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西商バスケ部監督物語  作者: のぶし
まとめ
6/99

20-26話まとめ

20 今日が勝負所だ。第三試合に南北高校。第六試合に(みどり)高校と島上(しまじょう)高校の勝利チーム。この連戦を制さなければ、県大会へ進むことはできない。もし県大会へ行き、結果を残すことができれば夏大会の組み合わせが良くなる可能性がある。

 しかし、昨日の光雲戦で疲れたと言っているチームで、この連戦に勝利することができるのだろうか?南北高校は前大会でベスト16のチーム。翠高校と島上高校は、共に県大会一回戦負けのチームだ。地区予選二回戦敗退の西商からしたら、どのチームも格上と呼べる。

 第三試合は12時からの開始だ。今は11時で、部員達はアップに向かわせている。

 外は嫌になるくらいの良い天気だった。空には雲ひとつなく、太陽はこれでもかという程に照っていた。春だと言うのに、気温がどんどん上がってきている。この春一番の暑さとなると予報されていた。

「これは、ついてないと言うべきか…。」

 連戦に、この暑さ。問題となるのは当然スタミナだった。




南北スターター

宇野160

関167

池原172

冬元175

植木175


 試合開始前のアップの時間。私は役員席から見ていたが、西商はだらだらとコートに入ってきて、南北は我先にと入ってきた。

「「「お願いします!!」」」

 南北はそう気勢を上げると、すぐにアップを開始する。


ソオオッ!エイオウエイ!ソオオッ!エイオウエイ!ソ~オ~オッ!エイ!オウ!エイ!


 この広い体育館全体に響き渡るような声だった。部員数は十五人ほどだった。対する西商は、これに委縮して誰も声を出していない。いや、出しているかもしれないが、聞こえない。

 その時、隣に座っていた監督が声を上げた。


「声が小さい!!!」


 近くからの声だったからか、南北の十五人より遥かに大きい声だと感じた。南北の選手たちは一瞬声を止め、そしてすぐに先ほど以上の声でアップを再開した。


「おっと、びっくりしてしまいましたかな。」

 四十程の大男だった。185cmほどはあるだろう。口を開けてその男を見ていた私に、そう声を掛けてきた。

「西商の新任の監督の方でしたよね。私は南北の監督の熊代です。どうぞよろしく。」

「ぁ…はい。よろしくお願いします。」

 委縮したのは、西商の部員だけでない。情けないことながら私もその恫喝に委縮してしまった。

「今日は180超えの選手が三人もいるところとの試合だということで、とても頭を悩ませていたんですよ。どうぞお手柔らかに。」

 言葉は丁寧だが、その声は低く、異常に威圧感がある。私は一礼して握手する。すると、熊代監督はすぐにベンチの方へ歩いて行った。私も行かなくては。

 …しかし、180超えが三人と言っても、内一年が二人いる。これが最初の公式戦だというのに、どこから情報を集めたのか。



 アップ終了三分前に選手たちを集めて、話をする。

「聞いた通りのローサイズだな。しかし、これで県大会ベスト16まで行ったチームだ。決して油断するな。…まあ、言う必要はないかもしれないが。」

 選手たちは、普段と違い真面目な顔をしてこちらを見ている。真面目な、ではなく、弱気そうな顔かもしれない。

「スターターは昨日と同じ。おそらく、ガードの負担が非常に大きい試合になるだろう。柳、田部は覚悟しとけよ。状況によっては、五島と小倉にもボール運びを任せるからな。」

「うっす。」

「オフェンスはインサイドメインだが、外のシュートもリバウンドを信頼してどんどん狙ったらいい。相手のペースには巻き込まれないようにして、オフェンスを組み立てるんだ。」

 …部員達の声が少ない。

「お前ら、ビビってるな?」


「いや、ビビってなんかないっすよ。」

「おう、そんな訳あるか。」

 そう答えたのは小倉と大賀だ。

「声がでかいだけの雑魚だろ。蝉だ、あんな奴ら。言いたいだけジージー言わせとけってんだ。」

 五島も続く。

「おーけー…、じゃあいつものアレやろうか。」

 三谷がそう言った。一年たちは首を傾げている。

「ちょっと円になって。」

 十人の部員で円を作る。試合前にこうして団結感を高めようとするのは、多くのチームがやっていることだろう。円陣を組んだまま三谷が一年に説明している。



ピューイ!誰かが口笛を吹いた。


ピューイ!ピューイ!ピューイ!ピューイ!ピュイ!ピュイ!ピュイ!ピュイ!ピュイ!…。口笛を吹きながら、全員の腕が上を指す。口笛に合わせて全員が声を出す。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」


「行くぞッ!」

「「「オウ!!!」」」


 このパフォーマンスは多くの観客を惹き付けた。口笛は遠くにも聞こえやすいのだろう。


「さあいこーぜ!」

 柳がセンターサークルへ向かう。次いで、スターターが歩き出した。



 これで、開始前の雰囲気でも負けてないはずだ。あのまま始まったら、その雰囲気のままやられていたかもしれない。


…しかし、「いつもの」ということは、去年は五人でこれをやっていたのか?

まあ、多分目立ちたがりの柳の考案だろう。しかし、皆楽しそうな表情になっていた。



21

 南北スターター

宇野160

関167

池原172

冬元175

植木175


 審判と、両チームのスタメンがセンターサークルに集まった。

「お願いします。」

「お願いします!!」

 南北の部員はその挨拶と同時に、一瞬でサークル周辺に散らばる。西商の部員はのんびりと集まる。

 ジャンプボール。これは能勢の圧勝だった。しかし、南北のセンター植木はそもそもジャンプせずに、PGの柳のところに走った。柳のいるところへボールを弾こうと思っていた能勢は一瞬怯むが、すぐに落ち着いて小倉のいる場所へ落とした。

「ちっ。」

 植木は悔しそうに自陣へ急いで戻った。小倉は柳にパスを渡して、ゲームが始まる。


 南北はゾーンディフェンスだった。おそらく形は1-1-3。前の紅白戦で三谷が一年生に教えたものに似ていた。ローポストでボールを持たれることを防ぎ、スティールを狙って速攻に繋げようという考えだろう。

 柳から小倉、小倉から五島へと上でパスを回すが、ローテーションが非常に早く、隙がない。五島がドライブを仕掛けるものの、宇野がこれを完璧に止めた。五島が逆サイドの小倉へパスを出すと、これをSGの関がカットしようとしてきた。しかし、パスが一瞬速く、小倉へノーマークでボールが渡る。小倉は楽にジャンプショットを決めた。


(キャッチ&シュートの練習が生きたか?)

