第四十四話
スライド…ディフェンスの時に使うステップ。腰を落として、横に移動して相手を止める動き
「フットワークが終わったらスライドシャトル五セット始めろ!」
「うげ…しんどいな…。」柳が弱音を吐く。
大会まで一週間という時期に、高田という新しいメンバーが西商バスケ部に加わった。彼は元バレー部で、今年のバレー部の一年生の中でも抜きんでた能力を持っている選手だったらしい。
スライドシャトルという練習は、エンドラインからコートの四分の一までダッシュ。そしてスライドで再びエンドラインに戻り、今度はハーフラインまでダッシュ、そしてスライドでまたエンドライン…といったように、だんだん距離を伸ばしながらラン&スライドを繰り返す練習だ。今西商がやっている走らせる練習の中では、1、2番を争う程、キツイ練習だ。
高田がどのくらいの体力があるかを見る為にも、練習の始めに早速この練習を始めることにした。高田にスライドのやり方などを教えてから、練習を始めた。コートの幅にも限りがあるので、1セット3人ずつの練習となる。
「スライドはできるだけ鋭角で下がれ!後ろに下がろうとしてても練習にならんぞ!」
そうして、練習が全て終わった。練習後のストレッチの時間に、高田は能勢に話しかけた。その額にはかなりの汗が浮いている。
「バスケ部って、普段からこんなに走るの?」
「うん、そうだね…。普段はこの2倍は走るかな。」
能勢は笑いながら大げさなことを言う。高田は渋い顔をしながら頷いた。
「そうなのか…。思ってたより全然キツイな。これからバレーの練習もあるんだよ、俺。」
「えっ!?バレー部は辞めたんじゃないの?」
「クラブチームで続けることにしてさ。監督にバレーは辞めるなって言われたんだよね。」
「へえ…。」
すごいな、と能勢は素直に感心した。この練習の後にまた練習をするなんて、考えたくもない。
「お前ら、ストレッチ終わった?話があるらしいから、先生呼ぶぞー。」
「あ、終わりましたよ。」
返事を聞いて、三谷が教官室に黒沢先生を呼びに行った。
「さて、遂に1週間後に大会が迫ってきたな。最初の地区予選の予定が送られてきたから、説明するぞ。まず、春季大会ベスト8のチーム及び、うちの地区からは7チームが県大会への出場権を手にすることが出来る。地区予選では1ブロック4チーム程が振り分けられ、そのブロックで優勝すれば県大会へ出ることが出来る。私たちは当然地区予選からのスタートだから、このブロックの試合を勝ち抜かなければならない。」
「で、うちのブロックの対戦相手はどこなんですか?」柳が急かす。
「1回戦は、白家高校だ。この前に一度練習試合をしたところだな。あの時は勝ったが、油断はしてはならない。」
五月中に複数の高校と練習試合を組んだのだが、白家高校はその一つだった。実力的にはさほどでもないものの、決して弱小ではない。
「2回戦は、あの正心高校と、翠高校の勝者だ。ま、おそらく翠高校が上がってくることが予想されるが、ここはどんな選手がいるか知っている人はいるか?」
「翠…。」
ボソッとつぶやいたのは能勢だ。
「能勢、何か知っているか?」
「えっと、中学の時の同級生がそこに行ってたと思います。」
「そいつは、上手いのか?」
「上手いですよ。すごく…。うちのキャプテンでした。県選抜の候補にも選ばれてました。」
「ほう…。」
能勢の中学はなかなかの強豪だったという話を以前能勢がしていた気がする。そこのキャプテン、県選抜候補…。かなりの選手だと予想できる。
「で、ポジションはどこなんだ?」
「ガード…。ポイントガードです。」
ん?能勢が、何か嫌そうな顔をしているのに気付いた。まるで、その彼の話をしたくないとでも言うような、微妙な表情だった。
「もう夏大会が始まるのか…。」
僅かな照明に照らされたバスケットボールコート。ろくに整備もされてないゴールが、一人の男が放ったシュートを弾いた。
「悔いは残したくないな。」
夜だというのに気温は低くない。ムシムシとした暑さが、夏の到来を告げるようだった。
試合を描く回とその他のことを描く回の配分ってどのくらいが調度いいんでしょう?
試合がないと作品的に面白くないと思いますが、試合ばっかり書きたいわけでもないので、悩みます。




