第四十二話
「おい、お前が能勢か?」
「え?」
昼休みで弁当を食べていた能勢に、一人の男が問いかけてきた。かなり身長が高く、頭は五厘の坊主頭。眉毛も同じぐらい薄く、眉間に皺を寄せている。
「そうだけど…。」
「…ふーん、聞いたとおり結構でかいな。何センチ?」
「186。」
「勝った。俺、189.8。四捨五入して190。」
「えっと…何の用?」
「ちょっと自転車置き場まで来いよ。」
男はきつい口調でそう告げる。安穏とした昼休みに、急に暗雲が漂い出したと能勢は感じた。目の前の大男に、僕は何かしただろうか?
「弁当食べてからでいい?」
「…いいけど、早くしろよ。」
…案外悪い人じゃないかもしれない。
自転車置き場は、校舎から少し離れたところにある。コンクリート作りの二階建てになっていて、外からは中が良く見えない。その内部は夏でもコンクリート特有の涼しさを感じさせる。
「お前さあ、最近調子乗ってるらしいじゃん。」
「え?」
まさか、テンプレのようなヤンキーの絡み方をしてくるとは。人気が少ない場所とあって、能勢は少し委縮する。
「この前の練習試合で60点取ったとか。バスケじゃかなりヤバいんだろ?」
「そ、そうだけど。」
「でさあ、ちょっと頼みごとがあるんだけど。」
ヤンキーの頼みごと?悪い予感しか浮かばない。
「…お金とか?」
「は?何言ってんの。」
「バスケ教えてくれってことだよ!」
「…は、はあ。」
「お前、女バスの桜ちゃんって知ってる?」
桜ちゃんと言えば、女バスの中でも、いや、学年の中でも群を抜いて可愛いと言われている女の子だ。能勢は別に意識をしたことはないが、廊下を歩いているだけでも彼女の姿には目を惹かれる。
「桜ちゃんとは同じクラスなんだ。あの子さあ、この前男バスの試合を見たって話してたんだけど、そこでお前の名前が出てきて…。しかも、格好良かったとか言ってたんだぜ!」
「そうなんだ?」
「そうなんだじゃないぜ、もっと喜べって。…そんで俺も、こりゃバレーなんかやってる場合じゃねえなって。俺もバスケやって、その活躍を桜ちゃんに見てもらって…ああ、妄想が止まらないぜ!」
あれ?もしかすると。
「バスケ部に入りたいってこと?」
「もちろん。俺がバレー部ってことは知ってる?」
「何となく。」
そういえば、体育館の逆側のコートでバレーをやっている姿を何度か見た気がする。
「バレー部なんて、うちは坊主強制だし、練習は地味できついし…。バスケ部の方が格好良くて楽だろ?」
「そんな保証はできないけど…。バレー部、辞めていいの?」
「まあね、顧問からは絶対止められると思うけど、桜ちゃんを想うこの気持ちは誰にも止められないってことよ…。ってことで、よろしく頼む。バスケは素人だけど、俺、スポーツのセンス抜群だからすぐに上手くなると思うぜ。ちなみに、最高到達点は330cm。」
自分でセンス抜群とか言うか?しかし、西商のバレー部は全国常連の強豪だ。そこでプレーしていたと言えば、相当の能力があるのだろう。330まで跳べればダンクもできそうだ。
「とりあえずバスケ部の先生の名前教えてくれよ!あ、俺の名前言ってなかったな。俺は高田賢治。一年二組だ。気軽にタカとでも呼んでくれ。」
(よくしゃべる人だなあ。)
「分かったよ、タカ君。よろしく。」
新戦力が入ってきてくれるのは嬉しいことだが、ポジションはおそらく僕と被ることになりそうだ。将来、ポジション争いをすることになるんだろうか。
ただ…言うべきか言わざるべきか悩むことだが、桜ちゃんと言えば大賀先輩と付き合っていたような…。いや、言ったら大変なことになりそうだ。このことは胸の奥に留めておこう、そう能勢は考えた。