「小町、準備しとけよ。場合によってはすぐに投入する。」

「はいっす。」

 ゾーン攻略のカギとなるのはやはりシューターの存在だ。このゾーンではインサイドが攻めづらいので、まず外のシュートでディフェンスを広げなければ。


 南北は宇野と植木でスクリーンプレーを仕掛ける。宇野とマッチアップしている柳はスクリーンをすり抜けるも、宇野が強引にドライブを仕掛けてきた。

「いてっ!」

 宇野は無理やり突っ込み、レイアップに行こうとする。柳が思わず手を出してしまうと、宇野は腕を自分からぶつけて大げさな声を出した。これが、柳のファウルとなる。

「えっファウル!?」

 宇野が自らぶつかってきていたのは明白だったが、柳の手の印象が良くなかったのだろう。ツースローを与えてしまう。これを宇野はきっちり決めた。


「当たれっっ!」

 宇野が叫んだ。ここでいきなりオールコートマンツーマンを仕掛けてくる。非常にタイトなディフェンスだ。

「…ほらきた。やっぱだりいわ…。五島、スクリーン。」

 柳が五島を呼ぶ。五島はスクリーンに来るが、ここで柳はスクリーンと逆方向に開いてボールを貰った。一気に運ぶ。しかし、ハーフラインで再び捕まった。

「止めてみろよ。」

 柳は左に抜いていくとみせ、ビハインドドリブルで逆を抜こうとした。しかし、これにも宇野がスライドステップでついてくる。ここで、柳は宇野の開いた両足の間をクロスオーバーで抜いていく!

 そのまま柳はゴールへ向かう。当然宇野が追いかけてくるが、それを見るふりをしながら、一気にゴール下の大賀へノールックパスを通した。大賀は冬元の上からシュートを決めた。


「すげえ…。」

 田部は憧れの表情を見せる。まさか公式戦でもあのストリートのスタイルを貫くとは。なかなかいないタイプの選手のプレーに魅せられ、観客も少しずつ増えてきているようだ。


 南北のオフェンスでは冬元がスリーを放つも外れる。リバウンドは能勢ががっちりと掴んだ。南北はすぐに帰り、ゾーンを組む。

 西商は、能勢がハイポストでボールを貰い、ローポストの大賀へすぐパスを出す。綺麗なハイローを決めた。

 南北のオフェンスはまたも失敗。池原のドライブからのレイアップを、大賀がブロックして止めた。五島はやはりディフェンスの時の動きが適当だ。簡単に抜かれている。


 次に南北がシュートを決めた時には14-4で、10点差が開いていた。といってもこちらも楽にシュートを決めているわけではない。残り時間は一分になっていた。

 シュートを決めた南北はゾーンではなくオールコートマンツーを仕掛ける。柳の突破に対し、宇野がファウルをして止めた。


「西商、強いじゃん。」

「南北がやられてるぜ。」

 ギャラリーも予想外の展開に驚いている。私としても、こんな好スタートが切れるとは思っていなかった。


「動きが遅い!!!」

 南北の監督、熊代監督が叫ぶ。南北のベンチでは絶えず声が聞こえる。スクリーンアウトをしろとか、ヘルプが遅いとか、パスカットが狙えるとか、ベンチメンバー達が様々な声かけを行っている。監督も叫ぶ。

 それが、一つのリズムの様に感じられた。南北の監督や選手たちは焦っているという様子を出しているわけではなく、ただいつもの通りにやろうとしているだけ、そんな感じだ。


 そのベンチが、さらに大きな声を上げる。柳から大賀へのパスを植木がカットした。それと同時に宇野、関がスタート。柳、五島が置いていかれる。簡単に速攻を決められた。

「ディフェンス!!!」

 またオールコートマンツーだ。


 ここで分かったが、おそらく南北のディフェンスは、スローイン時はオールコートマンツー、シュートが外れた時はゾーンにする、チェンジングディフェンスだ。これは、かなり頭を使わなければ攻略できない。


 すると、笛が鳴った。柳と、宇野が倒れている。

「チャージングファウル!白(南北)ボール!」

 審判が柳のファウルを宣告する。ここで南北ベンチは、この日一番の盛り上がりを見せた。

「ナイスディフェンス!」

「さあ一本取りましょう!」

 南北はセットプレイを使い、池原がスリーをうって、これが決まる。14-9。そのまま1Qが終了した。


 最後の一分間の攻防で、流れが変わるのを感じた。ガッツポーズをしながらベンチに帰る南北の選手と、誰一人良い顔をしていない西商。どちらが勝っているのか、分からない状況だった。


22

 会場の気温はどんどん上がってきているようだった。外が異常な快晴ということが大きいが、バスケットボールの試合が行われる会場は、外の光が選手たちのプレーの邪魔にならないようにカーテンや扉などは基本的には閉め切るのだ。中には所狭しと人が集まっているし、コートでは選手が走りまわっている。これで気温が上がらないわけがない。試合を見ているだけの私も汗をかいてきた。


「メンバーを替えよう。柳が既に2ファウルだ。柳を替えて田部を入れる。あと、五島と小町、能勢と中野を替えよう。大賀と小倉はまだいけるだろ?」

「もちろんいけます。」スポーツドリンクを飲みながら小倉が答える。

「田部一人でボール運びをするのは難しいだろうから、小倉は上手くサポートしてやってくれ。向こうのディフェンスは、シュートが入ったらオールコートプレス。外れたらゾーンをしてくる。ゾーンの時は小町と田部のスリーで攻めよう。」

