第四十六話
「お前ら、アップは完了したか?」
竿山高校の体育館。試合まで残り二分のところで、全員を集める。
今日は前回の春大会の日と同じような晴天だ。ただ、気温は前よりも数段と高くなっている。体育館の中はさらにその数段上だろう。
「水分補給を忘れるなよ。今日もこの暑さだ。今日は二試合こなさなくちゃならんし、熱中症で倒れられても困る。」
「吐きそうなくらい飲みました。」柳が言う。
「よし吐いてこい。遅刻の罰だ。」
「さて、初戦の相手の白家高校の話をしよう。まず、ディフェンスはマンツー。オフェンスはパスを使った連携を重視していこう。今日は次の試合に備えてスタメンをできるだけ温存したい。控え選手にもどんどん時間を与えていくから、覚悟しておくように。」
「ところで、スタメンは変えねーの?」五島が聞く。
「スタメンは、前と同じく柳、小町、小倉、大賀、能勢だ。」
チッと五島が舌打ちをする。
「いや…そうだな。今日は五島をスタメンに入れてみよう。」
「…なんだそりゃ?適当だな。」
小倉が呆れたような声を出す。
五島を入れたいと思ったのは、一つ実験がしてみたいと思ったからだ。
「オフェンスでは、序盤はスリーをどんどん狙っていい。この体育館の感覚を掴むんだ。やり慣れない体育館だと最初はシュートが入りにくいものだからな。」
小町は無言で頷く。
「体力を温存すると言っても、何も遠慮することはない。練習の成果をどんどん出していこう。全力で倒しに行くぞ。」
「分かってます。こんな所でてこずってる暇はねえし。」
小倉が言う。
「もちろん。俺達の目標は大芸を倒し、インターハイに行くことなんだからな。」
大賀も続く。
「インターハイに行くことが目標?優勝じゃねえのかよ。」
「一々うっせえのう。」
大賀がうんざりとした顔で言う。この二人の仲の悪さは何とかならないものか…。
「よし、じゃあ、とりあえず皆集まれ。」
三谷が部員を呼ぶ。ベンチの前で、総勢11人が固まる。
「気合い入れてこうぜ。」
11人、全員が拳を合わせる。
「行くぞッ!」
「「「オウ!!!」」」
「よーっしゃあ!」
柳が手を叩きながらコートへ入っていく。
「前の大会でやった口笛のやつは止めたのか?」
三谷に聞いてみる。
「いやあ…あれをやるほどの相手でもないでしょう。今日のは。」
何だ、相手の強さで変えているのか?
「そんなに余裕なら、お前を試合に出してもいいぞ。」
「いつでもどうぞ。」
靭帯を怪我している三谷はそう言って笑った。
しかし、彼の怪我はいつ治るのだろうか?三谷が次のウィンターカップまでプレイするのかどうかは聞いていないが、このままだと三年生の時に一度も公式戦に出れずに終わってしまいそうだ。
「あと、五島。」
コートに入ろうとしていた五島を呼びとめる。
「何?」
「お前はこの試合、シュート禁止。」
「はあ!?」
ジャンプボール。能勢はボールを柳の方に弾いた。
「じゃあ、行こうか。」
柳がゆっくりとハーフラインを越える。こうして試合が始まった。
「小町、こまち。」
高田が隣の小町に声を掛ける。何故か巨体をすぼめて、覗き込むように小町の顔を見た。
「何すか?」
「俺のポジションってどこになんのかな?」
「そりゃ、センターかパワーフォワードじゃないっすか。でかいし。」
「敬語じゃなくていいけど。」
「いや、これ俺の標準語スから。」
高田はへえ、と言って試合を見始めた。しかし、数秒後にまた小町に話しかける。
「センターってあれだよな。中で仕事する選手。それって、うちのスタメンだと誰になんの?」
「能勢君か、大賀先輩っすね。まあ能勢君はアウトサイドでもプレーできますけど。」
「大賀先輩ってあのゴツイ人だよな?ふーん…。能勢とあの人か…。」
そして高田はまた試合を見始める。しかし、数秒後には何故かキョロキョロし始めた。
「落ち着いて見れないんすか?」
「いや、テンション上がっちゃって。ん!?」
高田の視線が観客席に向かった。
「あれ、桜ちゃんじゃね!?」
「あ、ほんとだ。…大賀先輩を見に来たんすかね?」
「やべえ!桜ちゃんに見られるのか!…って、え?今何て言った?」
「大賀先輩を見に来たのかな、って。」
困惑した表情の高田は桜ちゃんと小町を交互に見て、最後に大賀の方を見る。
「…何で大賀先輩?」
「だってあの二人、付き合ってますし。」
それを聞いた高田の黒目は綺麗に一回転した。
「えっ…?いや…嘘だろ?」
「ほんとっすよ。」
「おおおお大賀?何で?いや、ふざけんなよ!!」
巨体でベンチをガタガタ揺らしながら高田は叫ぶ。
「え…高田君?どうしたんすか?…まさか?」
(な…泣いてる…!?)
「うわああああ!!」
「小町…大賀先輩って、俺とポジション被ってるって言ってたよな?」
「は、はいっす。」
「小町…俺…スタメンになるよ…。そんで、あの野郎をスタメンから引きずり降ろす!」
「なんかベンチがやかましいな…。」
大賀は走りながら、一つくしゃみをした。




