第三十九話
「お願いします、やらせて下さい。絶対に勝ってきます。鯉幟君に」
「能勢、お前な…。」
小倉が食ってかかろうとしたが、大賀が制する。
「いいだろ。この練習試合くらい能勢の好きにやらせれば。」
「お願いします、小倉先輩。」
「…まあ、いいけど…。」
小倉は仕方ないという表情で、こう続けた。
「でも一つ言っておくけど、俺は別にお前がエースだって認めるわけじゃないからな。」
「僕も自分がエースだなんて思ってません。でも、鯉幟君に負けたまま終わりたくないです。」
「わかったわかった。」
小倉が手をひらひらと振る。すると、4Qの開始を告げるブザーが鳴った。
「小倉、何か偉そうなことばかり言っとるが、名ばかりエースにならないように気をつけろよ。」
大賀がぼそっと小倉に話しかける。
「あ?」
「俺の感じた限りじゃ、お前と能勢、どっちの得点力が上とも分からん。もしかすると既に能勢の方が得点力は高いかもしれんぞ。」
(…そんなこと、分かってんだよ。)
小倉はそう考えたが、口には出さない。口に出せば本当にそれを認めてしまいそうになる。
81-52、西商リードから4Qが開始された。
(この10分で16点も取らなきゃいけないのか…。攻めのパターンを増やさないと。)
この試合で60点を取ることを命令された能勢は、まだ44点しか取っていない。
(あれ、ダンクしてこいとも言われたっけ?)
西商はメンバーをスタメンに戻した。
(柳がいないと、PGを任せられる選手が田部しかいないのは気になるな…。)
ここまで田部は出ずっぱりだ。しかし、小町はそれほどスピードやハンドリングがあるわけでもないし、五島にゲームメイクなど出来るわけがない。仕方なしにも田部を使い続けるしかなかった。
正心ボールからゲームが再開した。
正心のPG、松田がドライブを仕掛ける。田部は既にかなり疲労しているようで、簡単に抜かれてしまう。すぐに能勢がヘルプに行く。
ここで松田が浮いたパスを出す。このパスの先には、全力でジャンプした鯉幟!
「うおおッ!」
ガシャッ!
鯉幟は空中でボールを取り、リングに叩きつける!
…そう、文字通りリングに叩きつけて、ボールはサイドラインの方へ飛んで行った。鯉幟はバランスを崩して転倒する。
「あーくそ!おっしー!」
あわやアリウープダンクが成功していたというプレー。鯉幟は倒れたまま、悔しそうに手を叩いた。
「それで良いぞ!存分にやってこい!」
正心ベンチで庄先生が声を出す。
これまでの動きを見るに、正心は一人ひとりの技術は拙いがパスを使った連携を取るのは得意そうだ。
鯉幟しか良い選手がいないという訳ではない。PGの松田は小柄ながらかなりのクイックネスがあるし、SGの中原はフォームは変だがなかなかシュートが上手い。SFの山口はガリガリだがハンドリングは悪くない。PFの飯見はインサイドプレーヤーとしてはサイズはないが身体能力が高そうだ。一長一短、なかなか楽しそうなチームではないか。
(二年後が楽しみだ。)
西商のオフェンスでは、スリーポイントライン上に立った能勢にパスが入る。
(外もあるからな…離せねえ。)
鯉幟は能勢に密着するようにディフェンスをする。
能勢はジャブステップで鯉幟と少し距離を取らせる。そして、ドライブすると見せかけたワンドリブルから、少し下がってスリーを放つ。
これはリングに当たって外れる。鯉幟はホッとしたが、このリバウンドを取ったのは大賀!すぐにゴール下シュートをねじ込む。
「能勢、ガンガン行け!外しても俺が取ってやる!」
「は、はい。」
大賀が尻を叩かれながら、能勢はディフェンスに戻る。
(能勢が鯉幟を外に釣りだせば、もう正心にリバウンダーはいないのか。)
正心のPFは171cmの飯見。インサイドでは明らかにこちらに利がある。
正心がオフェンスをまた失敗すると、ボールは再び能勢へ。
先ほどと同じようにスリーのラインに立ち、ジャブステップ。足と体を少し前に倒してドライブすると見せかけ、また戻すというステップだ。これを二回した後、ジャブステップをした足を戻さずにそのままドライブ!
「やべっ…!」
先ほどと同じようなシュートを警戒したせいで、鯉幟はついていけない。こうなれば能勢はほぼノープレッシャーだ。能勢は冷静にレイアップを決めた。
(なんだかなあ。)
これまでの能勢のプレーに、少し別の感情を持つ者がいた。小倉だ。
(能勢は味方で、あいつが活躍するのは別に俺に損があるとかそういうわけじゃないんだが…何か気に入らない。)
(あいつのシュートが外れて欲しいとすら、ちょっと思ってしまった。今まで味方に対して、…大賀に対してだってそんなことを考えたことなんて無かったが…。)
ライバルは一人と決まっている訳ではない
ライバルは敵と決まっている訳でもない