「了解っす。」

小町は汗一つかかず、涼しい顔をしている。試合に出てないというのもあるが、こいつには汗腺がないのかもしれない。

「向こうはハーフコートオフェンスではほとんど点が取れてないんだ。気をつけるべきなのは、ターンオーバーからの速攻を許すこと。それさえさせなければ勝てるだろう。」

 南北高校の選手に得点力がないというのは救いだった。1Qではフリーのゴール下シュートを外す場面すらあったことから、ディフェンスに特化したチームなのだろう。

 2Qの開始を告げるブザーが鳴る。


(公式戦でちゃんと使ってもらえるなんて、初めてだ。)と田部は考える。

 彼は小学校からずっとバスケを続けているが、スタメンになったことは無く、プレイタイムすらほとんど無かった。公式戦に出たのは、三年の引退試合ぐらいだった。

 理由は、身長が非常に低いこと。さらに…。

(ミスしたら、どうしよう。南北のディフェンスか…。怖いなあ。)

 プレッシャーに非常に弱いからだ。



 2Qは南北ボールから始まった。

 南北は、このQからオフェンスの形を替えてきた。今まではドライブからの合わせがメインだったが、トップと四十五度で、パスやドリブルスクリーンを繰り返して、とにかく走り続ける。

 24秒計が残り十秒になったところで、宇野がパスフェイクから仕掛ける。田部は一歩で抜かれた。

「おい!」大賀が叫ぶ。

 宇野は大賀のディフェンスを引き付け、植木にパスを出す。中野がヘルプにいったが、植木はフックシュートを決めた。


「ディフェンスだ!」

 再び南北はオールコートプレスをかけてくる。田部がボールを貰い、あっさりと宇野を抜いた。宇野は遅れながらも横から付いてくる。

 サイドラインぎりぎりの位置からハーフラインを渡った直後、宇野と関がダブルチームを仕掛けてきた。横にも後ろにも行けない。

(しまった…!誘い込まれた!)

「パスだ!」小倉が呼ぶ。

 しかし、宇野がボールをスティールする。そのまま速攻を決めた。

「ガンガンいくぞ!」宇野はチームを鼓舞する。彼らの足に、疲労は見られない。

「小倉、運べ!」

 そう指示を出す。小倉のハンドリングとスピードはガードとしても十分通用する。おそらくその能力は本職がガードの田部より高いだろう。ゲームメイクが出来るわけではないが…。


 小倉はマークマンの池原に体をぶつけながらも強引に抜いていく。ハーフライン前で冬元がヘルプに来ると、フリーになった中野にパスを出した。

「あっ!」

 しかし、中野がこれをファンブル!ボールを地面に落としてしまう。すぐに拾おうとしたが、植木が滑り込んでこのボールをキープする。

「ナイスハッスルプレイ!」南北ベンチが盛り上がる。 


 続く南北は、植木がハイポストからドライブを仕掛ける。ゴール下でストップして反転、フェイダウェイを放つ、ふりをしてまた止まった。

 これに大賀が反応してブロックに跳んでしまい、体がぶつかってファウルをとられる。植木が放ったシュートは外れて、2スロー。これをきっちり決めてきた。


「大賀、手を上げておくだけでいい!ブロックは意識するな!」

 身長差があるのだから、これだけで十分プレッシャーになる。ファウルトラブルだけは避けたかった。


 流れは変わらない。田部と小倉がスクリーンを使って運ぼうとするも、スクリーンが来た瞬間南北ディフェンスは迷わずダブルチームを仕掛けてきた。パスを出そうとすると、他の選手がパスカットに出てくる。迷っているうちにボールを取られ、ターンオーバー。また速攻を決められる。黒沢はここでタイムアウトを取った。


14-17。まだ西商はシュートを打ってすらいない。 


「柳を戻す。柳はファウルをしないように、ボール運びに専念してくれればいい。あと、ドリブルだけで運ぼうとするんじゃなくて、パスを繋いでいく意識で行こう。」


 遅すぎる交代でなければ良いのだが。立体の勝負で勝てても、平面でこれだけ負けていれば勝負にならない。嬲られるだけだ。

 柳達がコートに戻る。


 田部は茫然と俯いている。もう、試合で何が起きたのかよく覚えてないかもしれない。プレッシャーに弱い選手は、もともと気弱であったり、過去に失敗体験がある選手に多い。彼をこんな大事な場面で出してしまったことが、今後に影響を残してほしくはない。

「気にするな。人は失敗を続けて成長していくんだ。今日の失敗は、必ず次に繋がる。」

 田部は俯いたまま「はい。」と言った。そして、「分かってます。」と顔を上げる。


 私は彼を勘違いしていたかもしれない。身長が低く、どこか頼りない雰囲気だったため、勝手に気弱で、このまま塞ぎ込んでしまうのではないかと思っていたが、田部の顔を見るに、決してそんなことはなかった。彼の眼は、凛とした輝きを持っている。

「よし。」


「後半、また出すからな。気持ちを切らすなよ。」

「はい。」




 柳は、決してスピードのある選手ではない。では何故こんなにディフェンスの強い南北をも抜いていけるのか。

それは、彼は緩急をつけるのと、相手の重心移動の逆をつける才能を持っているからだろう。

 ディフェンスが足を止めた瞬間にスピードを出す。逆に相手が素早く反応した時には行かない。または、左に反応すれば右。右に反応すれば左に抜いていく。そうして、見事に南北のディフェンスを避け続けていた。


 しかし柳のマークマンの宇野も並みのディフェンスではなかった。身長は160cmしかないが、筋肉質の体をしていることがユニフォーム越しからでも良く分かる。

 柳の揺さぶりに対しても徐々に反応してきているようだった。


 柳がハーフ近くまで運んで、小倉へとパスを繋ぐ。小倉のドライブインから、小町へのパスアウト。素早いリリースでゴールを射抜く。2Q初めてのゴールが決まった。

 ここからは均衡状態が続いたが、残り三分で大賀のオフェンスリバウンドからのゴールが決まると、徐々にシューター陣も勢いが出てきて、小倉のミドルや小町のスリーが決まり始めた。南北は、ファウルを誘いながらシュートを狙い、フリースローは全て決めてきていた。

