第四十五話-夏予選開始
分かりやすいように、区切りごとにサブタイトルを設定することにしました。
「この高校、広いなー。体育館どこだよ。」
「柳先輩、急ぎましょうよ。もう九時ですから!」
柳と能勢は自転車で、校内をうろついていた。校内で体育館をずっと探しているが、見つからない。
「あ、あれじゃない?バスケの音が聞こえるし。」
「あ、本当だ…。でも、何か小さくないですか?」
6月14日。今日は夏の県総体地区予選の一回戦が行われる。西商の一回戦の対戦相手は白家高校だ。会場は、竿山高校が選ばれた。竿山高校は中高一貫校で、中学の校舎も同じ敷地内にあるので、体育館が二つある。今日は一つはメインコートとして試合を行い、もう一つのコートでアップができるという環境で大会が行われる。
今日の日程は三試合目に白家高校と対戦し、勝てば六試合目に翠高校と対戦する予定だ。つまり、一日に二試合が行われるのだ。
当然、ここで勝ちあがるには体力が大きな課題となる。
今は九時を過ぎており、コートでは一試合目が始まっている。会場内から漂う熱気で、私も既に汗をかいている。試合を見ていると、二人の選手がボールを取り合って双方転んでいた。二人が転んだ場所が汗で濡れたので、すぐにモッパーが拭きにいく。
汗で濡れた場所を放置しておくと、滑って転んでしまうので、すぐに拭かなければならないのだ。暑い時期は試合を行うだけでもコート上が濡れてくるので、それがプレーに影響を及ぼしてくることも少なくない。
今日も大変な試合になりそうだ。
ところで、九時には集合と言ったのだが、いつあいつらは集まるのだろうか…。
「西商の奴ら、誰も来てないじゃん。もしかして俺ら一番乗り?」
「なわけないでしょ、もう集合時間過ぎてるのに…。ここ、違う体育館なんじゃないですか?」
柳と能勢の二人はアップ用のサブコートに来ていた。複数の選手たちが雑多に練習を行っている。もちろん試合会場ではないコートだ。
「あ、もしかして…能勢?」
不意に、後ろから声を掛けられた。
「あ、寺山君…。」
「おっす!やっぱり能勢じゃん!何か腕長い奴がいると思ったら!」
そう言って能勢の腕を叩いた。能勢は笑いながら、久しぶり、と言った。
「能勢、知り合い?」
柳は能勢に聞く。
「前話してた、翠高校に行ったうちのキャプテンですよ。寺山っていいます。」
寺山と呼ばれたその男は、細い目を一層細くして笑った。浅黒い顔で、眉毛を全て剃っている。
「寺山っす。能勢の先輩っすか?」
「おう。柳って名前だから、ヤンバルクイナとでも呼んでくれ。」
「分かりました。略してヤナさんっすかね?身長同じくらいだしPGっすか?」
「いやCだよ。PGは能勢だ。」
「何なんすか?能勢がガードやれるわけないじゃないですか。撹乱ってやつですか?騙されるわけないでしょ!」
寺山は顔は笑っているが、口調には少し怒気が見られる。
「本当だよ。まあ俺のCはCでもCuteのCだけど。」
「柳先輩、こいつ短気なんで、あんまりからかわない方がいいですよ。」能勢が耳打ちする。
「冗談言ってるだけじゃん。」柳は特に相手にしない。
「でも、能勢ぐらいのセンターがチームにいるって羨ましいっすわ!うちの先輩なんか雑魚ばっかで、ほーんと雑魚ばっかで!嫌になっちゃいますよ。別の高校に行けば良かった。」
寺山は、周りにも余裕で聞こえるぐらいの声量で話す。周りにその先輩とやらがいるのかどうかは知らないが、気にしないのだろうか。
「変わってないなあ…。」能勢は半笑いで返す。
「能勢、行こうぜ。時間無いし、別の体育館だと思うし。」
「あ、もう行くんですか?西商なら今日当たるかもしんないですよね。その時はよろしくお願いします!」
寺山はまた目を細めて笑う。柳は何も言わずに体育館の外へ出た。能勢は慌てて付いて行った。
「あーいう奴、なんか嫌いだな…。」
柳は歩きながら能勢に話しかける。
「ちょっと生意気なところがありますからね。昔は誰にでもタメ口でしたから、敬語使ってるだけ成長してるかもしれませんけど。」
「そういう問題じゃねーよ。」
柳はかなりイライラしているようだ。能勢は気まずく感じながらも、返事を探す。
「ああ、味方を雑魚とか言っちゃうガードって、確かに嫌ですよね。」
「そうじゃないって。俺の渾身のギャグをサラッとかわしやがったじゃん、アイツ。何か反応しろよって感じ。」
いや、そういう問題かよ!能勢は突っ込みたくなったが、先輩なのでぐっとこらえる。
少し歩いていると柳の電話が急に鳴り出した。発信先は、大賀だ。
「もしもし。」
「おいお前ら!どこで油売っとるんだ!早く集合せんと、今からこの高校で外周させられるらしいぞ!」
「はっ!?」
竿山高校。前にも言ったが中高一貫校で、高校と中学の校舎が同じ敷地内にある。山岡県でもその広さはトップクラスだ。
「やべえええ!」
「急げよ馬鹿!」
柳と能勢は走り出す。少し離れた場所で、ブザーと笛の音が鳴り響くのが聞こえた。




