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第五十一話

「練習の成果が出せてないな。」

 1Qが終わり、2分間の休憩の時間が与えられる。その二分の間にミーティングを行う。「特にディフェンス。柳は簡単に抜かれ過ぎだし、そこからのローテーションが悪いから簡単にパスで繋がれて点を取られている。向が一本も決めてないのに救われているだけだ。」

「いやあ、あいつは早過ぎっす…。でも、外を捨てるなら多分止められます。」

「確か、試合前に庄先生が言っていたが、寺原はジャンプシュートも打てるらしい。外を捨てるのは上策ではないな…。」

 かといって、寺原に好き勝手やらせ続けるわけにはいけない。五島にマークを変更させるか…?いや、昔よりは幾らかマシになったものの、五島はまだディフェンスで期待できる選手ではない。

「…そうだ。」

 私は、一つ対策を思いついた。


「あーあ、誰かさんのせいで負けてるな…。楽なゴール下シュートなのに、四連続で外すとか、やる気あんのかなあ…。」

 寺原が、隣に座っている向に聞こえるように嫌みったらしく言う。向は、溢れ出る汗を拭いながら、俯いている。

「寺原、雰囲気を悪くするようなことを言うな。しかし向、お前のところは80%は決めてくれなきゃ、この試合計算できん。」

 翠の監督、糸井が、黒縁メガネを光らせながら言う。

「私の計算では、これから向がFG60%以上まで持ち直してくれなければ、この試合に勝つのは難しいぞ。…とりあえず一旦向を下げよう。金、代わりに出ろ。」

「は、ハイ。」

 金と呼ばれた選手が上着を脱ぎ、ユニフォーム姿になる。細身の選手だが、身長は180cmを超えている。

(何やってんだ俺は。この試合は俺にとって、最後の試合だぞ…!)

 向はタオルを握りしめる。向が座っている二人分のベンチから、ミシミシと音が鳴った。


 2Qの始まりを告げるブザーが鳴る。その音を聞き、再びコートに両チームの選手たちが出てくる。

 向こうのメンバーが変わったのにいち早く気付いたのは柳だ。

「向が下がったのか。スタミナのある選手じゃないし、調子悪かったみたいだしな…。」

「代わりに出てきた人は、どんな選手なんですか?」能勢が聞く。

「知らね。一年じゃね?まあ、お前より小さいし細そうだ。お前のとこにボール集めてやるから、点取ってくれよ。」

「え、はあ…。」

 能勢は気の乗らなそうな返事をして、ベンチの向を見る。ああしてベンチで俯いている姿を見て、能勢は心が痛むのを感じた。


 翠校は再びボールを寺原に。ここまで全てのオフェンスに寺原が関わってきている。彼は1Qで、自ら八得点を決め、5アシストと味方の得点も演出していた。

「お?」

 寺原は、目の前のディフェンスを見て素っ頓狂な声を上げる。

 彼のマークマンは小倉に替わっていた。

「ここで俺に来るってことは、ディフェンスに自信がある感じかな?だりーなあ。」

「嬉しそうに言ってんじゃねえよ。」


 今、西商でペリメーターのディフェンスが一番出来るのは小倉だ。スピードのある選手だし、この夏にウェイトトレーニングをストイックにこなし、身体も一層強靭になった。

 そして、小倉のもともとのマークマンである小島は170cmで、ここまでほぼオフェンスに関わっていない。それならば、柳に小島をマークさせ、小倉を寺原に当てればいいと考えたのだ。

(しかし、もし小倉でも止められなかった時はどうする?)

 一抹の不安を感じながら、2Qが始まる。


 寺原は武田にパス。武田はローポストの金にパスをし、金は逆サイドに小島にパスを出した。

(急に、球回りが良くなったぞ。)

 翠はパス回しを繰り返す。そして、トップの高い位置にいる寺原を除く四人が、スクリーンを掛け合いながらポジション移動を繰り返した。

「金ゴールへ切れろ!」

 寺原は味方に手や声を使って指示を出す。金が、能勢の逆をついてゴール下へ飛び込んだ。そこへ小島から絶妙なパスが入る。大賀がヘルプに行くも届かず、金がシュートを決めた。

「さっきの、セットプレーか?」

「かなあ。走り回ってるだけにも見えたけど。」

 無秩序なパスラン。それを一声で得点に繋げた寺原。翠は、まだオフェンスのパターンを隠し持っているようにも見えた。


 西商のオフェンスでは、小倉のスリーが外れ、リバウンドは武田が拾う。武田はすぐに寺原にパスを出した。

「走れ!」

 寺原はボールを受け取った瞬間フルスピードで駆け上がる。西商は、今までのゆっくりとした翠オフェンスの意識があったせいか、ディフェンスに戻るのが遅れている!

 寺原、小島、武田に対し、小倉と五島で三対二の状況が作られる。寺原が小島にパスを出すと、小島はそれをタッチパスで寺原に返す。さらに寺原がまたタッチパスで、ボールを武田に送る。このパス交換で小倉と五島のディフェンスラインは崩れ、武田がレイアップを決めた。

 22-23。開始一分で翠に逆転された。

「向がいなくなってから、オフェンスのスタイルを変えてきたな。」

「器用なチームですね。小倉を寺原にぶつけたのも、ここまでは特に効果もないですね。」三谷が、スコアシートを書きながら言う。

 機動力の無い向がベンチに下がれば、それまでのハーフコートバスケットを止めて、パスランをメインにしたラン&ガンのスタイル。

「ペースを変えられるチームってのはやはり強い。単調なペースのままで勝てるのは、力の差がある時だけだからな。」

「うちも結構ディフェンスは練習したはずなんですけどね…。」

「そうだな、皆、反応が遅くなっている。」

 寺原が声を出した瞬間に足を止めて寺原の方を見た能勢。ディフェンスに帰るのが遅かった三人。小島からタッチパスで寺原にボールが帰って来た時、過剰に飛び出した五島。

 ハーフコートバスケットで、ひたすら寺原がゲームを組み立てていた1Qの印象が強く残っており、意識を中々変えられないことに原因があることは明らかだった。

 コートの中で、大賀のパスアウトが小島にカットされる。再び、翠の速攻が始まった。

(早めのタイムアウトが必要になるかもしれない。)

 スタートから嫌な雰囲気な2Q。どこまで彼らが対応できるだろうか。


ペリメーターディフェンス…スライドステップなど、横の動きでオフェンスを止めること。

パスアウト…ゴールからボールを遠ざかるパスのこと。


単語の説明はどこかを参照して書いているわけではないので、間違っていたら教えてください。


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