 ここで西商は能勢を再投入する。アウトサイドシュートを警戒させながら、インサイドの能勢や大賀で得点も狙う。中へのパスは全力でカットを狙ってくるので簡単に点を取ることはできなかったが、28-25と3点リードで前半を終えることができた。


 ハーフタイム。コートは次の試合のチームがアップに使っている。休憩の時間ではあるが、全員滝のような汗をかいている。春だとはとても思えない状態だ。

「三谷、全員のファウルの状況を教えてくれ。」

 三谷は怪我の為スコアラーをやらせている。三谷によると、柳が三つ。小倉が二つ。大賀が二つ、小町に一つだった。主力選手にばかり集中してきている。向こうがそれを狙ってやっているのは明白だった。


「柳はファウルをこれ以上するな。ディフェンスでは少々抜かれても構わない。そこは全員でカバーだ。あと、ファウルしても向こうの選手はフリースローが上手いからあまり意味がない。手だけ上げてプレッシャーを与え続けよう。」

「大丈夫だよ監督、俺は退場なんてかっこ悪いことしないって。だってさ、俺、見えたんだよ。」柳は何故か楽しそうだ。

「何が?」


「あの南北のベンチ側の二階席にいる女の子。超可愛いよ。俺、ハートがアンクルブレイクされちまった…。」

「馬鹿野郎。」

 とりあえずゲンコツを入れておく。アンクルの意味を辞書で調べとけ。

 しかしまあ、そんな余裕があるなら確かに大丈夫かもしれない。


23

 ハーフタイムが残り二分となった。次試合のチームがアップに使える時間は残り二分までなので、アップをしていた選手たちは急ぎ足で出ていく。それと同時に、柳と小町を除いた西商の選手がシュート練習を始めた。二人は前半でかなり疲労しているようだった。この試合に勝てば今日もう一試合あるのだが、大丈夫だろうか…。

ふと能勢の方を見る。能勢はここまで得点にはほとんど絡もうとしていない。今も、自分でシュートの練習はせずに、シュートのリバウンドの練習をしている。しかし、私は南北のディフェンスを破る為に彼を使うことをチームに指示していた。


すぐに3Qが始まる。メンバーは柳、小町、小倉、大賀、能勢。まず、西商のスローインからだ。ここでも執拗にマンツーマンで付いてくる。小倉がマークマンの池原を振り切ろうとするが、池原は粘り強い動きでマークを空けないので、柳はパスが出せない。

「しゃーないな、一発、度肝抜いたるか。」

 柳、スローインの位置からゴールへ浮いたロングパス!能勢と、植木が反応する。先に落下位置に入ったのは植木だが、すぐ能勢は体を押し当てて植木をゴールの真下に追い込む。能勢が跳んだ。

「叩きこめ!」大賀が叫ぶ。


「いや無理です!遠いっす!」

 能勢はボールはキャッチできたが、ゴールから離れた位置。一旦着地して、そのまま普通にシュートをうって決めた。

「何だよ、ダンクしろよー。」柳は不満そうな顔をする。

「すみません、でもあれは遠いっす!」

「パスが悪かったって?」

「いやあの…すみません。」

 シュートを決めているのに謝り続ける能勢。何故そんなに低姿勢なのか…。


 南北のオフェンスでは、は冬元がカットインしてパスを貰い、シュートを打つも能勢にブロックされる。

 西商のオフェンスは、柳と能勢のスクリーンプレーだ。柳がドライブを仕掛ける。ここで能勢が外に開く。ピック&ポップ。スクリナーが外でボールを受けてアウトサイドシュートを狙うプレーだ。柳はディフェンス二人を引き付けて、能勢にパスを出す。すぐに関がヘルプが来るも、身長差は約20cm。能勢はディフェンスの上からスリーを放つ。これは美しい放物線を描きながらゴールに吸い込まれた。これで33-25。先ほど私が選手たちに指示したプレーは、能勢のアウトサイドを使っていくことだった。


「オールじゅういちぃ!!!」

 南北の監督が吠えた。何かのサインだろうか。南北の選手たちも「じゅういち!」とお互いに声を掛け合って確認している。セットプレーか?と思ったが、シンプルに宇野がドライブを仕掛ける。ダブルクラッチでブロックを避けながらシュートを放つも、これは入らない。大賀がリバウンドを取り、柳へパスを出した。

 その瞬間、柳の後ろから関が飛び出してきて、パスをカットする。そして、そのままレイアップを許してしまった。

 今までならシュートが落ちた時はゾーンをする為にすぐ帰っていたはずだ。意表を突かれた形になった。


 次の南北のオフェンスでも、シュートが落ちて能勢がリバウンドを取ったが、ここから南北ディフェンスはプレッシャーをかけてくる。能勢に対して植木がスティールを狙ってきたが、これは手を叩いた為植木のファールとなる。


 オールじゅういち…。11…。先ほどのサインは、“これから全てオールコートマンツーマン”の合図だった可能性が高い。

 能勢がスリーを打てるなら、1-1-3のゾーンディフェンスはかなり不利となる。何故なら、もともとスリーが打たれやすいゾーンで、何よりゾーンの上部分にいるのは160cmの宇野と167cmの関。186cmある能勢なら、彼らにチェックされてもほとんどプレッシャーを感じることはないだろう。それらを考え、能勢のアウトサイドを指示したのだ。

 しかし、マンツーマンディフェンスなら少なくとも160vs186の状態は防げる。よって、ゾーンを辞めてマンツーマンオンリーにしたのだろう。

「これからマンツーマンで来られるぞ!油断するな!」と声を掛けた。

 ただ、一本のスリーだけで「能勢はスリーが打てる」ということを判断するのは早過ぎるのではないか。まぐれで入っただけの可能性もある。それとも、何かそう判断させる材料が他にもあったのだろうか。


 このディフェンスは、西商にとって非常に大きな脅威となった。既に足に疲労が見える西商に対し、南北は全く衰えていない。最大の問題は、柳のドリブルに宇野が対応してきたことだった。


「ちっ…!」

 柳は左右にドリブルで揺さぶりながら、突破を試みるが、宇野のディフェンスは全くそれを許さなかった。完璧なタイミングで前に入り、接触があってもむしろ押し返す程のパワーを見せた。他のディフェンスもパスを出させないようによく動いていた。

(パスの出しどころもない…八秒経っちまう!)※1

 すると、小倉がマークを何とか振り切り、「ヘイ!」と呼んだ。柳は迷わずパスを出すが、宇野は一気に横に跳んでパスをカットする。

(声の聞こえた方向でパスの方向を読んだのか…!?ありかよそんなの!)

