンスで相手の流れを止めて、こちらの流れに持ってくる。和馬というプロバスケ選手も言っていた。『ディフェンスとは、防波堤のようなもの。激しい波を止め、そして、跳ね返すのだ。』、と。」
「よし、皆ディフェンスの意識高めていこうぜ。パスランでディフェンスが崩されるのは、気を抜いているからだろ。マークマンがボール持ってなくても、常に声出して足動かして、皆でディフェンスしていこうぜ!」柳がそう言いながら拳を突き上げる。
「よし。」
「やりましょう!」
何故、先ほど頓珍漢な答えをした柳が皆をまとめるんだ?しかし、チームの士気は上々だ。
「盛り上がっているところすまないが、一旦メンバー交代をしよう。二試合目だから疲労も大きいだろうしな。田部、小町、中野、藤原、出てくれ。ええと、一人残さなくちゃならんが、誰が残る?」
「俺が残ります。」
そう言ったのは、大賀だ。
「インサイドがいいようにやられとったのは、やはり俺の責任ですわ。速攻についていくこともできなかったし…。」
「いや、俺が残る。」
大賀の声を遮ってそう言ったのは、小倉だ。
「寺原にやられたままでベンチに座りたくねえ。絶対に俺が残る。」
(またこいつらか…。)
私はうんざりしながら、コートを見る。既に、翠の選手たちはコートに集まっている。
「じゃあ、間をとって能勢だ。行けるな?」
「えっ?」
「ちょっ。何でそうなるんだ?間って何の間だ?」
大賀は不満げだが、私は耳を貸さない。
「時間ないんだから、ほら、早く行きなさい。」
田部に押されるようにして能勢はコートへ行く。
それを見送ってから、小倉と大賀に話しかける。
「悔しいと思うなら、3Qに見せつけてやれ。向こうもベンチメンバーを出してきているし、寺原もいない。そんな時間に勝ったって仕方ないだろう?」
「あ、ああ…。そりゃあそうだが…。」
「私たちにできるのは、一点でも点差を詰めてくれるよう応援するだけだ。」
2Qの残り時間は、小町がスリーポイントを二本連続で決め、能勢のオフェンスリバウンドを取ってのシュートや、中野がパスカットからの速攻を決めて得点した。
しかし、再びコートに立った向が力強くゴール下やミドルシュートで得点を重ね、追いつくまでには至らなかった。結局、2Qを終わって40-45と5点ビハインドは変わらなかった。
「向さん…1Qは全然圧力を感じなかったのに…。」
能勢は汗を拭きながら言う。
「やっと本調子かな。スタメンに戻されたら苦しくなるかも。」
「そうだな、あれは能勢一人じゃ止められないかもな。」
去年の向を知る柳と小倉はそう評する。しかし、能勢は別のことを考えていた。
(多分、向さんは寺原君と一緒にプレーしてる時間は自分のプレーが出せなくなるんじゃないかな…?)
向の1Qの頃の苦しそうな表情を思い出す。しかし、先ほどは点を決める度に笑顔が見えた。
まるで…、中学の頃の僕みたいだ。
こら能勢ェ!シュート外してんじゃねえ!
走れよ!足止めんな!
パス出せよ!俺フリーだったぜ!?
…あーあ、あそこでお前がシュート決めてたら、準決勝まで行けてたのにな…。
パス出さなきゃ良かったよ。
…いや、もう言わなくてもいいや。
どうせ同じチームではもうやらねーし。
中学の頃、寺原から言われた言葉がフラッシュバックする。準々決勝で、決勝のシュートを外して敗退した時のことを思い出す。
最後のパスは寺原から来た。コーナーの、スリーポイントのラインの少し内側の位置だ。
そのパスはジャンプシュートを打たせるには低すぎるパスだった。しかし、時間が無かった。
彼は今も何も変わっていない。能力は一流かもしれない。しかし、自分の思い通りにならなければ罵声を吐き、他人の気持ちなんて考えない。
…正直、彼と再び会いたいとすら思っていなかった。確か今朝会った時に、彼は「能勢ぐらいのセンターがいるなんて羨ましい」などと言った。その時は少し、彼も性格が変わったのかな、と思っていたが、今思えばただの皮肉だったのだろう。
準々決勝が終わった後、僕は何も言い返せなかった。最後のシュートを外したから?いや、寺原が怖かったからだ。
今、この試合でも消極的なプレーしかできなかった。寺原の存在が、心の中で大きなプレッシャーになっていた。
「…何か悔しいな。」
タオルで顔を覆い、めちゃくちゃに汗を拭う。そして僕は、タオルの中で密かに笑った。
…見返してやろう。
今回、次回は能勢という選手を描くにあたってすごく大事な回となるはずです。ただ、次の更新は遅れるかもしれません…。
あと、本文中に出てきた和馬というプロバスケ選手は架空の選手ですが、彼の言葉はとあるフォロワーさんから頂いたものをちょっといじったものです。




