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第三十七話

 休日は体育館を四時間は使える。最初の二時間はアップ、練習に使い、それから試合をして、それが終わればダウンをして終了という流れで行く予定だ。

 走る練習を終わらせると、キャッチ&シュートの練習や1on1,3on3などの練習をした。

「じゃあ、そろそろ試合を始めましょうか。」

「そうですね、そろそろ…。」


正心

松田158

中原165

山口170

飯見171

鯉幟186


西商

田部160

小町172

小倉177

大賀184

能勢186


「能勢、この前言ったこと、忘れてないよな?」

 60点、取ってこいと言ったことだ。能勢はコクリと頷く。

 前半の練習の時間で分かったが、能勢のマッチアップとなる鯉幟も、体は大きいが決して上手い選手ではない。


 能勢にその気があるなら、決して無理ではないはずだ。




 試合が始まった。ジャンプボールは余裕で能勢がはじく。

「ヘイ!」

 すぐにボールを要求したのは小倉だ。うちはまず小倉のアイソレーションからオフェンスを始めることが多い。

「ヘ、ヘイ!」

 しかし、能勢が小倉のいるサイドのローポストで面を張った。攻める気まんまんだった小倉が動きを止める。

「珍しいな、能勢が…。しゃーねえな。」

 小倉は能勢へとパス。

 能勢はドリブルをしながら、体を押し付けて鯉幟を押していく。

 すると、小町がゴール下へと飛び込んできた。完全フリーだ。

「やっべ!」

 鯉幟がパスコースをふさごうとした隙に、能勢がその場で振り向いてシュート。これが決まる。


(いつもの能勢なら鯉幟が反応する前に迷わずパスするよな…。)

 西商の選手たちが違和感を抱いたまま、試合は進んでいく。


 能勢はそれからもボールを貰ったら、パスを全く返さずに攻め続けた。

 アウトサイドからのジャンプシュート、振り幅の大きいクロスオーバーからのドライブ、フェイダウェイやステップスルーなどバリエーションの多いポストプレーなど、能勢の多彩なオフェンスの前に鯉幟は為す術もない。また、鯉幟はスクリーンアウトの技術も乏しく、能勢はオフェンスリバウンドでも腕の長さを活かしてボールを奪い、貪欲にゴールを狙った。

(上手すぎる…!どうやったら止められるんだ!)


 結局、能勢は前半だけで40点を荒稼ぎした。試合は61-25で西商が圧倒していた。

 ハーフタイム。

「田部、ボールが能勢ばっかりに集まってるから、もっと散らしていこうぜ。」

 小倉がそう田部に言う。

「そうですね。」

「えっ。」

 能勢が困ったような顔で田部を見る。

「何だ能勢、まだ点が取りたいのか?ちょっと前半のお前はワンマンすぎただろ。どうしたんだよ。」

「いや、えっと…あの…。」

 能勢はちらっと私の方を見た後、

「今日は点が取りたい気分っていうか…。」と言った。視線がふらふらと泳いでいる。チームメイトに私に言われたことを教えるな、と言ったことを気にしているようだ。

「練習試合だぜ、セットプレーの練習もした方がいいだろうし、皆やりたいプレーとかあるだろ。」五島が言う。

「大体、あいつら相手ならいくら点取ったって仕方ないだろ。」

「ん…。」

 能勢はそのまま、黙ってしまった。

「まあそういう事で、もっとボール散らしていこう。それでいいですね、監督?」

「ああ…。」

 

 私は、別に能勢に60点取れる得点能力があるかどうかを知りたいわけじゃない。彼のアンセルフィッシュな性格を、バスケをしている間だけでも変えてみたいのだ。だから最後までセルフィッシュなプレーができるなら、60点取れるかどうかはどうでもよかった。

 しかし、ここでチームメイトの声に引っ張られてしまうようなら、前半の頑張りはただ私の声に従っただけだ。彼の性格に変化はなかったということだ。


「庄先生、あいつ、どうやったら止められると思いますか?」

 正心ベンチ、監督を含めたった六人のメンバーで話し合う。

「外から見てて分かったが…。鯉幟、お前の身体能力なら決して能勢君にも負けていない。技術の差だけだ。」

「その差をどうやって埋めればいいんですか。」

「能勢君の動きを観察してみろ。彼のプレーから学んでいくんだ。今日は勝てないかもしれないが、この試合を次に繋げて行けるはずだ。」

「また、能勢君の動きに癖が無いかも観察しろ。次に相手が何をしてくるかを読むんだ。お前らなるできる。お前らが他のチームに自慢できるものがあるとすれば、ただ一つ。ここだろ。」

 庄はそう言って自分の頭を指差した。


今更ながら補足を。

セルフィッシュ…自己中心的、わがままな性格。アンセルフィッシュはその逆。

ステップスルー…ドライブからストップしてシュートフェイク、その後リングへ向かってステップしてシュートを狙う動き、だと自分は思っています。(ちょっと自信なし)

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