 柳は下手にプレッシャーを与えようとしてファールするのを避けるため、緩く追いかける。宇野は軽くレイアップを決めた。

「もうファウルはしてこないのか?四つしてるわけでもないのに弱気だな。」

 宇野はそう言って柳を挑発した。柳は「まあね。」と受け流す。


 次に小倉がボールを運ぼうとするも、強引な突っ込みに対し、マークマンの池原は転倒。チャージングファウルを取られる。


(あまり良い審判じゃないな。転んだからといってすぐにファウルを吹くべきじゃない。さっきの小倉と池原の接触も、あまり強くないのがここからでも分かるのに…。)

「五島、小町と交代だ。ボール運びにお前も参加しろ。ディフェンスを振り切って、パスの中継地点になるんだ。」

「やっとかよ。待ちくたびれたぜ。」

 五島と小町を交代。柳と小倉だけでは負担が大き過ぎる。またチャージングを取られるのも嫌なので、休んでいた五島の足でパスを繋いでくれることに期待を掛ける。


 南北のオフェンスでは関がスリーを放つも、外れる。リバウンドを能勢が取り、すぐ柳に渡した。そして、柳が五島にパス。五島は、一気に突っ込む。突っ込む!五島はそこからスピードを全く緩めずゴールに向かった。五島、能勢、植木で二対一の状況を作る。植木は、五島に寄ってディフェンスをしている。

(点取りたいけど、ここはパスかな。)

 五島はそう考えて能勢にパス。しかし、ここも植木が素早い反応でパスを奪った。最初からパスをカットすることだけを考えていなければ出来ない反応の速さだった。

「やべ、ミスった!」

「速攻だ!」

 植木は先頭の宇野にロングパス。柳は帰っていなかったので、ゴール下で立っている。宇野はそのままドリブルして、レイアップを放つ。


 パチン!


 手で何かを叩く音が聞こえた。宇野は「痛っ!」と叫ぶ。彼の放ったボールがゴールに入ると同時に、審判が笛を鳴らした。

「ディフェンスファール。黒五番(柳)!」

「はあ!?」

 柳はこれに喰い付く。

「俺何にもしてないって!何でファール!?」

「ボールマンを手で叩いたでしょ。」女性の審判はそう答える。

「ちゃんと見たの?」

 女性の審判は柳に構わずオフィシャル席に、柳のファールを伝えに行く。

「ちょっと待てって!誤審だろ!おい!」

 異常な様子を察して大賀が止めに入る。…しかし、無情な審判が下される。



「…黒五番、テクニカルファウル!…ファイブファウルで、退場です。」※2



「えっ…。」


 私は思わず立ち上がった。何が起きたのか。何故柳があれほどまでに喰い下がったのか、分からなかった。



 …ふと南北ベンチを見ると、熊代監督が愉快そうに笑っていた。


24

ギャラリーは、こちらの試合で起きた騒動でしばし静かになった後、また盛り上がり始めた。柳がテクニカルファウルによるファイブファウルで退場。代わりは田部だ。


「あーっもう!何なんだ!」

 柳は乱暴にベンチに腰掛ける。すぐに中野がドリンクとタオルを渡すと、柳はドリンクを一気に飲み込み、顔をごしごしと拭いた。顔がかなり赤くなっているのは、暑さか、怒りか。

「何があったんだ?さっきのはお前のファウルじゃないのか?」

 何かが叩かれていた音は、こちらのベンチにまで聞こえていた。柳が叩いたのだと思ったが、まだ4ファウルの時点でまだあんな抗議を柳はしないだろう。

「さっきのは、宇野がレイアップでボールを放す瞬間に自分で自分の手を叩いたんですよ。それをまるで叩かれたみたいに演じやがった。あのクソ野郎。」


 熊代監督の下卑た笑みを思い出す。ファールをされたように見せかけるのはバスケではよく見られることではあるが、こちらからはほとんど分からないような巧妙なやり方だった。しかも、テイクチャージ(※)などと違って、直観でできるプレーではない。そういうプレーをするように指示していたのだろうか?何てダーティなバスケだ。


 宇野がワンスローを放ち、これも決まる。南北のフリースローはここまで100%だ。この確率は敵ながら素晴らしい。徹底した指導が窺える。


「落ち着け。ちゃんとした監督なら、あんな笛は吹かないさ。お前の失敗は、その後の審判の抗議だな。」

「だって、俺は何にもしてないんすよ!?許せるわけないでしょ!」

「違う。お前は怒る必要はないんだ。怒るのは私の仕事なんだから。」

 高校時代、大鷲監督から聞かされた言葉を思い出す。

「怒るのは私の仕事。何か気に入らないことがあれば、私に言うんだ。私が抗議して私が退場になっても、勝負に影響なんてないさ。お前らはお前らの仕事をすればいいんだ。」

 柳はずっと眉間にしわを寄せていたが、一度うなずくとすぐに笑顔になった。

「そんじゃ、お願いしますね。もし退場になったら、有名になれますよ!」

「できるだけ勘弁してくれ。」

 そういえば大鷲監督も、「よく退場する監督」として山岡県内では有名だったな。今はSNSが発達しているから、そういうことがすぐに広まってしまう。


 3Q残り、南北のオールコートマンツーに対して、田部、五島、小倉を中心にパスでボールを繋いでいく。マンツーマンなので身長差を活かそうとしてローポストの大賀や能勢で攻めようとするも、ヘルプがすぐに寄ってくるのは変わらない。田部、小倉のアウトサイドで攻めるも、決めあぐねる展開が続く。点が取れないのは南北も同じだったが、スティールからの速攻を何本か決めて、3Q終了時には39-40と南北一点リードで終わった。また休憩時間が二分間与えられる。


「ロースコアの展開は向こうの得意なペースだな。少しオフェンスを変えてみよう。」

 指示しようとしたが、小倉、大賀の息がかなり荒くなっていることに気付いた。

「大丈夫か?」

 二人ともここまでフル出場だ。スタミナのある選手だし、主力選手なので替えなかったのだが、限界が近いか?

「ちょっとしんどいっすわ。」タオルで汗を拭いながら、小倉が答える。

「お?お前このくらいで疲れているのか。たいしたことないな。」

大賀が煽る。大賀もかなり息が荒くなっているが…。

「何だと?」小倉は大賀を睨む。

「つまらん言い争いはやめろ!正直に言えばいいんだ。…とりあえず、4Qの最初は二人は下げる。小町、あと藤原、出番だぞ。」

「は、はい。」

 藤原が慌てて上着を脱ぎ、ユニフォーム姿になった。藤原はこの日初出場だ。彼はスピードがないので、南北と相性が悪いとは思ったがこれも経験だ。リバウンドと力強いディフェンスに期待しよう。




 4Qの序盤は苦しい展開が続いた。一番運動量の多い小倉が抜けたことによりパスも上手く繋がらなくなっており、五島がスピードを活かして突破しても、彼は自分で点を取ろうとするばかりで効果的に得点はできなかった。南北はスティールからの速攻や、関の二連続スリーなどが決まり、4Q残り六分の時点で44-50と六点ビハインドになった。


 五島のスリーが外れた。南北は素早くパスを繋いで速攻に移る。

「監督、もう十分だ。俺を出してくれ。」

 大賀は既に息は整っている。小倉も同じだ。これ以上休ませるわけには、ゲーム展開的にも無理だった。当然二人を投入する。

「頑張れよ。また二回戦負けなんて、ごめんだぜ。」

 柳は二人の尻を叩いた。

「当然。」


 小倉と大賀がコートに入る。


試合の勝敗は、この二人にかかっている。私はこの時そう考えたが、それは間違いでなかったことを、試合後に知る。


25

 小倉と大賀がコートに入ると同時に、歓声が湧き上がった。ギャラリーはそんなにこの二人を待っていたのかと思いきや、歓声が二人に向けられたものではなく、隣のコートのプレイヤーに対してのものだった。

「すげぇ、あの15番ダンクしたぞ。」

「かっこいい。」

 隣のコートでは翠高校と島上高校の試合が行われている。どうやらその翠高校の15番がダンクをしたらしい。遠目なのでよく分からないが、身長は180よりちょっと上ぐらいだ。試合は残り四分で、89-71で翠高校がリードしている。

「次の相手は翠高校で決まりかな。」柳が呟く。

「今はこの試合に集中しろ。」

 44-50。負けているのはこちらだ。次の試合のことを考えている余裕はない。


 試合は西商のスローインから再開した。ボールは田部から小倉へ渡る。


(やべえな…正直超疲れてるけど…。)

 小倉は、ディフェンスの一人目を単純なインサイドアウトで抜く。そして、二人目をクロスオーバーで置き去りにした。

(最ッ高に気持ち良くなってきた!)

 右サイドから一気にゴールまでドライブ。秋元がゴール付近でディフェンスに来るが、これに小倉はわざとタイミングを合わせて、シュートに行く。秋元の体と小倉の肩が激しく接触するが、小倉の体勢は崩れない。右手でボールを放った。

 審判がディフェンスファールの笛を鳴らすと同時にゴールが決まった。バスケットカウントワンスローだ。

「分かったかよ、これがまともなバスカンの取り方だ。」

 小倉は、宇野を睨みつけながら言い放った。

「何が言いたいんだ?」宇野も突っかかる。

「お前らのやり方じゃ、勝ち上がっていけるわけがないって言ってんだ。」

 宇野は何も言わない。フリースローの為、選手たちがゴール付近に集まった。


小倉はボールを貰い、三回ドリブルをついてからフリースローを放つ。小倉のフリースローは外れた。植木がリバウンドを取る。

「俺達だって別に、やりたくてやってるんじゃないんだ。」

 誰かがそう呟くのが、聞こえた気がした。


 南北のオフェンスでは、小町がスクリーンに引っかかって、関がフリーになる。そこに宇野からパスが来て、関はスリーを決めた。これで連続三本目だ。

「ここで向こうのアウトサイドが当たり始めてきたのは、ちょっとまずいな…。小町もかなり足に来ているみたいだ。」

「いいハンデだと思いますけど。」

 三谷が試合を見ながら、ボソッと呟いた。


 また小倉がドリブルでプレスを突破する。コーナーに誘導するディフェンスを南北はしていたが、その逆をついて、見事にディフェンスを翻弄していた。ボールをフロントコートまで運ぶと、小倉は即スリーを放った。低い弾道だったが、ゴールは鈍い音を立てながらボールを吸い込んだ。これで49-53だ。

「乗ってきたぜ!」小倉が叫ぶ。

「一本、落ち着いて行こうぜ。」

 宇野が南北メンバーに声を掛ける。どこか力無い声だった。そして宇野がふわっと出したスローインを、小町がスティールした。

「あっ!」

「このボケがっ!」熊代監督も叫ぶ。

 小町はゴールから少し離れた位置。後ろから小倉がボールを要求する声が聞こえる。小町は小倉へすぐパスをしたが、ここも小倉がスリーを放った。このシュートは、外れる。

 すると、コートを突き破るかのような音を出しながら、大賀が跳んだ。外れたボールは、まるで吸い込まれるかのように大賀の手中に。そして、大賀はそれをゴールへ直接叩きこんだ。

 反射的に私は立ちあがった。それは西商ベンチ、全員も同じだった。ギャラリーは爆発的な歓声を上げる。日本人のプットバックダンクなど、そうそう見られるものではない。

「大賀の最高点のジャンプに、ピンポイントで外れたボールが来たって感じですね。もう一回やれって言ったって多分無理ですよ。」と、三谷は言う。

 しかし、例え偶然だとしても、それをここで成功させたのは大きい。流れは、確実にうちに来ている。

(この試合、勝てるぞ!)

 私だけではない。西商の部員、全員がそう思った。


「パスだ!」

 西商の選手は全員足を止めていた。それを見て、宇野が走った。自ゴールには誰一人いない。すぐにロングパスが入って、宇野がレイアップを決めた。

「同じ二点だぜ。」

 宇野は、やっと追い付いた田部の方向にボールを弾いた。

「そこで足を止めているようじゃ、俺達には勝てない。」


 ここから残り一分まで、一進一退の攻防が続いた。小倉が連続でミドルジャンパーを決めると、植木が華麗なステップからフェイダウェイを決めた。大賀がファールを貰ってワンスローのみ決めると、宇野もファールを貰ってツースローをきっちり沈めた。両チームとも得点を重ね続け、64-65となった。

 両チームともタイムアウトは取らなかった。こちらからすると作った流れを切りたくないし、向こうからしても相手を休ませたくはないのだろう。選手たちに、残り一分間全てを委ねた。


「この一本は絶対外せないな。」

 西商のオフェンス。ボールは小倉に預ける。彼は4Qの5分のみで11得点を上げている。

 小倉はレッグスルーとショルダーフェイクを混ぜながら、マークマンの池原を揺さぶる。すると、田部をマークしていた宇野がダブルチームに来る!小倉は不意を突かれたが何とかボールをキープし、フリーになった田部にパスを出す。

 これが、読まれていた。まだそんな足が残っていたのか、と思うほどの瞬発力でゴール下から植木が飛び出し、パスをカットする。そのまま自らボールを運ぶ。小倉はダブルチームを掛けられた状態で進路を塞がれ、帰れない。

 植木の飛び出しを見ていた大賀が一番に反応して、全力で帰る。植木は聞こえてくる足音で不安を感じながらも、レイアップを放った。

 このボールを、大賀がボードに叩きつける!…と同時に、植木の体も吹っ飛ばした。審判が笛を鳴らす。

「あっ。」と、三谷が声を上げる。

「どうした?」

「大賀、これでファイブファウルで退場です。」


「しまった…足がもう動きませんわ。ストップできなかった。」

 大賀はベンチをつぶすような勢いで座り込んだ。

「これでフリースローが一本でも落ちてくれればな…。」

 今の点差は一点だが、フリースローを二投決められると三点差となり、ワンゴールでは逆転できない。延長戦になれば疲労の色が濃い西商が圧倒的に不利だ。ここは外れるのを祈るしかなかった。


 植木はフリースローラインでボールを貰い、バックスピンを掛けながらボールを落とし、キャッチ。そして二回ドリブルをついてから、シュートを放った。パスっと小気味良い音が聞こえ、ボールは綺麗にゴールに収まった。植木は息を吐く。かなり緊張しているのが見てとれる。

 二回目のフリースロー。これを全員、固唾を飲んで見守る。


 ガゴッ!とボールはリングにぶつかる。外れてくれ、と祈るもこのボールはリングの上を何度か跳ねて、ネットをくぐった。

 三点差。残り40秒。スリーを狙うか、二点確実に取ってファウルゲームに持ち込むか、その判断は選手たちに任せた。


 再び小倉にボールが渡る。すかさずダブルチームが来るが、ここは落ち着いて田部に戻す。田部はシュートフェイクをしてディフェンスを引き付けてから、小町にパスを出した。すぐにヘルプが寄ってくる。

 しかし小町はそのクイックリリースでスリーを放った。ヘルプに来た冬元の手も届かず、ボールはゴールへ向かう。

 このスリーは、入らない!しかしリバウンドは能勢が取る。ゴール下で一対一の状態だ。能勢なら二点確実だろう。…と思っていたが、能勢は外にパスを戻すことを選択。ボールは田部に渡る。田部のマークマンはずれたままで、フリーの状態だった。

「打てっ!」

 柳がベンチで叫んだ。田部はボールを構える。


 一歩目の瞬発力。それは南北の練習が生んだものか彼の勝利への執念が生んだものかは分からないが、宇野が、この日一番のスピードで田部にチェックに来た。


「こっちだ!」

 小倉が、田部の後ろに走り込んできてパスを要求する。田部はシュートのモーションから、後ろにボールを投げた。小倉はそれをキャッチし、ワンドリブルしてから、スリーを放った。


26

「惜しかったな…。」

「絶対、夏で借りを返してやろうぜ。」

「はい。」

 下では、四回戦が行われている。俺達はユニフォームを着替えながら、それを眺めていた。

「よし、皆着替えたか?俺達は入口のところで待っておくから、お前、先生を呼んで来てくれ。」

「分かりました。」




・・・。



 ラスト20秒、小倉が放ったスリーは外れた。ただしそれは、チェックに来た池原が勢い余って小倉に派手に接触したためであった。これに審判は笛を吹いて、フリースローが三本与えられる。

 小倉は呼吸を落ち着かせて、フリースローを放つ。一投目、二投目をきっちり決めた。そして、三投目。決めれば同点だ。

(絶対、決めてやる!)

 ボールを貰って、ツードリブル。そして、シュートを放った。

 ボールは、リングの奥に当たって、大きく跳ねた。

(入るか?)

 そして、もう一度リングに当たって、外に跳ねた。しかし、能勢が長い腕を伸ばしてリバウンドを取る。

西商ベンチは総立ち状態だ。

「能勢、シュートだ!」部員達が口ぐちに叫ぶ。

しかし能勢は、再び外の田部にパスを出した。


 これを、宇野がインターセプトする。田部は腕を伸ばしファールで止めようとしたが、宇野は腕を避けて突破し、そのままゴールまでドリブルしレイアップを決めた。

西商は次のオフェンス、時間ぎりぎりでスリーを狙うも、またも外れ、三点差でタイムアップとなった。


 試合終了のブザーが鳴ると同時に、南北の選手たちは歓喜の声を上げて、ハイタッチをしたり、肩をぶつけあったりして喜んだ。逆に西商の選手たちはその場に座り込んだり、体育館の天井を見上げたりしている。

「早く、整列だよ。」

 審判に促されて、両チームは中央に集まる。

「49対52。南北高校の勝利です。」

「「「ありがとうございました!」」」

「あっした。」

 選手たちは適当に一礼すると、力なくベンチへ引き上げてきた。

「すぐにベンチを空けなきゃいけない。後で話をするから、とりあえず上で着替えてから、能勢が私を呼びに来なさい。私は役員席で試合を見ておくから。」

「わ、わかりました。」


 私は、役員席に座って試合を見ていたが、正直試合の内容は頭に入ってこなかった。まだ負けたことを信じたくない気持ちが強かった。最後まで勝てる勝負だと思っていた。大きな溜息をついていると、南北の監督、熊代が声を掛けてきた。

「やあどうも、良い試合でしたね。」そう言って、握手を求めてくる。

「ああ、熊代先生…。良い試合でしたね。とても悔しいですが。」

「そうですか。まあこちらとしても、たまたま勝たせてもらったようなものです。負けていても全くおかしくはなかった。むしろ、勝ったことが不思議なくらいですよ。」

 熊代はそう言って笑ったが、その表情からは余裕しか見られない。

「能勢君は今日あまりシュートにいってなかったみたいですが、何か指示を出していたんですか?」

「えっ?」

「能勢君ですよ。私は中学生の試合もよく見ていて、能勢君を見たこともあるんですが、彼はもっと点の取れる選手だったと覚えています。今日は、不調だったんですかな?」

「いえ、むしろ点を取りに行けと指示したんですが…どうも点を取りたがらない性格みたいで。」

 熊代はゴホンと一度咳をした。

「いいですか、黒沢先生?選手のプレースタイルを性格と結び付けて考えても仕方ないですよ。性格を変えなくても、プレースタイルは変えられますよ。例え少々無理やりでも、その選手の能力に見合ったプレースタイルを身につけさせなければ。」

「はあ。…無理やりとは、どういったことをするんでしょうか?」

「それはまあ、いくらでもやり方があるでしょう。…失礼、トイレに行ってきます。」

 そうして熊代は消えていった。性格を変えろと言っても簡単に変わるものではないが、プレースタイルなら変えられる。確かにそうかもしれない。しかし、プレースタイルを変えろ、点を取れと言っても能勢はあまりやりたがらない。どうすればいいんだろうか?


「先生。」

「おっ。」

 隣にいつのまにか能勢が立っていた。帰る準備が整ったということか。

「分かった。すぐ行く。入口のところで待っていてくれ。」

「分かりました。」

そう言って、能勢は帰ろうとする。

「あ、ちょっと待て。」能勢を引きとめる。

「はい?」

「さっきの試合の終盤、ゴール付近で二回はシュートするチャンスがあったのに外にパスを出したよな。何でシュートを打たなかったんだ?」

「あ、すみません…。パスミスを怒っているんですか?」

「パスミスなんてどうでもいい。何でシュートを打たなかったのかと聞いているんだ。」

「え、えーと…。決める自信が無かった…ですかね?正直、あんまり覚えてないんですが。」

「…そうか。分かった。行っていいぞ。」

 シンプルに、一番悪い答えだ。これを直さなければ、能勢は選手として大成しないだろう。さて、どうすればいいのか…。




「お前ら、今日の敗因は何があると思う?」

 入口の前の空いたスペースで話をする。まず、選手たちが今日の敗北をどんな形で受け止めているのかを知りたかった。

「シュートが入らなかった、とか?」

 最初に答えたのは柳だ。

「それはそうだが、もっと具体的に言ってくれ。」


 そうして、スリーが入らなかったとか、ファールが多くなってしまったとか、ボール運びができなかったことが挙げられた。

「今まで挙げられたものは、全て大切なことだ。ボール運びとかのセットプレイも練習しなければならないだろう。しかし、私は今日の一番の敗因は、フリースローにあると思う。」

「先生、それは、俺を責めてるんですか?」

 決めれば同点のフリースローを外してしまった小倉が、嫌な顔をした。

「そうじゃない。全体として、フリースローの確率が悪かった。南北のように100%で決めろとは言わないが、80、90%で決めてほしい。フリースローっていうのは、特殊なシュートなんだ。誰にも邪魔されないんだから。邪魔されないんだったら、絶対に決めるぐらいでなければならない。実際、今日フリースローがもっと入っていたら、点数的にも勝てていたんだ。」

「今日みたいな接戦になると、大事ってことですか。」

「そうだ。ディフェンス重視のチームと当たるとどうしてもロースコアになる。そうした試合程、フリースロー一本一本が重要になってくるんだ。」

「分かったよ先生。俺、もう絶対外さないから。」

 そう小倉は言う。実際フリースローを八割九割決めるのはNBA選手でも難しいことだ。しかし、得点力の低い日本人こそ、フリースローを決めきらなければならないと私は思っていた。

「次の夏大会予選は六月だからもうあまり時間はないが、フリースローの練習や、走る練習を増やしていこう。実際、今回の試合で私たちの実力は県大会出場チームに負けていないことは分かったんだ。次は絶対、リベンジを果たそう。」

 選手たちは力強く頷いた。その目はやる気で満ち溢れている。この敗北で気持ちが折れてしまった選手は一人もいないように見えた。

赴任当日に校長先生はベスト8を目指せと言った。春大会二回戦負けということはかなり組み合わせが悪くなることが予想できるが、私は、このチームをベスト8まで連れて行きたいと思った。いや、ベスト8で止まってなるものか。


目指すのは、インターハイだ!


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